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こんなものぐさな人間は初めてじゃ。
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「ほんっとうに、いいのかい? 出るよ! この部屋は」
「大丈夫ですよ。どうせ見えませんから。それにもう契約しちゃったじゃないですか」
「そうだけど、やっぱり気が進まなくてね。ほらあと千円で隣の部屋に住めるんだよ⁉」
「今はその千円が惜しくって」
「いくら不況だからってなにもこんな部屋に住まなくても……」
203号室に住むことになっているこの男は、契約のときから何度目かもわからないくらい念押しする大家の言葉を淡々と受け流しながらあとをついて部屋に案内してもらう。とはいえ203号室は会談のすぐそばにあり、案内というほどでもない。ドアに貼ってあった郵便受けの穴を塞ぐシールをはがし、受け取った鍵で中へと入る。事前に聞いていた通り、随分と人が住んでいなかったのだろう。掃除はされていて綺麗なものの、籠った空気は如何ともしがたい。部屋に入ってすぐ顔をしかめた大家は、玄関を大きく開け放つと、部屋にある唯一の窓も全開にする。
「まったく、開かずの間ならぬ貸さずの部屋だったっていうのに」
「本当に助かりました」
「他の部屋に移りたかったらいつでも言っておくれよ」
そう言い残して大家は部屋を出て行った。軽く頭を下げて見送った男は早々に玄関の扉を閉めてしまうと、大きなため息をつく。部屋にあるものといえば、一緒に持ってきただけのリュックサックだけで、男はそれを枕代わりに大の字に寝転んだ。天井の木目を数えているうちに知らず知らず眠ってしまう。現実に引き戻したのはチャイムの音。キンコーンという昭和さながらの音に呼ばれて玄関へ向かうと、相手を確認せずにドアを開ける。ポロシャツを着た宅配業者は、突然開いたドアに目を見張ってから、笑顔を張り付けた。
「ちわーっす。お届け物は3箱であってます?」
「はい」
「あざーした!」
荷物を運びこんでもらうと、また大の字になってしまう。中身は何かわかっている。前のマンションから送った私物だ。片付けないととわかっていながらも気が向かないのだろう。何度かダンボールに視線をやってから目を閉じた。窓から差し込んでくる太陽が眩しいのか体の向きを変えて本気で寝る体勢に。徐々に薄暗くなる部屋。数十分後には深い寝息だけが部屋に響いていた。
目を覚ましたのは夜中の3時過ぎのこと。真っ暗闇の中、適当に置かれたダンボールに足を引っかけながら、ようやく電気のスイッチを押すと、眩しさから眉間にしわを寄せた。そのままダンボールの一つを乱暴に開けると、バスタオル、スーツ一式、アタッシュケースを後ろに投げ捨てていく。最後に底にあった値引きシールの貼られたカップ麺とケトルを取り出した。ケトルに水を入れてスイッチを入れると、バスタオルをもってお風呂へと入る。出てきたのはお湯が沸くのと同時。バスタオルを頭からひっかけたままカップ麺にお湯を注いでいると、唐突にぽーんと軽い音と小さなバイブ音でリュックサックの中に忘れ去られていた携帯が存在を主張した。
「誰だこんな非常識な時間に」
携帯は通知を知らせただけでどこにいるのかは教えてくれないようで、ガサゴソとリュックサックをかき回している間に3分が過ぎ、一旦携帯探しは中断される。熱々の麺をすすりながら、どこに携帯を入れたんだったかと視線はリュックサックに向けられたまま。それもカップ麺を食べ終わると面倒になったのか、諦めてそのまま寝ころんでしまう。思い出したように腕だけ二つ目のダンボールに伸ばすと、これは手探りで掛布団を探し出し被る。昼過ぎにこの部屋に来てから9割以上の時間を眠っていたにもかかわらず、男は数十秒後には夢の世界へと旅立っていた。
その一部始終を天井から見ていた人物は、男が再び気持ちよさそうに眠り込んだのを見て大きくため息をつく。
「こんなものぐさな人間は初めてじゃ」
「大丈夫ですよ。どうせ見えませんから。それにもう契約しちゃったじゃないですか」
「そうだけど、やっぱり気が進まなくてね。ほらあと千円で隣の部屋に住めるんだよ⁉」
「今はその千円が惜しくって」
「いくら不況だからってなにもこんな部屋に住まなくても……」
203号室に住むことになっているこの男は、契約のときから何度目かもわからないくらい念押しする大家の言葉を淡々と受け流しながらあとをついて部屋に案内してもらう。とはいえ203号室は会談のすぐそばにあり、案内というほどでもない。ドアに貼ってあった郵便受けの穴を塞ぐシールをはがし、受け取った鍵で中へと入る。事前に聞いていた通り、随分と人が住んでいなかったのだろう。掃除はされていて綺麗なものの、籠った空気は如何ともしがたい。部屋に入ってすぐ顔をしかめた大家は、玄関を大きく開け放つと、部屋にある唯一の窓も全開にする。
「まったく、開かずの間ならぬ貸さずの部屋だったっていうのに」
「本当に助かりました」
「他の部屋に移りたかったらいつでも言っておくれよ」
そう言い残して大家は部屋を出て行った。軽く頭を下げて見送った男は早々に玄関の扉を閉めてしまうと、大きなため息をつく。部屋にあるものといえば、一緒に持ってきただけのリュックサックだけで、男はそれを枕代わりに大の字に寝転んだ。天井の木目を数えているうちに知らず知らず眠ってしまう。現実に引き戻したのはチャイムの音。キンコーンという昭和さながらの音に呼ばれて玄関へ向かうと、相手を確認せずにドアを開ける。ポロシャツを着た宅配業者は、突然開いたドアに目を見張ってから、笑顔を張り付けた。
「ちわーっす。お届け物は3箱であってます?」
「はい」
「あざーした!」
荷物を運びこんでもらうと、また大の字になってしまう。中身は何かわかっている。前のマンションから送った私物だ。片付けないととわかっていながらも気が向かないのだろう。何度かダンボールに視線をやってから目を閉じた。窓から差し込んでくる太陽が眩しいのか体の向きを変えて本気で寝る体勢に。徐々に薄暗くなる部屋。数十分後には深い寝息だけが部屋に響いていた。
目を覚ましたのは夜中の3時過ぎのこと。真っ暗闇の中、適当に置かれたダンボールに足を引っかけながら、ようやく電気のスイッチを押すと、眩しさから眉間にしわを寄せた。そのままダンボールの一つを乱暴に開けると、バスタオル、スーツ一式、アタッシュケースを後ろに投げ捨てていく。最後に底にあった値引きシールの貼られたカップ麺とケトルを取り出した。ケトルに水を入れてスイッチを入れると、バスタオルをもってお風呂へと入る。出てきたのはお湯が沸くのと同時。バスタオルを頭からひっかけたままカップ麺にお湯を注いでいると、唐突にぽーんと軽い音と小さなバイブ音でリュックサックの中に忘れ去られていた携帯が存在を主張した。
「誰だこんな非常識な時間に」
携帯は通知を知らせただけでどこにいるのかは教えてくれないようで、ガサゴソとリュックサックをかき回している間に3分が過ぎ、一旦携帯探しは中断される。熱々の麺をすすりながら、どこに携帯を入れたんだったかと視線はリュックサックに向けられたまま。それもカップ麺を食べ終わると面倒になったのか、諦めてそのまま寝ころんでしまう。思い出したように腕だけ二つ目のダンボールに伸ばすと、これは手探りで掛布団を探し出し被る。昼過ぎにこの部屋に来てから9割以上の時間を眠っていたにもかかわらず、男は数十秒後には夢の世界へと旅立っていた。
その一部始終を天井から見ていた人物は、男が再び気持ちよさそうに眠り込んだのを見て大きくため息をつく。
「こんなものぐさな人間は初めてじゃ」
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