性春グラフティ~童貞の親友に奪われちゃいました~

いちき

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4かいめ、は、ゴーインだ。

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4かいめ、は、ゴーインだ。





 親友の童貞を奪って親友に処女を奪われた後も、俺たちは相変わらず一緒にいた。なんでだ。縁を切っても不思議じゃないのに、講義は隣で受けているし、昼飯だって一緒に食ってる。あの日からは、お互いバイトだったり他の用事だったりで互いの家には行ってないけれど、何事もなかったかのように普通に接している。なんでだ。
 講義が終わって教室を出ようとする今だって、隣には汀の姿がある。がやがやと煩い雑踏に混じって廊下へと出るために先に足を踏み出した汀が、「あ、そうだ」と何か思い出したらしく足を止めて振り返った。

「何?」
「俺彼女出来た」
「は?」

 さらりと言われた爆弾発言に、背負っていたバッグがずるりとずれる。一瞬で内容を理解できなくて全身の動きが止まってしまって、俺の後から講義室を出ようとした人にぶつかってはっと我に返った。慌てて壁際に寄り、少し上にある汀の黒い瞳を見る。

「ど、どうしたの急に」
「別に……告白されたから」
「あ、そう」

 切れ長の黒い瞳はこっちを見ることはなくて、興味なさそうにそれだけ言った。
 今まで断ってたのにどういう心境の変化なの、とか、いつから、とか、どんな子、とか。聞くべきことはきっといっぱいあるはずなのに、言葉が喉に引っかかってうまく出て来ない。なんだこれ。どくどくと、嫌な感じに心臓が鳴っている。

「そういうわけで、今日は彼女と帰るから」

 そう言う汀の声が聞こえた途端に、ひやりと全身の温度が下がる。
 ――くそう、人の気も知らないで。
 ……俺だって、自分の気持ち、わかんねーけど。
 あんまりもやもやするから、その腹いせに、膝かっくんをしてやった。がくりと身体が傾いた汀は、すかさず俺の肩を掴んできた。

「てめえなにしやがる」
「べつに! ……おしあわせに!」

 ああ畜生、捨て台詞みたいになっちゃった。






 その日から、汀とは本格的に微妙な距離になってしまった。今までみたいに一緒に講義は受けるし飯も食うけれど、お互い何処か一歩引いているような、――つまり、気まずい。
 俺は俺で、忙しいのが落ち着いたらしい彼女と頻繁に会えることになって、デートしたりいちゃいちゃしたりえっちしたりしてるのに、今までとなんだか違う感じがする。ああ、嫌な予感しか、しない。
 ――俺の、嫌な予感、は、当たるらしい。




 汀の彼女できました宣言から一週間経った頃、俺たちは相変わらず学食で並んで昼飯を食べていた。少し早い時間だからか、未だ人は少ない。日が当たる窓際の席がお気に入りだ。安くてボリュームがあることに定評がある唐揚げ定食をもぐもぐと食べている最中のことだった。

「そういえばさー、彼女とどう? うまくいってる?」

 意識したわけではないけれど、俺から彼女について尋ねたのは、これが初めてだったと思う。今まではテレビだったり共通の先輩の話だったり、何でもない話が多かった。話題が途切れて、つい口にした言葉。カツカレーを食べていた汀が手を止めて、とても驚いた顔で俺を見てきた。

「なに」
「いや……」
「なんか変なこと聞いた?」

 彼女できたんでしょ、そういうと、汀が顔を逸らす。
 なんだ、何かおかしい。
 少しの間があったと思ったら、大きなため息を吐き出すから、ちょっとイラッとする。

「なんだよ」
「うまくいってる」
「うまくいってるリアクションじゃねえじゃん」

 反射的に突っ込んでしまった。
 汀は面倒そうに眉を寄せるから、それを見て更にイラついてしまう。

「お前なー、せっかくできた彼女だろ。大事にしてあげなきゃダメじゃん」
「――お前に言われる筋合いはねえ」

 そう言う汀の声が聞いたことのないような冷たい声で、ひやりと胸の辺りが冷たくなる。それと同時にふつふつとした怒りも腹の底から湧いてきて、荒い物音を立てて、俺は立ち上がった。

「あ、っそ。友達面して悪かったな。もう何も言わねえよ、……っばーか!」

 あ、我ながら子ども過ぎる。
 精いっぱいの怒った声で、べ、と舌を出して、まだ半分くらい残っている唐揚げ定食のトレイを手に、俺は汀の前を後にした。
 そして行き付くのは、たまたま目についた同じゼミの佐東くんのところだ。男だらけ四、五人で和やかに食事を進めている彼らの隣にトレイを置かせてもらった。「入ーれーてー」と声をかける。「あれ、園村? 一人って珍しくね?」「そんな日もあります」「なんだ、喧嘩?」「違う違うー、あ、それ美味そう、物々交換しよ!」「あ、おい、おいー」心優しい佐東くんたちに受け入れてもらってほっとしながら、ちらりと背後を見ると、座ったままの汀の背中が見えた。――もう知らないけどっ。






 そもそも彼女が出来たのだって成り行き上教えてもらっただけだし、まあ聞かなかったのは俺だけど、彼女のことも付き合い方も全然知らないし。いやうん、男同士はあんまりそういうこと話さないってのもわかる、けどけどでも、あんな言い方はないんじゃないすかねー。それとも、友達だと思ってたのは俺だけだったとか? え? つうかもはや、セフレ? セフレレベル? 俺ホモじゃねーのに? 彼女もいるのに……?!!

「……くん!」

 いやいやいやでもセックスしたのはあの一回だけだし、抜きっこは二回したけどそれでも三回だからセフレには入んないって。俺彼女いたらセフレ作んないしっ、いやそういう問題じゃねえか。じゃああの態度はなんだったんだ、うぐぐ……。

「海里くん!」
「はっ」

 ぐるぐると考えても仕方のない思考を巡らせていた俺の耳に、高い声が入ってくる。それに漸く我を戻すと、目の前には愛すべき俺の彼女が、可愛い顔を膨らませてこっちを見ていた。がやがやと聞こえる雑踏に、此処が喫茶店だったと思い出す。カフェオレのグラスに入ったストローをからからと回し、「話、聞いてる?」と上目遣いで怒ってくるのは大層可愛らしい。そう、俺の好みはこんなコなんだよ。明るくて優しくてふわふわしてて、いいにおいのする女の子。断じて無愛想でエロくて料理上手で背が高いイケメンなんかじゃないんだって。俺は大きく息を吐いて、目の前にある栗色のボブカットをよしよしと撫でた。急なことだったからか、彼女は照れて固まっている。可愛いなあ。うん、そう、それで、正常。

「何か悩み事でもあるの?」
「友情と性愛の違いについて」
「えっ」
「――う、そ。冗談だよ」

 髪を撫でた手を頬へ滑らせて、なだらかな輪郭を指の背で撫でると、擽ったそうに笑う彼女を見て、目を細める。

「今日この後バイトだっけ?」
「あ、うん、そう」
「残念、もっと仲良くしたかったのに」

 彼女の手に指先を絡めて触れて、そのまま手の甲に口付けながら囁くと、耳先まで真っ赤になった。うーん。前ならこの場でどうにかしてたかもしんない。ちゅ、とわざと音を立てて唇を離して、ゆっくりと指先を解いた。

「頑張って行ってらっしゃい」
「ん、ありがと」
「駅まで送るよ、行こ」
「うん……」

 俯き加減に頷く彼女の顔に浮かぶ影に、俺はそのとき気付けなかった。





 彼女を駅まで送ってから、俺は真っ直ぐと家に帰った。バイトもないこんな日は、大方、汀とつるんでいたから、変な感じだ。結局、あの日からまた一週間、汀と会うことはなかった。――いや、正確には、俺が汀を避けている。同じ講義はさっと隠れて目立たない席に行き、昼食は佐東くんたちのところに入れてもらっている。「いつまで喧嘩してんの?」「椎名超寂しそうだよ」なんて言われるが、知らぬ存ぜぬで貫いている。汀からは連絡がないし、俺からは意地でも連絡をしないつもりだ。
 ――確実に頭の中には居座っているけれど、それには、気付かないふりをした。
 適当なバラエティを流して、コンビニ飯(汀とつるまなくなった一番の弊害はこれだ。食費も高いし健康に悪い)を掻き込んでいたとき、ピンポン、とチャイムが鳴った。現在時刻は十九時を指していて、実家から何か荷物でも届いたのかと立ち上がる。ピンポンピンポンピンポン、玄関のチャイムは、宅配業者が鳴らすには随分乱雑に連打されていた。

「うるせー、今出ますよー」

 声を掛けながらガチャリと開錠してドアを開けた途端、大柄な何かが部屋の中に入り込んできた。

「!? っ、な、なに、」

 驚いてドアを閉めようとするが、既に部屋に入り込んだ相手がいるためそれは叶わない。それどころかドアが閉められて、ガチャリと鍵を掛けられてしまった。え、なにこれ、やばくない? と思っていると、壁に押し付けられる。

「! な、なぎさ、」

 漸く顔を見ることが出来て俺は息を呑む。不審者の正体が、今の今まで避けていた汀だったからだ。汀は荒い息をして、ぎらつく瞳で俺を見据えてくる。こわい。

「な、なに、」

 上擦る声で問いかけると、顎を掴まれた。あ、またこれ、嫌な予感がする。そう思った直後、唇に柔らかな感触がして目を瞠る。驚いて動けずにいた間に、顎を下されて口を開かれ、その隙間から、硬い舌が押し入ってきた。

「んッ!? ……っ、ん、んんっ」

 咄嗟に肩を抑えて離そうとするけれど、体格差もあってか汀の身体はびくともしない。口の中に押し入って来た舌が歯列を辿って、咥内の柔らかいところを全て舐めていく。俺の舌を捕まえると絡めてきて、熱い唾液を送り込んできた。飲み込み切れない分が、口の端を伝っていく。身体の中がどくどくして、頭の中も痺れて、何も考えられなくなる。

「ぅんっ、ん……ッ、はぁ、は、」
「は、……」

 流石に息苦しくなった頃、やっと唇が離れていった。酸素を欲してはくはくと息をしていると、肩で息をする汀の声が聞こえる。なに、なんなの。ついに頭がおかしくなっちまったのか。濡れた口元を手の甲で拭って、俺は汀を軽く睨んだ。

「突然なに、……っ、つうか、」

 文句を言おうとした口が、ぴたりと止まる。
 太腿に、大分硬く勃起した汀の逸物がジーンズ越しでもわかるほどに当たっているからだ。

「あ、当たってるんですけど」

 ひやり、冷や汗が背中を伝う。
 やばい気しかしなくて俺は身を捩るけれど、逆に汀が身体を押し付けてくる。

「っくそ、」

 舌打ち混じりの声が聞こえてくるが、そうしたいのは俺の方だ。意味わかんない。

「おまえの所為だぞ」

 更には恨み言を言われてしまった。

「は? なにが?」
「お前以外に、勃たなくなった」
「は? はああ?」

 ――耳を疑う、とは、正にこのことだ。

「責任とれってのは、こっちの台詞だ」
「いや、いやいや本当意味わかんないから、ちょ、落ち着け、落ち着けってば!」

 覆い被さってくる汀から必死に逃げて手足をじたばたするが、はあはあ荒い息をしたこいつはびくともしない。こわい。気が付いたら俺は、床に押し倒されていた。






 「っまじ、やめろって、なぎさ、」

 我ながら情けない声で目の前にある肩を押し返すけれど、俺の力なんてものともせずに、汀は俺の首に顔を埋めたままだ。首筋に舌を這わして、鎖骨を甘噛みしている。片手はパーカーの下に着たTシャツの中を這い回っていて、特に胸元を重点的に撫でてきた。胸なんかねえっつの。

「っ、ん、」

 シャツを首元まで上げられて、胸板が露わになる。汀は其処をじっと見下ろして、何を血迷ったのか、俺の乳首に吸い付いてきた!

「!? っ、ばか、離せっての、俺女の子じゃねえ」
「知ってる」
「じゃあなんで……ッ、!」

 平らだったそこが、舌先で突かれたり舐め上げられたりして硬くなるのは、生理現象だから仕方ないと思います。勿論俺は其処を舐められる経験なんてなくて、快感っていうより、違和感しか感じない。息を詰めるのに気をよくしたらしい汀が、舌先で転がしたり、口の中に含んで吸い上げたりしてくる。更には放置されていたもう片方も指先でカリカリと引っ掻かれて育てられ、じんじんと腰が重くなってきた。し、仕方ねーだろ、若いんだから。
 初めは擽ったさしか感じなかったはずなのに、熱くてぬめった汀の口の中に咥えられて舐め回されると、先端から痺れるような快感が走ってきて、奥歯を噛み締めた。こんなの、知らない。

「勃ってる」
「うるせ、ぁ、んッ」

 咥えたまま喋られると歯が当たるんだって!
 意図せず声が零れて、俺は身を捩った。逃げたい。
 汀の肩に手を遣って力の限り引き離そうとするが、やっぱりびくとも動かない。形振り構わず全力でいったら、どうにかなるかもしれないけど、そんな力も出なかった。

「っ、ふ、ぁ……っは、」

 じゅ、と音を立てられてきつく吸われて、思わず汀の頭を掻き抱いた。乳が出るわけじゃねーし、柔らかいおっぱいがあるわけじゃねえのに、汀はいつまでも顔を離さない。やっと唇が離れたと思ったら、反対側に吸い付いてきた。今まで咥えられた方が唾液に濡れててらりと光って、空気に触れてひやりと疼く。更にもう片方もねっとりと舐められたと思ったら、汀の片手が、腹筋のあたりを撫でてから、ゆるいスウェット越しに俺の股間を撫でてきた。キスの辺りからじくじく来ていて、今は既にガン勃ち中だ。腰を引いても、逃げ場はない。

「ん……ッ、ぅあ、待っ、」
「すげえ、勃ってる、」
「うるせ……っ、離せばか、」

 スウェットは部屋で過ごすには着心地が最高だが、こういう場合は何の役にも立たないというのを学んだ。ゴムに手をかけられてずるりと何の抵抗もなく脱がされていくのは、防御力がザル過ぎる。

「派手すぎ」
「だからうるせえってのっ、」

 くそ、赤のボクサーの日に襲われるなんて俺もついてない。いや、パンツの色の問題じゃないけど、下着を目にした途端にそう呟く汀を蹴り上げて抗議をしたら、上げた足を取られてずるりと下着も脱がされてしまった。ひどい。勃ち上がったペニスに空気が触れて、ぞくりとした。
 え、俺このまま自宅の玄関で犯されんの。
 それだけは嫌だ、絶対ヤダ。

「な、なぎさ」
「何」
「落ち着け、相手は俺だぞ」
「知ってる」

 ――冷静になってもらおうと語り掛けたけれど、無理みたいだ。






 ぐちゅぐちゅと濡れた音が響く。玄関に。
 訴え掛けようとした俺の唇を汀が塞ぎ、それと同時に勃ち上がったものを握って擦り上げてくるから、もうどうしようもない。俺の分身は何度か経験した気持ちよさを覚えていて、汀に触れられるだけで喜ぶように先走りをだらだらと垂らしやがる。勝手に腰が揺れるのも、もう、仕方ない。

「っん、ぅん、っふぁ、あ」

 口の中も、汀の舌に犯される。歯列、頬の裏、口蓋までを舌先が舐め上げていって、俺の舌を絡め取っては吸い上げてくる。送り込まれる唾液は飲み込み切れないほどで、たらりと俺の顎を伝った。
 息苦しさと快感とで頭の中がぐるぐるして、潜もった声を出すことしかできない。

「んっ、んぅ、う、――ん、んッ!」

 濡れたペニスを遠慮なく扱き上げられて、とろとろに濡れた鈴口に爪を立てられたら、もう無理だった。深いキスを続けたまま、びくりと身体が跳ねて、先端から熱い精液を放った。

「っふあ、っは、あ、は、……っ」

 そこでやっと、唇が離された。ぼやけた視界の中、俺と汀の唇を唾液の糸が伝うのが見える。そういやこいつとキスするの、今日が初めてだ。
 達した後でくたりと全身から力が抜け、酸素を欲して肩で息をする俺を見下ろした汀は、俺の出した精液で濡れた指を、事もなげに俺の尻の間に塗り込んできた。

「っ、! や、だ、やめろってば」
「散々善がってるくせに」
「誰のせい、……っあ、!」

 逃げようとするけれど、残念ながら力が入らない。肘だけ立てた状態でいるが、汀は俺の太腿を開いて、その間から、濡れた指でアナルを撫でてきた。うわあ。ぬるついたそれが何度か撫でてきたと思ったら、つぷ、と中指の先端が、押し入ってくる。第一関節まで入ってきて、また抜いて、また入れて、徐々にその縁を広げるような動きをされて、正直気持ちが悪い。イったばっかりの息子は勿論萎えているし、前回のアレから暫く経っている俺のソコは、そう簡単には侵入を許さない。はず。たぶん。きっと。

「――ッん! ひぅ、あ、なんで入っ…んッ」
「っふ、……素質あるんじゃねえのお前」
「意味わかんな、ぁ、あっ」

 そう信じる俺をやすやすと裏切りやがった孔は、ずる、と勢い付いた汀の指を、飲み込んだ。流石にまだきついけれど、締め付ける中を探るようにぐにぐにと動かされて、徐々に緩んでくる内壁は、どうしたもんでしょうか。適応力高過ぎでしょ、俺の身体。
 何度も何度も内壁を擦って抜き差しされ、間接を少し曲げられると、奥のしこりに触れてくる。その途端、こないだ覚えてしまった強い快感が、全身を駆け抜けた。

「ッん、ぁ、や、やだ、……ぁ、あっ」
「勃ってるけど」
「うそ、っふ、ぁ、!」

 さっきあんだけ萎えてた俺の息子が、前立腺への刺激だけで、あっという間に硬さを取り戻すのには、最早自分で呆れるしかない。混乱で涙さえ滲んできて、汀は俺を見下ろすとふっと笑った。くそ、むかつく。それでも指は抜かないから、内壁を探られて奥を突かれる度に、びくびく震えるしかない。
 ぐちゅりと音がして、指がいつの間にか二本に増えた。骨張って硬い指が、俺の中を探っている。二本の指を同時に動かして、絡みつく内壁を広げるように力を入れてくる。足を開いてしまうのは、本能だ。すっかりと勃起してカウパーまで滲ませているペニスは、見て見ぬ振りをしたい。

「随分よさそうだな」
「よくねえ、……ッひぁ、っふ」
「嘘つき」

 せめて言葉だけでも対抗したら、すぐに二本の指が奥のしこりを突いてきて、力が抜けてしまう。ずるい。ずるすぎる。
 二本の指は余裕で行き来できるようになった頃、三本目の指が添えられて、同時に中に押し込められた。流石にきつくて痛みが走り、眉を寄せるが、汀は全く気にした様子なく奥へと押し込んでくる。根本まで指を飲み込むきつさに目を瞑るが、視線を感じて薄く瞳を開けた。

「エロすぎ」
「ッ、ぁ、ばか、見んな……っ、」
「っふ」

 汀の指を三本咥え込んでいる俺のアナルを、膝立ちになった俺の腿を更に押し広げようとしながら、汀がまじまじと覗き込んでいて、かあ、と全身に熱が上がる。羞恥心とか、あるからね、俺も!
 赤い縁が広げられて、薄桃色の中と、塗り込められた俺の精液がぐちゅりと混ざり合っている様を見られるのは、流石に恥ずかしい。更に汀は、もう片方の手を使って、縁を広げてきた。ひくひくと収縮して汀の指を飲み込もうとする其処に、ひやりと空気が入り込んでくる。

「ッん、――ぁ、あっ、ん、や、早、っ」

 それを見つめた汀は何を思ったのか、三本の指を抜き差しするスピードを速くした。がんがんと奥を狙ってついてくるから、趣味が悪い。その動きに合わせて声を洩らし、つい、腰を揺らしてしまう。
 俺の中がぐちゅぐちゅになった頃、漸く、汀が指を引き抜いた。今まであったものが急になくなる違和感に、徐々に閉じかけた後孔が収縮を繰り返す。

「ぁんっ、……ぁ、っは、ぁ、」
「海里、……挿れるぞ」
「え、うそ、ここで、っ」

 ジーンズの前を寛げた汀が、膝立ちになって俺を見下ろす。既に取り出された汀の逸物は既に臨戦態勢で、赤黒い先端からはじわりと先走りが滲んでいる。はあはあと荒い息を繰り返すのに、嫌な予感しかしない。

「や、やだ、やっ」
「逃がすかよ」

 思わず肘を使って上半身を捻るが、肩を抑えつけられた。低い声色に、ぞくりとする。近いはずのリビングから聞こえてくるバラエティの声が、やけに遠くに聞こえた。
 膝を開かれ、散々解された後孔に、ぬるりとした汀のカウパーを感じて息を呑む。ま、まさか、こいつ……。

「なっ、生はだめっ」

 思わず腕を突っぱねるが、そんなのお構いなしとばかりに、汀は距離を詰めてくる。俺の顔をじっと見つめた後、ふっと薄笑いした。

「処女じゃねえだろ」
「二回目ですう!」
「悪ィな、後で怒っていいから」
「もう怒ってる、――ッ、ぁ、まじ……っ、ああっ」

 そんな謝り方があるか、と思った次の瞬間、亀頭の部分が押し込まれて瞳を瞠る。散々解されたとは言っても、指とは大きさが全然違う。圧迫感に息が詰まり、身体が強張った。

「海里、息、抜け」
「無理無理ッ、ぁ、きつ、……ッ、ん!」

 吐息混じりにそう言われたって、首を横に振るしかない。二回目だけど、ローションの助けがあった前回とは話が違う。確かに中には俺の出したものが塗り込められているし、若い汀くんのペニスの先からはたらたらとカウパーが垂れ流れていたみたいだけれど、内壁は硬く汀のものに絡みつく。痛みさえ感じて眉を寄せている俺を一応は気遣っているらしい汀は、俺の顔を見ながら、徐々に徐々に、ゆっくりと腰を進めてくる。

「ッん、……ふぁ、」
「は、……やべえな」
「ぁ、……っあ、んっ!」

 ず、とカリの一番太いところが通り抜ければ、後は一気に腰が押し進められる。俺の白濁と汀のカウパーが混ざり合って、潤滑剤替わりとなって、汀のものの経路を作ったようだ。汀のペニスの形に広がった其処は、きゅぅ、と汀のものに絡みついて離れない。

「っは、ぁ、ふ、」
「海里」

 ――マジもう、意味わかんない。
 泣きそうな目で俺を見つめて名前を呼んだと思ったら、そっと触れるだけのキスを落としてくる。お前、彼女どうしたんだよ。これもう完全、ダブル浮気じゃん。うわあ、最悪。

「動くぞ、」
「え、ぁ、ちょ、待っ……、ひぅ、ぁ!」

 漸く、汀の質量に馴染んできた頃だった。腰を掴まれてぼそりと言われて、制止する間もなく、ずる、と内壁を擦られて引き抜かれていく。そう思った直後、滑るようにまた奥へと押し当てられ、目がちかちかした。
 引き抜かれた後に根本まで押し込まれるとき、肌同士が触れ合って乾いた音がする。こないだよりも、確実に激しい。何よりゴムがないってだけで汀のものを直接感じられてしまって、どくどくと脈打ってるのが自分なのか汀なのかも曖昧だ。

「っは、すげ、締まる、」
「や、ぁ、……あっ、! んっ、ぅん、ぁ、やだ、や、あッ!」

 汀のがずるりと引き抜いていく瞬間、俺の意思とは関係なく、きゅ、と中が締まるから、その度に汀は興奮したように眉を寄せる。汀の額から滲んだ汗が、顎を伝って俺の胸元に落ちた。更に片足を掲げられて、汀の腰に巻き付く形を取られ、より奥まで繋がるようになってしまった。そうなると必然的に、先端がごりごりと前立腺を狙ってくるわけで、俺はもう意味がわからない。自分でも聞いたことがないあられもない声を挙げて、涙を散らすしか出来なかった。

「っふぁ、あ、だめ、――っも、イっちゃ、ぁ、!?」
「まだ、だ」
「や、ぁ、やだ、だめっ、なぎさ、なぎさ、ぁ、あっ」

 両腕を汀に回して密着する形だと、汀の腹に、俺の反り返ったペニスが擦れて、それだけでもうイきそうになる。首を振って涙目で限界を訴えたら、この野郎、根元を指先で掴みやがった。イきたうてもイけなくて、縋るような声が出てしまう。

「ぁ、んっ、おっきく……っ、ふぁ、あっ」
「っばか、……っくそ、海里、」
「んッ、んん、ぅ、んっ、ふ」

 何に反応したのか、汀のものが、俺の中でどくんと脈打ってまた硬くなった。それに驚いて思わずきゅと締め付けると、汀が息を呑むのがわかる。床に片手をついて俺を見下ろす汀が、舌打ちをしたと思ったら、前置きもなしに唇を重ねてくる。すぐに舌を差し込まれて、潜もった声しか出ない。
 頭ん中、沸騰しそう。
 こんな激しいセックス知らないし、知りたくなかった。
 ――俺を見る汀の目の熱さだって、そうだ。




 「っふぁ、ぁ、あ、ひぅ、……ふぁ、っは、な、ぎさ、なぎさ――ッ、!」

 キスをしながらペニスを根本から扱かれて、中からは前立腺を擦り上げられた俺は、呆気なく達した。口付けが解かれた直後、酸素を欲しながら、汀の名前を呼んでイったのは、ひどい屈辱だ。

「か、いり、……俺も、っふ」

 きゅぅ、と中をきつく締めあげた刺激からだろうか、低く言うと同時に、俺の中で汀のものが脈打って、その直後にどろりと熱いものが吐き出される。その衝撃に、思わず息を呑んだ。

「っぁ、ん、……っは、あ」

 身体中が、どくどくと熱い。
 汀に抱き付いていた腕を下ろし、胸を上下させて大きく息をしながら、涙の名残のある瞳で汀を睨み付ける。

「さ、いあく、ゴーカン、ゴーカンだこれ……」
「っは、……お前も良くなってたら和姦だろ」
「違う違う絶対違う、っん、」

 額の汗を拭うと同時に顔にかかる前髪を上げる仕草は、悔しいけれど男前だ。でも、腰を揺らすのはいただけない。反応しちゃうでしょー。

「も、ぬけって」
「ん」
「……ッ、ん、ぁ、」

 ず、と汀のものが引き抜かれると同時に、とろりとしたものが孔を伝う感覚がして、眉を寄せる。あー、中出しされた。最悪だ。ひくひくと収縮する孔から溢れてくるものに眉を寄せていれば、其処に再び汀の指が突っ込まれて目を瞠る。

「なっ、なに!」
「掻き出してやってんだろ」
「冷静に言うなばか、……っあ!」

 濡れた俺の孔は抵抗もなく汀の指を受け入れて、精液の残る中を掻き出す指も咥え込もうとしている。もうやだこの身体……。

「エロすぎ」
「るっせ、」
「もう一回して良いか」
「良いわけねえだろばか!!」

 セクハラだ。つうか、強姦だ……。
 何だかんだで全部を掻き出した汀が、ずいと顔を寄せて真顔で言ってくるから、掌全体で思いっきり顔を突き放してやる。つうか、背中痛い。床でやると良いことねーな、やっぱベッドが一番だ。

「つうかもー、なに、なんなの……、まじで意味わかんない」

 濡れた指や床をポケットから出したティッシュで拭っている汀を見上げて、俺も汗に濡れた前髪を掻き上げた。取り敢えず下半身が丸出しなのを避けるべく、早々に取り払われた赤いボクサーを穿いた。

「さっき言っただろ」
「何を」
「お前じゃなきゃダメだって」
「何それ口説き文句みたいになってるよ」

 もうやだこの人話が通じない。
 腰も背中もだるくて動きたくないけど、仕方ないからスウェットも穿く。座り込んだまま半眼で汀を見て言えば、きょとんとした顔が返ってきた。

「口説いてんだけど」
「は?」

 そして然も当然のように言ってくるから、俺の頭が真っ白になる。

「か、かのじょいるじゃん!」
「別れる」
「はあああ?」

 超絶意味わかんねー!
 付き合って一ヵ月も経ってねえくせに何言ってんだこいつ。

「見た目がまあ大丈夫だったから付き合って、最初は可愛いと思ってたんだが」
「何か色々突っ込みどころが多い」
「どうしてもキスできなかった」
「は?」
「セックスも無理だった」
「はあ??」
「触る前にお前のイく顔がちらついてな」
「何言ってんのお前」
「だから、もう一回お前に触って確かめたかった」
「なにいってんのおまえ……!」

 超真顔で理解不能なことを言われているくせに、熱くなる俺の顔もなんなの。まるで熱烈な愛の告白でもされてるみたいだ。いやでも、納得はできない。

「彼女がかわいそうだ」
「そうだな」

 そこは、否定しないんだな。
 神妙に頷く汀の顔を見て、俺は視線を逸らす。
 うぐぐ。

「俺の彼女も、かわいそうだ」

 さっき会ったばっかりの、彼女の笑顔を思い出す。
 ――でも、してる最中は、一回も頭を過らなかった。

「ああ?」
「俺だって彼女いるんだからな……浮気じゃんかこんなのー」

 最初の抜きっこの時点では、気持ちがなかったはずだ、お互い。
 でも、どちらかがその一線を越えてしまったら、全部がばらばらに崩れていく。

「海里くんが最近冷たいの」
「は?」
「なにか知らない、椎名くん」
「な、なに、それ」

 唐突に汀が低い声で女言葉をしゃべり出すから、本能的にぞわぞわ鳥肌が立っちまった。
 しかし、その内容に、はっとする。
 頭に浮かぶのは、ひとりしかいない。
 大学が同じ彼女は、汀のことも勿論知っている。いつの間に相談していたのかは知らないけれど、そんなことまで言わせてしまっていたなんて。

「お前だってうまくいってねえんじゃねえのか」
「な、な、なにいってんの、俺たちはすげえラブラブでっ」
「ほんとに?」

 真っ直ぐと覗き込んでくる黒い瞳から、視線を逸らす。ううう。唸り声が零れて、俺は一度唇を噛み締めた。
 ――本当は、いつから気付いてた?

「俺だって、へんだったよ、でも、それとこれとは違うだろ」

 そうだ。
 ちょっと性的好奇心旺盛な年頃に、性的なアクシデントが重なって、ドキドキもやもや、意識しちゃってるだけなんだって。
 俺も、お前も。

「俺のこと、嫌いじゃねえだろ」
「そりゃ、嫌いじゃねーけどさ」

 汀の手が、俺の頬を撫でてきた。
 骨張った男らしい指が、優しく触ってくるから、ぞくりとする。
 その手から逃げることはしないで、視線だけ持ち上げた。

「お前は俺のこと、すきなの?」
「すきだよ」
「そうだよな、すきとかじゃ…………は?」

 さらりとした答えが脳に届くのが一瞬遅れた。
 間の抜けた声を出して汀を見つめると、笑うでもなく、黒い瞳で俺のことを見つめてくる。

「色々誤魔化してみたけど駄目だった」
「は」
「お前だけだ」
「ちょ」
「好きだ、海里」
「まっ」

 再び詰め寄られて、今度は壁際に追い詰められそうになった。俺は慌てて腕を突っぱねて距離を取る。じわじわと耳まで真っ赤になった顔に気付かれないように思い切り顔を逸らした。

「わわわわけわかんねー! と、とにかくっ」

 動揺を隠して、呼吸をする。
 き、と引き締めた表情で汀を見上げた。

「俺は、別れねーから!」

 黒い瞳を見つめて、思い切りそう宣言する。
 するとあろうことか目の前の親友だった男は、ふっと口角を上げて笑ってきた。

「あ、そう。俺は別れるから」

 そしてさらっと言われてしまって、「か、勝手にすれば!」としか言えない俺だった。




 どうするどーなる、どーしよ、俺。

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