葛城依代の夏休み日記~我が家に野良猫がきました~

白水緑

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7月31日 日曜日 『猫を拾った』(2/4)

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なかば駆け足でさっきの場所へ向かうと、遠目から見てもわかる季節外れな黒い塊がまだそこに留まっていた。本当にあそこにずっといるつもりだろうか。近寄ってみても反応がなくて、死んでしまったのかと一瞬思ってしまう。

「ねぇ」
「……おや、帰ってきちゃったの?」

 見たまま、何も持っていないのだろうか。朝、出会った時からなにも食べていないのか、声が少しかすれている。そろそろ真夏になろうというこの時期に真っ黒な服でじっとしているなんて、どんな生き物でも本当に死んでしまいそうだ。

「お兄さんが言ったんでしょう。置いていったら死んじゃうって」
「そうだったそうだった。拾ってくれるの?」
「今日だけだから。あ、あとこれ、まだ飲んでないからあげる」

 持っていたペットボトルを差し出すと驚いた様子。

「弱っている猫には水をあげるって聞いたから」
「ありがとっ。飼い主さん」
「……開けられないの?」

 ペットボトルを開ける手すらあまり力が入っていないのを見て、背伸びしてその手から一度奪い返す。大して固くない蓋を取って渡すと、呆気にとられた顔をしていた。

「何?」
「君、さてはいい子だね?」
「馬鹿なこと言ってないで早く飲んで帰ろう。外は暑いから」

 彼の嬉しそうな顔つきに、ただでさえ日差しを浴びて暑いのに、一気に体温が上がり汗が噴き出す。歩き出すと、彼も慌てて立ち上がったが、すぐに目元を抑えて目を閉じる。少し開いた距離を駆け戻って顔を覗き込んだ。

「大丈夫?」
「うん、ちょっと立ち眩みしただけ。行こっかぁ」

 眉間に寄っていた皴は笑顔の下に隠れ、出会ったときと同じ軽薄な表情が顔を出す。ひとまず元気そうな様子にほっとして、家へと連れ帰った。

 彼をリビングへと招き入れると、お腹がすいていたらしい音が部屋に響き、3時のおやつに用意されていたマドレーヌを渡す。
 
「流石にもらえないよ。君のために用意してあるものだろう?」
「あんまり好きじゃないやつだから」
「見え透いた嘘をつくものじゃないよぉ。大丈夫、食料は自分で調達してくるから。君は僕に少しばかり居場所を貸してくれるだけでいいんだぁ」
「何も持ってないのにそんなの無理よ」
「大丈夫大丈夫。それより少し寝てもいい? おとといからずっと寝てないんだぁ。あ、でもさっき君が来てくれるまでの間にちょっと寝られた気がする」

 それは寝たとは言わないんじゃ……。炎天下で寝るということが危険なことは、子供の私にでもわかる。この人、やることがめちゃくちゃだ。リビングで寝かせるのが忍びなくて、自分の部屋に案内する。ドアを開けると涼しい風が吹いてきて、冷房を消し忘れていたことに気づく。

「あー、気持ちいい」
「そこで寝るの?」
「うんー。ここで十分だよぉ」

 彼が陣取ったのは、私のベッドの脇。床の上で寝るならリビングでも良かったんじゃないだろうか……。そんなことを思いながら私は宿題の続きをするべく、机に向かった。 

「これからよろしくねぇ、依代ちゃん」
「……私名乗ってないと思うんだけど」
「さっき、部屋の前に書いてあったよぉ」
「お兄さんを飼うとも言っていないんだけど」

 言い返したものの、その前に寝入ってしまった彼に、その声は届かなかったようだった。彼の寝息を聞きながら漢字ドリルを進める。
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