報酬を踏み倒されたので、この国に用はありません。

白水緑

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11.価値観

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「私の知る王宮にある庭園というものは、目で見た時に綺麗かどうかが第一で、役に立つかどうかはそもそも考えにすら含まれていないと思います」
「綺麗? それに何の意味があるんだ?」

 王宮の庭の存在価値は、訪れる人々の目を楽しませること。そのために色とりどりの草花を植え、季節によって植え替える。人間はその見た目の豪華さや完成度に価値を乱して競い合うのだと話をすると、シルヴェさんは難しそうに眉間に皴を寄せた。

「それが人間の価値観か? その、見た目で優劣を競うというのは」

 心底理解に苦しんでいるらしい。

「一般的にはそうですね。好みがあるとはいえ美男美女が好まれますし、服や宝飾品なども意匠性が高いものの方が評価は高いです」

 思い返してみれば、魔王城に権力の象徴のようなものはない。しいて言うならば魔王城自体が象徴なのかもしれないが、想像していたような禍々しさも権力を象徴するような派手さもない。魔王も町の人よりは上質な服を着ているが、見た目はそこまで豪華ではない。人間の価値観で判断するなら庶民と貴族に仕える従者のような差でしかない。下手をすれば私たちの方がいい生活をしているように見えるかもしれない。

「魔族は違うのですか?」

 ならば魔族は一体何を良しとするのだろう。なんとなく予想はついていたけれど、尋ねてみる。

「基本的に利がないものには価値は見ださない。例えば、庭に植える植物一つとっても、確かにただの花は彩りをもたらす。だが、それだけのこと。この庭も、ただ土地を余らせているのは無駄だから、兵士たちがよく使う薬草を育てている」

 理にはかなっている。同じ世話をするなら役に立つものを、という気持ちも分からないわけではないが、ただ少しーー寂しい気がした。
 上手く言葉に出来ずに表現を探していると、シルヴェさんはおもむろに立ち上がる。

「そろそろ暗くなる時間だ。家まで送ろう」

 なにかを言うまもなく再び身体が宙に浮き、倒木から降ろされる。淀みないその動作は、まるで私に体重がないかのような軽々とした動作。

 庭から魔王城に戻る途中、よく見れば倒木もそうなのだと気づいた。無造作に置かれているように見えて、一定間隔で倒木があり、邪魔な根元は切り離されている。魔族たちにとって腰掛けるのに丁度良いから再利用されているのだろう。
 魔族の価値観の一端を見たことで、この魔王城の見方も少しだけ変わった。一見、殺風景で何の飾り気もないこの城こそ、魔族らしい城なのだ。
 帰り道、一人で来た道を二人で歩く。

「もう一つ、聞くことがあったな」

 家の灯りが見え始めたところでシルヴェさんは足を止めて、私と話すために少し腰を曲げた。

「生活には困っていないと魔王様は言っていたが、何か必要なものはないか? 慣れない場所にいるのだから手伝えることがあれば言え。慣れない場所で苦労も多いだろう」

 わざわざ視線を合わせてまで気遣ってくれる優しさに頬が綻んだ。

「ありがとうございます。皆様に良くしていただいているので大丈夫です」

 今私が探しているものが一つだけあったけれど、シルヴェさんの価値観によればそれは無駄なことだと切り捨てられそうで、聞くのはやめた。代わりに頼みごとをすることにした。

「もし、オラニ王国から私たちを引き渡すように言われたら応じてください。そこまでの迷惑をかけるつもりはありませんから」

 王が私たちの足取りを追うのは簡単だ。何せオラニ王国と接する国はノサムク国しかない。周囲の国への移動は船を使う必要がありとても困難で、逃げたとしてもそれは誰かが見ている。
いないのであればエルヴダハムしかない。私たちは忍びもせずに堂々とこちら側に来た。普通の冒険者ならばいざ知らず、魔王を倒したことになっている私たちがただただやられると考えるはずがない。
占領したはずの地を我が物にしようとしていると思われてもおかしくない状況だと思う。私たちは今は追われる身なのだ。
 シルヴェさんはその話を聞いても、静かに首を横に振った。

「一度住民として迎えた以上そんなことはしない。心配するな」
「でも」
「大体、起こってもいないことを考えるのは俺の仕事だ。人の仕事を取るもんじゃない」

 押さえつけるように私の頭を撫でてシルヴェさんは歩き始めてしまう。一歩一歩が大きいシルヴェさんに追いつくために、慌てて走った。抗議できないようにわざと先に行ったに違いない。
 やっとのことで追いついて抗議の視線を送ってみたけれど、涼しい顔で流された。その横顔が腹立たしくて仕返しをしようと思ったまでは良かったものの、なにも思いつけなかった。悔しい。
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