白に染まる

スカートの中の通り道

文字の大きさ
7 / 32

第七話 剥離

しおりを挟む
 現実と夢の境目が曖昧になったような、不思議な感覚だった。
 電車はいつの間にか走り出していて、どれほどの時間が経ったのか正確にはわからない。けど、窓の外の景色を見る限り数分しか経っていないだろう。それでも、見慣れたはずの風景が今ではどこか遠い過去のように感じられ、ぼんやりと色を失っている。
 車内を漂う冷い風によって、頭も心もようやく冷静さを取り戻しつつあった。ただ、体の奥に残る不安定な熱、特に股間に残る性的な疼きだけはどうにも抑えようがなかったので、焦燥感と共にじっとその感覚が鎮まるのを待つしかなかった。
 僕はそっと腰を引いて、ズボンの膨らみを隠すようにしながらありさ先輩の隣に席を移した。向かいに座っていると、どうしても目のやり場に困ってしまうからだ。でも隣に座ったところで、結局のところ僕の視線が行き着く先はそれほど変わらなかった。
 ありさ先輩のブラウスは、冷風にさらされて徐々に乾き始めていた。先ほどまでくっきりと浮かんでいた乳首のシルエットも、今では霞んでいる。一方で、襟元から覗く白いレースのブラがずらされたままの状態で顔を覗かせていたために、僕の心は再びざわつき始めてしまう。ようやく落ち着いてきたのに、何もできなかったあの瞬間が否が応でも鮮明に蘇って来る。
 視線を下げると、スカートには和志がつけた荒々しい皺が無惨にも残っていた。僕はそれを目にすると、胸の奥がかき乱されるのを感じた。怒りなのか、それとも自身への苛立ちなのか、自分でもよくわからないけど、必死にその感情を押し込めながら、僕は視線をスカートから無理やり引き離し、ありさ先輩の顔に目を向けた。
 先輩はただ俯き、静かに何かを考え込んでいるように見えた。犬絵や和志の存在、それに対する後悔や悲しみや憎しみの感情を頭に浮かべているのかと思ったけど、ありさ先輩の表情からはそれらの感情が一切読み取ることができなかった。むしろ、その顔は驚くほど静かで、自分の内側にある心の奥深くに潜り込んで、その領域にある何か大切なものを探しに戻っているかのような、孤独な沈黙を続けていた。
 その横顔を見ているうちに、犬絵が「この横顔が好きなの」と言っていたのを思い出した。そして、今になってようやくその意味がわかり始めた気がする。ありさ先輩の横顔は、とても凛々しくて、強い意思と覚悟を感じさせる。僕なんかよりもずっと堂々としていて、見上げるほどにカッコよかった。そんな先輩の強さを目の当たりにすると、僕の胸は締め付けられるように痛み、目頭が熱くなった。
「みっちゃん」
 突然、ありさ先輩が僕を呼んだ。
 僕の心臓が、大きく弾んだ。思わず、不安と恐怖が入り混じった感情が胸にこみ上げてくる。きっと、「なんで助けてくれなかったの?」と責められるんじゃないかと、頭の中にそんな考えがよぎった。でも、
「そんな顔しないで。私は全然そんなふうに思ってないから」
 ありさ先輩の声は、まるで僕の心を見透かしたように優しかった。そしてさらに、柔らかい口調で続けた。
「逆だよ、みっちゃん。あなたが私を助けようとしてくれたこと、ちゃんとわかってる。本当に、ありがとう」
 その言葉に、僕は首を横に振った。僕なんかが先輩を助けられるわけがない。その証拠に、あなたの体は弄ばれてしまった。
「でも、無理しないでね。本番が近いんだから、怪我でもしたら大変だよ」

 ーーやめてください……そんなふうに言わないでください……。

 先輩の優しさが、かえって僕の罪悪感を深くえぐる。自分の無力さと臆病さを、再び突きつけられているような気がしてならない。
「ねえ、あっちを向いててくれる?」
 ありさ先輩はそう言うと、淡々とバッグからジャージの上着を取り出した。僕がどういう意味なのかわからずに固まっていると、先輩は小さく笑って、僕に背中を向けた。

 ーーそっか、着替えるんだ。

 やっとその意味に気づいて、僕も慌てて背中を向けると、先輩の呼吸が近くで聞こえた。脱ぎ捨てられたブラウスの香りがかすかに漂ってくる。それはどこか甘くて切ない、夏の終わりのような匂いだった。
 ブラの位置を直して、ジャージにさっと腕を通す音が、妙に耳に残る。静かな車内で聞こえるその音が、どこか現実離れしているように感じられた。
「はい、お待たせ」
 先輩の声は、驚くほど明るかった。まるで何事もなかったかのように……あれほどの仕打ちを受けたというのに、何一つ余韻を残さないその態度に、僕は改めて先輩の強さを思い知らされた。

 ーー本当に強いんだな、この人は。

 心の中でそう呟きながらも、僕はその強さを羨ましいと思わずにはいられなかった。ありさ先輩のように僕も強くなれたら……あの時もっと別の行動ができていたのなら、きっと今この瞬間は違う形になっていたのだろうか……。そんな想像をせずにはいられなかった。
 でも、先輩がバッグにブラウスをしまうとき、一瞬だけ苦しそうな表情が浮かんだような気がしたけど、見間違いだろうか。
 ふと、僕は犬絵のキスの痕跡が、先輩の口元で穢らわしい光を放っていることに気づいた。
 僕は嫌悪感を抱き、すぐにポケットからハンカチを取り出し、そっとその痕を拭い取った。ありさ先輩は一瞬驚いたように身を退けたけど、すぐに理解したのか、スッと頬を差し出してくれた。
「ふふ、みっちゃんは本当に優しいね」
 その言葉に、僕の胸の奥で何かが壊れる音がした。そして堪えきれなくなっていた涙が、溢れ出してた。
「違う……僕は……何も……」
 言いかけた僕の口元に、先輩の指がそっと触れた。その指先の温かさに、僕は一層涙を流してしまう。
「泣かないで。みっちゃんにそんな顔されたら……私まで悲しくなっちゃうよ」
 そう言いながらも、その声色はまるで子どもをあやしている母親のようだった。
「もうすぐだよ、みっちゃんが降りる駅。ほら」
 ありさ先輩が指差した窓の外には、僕が降りるべき現実が近づいていた。
「みっちゃん……今年こそは笑顔で、嬉し涙を流すためのバスケが出来るよね? 私たちって、ずっとそのために一緒に頑張ってきたんだよね? 私、絶対信じてるから。それじゃまたね、おやすみ」

 ーー信じてるから……?

 先輩は僕の肩を軽くポンと叩き、バイバイと手を振った。その笑顔はとても柔らかくて、眩しいほどだった。
 僕は無言で頷くことしかできなかった。涙がまだ、止まらなかったから。

 体の奥に、小さな火種のような期待感が燻っていた僕は、どうしてもまっすぐ家に帰る気にはなれず、遠回りをするようにして海岸沿いの道を一人で歩いていた。
 その期待感というのは、もはや予感ではなく確信に近いものだった。あれだけの光景を目の当たりにして、このまま静かに夜が更けていくはずはなく、玉津が何らかのアクションを起こしてくるのは明白だった。
 歩き続けていると、案の定スマホが振動した。ポケットから取り出してみると、画面には玉津の名前が表示されていた。その瞬間、胸の内にあった期待感が一気に大きな炎となり全身に広がった。僕は近くにある物陰に身を隠すと、ズボンのファスナーを下げギンギンに勃起したペ○スを捻り出し、スマホを耳に近づけた。
「もしもし」
 すると、スマホ越しにハアハアと荒々しい息遣いが聞こえてきた。
「やべーよ美原、止まんねえよ」
 まさに予想通りの言葉だった。
「さっきからずっとテレビの大画面にありさを映しながらオ○ニーしてるんだけどさ、どのシーンで止めても抜きどころになっちまってさ、だからもう何発出したのかわからないくらい射精してて、本当に笑っちまうんだけど、この勢いに拍車をかけてんのは間違いなくお前の存在なんだよな。お前の憧れのありさが、今日初めて会ったばっかの和志に、いいように弄ばれて、感じさせられててさ、この汚されてる感じがもうたまんねえのなんのって。しかも、お前はまだ知らねえんだよな? ありさの感触。それが本当に最高! 俺はさ、もうあの太ももを触って揉んだんだ。それに加えて、ありさの……ありさの……あっ、ダメだ、またキちまった。それじゃ俺様はオ○ニーに励むから、お前もきばって頑張れよ。え? 何をって? 言わせんなよ、このムッツリスケベ。あとさ、明日会おうぜ、お前がどうしてもっていうなら、もーっと過激なの見せてやるからさ。それじゃあな」
 玉津は、僕に言葉を発する隙を与えないくらい早口で喋り尽くすと、プツンと一方的に通話を切った。
 そしてすぐに、僕のスマホが一通のメッセージを受信した。玉津からだった。画像が添付されていた。
 それは、テレビに映し出されたありさ先輩のパンツを観ながら、必死にオ○ニーに興じる玉津の姿だった。こちらに振り向きながら、ピースサインまでしている。
 僕はすぐに、その写真に写っている玉津を切り取り削除すると、座席に座るありさ先輩の白いレースのパンツをアップにして、一心不乱にペ○スをしごいた。
 スカートから伸びる行儀の良い清楚なおみ足。その先の暗がりの中に、しっとりとした甘い湿り気を漂わせている純白のパンツ……。
 すると、絶頂は間もなくだった。
 先端からこれまで見たことのない量の精液が発射され、これまで感じたことのない快感が全身を駆け巡り、脳髄を震わせ痺れさせた。熱がフッと消えて、耳には自分の心臓の鼓動と、ぽっかりと穴が空いたような心地良い満足感だけが、僕を支配していた。

 ーー今夜、眠れるかな……。

 僕は編集した画像を、ロックされたフォルダに保存した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...