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第1章 ネトゲ発祥のリアル恋愛!?
15 【ファーストキッスだったのに】
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【いやー、すごかったね、笑えた】
まだ笑いを取ることができない。二人きりになると、ドレスを脱いで、いつも通りの緑が基調の弓使いらしい装備に戻した。ソファに腰掛けたら、同じく、白いローブ姿になったシノさんも隣に座った。
【予想以上に結婚式だったな】
【ちゅーしてたよ、ちゅー】
【ファーストキッスだったのに】
【いただきました】
ふざけて笑い合って、小さく息を吐く。
式の後は賑わっていたギルドのチャットも今は落ち着いていて、二人パーティを組んでいる俺とシノさんの交わす言葉だけが、画面に打ち込まれて行く。装備画面を開くと、先程交換したばかりのプラチナリングがしっかりとアクセサリー欄に載っており、何だか感慨深い。製作者の名前に、シノ、と書いてあるのがむず痒かった。
【シノさんさー】
【ん】
【俺が、ゲーム辞めたらどうする?】
思い切って、問いかけてみた。
それはある意味で、昨夜約束した、話の続きだ。
【なに、辞めるの?】
【まだわかんないけど。四月から、異動するかもしれないんだ】
そう、所謂花の本社勤務。
俺からしたら、お先真っ暗な感じになりそうだけど。
【生活が変わってゲームする時間なくなるかもしんない】
【そうか】
【そしたらさー?】
【うん】
【もう会えないじゃん】
【ん】
【シノさんと、ゲームしか繋がりがないのが、いやだったんだ】
キーボードをかちかちと叩く音が、一人しかいない部屋に響く。けれど、画面の向こうには確かにシノさんが存在していて、俺が打つ文字を、読んでくれているんだ。
【シノさんもさ、もしかしたら、何かで急にインできなくなるかもしれないし。……だから、聞いたんだよ。連絡先】
何か、考えてくれているのかもしれない。
いつもはぽんぽんとレスが返ってくるのに、少しだけ時間が掛かった。手元に用意していた、ペットボトルのお茶を飲んで喉を潤す。
【ごめんな、断って】
【いや、それは良いんだ。ダメ元だったし、ゲームとリアルの線引きする人っていうのは、知ってたから】
でも、割り切れなかったのは、俺の所為だ。
ネトゲのことをよく知らないだろう犬塚さんにまで愚痴る程、凹んでたのに。
そう思ってまたしょんぼりし掛けたら、シノさんが俺のキャラを、抱き締めていた。最近のゲームは凝っていて、座ったままでも、抱き締められているのがよくわかる。
【え】
【お前も知っての通り、リアルはリアル、ゲームはゲームだ】
【ん】
【ゲームのことを、リアルに持ち込むのは好きじゃない】
【うん……】
わかってるけど、わかってるけどお。
改めてそう言われて胸がつきりと痛むっていうのは、俺ってもしかして、シノさんのこと、相当好きなんじゃねーだろうか……。い、いや、そういうんじゃないけど。ないけどね!
リアルの俺が色んな意味で半泣きになりそうなとき、きらきらと画面が煌めくのが見えた。何度も何度も繰り返される効果は、戦闘で見慣れた、回復魔法だ。別に怪我をしているわけでもない俺に向けて、シノさんが回復魔法を連発してくる。ピンクや黄色の暖かなキラキラが、俺のキャラクターをふわりと包んだ。
【な、なに?】
【泣いてるのかと思った】
【な、泣いてないよ】
【無理、しなくていいんだぞ】
【してないー】
ああ、もう。シノさんのこういうとこ、イケメンすぎてほんとずるい。思わずリアルの俺が涙ぐみそうになったときに、机の上に置いていたスマホがぶるぶると震えて着信を知らせて、びくりと肩が跳ねる。【ごめ、電話】とシノさんに断って、通話ボタンを押した。
『もしもし、今大丈夫?』
「犬塚さん!」
機械越しに聞こえるのは犬塚さんの声で、少し驚く。「う、うん」とうっかり涙声を悟られないように返事をした。
『急だけど、駿河くん、明日ヒマ?』
「あ、明日? 大丈夫だよ」
『じゃあ、会わない?』
「うん、いいよ」
すごく突然の誘いだったけれど、犬塚さんとはいつもそんなもんだったと思い返す。待ち合わせの時間と場所を話して、通話を切った。画面へ目を移すと、【行ってらー】とだけ、返事がきていた。
【終わったよ、お待たせ】
【おかえりー】
【式の後だったのに、なんか湿っぽくなっちゃったね】
【いや……なあ、アキ】
【うん?】
【これからもよろしく、な】
【シノさん……!】
俺は思わず、シノさんに抱き着いていた。
結婚式を挙げたことで、確実に、距離は縮まった気がする。
……永遠の絆、なんて、うまいこというなあ、とちょっと感心した。
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