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第25話 火傷は黄金に輝き
しおりを挟む~病室~
僕が真司さんを探すため慌てて病室を出ようとしたとき、テレビが料理人グランプリの番組に切り替わった。すると真司さん、いや料理人コッコがそこに映る。
僕は真司さんのコック姿に思わず足を止めてしまう。カッコよかったから、というよりは怖かったからだ。紗千さんと看護師さん、それに先ほどまで寝ていた奈菜ちゃんまでも、思わず画面に目を向ける。
真司さんの目が血走っている。そしてギョロギョロと動いている。しかし周りを威圧している、という風ではない。料理に集中している。完全なる没我。その目の焦点は、ただ自分の調理器具・食材のみに当てられていた。
そして彼は黒焦げの天ぷらを作る。僕は驚かない。むしろ、裕子さんの恋人ならやりかねないなと思う。しかしその料理は、神の料理人・モッスに絶賛される。僕もこれには、さすがに仰天してしまった。
表彰台に上るとき、真司さんは準優勝という結果にまったく満足していない様子だったけれど、インタビューのときだけは優しい穏やかな目をしていた。
彼はインタビューでこう言った。
「僕の心の支えになってくれたのは、いつも裕子の存在でした。彼女の顔を見ると、いつだって、いつだって、いつだって『もっとできることがある』、そんな風に思えたんです。実をいうと、今回の料理の発想をくれたのも彼女です。最後の最後まで、裕子は本物のサプライザーでした。」言い終わった後、真司さんは涙を流した。
インタビュアーは、「最後の最後まで」という不自然ともとれる発言に首をひねりはしたものの、興奮した真司さんのただの言い間違いだと捉えたのだろう。そのインタビューは終わった。
僕たちはそのインタビューを食い入るように見ていた。そして彼が話し終えると、涙を流した。インタビュアーが気付いていない、彼が流した涙の意味を想いながら。
やがて、僕らが泣いているのを見たからか、奈菜ちゃんが大声で泣き出す。その時だった。
「最後じゃないわよ。」と誰かが言った。
奈菜ちゃんがピタリと泣き止む。
僕と紗千さんは思わず、顔を見合わせる
パチパチパチパチパチ
…………………………
??????????
瞬間、体が震えあがるようなショックがあった。僕は恐る恐る首を45度まわした。
裕子さんがベッドの上で上半身を起こし、幸せそうに拍手をしていた。そして「最後じゃないけどね」と言った。彼女の頬を伝っている涙のせいだろうか。火傷が光り輝いているように見えた。
僕たちは驚いた。幽霊をみたかのように驚いた。顎が外れそう、という感覚を初めておぼえた。看護師さんは驚愕して書類を落とした。美しかった人は美しくなっていた。子供はただただはしゃいでいた。
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