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3月19日【終わり】
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仕事が終わって外に出ても、猫はもう出迎えてくれない。本当にいなくなってしまったんだと実感して、感傷的な気分になりながら駅までの道を歩く。猫が歩いていた道。この段差は飛び乗って、この植木鉢は回り込んで。そうした姿も今後は見られないのはとても残念。一緒に歩くと一瞬だったこの道も一人で歩くとずいぶん遠く感じる。飲み会の時に脇道から覗いていた場所にもいない。花壇から見送ってくれる姿もない。たった二週間ほどの時間を過ごしただけなのに、こんなに私にとって大切な存在になっていた。この喪失感がいつまで続くのか。今は辛くても、楽しい時間を過ごした思い出があって、風化するのを待つしか無いのなら、明日からの3日間は良いタイミングかも知れない。温泉にでも行って気分転換でもしよう。猫がいるのが当たり前になってしまったこの生活を、リセットしなくては。2月は誰もいなかった。私はずっと一人だった。だから、一人でも気にならない。珍しく猫がいたから少し気を許してしまっただけ。
電車の中、小さくあくびを噛み殺して、流れ出る涙を拭った。
電車の中、小さくあくびを噛み殺して、流れ出る涙を拭った。
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