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第1話 入学式は爆風とともに
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「科学と知識が未来を切り拓く」
校門の石碑に刻まれたその言葉を見上げながら、やや袖の長い新品の制服を身にまとったぼく、森本 堅太は、春の香りが漂う窒素80パーセント、酸素20パーセントの気体、つまりは空気を深呼吸した。
これから始まる高校生活に緊張と期待が入り混じる。春の桜が舞い散る中、名門『科学技術工業大学付属高校』の敷地に第一歩を踏み入れた瞬間だった。
多くの人は単に『科技高』と呼ぶこの学校は、科学工学の世界では名門中の名門だ。戦後、日本の経済発展を支えた数多くの科学者を輩出してきた伝統校。威厳と歴史を物語る蒼いつたに包まれた校舎が、ぼくの視界に広がっている。
「やっと、ここに来られたんだ」
昨夜は興奮のあまり、ほとんど眠れなかった。子供の頃から家中の機械をばらして構造を調べて元に戻せなくなったり、酸性とアルカリ性の洗剤を混ぜて毒ガスを発生させかけたりと、科学実験に夢中だったぼくにとって、この学校は憧れの場所だったのだ。
校門から校舎までの長い一本道には、ノーベル賞受賞者を含む偉大な先輩たちの銅像が整然と並ぶ。その奥には、正面の古めかしいレンガ造りの校舎とはまったく雰囲気の異なる建物が見える。コンクリートと研磨されたチタン合金の壁面で覆われた未来的な建造物群。
学校案内パンフレットで見た「先端研究棟」だ。
「科学技術は日進月歩」
学校の創始者である一ノ瀬健三郎博士の言葉を思い出す。
この学校の教育方針は明確だった。伝統に甘んじるのではなく、常に最新の研究機器をそろえ、社会のニーズに応えられる研究者を育てること。その姿勢にぼくは心を打たれていた。
腕時計を確認すると、入学式まではまだ三十分ある。
「せっかくの機会だし、少し研究棟を見学していってもいいよね」
誰に言うでもなく呟き、中央通りから脇に続く研究棟の外周を巡る細い散策路へと足を向けた。
断続的な機械音と、時折聞こえる人の声が、ぼくの期待を高めた。今このときも世界を驚かせるような実験が行われているのだろう。いつか自分もこの中で最先端の研究に携わるのだと思うと、胸が高鳴った。
どこの部屋も窓は固く閉められていたが、一番はしに位置する部屋だけが小さく開いている。好奇心に勝てずぼくはゆっくりとその窓に近づいた。
中では白衣に身を包んだ研究者が二人、なにやら難しそうな専門用語を交わしている。
もっとよく見ようと中を覗き込んだとき、研究者の一人が叫んだ。
「きゃーやだぁ、失敗しちゃったぁ」
お堅い研究室には不似合いな、ちょっと幼さの残る可愛らしい悲鳴。砂糖と塩を入れ間違えたような軽いノリに、思わず笑みがこぼれかけた次の瞬間――
青白い閃光と共に、ぼくの体は窓からあふれ出した爆炎に飲み込まれていた。
今までの短かった人生が走馬灯のように頭を駆け巡る。
「入学式にも出られないなんて……」
そんな最後の思いと共に、ぼくの意識は途絶えた。
校門の石碑に刻まれたその言葉を見上げながら、やや袖の長い新品の制服を身にまとったぼく、森本 堅太は、春の香りが漂う窒素80パーセント、酸素20パーセントの気体、つまりは空気を深呼吸した。
これから始まる高校生活に緊張と期待が入り混じる。春の桜が舞い散る中、名門『科学技術工業大学付属高校』の敷地に第一歩を踏み入れた瞬間だった。
多くの人は単に『科技高』と呼ぶこの学校は、科学工学の世界では名門中の名門だ。戦後、日本の経済発展を支えた数多くの科学者を輩出してきた伝統校。威厳と歴史を物語る蒼いつたに包まれた校舎が、ぼくの視界に広がっている。
「やっと、ここに来られたんだ」
昨夜は興奮のあまり、ほとんど眠れなかった。子供の頃から家中の機械をばらして構造を調べて元に戻せなくなったり、酸性とアルカリ性の洗剤を混ぜて毒ガスを発生させかけたりと、科学実験に夢中だったぼくにとって、この学校は憧れの場所だったのだ。
校門から校舎までの長い一本道には、ノーベル賞受賞者を含む偉大な先輩たちの銅像が整然と並ぶ。その奥には、正面の古めかしいレンガ造りの校舎とはまったく雰囲気の異なる建物が見える。コンクリートと研磨されたチタン合金の壁面で覆われた未来的な建造物群。
学校案内パンフレットで見た「先端研究棟」だ。
「科学技術は日進月歩」
学校の創始者である一ノ瀬健三郎博士の言葉を思い出す。
この学校の教育方針は明確だった。伝統に甘んじるのではなく、常に最新の研究機器をそろえ、社会のニーズに応えられる研究者を育てること。その姿勢にぼくは心を打たれていた。
腕時計を確認すると、入学式まではまだ三十分ある。
「せっかくの機会だし、少し研究棟を見学していってもいいよね」
誰に言うでもなく呟き、中央通りから脇に続く研究棟の外周を巡る細い散策路へと足を向けた。
断続的な機械音と、時折聞こえる人の声が、ぼくの期待を高めた。今このときも世界を驚かせるような実験が行われているのだろう。いつか自分もこの中で最先端の研究に携わるのだと思うと、胸が高鳴った。
どこの部屋も窓は固く閉められていたが、一番はしに位置する部屋だけが小さく開いている。好奇心に勝てずぼくはゆっくりとその窓に近づいた。
中では白衣に身を包んだ研究者が二人、なにやら難しそうな専門用語を交わしている。
もっとよく見ようと中を覗き込んだとき、研究者の一人が叫んだ。
「きゃーやだぁ、失敗しちゃったぁ」
お堅い研究室には不似合いな、ちょっと幼さの残る可愛らしい悲鳴。砂糖と塩を入れ間違えたような軽いノリに、思わず笑みがこぼれかけた次の瞬間――
青白い閃光と共に、ぼくの体は窓からあふれ出した爆炎に飲み込まれていた。
今までの短かった人生が走馬灯のように頭を駆け巡る。
「入学式にも出られないなんて……」
そんな最後の思いと共に、ぼくの意識は途絶えた。
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