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第19話 アクセントを逆にすればいい
しおりを挟むある日徹夜で料理に没頭し、翌日の昼間に厨房にもたれながらウトウトとしていた時、真司は夢を見た。その夢の中には、裕子がいた。しかし、様子がおかしい。なにがおかしいのか?そう。火傷がないのだ。
その裕子は屈託のないしゃべり方をした。すべての行動において、真司を驚かせた。彼は楽しみながら彼女の様子を眺めていたが、ぼんやりと思った。でもこれは僕の好きな裕子じゃないな、と。
いままで気づかなかったことだが、彼はその火傷を含め、裕子のことを愛していたんだ。彼女が魅力的なのは、ただ周りを驚かせるからだけではなく、苦い経験を味わって、人の苦しみを理解できるからでもあるんじゃないか。彼はそう思った。彼はいつものように、叫ぶことによって夢を強制終了した。そして起きてすぐに身支度をして家を出た。
急いで療養所に向かった。看護師さんに「あら今日は早いんですね」と声をかけられ、「無性に裕子に逢いたくなって」と答えた。
真司は裕子のいる部屋に入った。彼女にはやはり火傷があった。美しい裕子の顔が、その醜い火傷の存在に強いアクセントを与えていた。
しかし真司は、その醜い火傷をも愛することに決めていた。彼はそっと、裕子の頬に顔を近づけ、その火傷にキスをした。
するとあら不思議!火傷がみるみる消えていくではありませんか!!みたいなことは、言うまでもなく起こらなかったが。
しかしその代わりに、その瞬間、真司が料理人グランプリで作る料理が決まった。ほとんど強制的に。それは向こう側から聞こえてきた。
「アクセントを逆にすればいい」
これだ。
エビの天ぷらを作る。逃げちゃいけない。裕子、待っててくれ。
料理人グランプリの前日、彼は療養所に電話を入れた。もちろん裕子は出られない。裕子の部屋のテレビをつけておいてください、と施設の人に頼みたかったのだ。
いつもの看護師さんが出て、少し会話を交わした。そして要件を伝えて彼は電話を切った。
この時、料理人グランプリ優勝への誓いが、よりいっそう強くなった。なぜなら裕子は……。
彼は深いため息をついた。そして天を仰ぎ、裕子を思った。
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