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プロローグ
不条理なこの世界で
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この世界は不条理である。
どんなに努力して、努力して努力して努力して努力して努力し続けても叶わない夢がある。
そんな夢はこの世界では圧倒的な才能を持つ者にしか与えられない。
だから、だからこそ俺はそんな馬鹿な夢を壊して、壊して壊して壊して壊して壊しまくって直してやる。
そう、あの日決めたんだ。
~カルシャ村~
「おーい、ライル!早く鬼ごっこやろうぜ~」
「少しだけ待ってくれ、今日はまだ一回も魔力増幅訓練をしてないんだ」
「ちぇー、なんだよライルのやつノリ悪いなー、俺たちまだ15歳だぜ?そんな大人みたいなことやって何が楽しいんだよー」
そう言いながら口をへの字に曲がらせて俺の目の前に仁王立ちする男は、俺の唯一の親友でもあり、幼馴染のハロイだ。
「すまんすまん(笑)お前との遊びも俺にとっては大事なことの一つだったよ。さぁ、やろうか"鬼ごっこ"」
「よっしゃ、やっぱりライルは分かってるぜ!じゃあまずは俺が鬼なー」
「了解」
俺はライル。カルシャ村の貧しくも幸せな家庭に生まれたごく普通の青年だ。今は少しでも母さんと父さんに楽してもらうために特級魔法使いを目指して魔力増幅訓練に励んでいる。
この世界では魔法使いにも階級が示されており、低い順から
3級魔法使い→2級魔法使い→1級魔法使い→特級魔法使いとなっている。
この中でも特級は特別で、特級が1人居れば3級魔法使い1万人分にも匹敵すると言われている。そのため特級魔法使いは様々な国から好待遇を受けており、俺が特級魔法使いになれば母さんと父さんを別荘に移住させることも可能となるのだ。
特級魔法使いを夢見ながら魔力増幅訓練に励んでいたある日、教会に鑑定士が来たとの報告が村中に届いた。
「マジかよ、やったなライル!お前のその超絶地味な訓練もこの日のためにやってきたんだろ?良かったじゃねぇか!」
「あはは、ありがとうハロイ。ようやく…ようやくだ。絶対ここで高適性になって魔法使いになってやるんだ!」
そう、この時の俺は知るよしもなかったのだ。俺の魔法適性が0を超えて-の域にまで達していたことに…
~教会~
白髪のおそらく初老を迎えたであろう白衣を着た神父が俺たちにこう告げる。
「それでは、これより魔法適性鑑定の儀を執り行う。15歳の若者は順番に前に出よ」
鑑定士が鑑定魔法を詠唱《スペル》する。
「絶対神よ、我が盟約に従い、その適正を見定めよ!」
鑑定士の詠唱の直後、淡い光が会場を包み込む。
「アンナ・ベルモンテ。魔法適性27《クラスD》だ」
1人、また1人と適性が鑑定されていく会場は、どよめきと興奮に包まれていた。
「次の者、前へ出よ」
--------------それから、数えきれないほどの人数が鑑定されただろうか。遂にハロイの一つ前の者が鑑定士の前へ歩み出た。
「あ~、やべー緊張する(小声)」
「大丈夫だ、ハロイならきっと高適性さ(小声)」
「だ、だよな?(小声)」
ヒソヒソ声で友達にエールを送るのは中々に楽しいものである。
無論、この後自分も鑑定されると思うと緊張は収まらないのだが…
「イザベル・クリフォ。魔法適性57《クラスB》だ」
「次の者……ロイ。ハロイ!前へ出よ!」
「ひゃ、ひゃいィィ!」
鑑定士がハロイに詠唱《スペル》を開始する。
「絶対神よ、我が盟約に従い、その適性を見定めよ!」
ハロイの頭上に一瞬目が開かなくなるほどの輝きが発生する。その直後、鑑定士が驚きの呻き声をあげていた。
「おぉぉ…ハロイ・ペンツォ。魔法適性456…文句なしの《Sクラス》だ。おめでとう」
「「「おぉぉぉぉ!」」」
教会中が熱気に包まれる。
「マジかよ!この辺鄙な村にSクラスのやつが現れるとか感動だわ!」
「それな!俺、後でハロイさんに挨拶してくるわ(笑)」
「静寂に!静寂に!」
白髪の神父の叱咤により、会場の熱気が収められる。
「「「………」」」
「それでは、鑑定の儀の続きを執り行う。次は……ライル・クライレット!前へ出よ!」
正直、親友があんな凄い才能を秘めていたなんて今でも信じられない。
驚いたと同時に少し嫉妬してしまった俺はなんて心の狭いやつなんだろうと自分でも思う。でも、そんな気持ちは俺も《Sクラス》になることですぐに忘れてやる!
そんな気持ちで鑑定士の前に立った時、何故か神父の顔がニヤけていたのは俺の気のせいだったのだろうか…
「絶対神よ、我が盟約に従い、その適性を見定めよ!」
鑑定士の詠唱が終わった瞬間、とんでもないほどの輝きが会場を包んだ。
「「「おいおい、なんだよこの輝きは!?ハロイさんの比じゃねぇぞ!」」」
会場がまたもや興奮の渦に包まれる。
「………………」
何故か鑑定士が押し黙る。
「おい、鑑定士さん?俺の適性を教えてくれよ。もう鑑定は済んでるんだろう?」
「……………………ライル・クレイラット…落ち着いて聞いてくれ。君の魔法適性は………-999…クラスは《無し》だ…」
「……………は?」
その瞬間、俺の思考は理解を停止した。
「-999って鑑定士さん…いくらなんでも冗談がすぎるぜ(笑)」
ハロイがからかうように鑑定士に向かって言った。
「いや、すまない。この魔法に限って失敗することはありえないんだ。なぜならこの魔法は対象の才能を見極めるために神が作られた魔法。失敗することはあり得ない」
「……………どういうことだよ…?俺の魔力適正が-999?バカも休み休み言え。マイナスってなんだよ。そんな数値聞いたこともねぇよ…。何度も何度も何度も何度も魔力増幅訓練に時間を費やしてきたんだぞ…?そんなことあってたまるか…たまるかってんだよッッッ!」
バァァン!
教会のドアが物凄い轟音と共に蹴破られる。
「ちょっと君!待ちなさい。教会の物を壊してどういうつもりだ!」
俺の耳には怒り狂った神父の声など、とうに聞こえていなかった。
何故だ?何故なんだ?どうして俺の魔法適性が-の域にまで達しているんだ…?
こんなこと…こんなことあっていいはずがない。
俺だってハロイや同年代の奴らと一緒になって夜が明けるまで遊びたかった。同じ話題で盛り上がりたかった。
けど、俺は母さんと父さんを楽にするために我慢して我慢して我慢して我慢して我慢し続けてきたんだ!
今日、この日のために。
それなのになんなんだ。この仕打ちは。腐ってる。腐ってるよこんな世界。努力した者が報われるなんて理想、最初から存在しなかったんだ。
俺はしばらく何も考えずに走り回った後、誰も居ないことを確認した森の奥で泣きじゃくっていた。
もう、何時間泣いたのかすら思い出せなくなってきたころ、1人の、目鼻立ちがくっきりとした赤髪の謎の女性が目の前の岩に座っていた。
俺はハッとしてすぐさま立ち上がり、警戒態勢を取るため、身体を屈める。
おかしい。俺は先ほどまで泣いていたが、森の入り口付近への警戒は絶対に怠らなかったはずだ。コイツ…何者だ…?
女の、薄紅色の艶やかな唇から言葉が発せられる。
「アンタ、私と同じ匂いがする。絶魔の……それもすっごく濃い匂い」
俺は目の前の女性が何を言っているのか分からなかった。だが、これだけは確実に言える。コイツ…強いッッッ!
「あー、私に戦闘の意思はないよ。そもそもの話、戦闘する気があるならもうアンタの首から上の肉は存在しない」
これは、脅しではなく本当のことだろう。今、俺がどれだけ緊張を張り巡らせ、目の前の女の一挙手一投足を捉えようとしても、無駄な結果になるであろうことは魔法使いの端くれとして本能で理解できた。
「確かに、そうですね。それで、貴方のような強いお方が俺に何の用です?まさか神父に頼まれて僕を捕まえにきたわけじゃないでしょうね?」
「アハハ、そんなわけないだろう。実はさっき目の前の荒野で依頼を受けててね。一狩りしたし帰ろうかと思ってたところにアンタの絶大な《絶魔》を感じてね。急いで飛んできたってわけさ」
「絶………魔?」
もう、俺の頭はショート寸前だった。
無理もないだろう。ほんの数時間前まで希望に満ち溢れていた俺の世界は、先ほどの鑑定のせいで紙屑のように簡単に散っていき、途方に暮れていたところに意味が分からないぐらい強そうな謎の女が俺の前に突然現れたのだ。
「とりあえず、今は休みな。後で教えてやるからさ…」
「《メラ・ドーナ》」
「なッッッ!どういうことだ」
女が俺の知らない魔法を使った瞬間、俺の視界は一気にフェードアウトしていった。
最後に見えたのは、あの女が俺に向かって憐れみとも取れる表情を見せていた姿だった。
どんなに努力して、努力して努力して努力して努力して努力し続けても叶わない夢がある。
そんな夢はこの世界では圧倒的な才能を持つ者にしか与えられない。
だから、だからこそ俺はそんな馬鹿な夢を壊して、壊して壊して壊して壊して壊しまくって直してやる。
そう、あの日決めたんだ。
~カルシャ村~
「おーい、ライル!早く鬼ごっこやろうぜ~」
「少しだけ待ってくれ、今日はまだ一回も魔力増幅訓練をしてないんだ」
「ちぇー、なんだよライルのやつノリ悪いなー、俺たちまだ15歳だぜ?そんな大人みたいなことやって何が楽しいんだよー」
そう言いながら口をへの字に曲がらせて俺の目の前に仁王立ちする男は、俺の唯一の親友でもあり、幼馴染のハロイだ。
「すまんすまん(笑)お前との遊びも俺にとっては大事なことの一つだったよ。さぁ、やろうか"鬼ごっこ"」
「よっしゃ、やっぱりライルは分かってるぜ!じゃあまずは俺が鬼なー」
「了解」
俺はライル。カルシャ村の貧しくも幸せな家庭に生まれたごく普通の青年だ。今は少しでも母さんと父さんに楽してもらうために特級魔法使いを目指して魔力増幅訓練に励んでいる。
この世界では魔法使いにも階級が示されており、低い順から
3級魔法使い→2級魔法使い→1級魔法使い→特級魔法使いとなっている。
この中でも特級は特別で、特級が1人居れば3級魔法使い1万人分にも匹敵すると言われている。そのため特級魔法使いは様々な国から好待遇を受けており、俺が特級魔法使いになれば母さんと父さんを別荘に移住させることも可能となるのだ。
特級魔法使いを夢見ながら魔力増幅訓練に励んでいたある日、教会に鑑定士が来たとの報告が村中に届いた。
「マジかよ、やったなライル!お前のその超絶地味な訓練もこの日のためにやってきたんだろ?良かったじゃねぇか!」
「あはは、ありがとうハロイ。ようやく…ようやくだ。絶対ここで高適性になって魔法使いになってやるんだ!」
そう、この時の俺は知るよしもなかったのだ。俺の魔法適性が0を超えて-の域にまで達していたことに…
~教会~
白髪のおそらく初老を迎えたであろう白衣を着た神父が俺たちにこう告げる。
「それでは、これより魔法適性鑑定の儀を執り行う。15歳の若者は順番に前に出よ」
鑑定士が鑑定魔法を詠唱《スペル》する。
「絶対神よ、我が盟約に従い、その適正を見定めよ!」
鑑定士の詠唱の直後、淡い光が会場を包み込む。
「アンナ・ベルモンテ。魔法適性27《クラスD》だ」
1人、また1人と適性が鑑定されていく会場は、どよめきと興奮に包まれていた。
「次の者、前へ出よ」
--------------それから、数えきれないほどの人数が鑑定されただろうか。遂にハロイの一つ前の者が鑑定士の前へ歩み出た。
「あ~、やべー緊張する(小声)」
「大丈夫だ、ハロイならきっと高適性さ(小声)」
「だ、だよな?(小声)」
ヒソヒソ声で友達にエールを送るのは中々に楽しいものである。
無論、この後自分も鑑定されると思うと緊張は収まらないのだが…
「イザベル・クリフォ。魔法適性57《クラスB》だ」
「次の者……ロイ。ハロイ!前へ出よ!」
「ひゃ、ひゃいィィ!」
鑑定士がハロイに詠唱《スペル》を開始する。
「絶対神よ、我が盟約に従い、その適性を見定めよ!」
ハロイの頭上に一瞬目が開かなくなるほどの輝きが発生する。その直後、鑑定士が驚きの呻き声をあげていた。
「おぉぉ…ハロイ・ペンツォ。魔法適性456…文句なしの《Sクラス》だ。おめでとう」
「「「おぉぉぉぉ!」」」
教会中が熱気に包まれる。
「マジかよ!この辺鄙な村にSクラスのやつが現れるとか感動だわ!」
「それな!俺、後でハロイさんに挨拶してくるわ(笑)」
「静寂に!静寂に!」
白髪の神父の叱咤により、会場の熱気が収められる。
「「「………」」」
「それでは、鑑定の儀の続きを執り行う。次は……ライル・クライレット!前へ出よ!」
正直、親友があんな凄い才能を秘めていたなんて今でも信じられない。
驚いたと同時に少し嫉妬してしまった俺はなんて心の狭いやつなんだろうと自分でも思う。でも、そんな気持ちは俺も《Sクラス》になることですぐに忘れてやる!
そんな気持ちで鑑定士の前に立った時、何故か神父の顔がニヤけていたのは俺の気のせいだったのだろうか…
「絶対神よ、我が盟約に従い、その適性を見定めよ!」
鑑定士の詠唱が終わった瞬間、とんでもないほどの輝きが会場を包んだ。
「「「おいおい、なんだよこの輝きは!?ハロイさんの比じゃねぇぞ!」」」
会場がまたもや興奮の渦に包まれる。
「………………」
何故か鑑定士が押し黙る。
「おい、鑑定士さん?俺の適性を教えてくれよ。もう鑑定は済んでるんだろう?」
「……………………ライル・クレイラット…落ち着いて聞いてくれ。君の魔法適性は………-999…クラスは《無し》だ…」
「……………は?」
その瞬間、俺の思考は理解を停止した。
「-999って鑑定士さん…いくらなんでも冗談がすぎるぜ(笑)」
ハロイがからかうように鑑定士に向かって言った。
「いや、すまない。この魔法に限って失敗することはありえないんだ。なぜならこの魔法は対象の才能を見極めるために神が作られた魔法。失敗することはあり得ない」
「……………どういうことだよ…?俺の魔力適正が-999?バカも休み休み言え。マイナスってなんだよ。そんな数値聞いたこともねぇよ…。何度も何度も何度も何度も魔力増幅訓練に時間を費やしてきたんだぞ…?そんなことあってたまるか…たまるかってんだよッッッ!」
バァァン!
教会のドアが物凄い轟音と共に蹴破られる。
「ちょっと君!待ちなさい。教会の物を壊してどういうつもりだ!」
俺の耳には怒り狂った神父の声など、とうに聞こえていなかった。
何故だ?何故なんだ?どうして俺の魔法適性が-の域にまで達しているんだ…?
こんなこと…こんなことあっていいはずがない。
俺だってハロイや同年代の奴らと一緒になって夜が明けるまで遊びたかった。同じ話題で盛り上がりたかった。
けど、俺は母さんと父さんを楽にするために我慢して我慢して我慢して我慢して我慢し続けてきたんだ!
今日、この日のために。
それなのになんなんだ。この仕打ちは。腐ってる。腐ってるよこんな世界。努力した者が報われるなんて理想、最初から存在しなかったんだ。
俺はしばらく何も考えずに走り回った後、誰も居ないことを確認した森の奥で泣きじゃくっていた。
もう、何時間泣いたのかすら思い出せなくなってきたころ、1人の、目鼻立ちがくっきりとした赤髪の謎の女性が目の前の岩に座っていた。
俺はハッとしてすぐさま立ち上がり、警戒態勢を取るため、身体を屈める。
おかしい。俺は先ほどまで泣いていたが、森の入り口付近への警戒は絶対に怠らなかったはずだ。コイツ…何者だ…?
女の、薄紅色の艶やかな唇から言葉が発せられる。
「アンタ、私と同じ匂いがする。絶魔の……それもすっごく濃い匂い」
俺は目の前の女性が何を言っているのか分からなかった。だが、これだけは確実に言える。コイツ…強いッッッ!
「あー、私に戦闘の意思はないよ。そもそもの話、戦闘する気があるならもうアンタの首から上の肉は存在しない」
これは、脅しではなく本当のことだろう。今、俺がどれだけ緊張を張り巡らせ、目の前の女の一挙手一投足を捉えようとしても、無駄な結果になるであろうことは魔法使いの端くれとして本能で理解できた。
「確かに、そうですね。それで、貴方のような強いお方が俺に何の用です?まさか神父に頼まれて僕を捕まえにきたわけじゃないでしょうね?」
「アハハ、そんなわけないだろう。実はさっき目の前の荒野で依頼を受けててね。一狩りしたし帰ろうかと思ってたところにアンタの絶大な《絶魔》を感じてね。急いで飛んできたってわけさ」
「絶………魔?」
もう、俺の頭はショート寸前だった。
無理もないだろう。ほんの数時間前まで希望に満ち溢れていた俺の世界は、先ほどの鑑定のせいで紙屑のように簡単に散っていき、途方に暮れていたところに意味が分からないぐらい強そうな謎の女が俺の前に突然現れたのだ。
「とりあえず、今は休みな。後で教えてやるからさ…」
「《メラ・ドーナ》」
「なッッッ!どういうことだ」
女が俺の知らない魔法を使った瞬間、俺の視界は一気にフェードアウトしていった。
最後に見えたのは、あの女が俺に向かって憐れみとも取れる表情を見せていた姿だった。
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