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第一章 天才軍医と生き人形の出会い
第25話 情報源
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MPとやらを連れて、俺は会場近くのホテルへ向かった。子グリフォンはオウム兵に任せ、親の元へと連れて行くように頼む。寂しそうにキュワ、と鳴きかけてくるが「後でな」と言えば賢いソイツは大人しく従った。
黒猫のホテリエに名前を告げるとすぐ部屋に案内される。今どき珍しくはない魔力で稼働するタイプの移動装置で12階まで向かう。
この階はコールラクセの学者が固まっているそうだ。他の国のヤツらにまで気を使わないで良いのは楽だな。
鍵を開けると、シュンッ!と風のような速さでMPが入り込む。
「よっと!」
そう掛け声を上げてMPはHRを抱え直した。
「ベッド使うっすよゴシュジン!」
「好きにしてくれ」
答えればMPはすぐHRをベッドに横たえる。
相変わらずHRが目を覚ます様子はない。
(……本当によく寝ているな)
この旅の中で1番の熟睡具合だ。寝ないこいつの事は気がかりだったが、ここまで起きないと逆に心配になっちまう。
「HRっち、疲労困憊っすね!」
同業者の目から見てもそのように映るらしい。
重なる激務。それに加えてこの短期間の中、命に関わる出血量を2回も経験していりゃ体力化け物のこいつでもそうなるんだろうな、と納得する。
「こんな隙だらけな今ならボクでも勝てそうっす!」
「……おい」
「じょっ、冗談っすよー?」
冗談にならない冗談を飛ばすMPを睨みつければすぐに縮み上がる。軽薄な見た目をしているが、小心者でもあるらしい。
HRと比べると口も軽そうだな……と思って聞きたかったことを頭の中で整理する。
「MP」
「はいっす!」
元気に答えるMP。ヒヤッとしたが、HRが起き出す素振りはない。
じゃあ先に聞いとくか、と俺は今一番気になっていることを尋ねた。
「その……HRは、男じゃないのか……?」
変な沈黙が落ちる。
MPは目をパチパチと瞬きさせて質問の意味を咀嚼したあと、ゲラゲラ笑い出した。
「え!?何でそんなこと聞くんすかー!?もちろん男じゃないっすよ!?」
「マジか……」
その反応に肩が落ちる。笑われるほど明らかだったらしい。……が、あれ?と思い笑うMPを遮る。
「いや待て。ドーズのやつは俺がこいつをオッサン扱いした時に否定しなかったぞ!?」
「あー。確認なんすけど、ドーズ様肯定もしてなかったんすよね?」
そう聞かれてよくよく思い出す。
俺がHRをオッサン扱いしたとき、確かにドーズは「外見に不満があるのか?」やら「見る目がない」やら言っていた気がする。
ハッキリとはしていないものの、少なくとも肯定的ではなかった。
「……ああ、そうだな」
「んじゃ面白がって黙ってたんすね。ゴシュジン、お医者様なんでしょ?きっとすぐ気づくと思ってたんすよ」
「悪かったな今の今まで気がつかなくて!」
どこまでもドーズの手の上で転がされている気がして頭にくる。不貞腐れてそっぽを向いていると、MPは何かを思い出したように付け足した。
「ま、HRっちは男じゃないけど、女でもないっすからねー」
「……?どういう事だ?」
発言の意味が分からない。問い返すと肩を竦めてMPは言葉を返した。
「そのまんまの意味っすよ。薬で身体のバランスを変えたらしいんっす。だから、女性として成熟する前の姿なんだー、みたいな事聞いたような!」
薬で身体のバランスを……?
一瞬、背筋に冷水がかかったかのような感覚に陥る。頭の中で、HRの今の状態と情報が結びついていく。
「その薬、今も飲んでるのか……?」
「え?……多分?HRっち以外にも飲んでるヤツいるんすけど、そいつが言うには1日以上間空けちゃダメだって」
「そういうことか……」
MPは詳しく知らない話のようだが、要はホルモンバランスを崩して成長を阻害するための薬を常飲していたらしい。
成長は身体の本来の活動だ。無理矢理止めるなんてことすれば反動は半端じゃない。
そんなもの飲み続けていたら、飲まないと生きられない中毒症状が出るのも当たり前だった。
MPの体格は普通のようだし、同じ生き人形でも強制では無いのかと勘ぐってみる。
「お前は飲んでないのか?その薬」
「ボク?飲んでないっすよー!そこまでガチじゃないっす!だって生き人形じゃないっすもん!」
……とんでもないことを言いやがった。
「生き人形じゃない!?」
「そっすよー?」
「じゃあ何なんだよ!?」
「生き人形じゃない奴は、ほとんどが自警団になるんすよ。ドーズ様の取り仕切る管轄の!」
少数精鋭部隊、生き人形。
その言葉通り、少人数の優秀な戦闘員で構成されたチームには、もちろん育てられても入れない者だっている。
ドーズに以前「生き人形ってお前が育てからやってんだろ?なら落ちこぼれはどうすんだ?」と聞いた時にははぐらかされていたが、こんな形で答えを知ることになろうとは。
(MP……コイツ、使えるぞ)
他にも聞きたいことは山ほどある。さらに聞いていこうと口を開いたその時。
「MP♡」
「あっ!ドーズ様!」
「ドーズ……」
間が悪いことに、ドーズが部屋へと入り込んできていた。……鍵、閉めてたよな?
主と会えて嬉しそうな顔をするMPに向けて、ドーズはニッコリと微笑む。
「……ちょっと喋りすぎだな♪」
……その言葉に、MPの笑顔が一瞬で引きつって青ざめたのは言うまでもない。
黒猫のホテリエに名前を告げるとすぐ部屋に案内される。今どき珍しくはない魔力で稼働するタイプの移動装置で12階まで向かう。
この階はコールラクセの学者が固まっているそうだ。他の国のヤツらにまで気を使わないで良いのは楽だな。
鍵を開けると、シュンッ!と風のような速さでMPが入り込む。
「よっと!」
そう掛け声を上げてMPはHRを抱え直した。
「ベッド使うっすよゴシュジン!」
「好きにしてくれ」
答えればMPはすぐHRをベッドに横たえる。
相変わらずHRが目を覚ます様子はない。
(……本当によく寝ているな)
この旅の中で1番の熟睡具合だ。寝ないこいつの事は気がかりだったが、ここまで起きないと逆に心配になっちまう。
「HRっち、疲労困憊っすね!」
同業者の目から見てもそのように映るらしい。
重なる激務。それに加えてこの短期間の中、命に関わる出血量を2回も経験していりゃ体力化け物のこいつでもそうなるんだろうな、と納得する。
「こんな隙だらけな今ならボクでも勝てそうっす!」
「……おい」
「じょっ、冗談っすよー?」
冗談にならない冗談を飛ばすMPを睨みつければすぐに縮み上がる。軽薄な見た目をしているが、小心者でもあるらしい。
HRと比べると口も軽そうだな……と思って聞きたかったことを頭の中で整理する。
「MP」
「はいっす!」
元気に答えるMP。ヒヤッとしたが、HRが起き出す素振りはない。
じゃあ先に聞いとくか、と俺は今一番気になっていることを尋ねた。
「その……HRは、男じゃないのか……?」
変な沈黙が落ちる。
MPは目をパチパチと瞬きさせて質問の意味を咀嚼したあと、ゲラゲラ笑い出した。
「え!?何でそんなこと聞くんすかー!?もちろん男じゃないっすよ!?」
「マジか……」
その反応に肩が落ちる。笑われるほど明らかだったらしい。……が、あれ?と思い笑うMPを遮る。
「いや待て。ドーズのやつは俺がこいつをオッサン扱いした時に否定しなかったぞ!?」
「あー。確認なんすけど、ドーズ様肯定もしてなかったんすよね?」
そう聞かれてよくよく思い出す。
俺がHRをオッサン扱いしたとき、確かにドーズは「外見に不満があるのか?」やら「見る目がない」やら言っていた気がする。
ハッキリとはしていないものの、少なくとも肯定的ではなかった。
「……ああ、そうだな」
「んじゃ面白がって黙ってたんすね。ゴシュジン、お医者様なんでしょ?きっとすぐ気づくと思ってたんすよ」
「悪かったな今の今まで気がつかなくて!」
どこまでもドーズの手の上で転がされている気がして頭にくる。不貞腐れてそっぽを向いていると、MPは何かを思い出したように付け足した。
「ま、HRっちは男じゃないけど、女でもないっすからねー」
「……?どういう事だ?」
発言の意味が分からない。問い返すと肩を竦めてMPは言葉を返した。
「そのまんまの意味っすよ。薬で身体のバランスを変えたらしいんっす。だから、女性として成熟する前の姿なんだー、みたいな事聞いたような!」
薬で身体のバランスを……?
一瞬、背筋に冷水がかかったかのような感覚に陥る。頭の中で、HRの今の状態と情報が結びついていく。
「その薬、今も飲んでるのか……?」
「え?……多分?HRっち以外にも飲んでるヤツいるんすけど、そいつが言うには1日以上間空けちゃダメだって」
「そういうことか……」
MPは詳しく知らない話のようだが、要はホルモンバランスを崩して成長を阻害するための薬を常飲していたらしい。
成長は身体の本来の活動だ。無理矢理止めるなんてことすれば反動は半端じゃない。
そんなもの飲み続けていたら、飲まないと生きられない中毒症状が出るのも当たり前だった。
MPの体格は普通のようだし、同じ生き人形でも強制では無いのかと勘ぐってみる。
「お前は飲んでないのか?その薬」
「ボク?飲んでないっすよー!そこまでガチじゃないっす!だって生き人形じゃないっすもん!」
……とんでもないことを言いやがった。
「生き人形じゃない!?」
「そっすよー?」
「じゃあ何なんだよ!?」
「生き人形じゃない奴は、ほとんどが自警団になるんすよ。ドーズ様の取り仕切る管轄の!」
少数精鋭部隊、生き人形。
その言葉通り、少人数の優秀な戦闘員で構成されたチームには、もちろん育てられても入れない者だっている。
ドーズに以前「生き人形ってお前が育てからやってんだろ?なら落ちこぼれはどうすんだ?」と聞いた時にははぐらかされていたが、こんな形で答えを知ることになろうとは。
(MP……コイツ、使えるぞ)
他にも聞きたいことは山ほどある。さらに聞いていこうと口を開いたその時。
「MP♡」
「あっ!ドーズ様!」
「ドーズ……」
間が悪いことに、ドーズが部屋へと入り込んできていた。……鍵、閉めてたよな?
主と会えて嬉しそうな顔をするMPに向けて、ドーズはニッコリと微笑む。
「……ちょっと喋りすぎだな♪」
……その言葉に、MPの笑顔が一瞬で引きつって青ざめたのは言うまでもない。
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