俺と向日葵と図書館と

白水緑

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04.新たな一歩 前半

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 今日こそは少女と話したいと意気込んで、恭佑は図書館に向かった。家を出るときに母親かが何か言っていた気がしたが、急いでいた恭佑の耳には届いていない。
 昨日と同じ本を手に取って、定位置となった席に向かう。
 あ……先客。珍しいな。
 いつも少女が座っている席には、見たことがない女性が座っていた。恭佑の席は幸いなことに空いていて、腰掛けて本を開く。
 昨日読み進めた話の続きを探して読み始める。
 …………。
 数行読んだところで顔を上げ、辺りを見回た。利用者は一定の距離を開けて席に座っていて決して近い距離ではないにもかかわらず、側に人がいるのが落ち着かない。
 早く来ないかな。
 文字に視線を戻すが、元々本に親しみのない上にそわそわした空間ということもあり、一文を読み進めても理解は出来ず、中身は少しも頭に入っていない。
 離れたところから聞こえてくる子供の賑やかな声がほど良い雑音となり、恭佑を眠りに誘う。しかし、改めて普段とは違う図書館の空気に、恭佑は初めて図書館に来たときのようなむず痒さを覚えて、寝るに寝られないでいた。

「あ……どうしよう……」

 賑やかな中でかすかに聞こえた小さな声に、一瞬で恭佑は目を覚ました。声の方向を見ると、今日はベージュのワンピースを着た少女が本を手に佇んでいた。先日とは違う表紙の本で、一日に何冊の本を読んでいるのかと驚かされる。
 どこに座ろうかと思案しながら来た通路を戻ろうとする少女に、恭佑はとっさに声をかけていた。

「あの!」

 ビクッと体を震わせ、固まってしまった少女をこれ以上怖がらせまいと、なるべく彼女を視線を合わせないようにして言葉を続ける。

「ここ、どうぞ」

 席を立ち、少女が近くに来やすいように距離を取った。

「……」
「……」

 少女の視線は恭佑の持つ本に向けられていて、咄嗟に隠した。本を読みに来ている訳ではなく、居眠りを咎められた時用に持っている。そんな自己防衛がなんだか気恥ずかしかった。
 動こうとしない少女に、恭佑は言葉を重ねる。
 普段何気なく話している言葉なのに、喋り方はこうで良いのかと戸惑いを恭佑に投げかけていた。

「休憩したかったから座って」

 再度そう言うと、少女は恭佑を警戒しながら、ぎゅっと鞄を抱きしめて椅子に座った。その背中は緊張で、明らかに強ばっている。

(これ以上話しかけるのは無理そう、だな……)

 話しかけたい気持ちより、怖がらせたくない気持ちが勝って、その場を離れて館内を歩く。元々恭佑の定位置は奥まった席で、わざわざ来る人など限られていた。その場所が満席になるくらいなのだから、案の定、他の席も空いている場所はない。
 子供も走り回り、角でぶつかりそうになるのをすんでの所で避ける。ひそひそ声ではあるが女性たちの井戸端会議がそこかしこから聞こえていた。
 さて、どうしたものか。
 寝る場所はなく、かといってこのままただ歩き続けるのも退屈。涼しい図書館から出る気にもならず、普段は出向くことのない資料室や古典文学が並んでいるエリアまで足を伸ばした。こちらにも、既に勉強している人が陣取っている。
 最終的に図書館内を一周して、元の位置に戻ってきた。少女は熱心に本を読んでいて、その時間を提供できたことに満足した。
 今なら側に行っても気づかれないか……?
 恭佑の定位置の席の後ろには本が並べられていない本棚があり、椅子はないが、ほどよく暗がりで眠るのにはぴったりな場所がある。
 極力何気ない風を装って少女の背後を通り、少し埃っぽいそこに入り込む。持っていたバッグを抱え込んで枕代わりにし、眠気が来るまではと熱心に本を読む少女を眺めていた。
 今日は白いブラウスに薄桃色の膝丈スカート。髪は後ろで緩く結ばれている。椅子にもたれるでもなく自然に真っ直ぐに伸びた背筋に、椅子の下できちんと揃えられた足。利用者の多い今日は、人の邪魔にならないよう荷物は膝の上に載せているらしい。
 お嬢様っぽいもんなぁ。俺とは生きてる世界が違うんだろうな。お近付きになるのは難しそう。恭佑は大きなため息をついたが、本に集中している人々の耳には届かなかったようでそれはただのため息で終わる。
 寝よ……。なんだかむなしくなった恭佑は膝を抱えて、腕に頭を預ける。少女を視界に収めたまま、意識を眠ることに向けた。

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