うさ耳王子といぬ王子がロックオン!本当は男の僕が二股悪女ムーブしないとみんなの命を救えないなんて!

卯月らいな

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タイムアウトブレーカー

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♪アダージョ(5時間30分前)♪

 アレグロは、刮目する。いや、我が主人格のやることだから、その姿を第三者目線で見たわけではない。ただ、目に空気が入って痛い。

 だが、今までしおらしくしていたのが、演技だと言わんばかりに、トランペットで、足を早くすると言われるかまいたちの魔法を足にかけつつ全力疾走する。

 アレグロは刑務所の中で、時間があれば、読書の他、腕立て、腹筋、背筋、もも上げ、狭い部屋でのシャトルランのような筋トレ系から、腹式呼吸やリズムトレーニングなどの声楽トレーニングも欠かさなかった。健康管理もばっちり。

 元々、コツコツと努力するタイプではあったが……。

 それもこれも、すべては、この日のためだったに違いない。復讐のために、虎視眈々と力を蓄えていたのだ。

『どこへ行くつもりなの? 自首しようよ』

 すがるような思いで進言する。気持ちを逆撫でするかもしれないとは分かりつつも、『もっとやれ!』とはとてもではないが同調する気にはなれなかった。

『復讐する相手のリストをまず手に入れる。すべては、調査からだ』

 恐ろしい執念。

 見覚えのある建物が見える。魔法省だ。近くを若い男の職員が歩いている。確か、今日は日曜日。休日出勤なのか、周囲には人の姿がない。

「LALA♪」

 男声魔法で虚空からバタフライナイフを取り出すと、長髪の青年の首に突きつける。

「ひいっ! だ、誰ですか!」

 く、体の主導権を奪う隙が一瞬できたかと思ったけれど、今、下手に動けば、ナイフが予測不能な動きをするかもしれない。歯軋りくらいしか体を操作できない。

「お前、魔法省に出入りしている派遣魔法エンジニアだな。マジカルプライベートネットワークに接続できるだろ?」

 青年は怯えた目でこちらを見つめる。

「そ、そんなことしたら、セキュリティ事故だっ! 所属会社ごと出入り禁止になるっ!」

「魔法省と言わず、今すぐ、この世から出入り禁止にしてやってもいいんだぜ」

 首に深くナイフを突きつけると観念したようだった。

「わ、わかりました」

「俺は、主要な魔法は熟知しているんだ。おかしな魔法を唱えたら、即座にあの世行きだからな」

「くっ!」

 テナーボイスで、古代語を詠唱すると、小さな穴が開く。

「おっと、それは、セキュリティレベル1の穴じゃないか。舐めやがって。3だよ。レベル3まで入れるんだろ? 今さら、つまんねぇ抵抗するんじゃねーよ」

 再び、低音ボイスが響き渡る。先ほどは、薄青い穴だったが、薄黄色の穴が開く。

「やればできるじゃねーかよ」

 そういうと、青年を解放すると背中を押して突き飛ばす。

 そして、トランペットを取り出すと軽やかにメロディを奏でる。

 曲の名は、タイムアウトブレーカー。本来、クラシックギターで奏でる難曲だが、トランペットの簡易アレンジ版もあるらしい。効果はクラギよりは薄れるというが、アレグロからすれば、とにかく入れればいいのだ。

 刑務所では読書を許可されていた。実家から楽譜集を取り寄せて暗譜していたが、こういうことだったのか。トランペットは演奏禁止なので、エアで演奏の練習していたものね。この日のためだったのか。

 アレグロは、セキュリティホールを固定すると、体を潜り抜ける。

 人口の空間だが、草花が咲いている。スプリンクラーが水やりをしている。庭師が、定期的に手入れしているのだろう。

 星詠みの道標と呼ばれる新魔法を発明できる端末の横をするりと通り抜ける。どうやら、アレグロの目的はこれではないらしい。

『何を探しているの?』

『うるさいなあ。黙って見てろよ』

 奥深くへ進むと、薔薇の蔦で絡まれたコンピュータ端末があった。アレグロは軽く起動すると、和音魔法を詠唱する。男でありながら、一人で、テナー、アルト、ソプラノの三和音を同時に声帯で奏でられるのが彼の特殊能力だ。特に彼のソプラノは美しい。

 和声による魔法は、セキュリティを次々と破れた。彼の才能だけでなく、努力もあってのなせる業だ。コンピュータの奥深くに名簿があった。

『あったぞ。魔法省職員名簿』

 アレグロは名簿をプリントアウトする。

『そ、そんなものどうするつもり!? まさか! 職員たちを襲撃するつもりじゃ!?』

『悪いか。俺様は、それだけ怒ってるんだ!』

『やめなよ!』

『あと、証拠も見つけないとな』

 アレグロは、非公式議事録や音声録などを探す。

『君に無実の罪を着せる議事録なんて残っていると思う?』

『おそらく、残ってないだろうな。だが……』

 録画音声の一つを手早く開く。

『来週の月曜日、倉庫近くでゴミ拾いボランティアをしてほしいのよ』

『なぜ、また急に? 仕事の書き入れ時じゃないんですか? 閑散期にやればいいじゃないですか』

『とにかく、来週月曜日 10:00頃でないとダメなんだ。お願い!』

 アレグロは音声を止める。まばたきをしようとしない。

『見つけた……。やっぱり彼女だったか』

 その音声の主は、ゾフィさん。

『ま、まさか。彼女を襲撃する気じゃ!?』

『犯人そのものじゃないにしろ、知ってはいるだろう』

 そのとき、けたたましく警報が鳴り響いた。

「侵入者 御用! 侵入者! 御用!」
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