葛城依代の夏休み日記~我が家に野良猫がきました~

白水緑

文字の大きさ
2 / 20

7月31日 日曜日 『猫を拾った』(2/4)

しおりを挟む
なかば駆け足でさっきの場所へ向かうと、遠目から見てもわかる季節外れな黒い塊がまだそこに留まっていた。本当にあそこにずっといるつもりだろうか。近寄ってみても反応がなくて、死んでしまったのかと一瞬思ってしまう。

「ねぇ」
「……おや、帰ってきちゃったの?」

 見たまま、何も持っていないのだろうか。朝、出会った時からなにも食べていないのか、声が少しかすれている。そろそろ真夏になろうというこの時期に真っ黒な服でじっとしているなんて、どんな生き物でも本当に死んでしまいそうだ。

「お兄さんが言ったんでしょう。置いていったら死んじゃうって」
「そうだったそうだった。拾ってくれるの?」
「今日だけだから。あ、あとこれ、まだ飲んでないからあげる」

 持っていたペットボトルを差し出すと驚いた様子。

「弱っている猫には水をあげるって聞いたから」
「ありがとっ。飼い主さん」
「……開けられないの?」

 ペットボトルを開ける手すらあまり力が入っていないのを見て、背伸びしてその手から一度奪い返す。大して固くない蓋を取って渡すと、呆気にとられた顔をしていた。

「何?」
「君、さてはいい子だね?」
「馬鹿なこと言ってないで早く飲んで帰ろう。外は暑いから」

 彼の嬉しそうな顔つきに、ただでさえ日差しを浴びて暑いのに、一気に体温が上がり汗が噴き出す。歩き出すと、彼も慌てて立ち上がったが、すぐに目元を抑えて目を閉じる。少し開いた距離を駆け戻って顔を覗き込んだ。

「大丈夫?」
「うん、ちょっと立ち眩みしただけ。行こっかぁ」

 眉間に寄っていた皴は笑顔の下に隠れ、出会ったときと同じ軽薄な表情が顔を出す。ひとまず元気そうな様子にほっとして、家へと連れ帰った。

 彼をリビングへと招き入れると、お腹がすいていたらしい音が部屋に響き、3時のおやつに用意されていたマドレーヌを渡す。
 
「流石にもらえないよ。君のために用意してあるものだろう?」
「あんまり好きじゃないやつだから」
「見え透いた嘘をつくものじゃないよぉ。大丈夫、食料は自分で調達してくるから。君は僕に少しばかり居場所を貸してくれるだけでいいんだぁ」
「何も持ってないのにそんなの無理よ」
「大丈夫大丈夫。それより少し寝てもいい? おとといからずっと寝てないんだぁ。あ、でもさっき君が来てくれるまでの間にちょっと寝られた気がする」

 それは寝たとは言わないんじゃ……。炎天下で寝るということが危険なことは、子供の私にでもわかる。この人、やることがめちゃくちゃだ。リビングで寝かせるのが忍びなくて、自分の部屋に案内する。ドアを開けると涼しい風が吹いてきて、冷房を消し忘れていたことに気づく。

「あー、気持ちいい」
「そこで寝るの?」
「うんー。ここで十分だよぉ」

 彼が陣取ったのは、私のベッドの脇。床の上で寝るならリビングでも良かったんじゃないだろうか……。そんなことを思いながら私は宿題の続きをするべく、机に向かった。 

「これからよろしくねぇ、依代ちゃん」
「……私名乗ってないと思うんだけど」
「さっき、部屋の前に書いてあったよぉ」
「お兄さんを飼うとも言っていないんだけど」

 言い返したものの、その前に寝入ってしまった彼に、その声は届かなかったようだった。彼の寝息を聞きながら漢字ドリルを進める。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

処理中です...