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ルフトシュロス学院 小等部
初の連休~予定は未定~
しおりを挟む零と泉莉が学院に来てから、既に一月が経とうとしている。実技学術共に、2人は好成績を今の所納めている。Sクラスの生徒とも実技を通してではあるが、ある程度会話をするようにはなっている。
そんな中、学院は連休に入ろうとしていた。泉莉は家に帰って店の手伝いをするようだが、零は連休があるとわかったその日の内に手紙で帰らない事を伝えていた。
「零、本当に帰らないの?おば様やおじ様も会いたがってるよ?」
「連休って言ってもたかが4日よ?帰る方が面倒だからいいわ」
「わかった、おば様達に何か伝言ある?伝えとくよ」
「母様には特にはないわね、手紙でのやり取りはしてるし。あぁ、そうだった。父様に一言だけ伝えておいてくれる?」
「?何を伝えればいいの?」
「手紙は一月に一通だけで結構ですって」
転移術式の前まで泉莉を見送りに来ていた零はそう言うとニッコリと笑う。そんな零に苦笑いを浮かべながらも頷いた泉莉は、荷物を持って転移術式の中に入る。
術式が起動し、泉莉の姿が見えなくなるまで零は微笑みを貼り付けたまま手を振っていた。完全に姿が消えたところで手を下ろし、これから4日間を1人で有意義に過ごす為の準備をしに自室へと戻った。
「泉莉には悪いけど、学院に残ってた方が自由に過ごせるし楽なのよね。というか、馬鹿父からの毎日の手紙でうんざりしてたし」
自室へと戻った零は、皇紀と白雪も自由に過ごしておいでと精霊界へ帰し、先日借りてきた本を読む事にした。
一方、フェルタリアに戻った泉莉はというと戻って早々に零の父である亜紀が半泣き顏で迫ってくるのをどうしたものかと悩んでいた。
「泉莉、零はどこだい?君がいるって事は零もいるんだろう、零と泉莉が入学してからというもの私は寂しさで死んでしまうかと思ったよ。だが、今日から連休だ!しかも4日間も!!今日という日をどれほど心待ちにしていたことか、泉莉ならわかってくれるだろう?!そうそう、泉莉と零に遅ればせながら入学祝いを用意しているんだ。本当なら入学する前日か当日には渡したかったのだが、君達があまりに素敵だから選ぶのに手間取ってしまってね・・・まぁ、君達が素敵なのは当然の事だけれど。なんと言っても零は私と朱里の子だし、泉莉は弓月(ゆづき)と灯里(とうり)の子だもの!あぁ、すまないすっかり長くなってしまったね。それで?零はどこにいるんだい?」
マシンガントークである。口を挟む隙どころさ、相槌さえまともに打つことはできないほどにまくし立てた後、亜紀は泉莉の後ろや転移術式の近くに目をやりながら再度問いかけた。
泉莉はどう答えようか迷っていた。というか、既に分かっているのだろうと一層の事叫んでしまいたい気分ですらあった。何度となく転移術式の方を見てはうっすらと涙が浮かんでいただけの瞳は涙腺が決壊したかのように滂沱の涙を流している。
「おじ様、零は今回学院に残ると言ってたよ?後ね、伝言があるの。手紙は一月に一通だけでいいって言ってたよ!じゃあ、私家の手伝いの為に帰ってきたから!忙しいから帰るね!!じゃあおば様によろしくねー!!」
それだけを早口で伝えて、亜紀の方を一度も見ることなく走り去って行く泉莉だった。故に言葉の最後の方はドップラー現象が起きていたが、そんな事を気にしている余裕は今の泉莉にはない。
早急に亜紀の手も魔法術式も届かない場所に逃げなければ、捕まって何時間も愚痴や泣き言を言われるのは今までの経験から明らかなのだから。
「ただいまー!」
「おかえりなさい、泉莉。学院はどうだった?」
「学院生活も色々あるだろうから帰ってこなくてもいいと言ったのに、帰ってきたのか?」
「うん!色々あったよ、後で教えるねお母さん。もう!すぐそういう言い方するんだからー、入学する時に連休には絶対帰って来るって約束したでしょ?お父さん」
なんとか捕まらずに家まで辿り着いた泉莉はその勢いのまま扉を開け放ち帰宅の声を上げた。その声に応えたのは母である弓月と父である灯里だった。
入学してから手紙ではやり取りしていたが、やはり顔を見て直接話をするのは久し振りで、泉莉の顔には自然と笑顔が浮かぶ。因みに、泉莉と零の親はお互いに仲が良く零の母である朱里と泉莉の父である灯里は姉弟でもある。
「そういえば、亜紀が転移術式の前で待ち伏せしてたが、零は大丈夫だったか?」
亜紀の性格を知っている灯里は泉莉に問いかけた。その問いかけに苦笑を浮かべながら、零は学院に残っていると伝えると灯里はさもありなんと頷いた。
「まあ、毎日毎日手紙が届いてりゃそうなるわな」
「え?毎日だったの?」
「知らなかったのか、あの馬鹿親は毎日飽きもせずに手紙を送ってたぞ。2日に1回は電話もしてたな」
灯里により暴露されたのは、亜紀による重すぎる家族愛だった。泉莉は呆れながら、零が戻らないと決めたのも無理はないと思い溜息をついた。
一応、実家なので荷物はある程度置いてあるので簡単なお泊まり道具を持ってきていたので、荷物を部屋に置いてきた泉莉は当初の予定通り店の手伝いを始めた。
(零、今頃何してるんだろう?そういえば連休前に大量に本を借りてきてたし、今頃本の虫になってそうだなぁ。ご飯はちゃんと食べさせるようにって空木先生に連絡しとこ)
久々の泉莉の接客に、店を訪れていた客が喜び村中に情報を広め来客がひっきりなしになって慌ただしく過ごしている中、学院に残った零の事を考えている泉莉であった。
一方、学院での零はというと泉莉の想像通り、本の虫となり軽い引きこもりになっているが、文句を言う人間もいないし快適に過ごしていた。
「あぁ、本来の私って感じがするわねー」
読み終わった本を戸棚に戻し、こういうゆったりとした時間を有意義に過ごす為に買ったコーヒーメーカーで淹れたコーヒーを飲んでしみじみと呟く。この世界に生まれてから今まで、かなり能動的に動いてきたが、本来零として生まれる以前の春香だった頃はオタクで腐女子で、今とは正反対な生活を好んで過ごしてきていた。それが、今や立派な貴族令嬢でチートなのだ。人生とは分からないものだと少しばかり遠い目をしてしまう。
元々、休日があっても長期のものでなければ帰らない事は朱里には伝えてある。亜紀に伝わっているかどうかは知らないが。そして、泉莉は家の手伝い等があるため帰る事は承知していたので零は予め本棚やらを買い、この休日を自由に過ごす為に事前準備を怠らなかった。と言えば大変よろしく聞こえるが、その実ただただ自堕落に過ごしたいが為に行動しただけである。
「村の神事を執り行う時は、泉莉だけじゃなく私もいなきゃいけないんだし。その時は帰るからって言ったら母様二つ返事でOKくれたもんね」
鼻歌を歌いながら、あと4日は自由に自堕落に過ごせると思い、零は嬉々としていた。泉莉から連絡を受けた空木が訪れるまでは、だが。
「本当、何の御用で御出でになられたのですか?先生方」
ニッコリと、目が一切笑っていない笑みを顔に貼り付けた零が態と令嬢口調で問い掛ける。
「あーいや、悪かった。邪魔をしたのは謝るから、その口調やめてくれ」
「実は桜木さんから空木に連絡が来たんだよ。神月さんは一度本に夢中になると寝食を後回しにするってね。それで空木が・・・」
『あ?俺達教師には連休もねぇってのに神月は、んな優雅な連休を過ごす気か?許さん、そんなに暇なら俺の手伝いをさせてやろうじゃねぇか』
「って言ってね。一応僕は止めたんだけどね」
「ちょ、おま、止めてなかっ」
「我が内に流れし魔力よ、我が願い想いを形に成せ氷雪の息吹」
零は絢瑪の言葉に突っ込もうとした空木の言葉を遮り、優しい笑みを口元にのみ浮かべながら魔法術式を発動させた。攻撃対象は空木だけでなく絢瑪も含まれていたのは、絢瑪が愉快犯であると短い期間の中でも理解していたからである。
こうして、零の自室の扉の前には空木と絢瑪の氷像が出来上がった。
連休1日目、半日が過ぎた頃泉莉はともかく零は乱入者により優雅な、とはいかなくなった。
連休はまだ続く。
学院に残っているのは果たして誰なのか。
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