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35.確かめ合う思い(1)
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見ると、画面には大輝の名前が表示されている。通話と表示されたところをタップする。
「も、もしもし」
電話の向こうから車やバイクの音が聞こえる。大輝は外を歩いているようだ。
『あ、千紗。今日は一緒に帰れなくてごめん』
「あ、ああ。ううん」
見えないのはわかっているけれど、千紗は耳に携帯電話をあてたまま首を振る。大輝の吐く息が耳に届く。
『いつもより早い時間の電話なのに、すぐ出てビックリした。もしかして待ってた?』
からかうような声だ。千紗はトラの額をはじく。
「待ってたっていうより、私から電話かけようか、どうしようか悩んでた」
素直な千紗の返事に戸惑ったのか、少し間があいた。
『なんだ、待ってればよかったな』
つぶやくように話す声に千紗の胸は締めつけられた。
「あ、いつも連絡してもらってばかりだもんね。これから、私からも連絡するね。って言っても、学校で会うから、ま、いっかって思っちゃうんだけどさ」
照れ隠しに、短く笑ってしまった。
受話部分から酔っ払い同士が何か楽しげに話す声や車のクラクションが聞こえてくる。
大輝は何も言わない。沈黙に居心地の悪さを感じて、言葉を続ける。
「今日はさ、大輝くん、朝は先に下足室にいたし、帰りもバイトのシフトが早いからって先帰ったでしょ。1人で帰るのとか久しぶりすぎて、なんかわからないけどモヤモヤしちゃって。たまたまなんだろうけど、一緒にいることに飽きてきたのかな、とか思ったり」
大輝のため息が聞こえた。
『そんなんじゃないよ。不安にさせるようなことして悪かったよ。あ、ちょっと待って』
言葉が中断されて、言われたとおり待つ。
喧騒がだんだんと離れていき、シャリシャリという砂か何かを踏む音が聞こえてきた。
『聞こえにくいから、近くの公園に入った。道路からも離れたから静かになったろ』
大きく息を吸う音がした。
『さっき言ってたことだけど、俺、今日、わざと違う行動とったんだ。まあ、バイトは前から週に数回は早めに来てって言われてたからってのもあるんだけど』
千紗はトラを見つめて、頭を撫でる。
「なんでそんなことしたの」
大輝は、今度は長く息を吐いたようだ。
『この2週間、3週間だっけ。俺から連絡してただろ。朝も、夜も。それに朝は校門で一緒になって手つないで、放課後も一緒に帰ってさ。千紗、重く感じてないかなって思って。だから、校門で会わないようにしようと思ったんだけど、教室まで1人ってイヤでさ。で、早く家出て下足室で待ってた。放課後は、前から言われてたってのもあって、早めの時間からバイト入れて』
息継ぎをしているのか気になるほど、早口でまくし立ててくる。
黙って聞いていると、少し間があいた。
『重いよな、俺。やっぱり一人と付き合うんじゃなくて、何人もと軽い恋愛……』
「えっ、何でそうなるのよ」
大輝の言葉を遮るように大きな声を出してしまった。電話の向こうで声を詰まらせているらしい。
今度は千紗が長く息を吐く。
「私、重いなんて言ってないよ。いつもと違う行動にモヤモヤしたって言っただけだよね」
責めるような口調になったせいか、大輝はかろうじて聞こえるくらいの声で肯定の返事をしてきた。千紗はトラのぬいぐるみの鼻を強めにつまむと、血が上りかけた頭が冷えてきた。
「えっと、大きな声出してごめん。でも、勝手に気持ち決められてイラっとした」
あえて間をあける。
「毎朝、毎晩メッセージ送ってくるの、マメだなって思ってだ。学校でずっと一緒なのは周りの目もあって恥ずかしいとは思う。でも、気になってることがあるんだ」
大輝は何も言わずに、次の言葉を待っているようだ。千紗はトラのぬいぐるみに手を添える。
「無理してない?私が、好きって言われても信じられないって言ったから。無理してマメに連絡したり、一緒にいたりして、私を安心させなきゃみたいになってないかなって。あー、どれだけうぬぼれが過ぎるんだって感じだよね」
今度は千紗が早口でまくし立てた。一気に話しても息は続くらしい。
遠くで鳴ったバイクの激しいエンジン音が2人の間の緊張の糸をはじき、ピンと張られていることを意識させた。
「も、もしもし」
電話の向こうから車やバイクの音が聞こえる。大輝は外を歩いているようだ。
『あ、千紗。今日は一緒に帰れなくてごめん』
「あ、ああ。ううん」
見えないのはわかっているけれど、千紗は耳に携帯電話をあてたまま首を振る。大輝の吐く息が耳に届く。
『いつもより早い時間の電話なのに、すぐ出てビックリした。もしかして待ってた?』
からかうような声だ。千紗はトラの額をはじく。
「待ってたっていうより、私から電話かけようか、どうしようか悩んでた」
素直な千紗の返事に戸惑ったのか、少し間があいた。
『なんだ、待ってればよかったな』
つぶやくように話す声に千紗の胸は締めつけられた。
「あ、いつも連絡してもらってばかりだもんね。これから、私からも連絡するね。って言っても、学校で会うから、ま、いっかって思っちゃうんだけどさ」
照れ隠しに、短く笑ってしまった。
受話部分から酔っ払い同士が何か楽しげに話す声や車のクラクションが聞こえてくる。
大輝は何も言わない。沈黙に居心地の悪さを感じて、言葉を続ける。
「今日はさ、大輝くん、朝は先に下足室にいたし、帰りもバイトのシフトが早いからって先帰ったでしょ。1人で帰るのとか久しぶりすぎて、なんかわからないけどモヤモヤしちゃって。たまたまなんだろうけど、一緒にいることに飽きてきたのかな、とか思ったり」
大輝のため息が聞こえた。
『そんなんじゃないよ。不安にさせるようなことして悪かったよ。あ、ちょっと待って』
言葉が中断されて、言われたとおり待つ。
喧騒がだんだんと離れていき、シャリシャリという砂か何かを踏む音が聞こえてきた。
『聞こえにくいから、近くの公園に入った。道路からも離れたから静かになったろ』
大きく息を吸う音がした。
『さっき言ってたことだけど、俺、今日、わざと違う行動とったんだ。まあ、バイトは前から週に数回は早めに来てって言われてたからってのもあるんだけど』
千紗はトラを見つめて、頭を撫でる。
「なんでそんなことしたの」
大輝は、今度は長く息を吐いたようだ。
『この2週間、3週間だっけ。俺から連絡してただろ。朝も、夜も。それに朝は校門で一緒になって手つないで、放課後も一緒に帰ってさ。千紗、重く感じてないかなって思って。だから、校門で会わないようにしようと思ったんだけど、教室まで1人ってイヤでさ。で、早く家出て下足室で待ってた。放課後は、前から言われてたってのもあって、早めの時間からバイト入れて』
息継ぎをしているのか気になるほど、早口でまくし立ててくる。
黙って聞いていると、少し間があいた。
『重いよな、俺。やっぱり一人と付き合うんじゃなくて、何人もと軽い恋愛……』
「えっ、何でそうなるのよ」
大輝の言葉を遮るように大きな声を出してしまった。電話の向こうで声を詰まらせているらしい。
今度は千紗が長く息を吐く。
「私、重いなんて言ってないよ。いつもと違う行動にモヤモヤしたって言っただけだよね」
責めるような口調になったせいか、大輝はかろうじて聞こえるくらいの声で肯定の返事をしてきた。千紗はトラのぬいぐるみの鼻を強めにつまむと、血が上りかけた頭が冷えてきた。
「えっと、大きな声出してごめん。でも、勝手に気持ち決められてイラっとした」
あえて間をあける。
「毎朝、毎晩メッセージ送ってくるの、マメだなって思ってだ。学校でずっと一緒なのは周りの目もあって恥ずかしいとは思う。でも、気になってることがあるんだ」
大輝は何も言わずに、次の言葉を待っているようだ。千紗はトラのぬいぐるみに手を添える。
「無理してない?私が、好きって言われても信じられないって言ったから。無理してマメに連絡したり、一緒にいたりして、私を安心させなきゃみたいになってないかなって。あー、どれだけうぬぼれが過ぎるんだって感じだよね」
今度は千紗が早口でまくし立てた。一気に話しても息は続くらしい。
遠くで鳴ったバイクの激しいエンジン音が2人の間の緊張の糸をはじき、ピンと張られていることを意識させた。
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