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第一章【帯宏高校SPOT部、始動!】
第五話 会場外では……?
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──時は少し遡る。
数十分前。決勝戦直前。会場受付モニター付近。
「うむっ!!!景村印斬、どこに行ったのか全く見当もつかん!!!」
そこには、独り言にしてはだいぶ大きな声で人探しを行う、1人の青年がいた。
「はっはっはっ!しかし!まだ【DIVE POD】に入ってはいないらしいからなっ!!ここで待ち構えていれば必ずや声をかけることができるだろう!!さすがは俺!!ここであえて探すのではなく待つことを選択するとは、なかなかの上策!!」
そう言って高笑いする彼を、何人かが遠巻きにしてひそひそと話し合いながら見ている。雰囲気は熱血正統派主人公のように見えるのに、発言は小賢しい悪党のそれである。
──ピーンポーンパーンポーン
その時、会場内にアナウンスが流れた。根は真面目なのだろう。周りの人の迷惑にならないように青年は口を噤む。
『──これより、【DIVE IN SPOT】大会ミナト杯、17歳以下個人競技の部、決勝戦を開始します。競技開始前に1点連絡がございます。決勝戦参加予定だった景村印斬選手は、大会規定に則り棄権扱いとします。それでは、各選手は【DIVE POD】の起動を行ってください。繰り返します、これより......』
……。
青年は黙った。
たっぷり数十秒黙った。
そして。
「なにいいぃぃぃ!!!???」
今日一番の大声で驚き、警備員に思い切り注意される羽目になったのだった。
○○○
「いかんいかん、俺としたことが取り乱してしまった!!!」
数分後、ようやく解放された青年は頭を掻きながら会場周りを歩いていた。
「いやはや、まさかペア部門と個人部門で受付入口が違うとは!!神宮寺零都先輩に聞いておくべきだったなっ!!反省反省!!」
そう言ってカラッと笑う。が、すぐに神妙な顔をして考え始めた。
「うむ……だが、彼を逃してしまったのは変わりない!!さて、ここの近辺にまだいれば良いのだが……!!」
そう呟きながら(という声量ではなかったが)、建物の裏手にまで進む。
「いざとなったら神宮寺零都先輩に調査してもらうか、浮雲燐梨の家の力で協力を頼むか……うん?」
と、そこで青年は足を止めた。目の前にあるのは公衆【DIVE POD】。そこの前に人だかりができているのが見えたのだ。
その後ろの方に立っている青髪の男に、青年は声をかけた。
「やあやあ、青葉達也!!これは一体なんの騒ぎだ!!」
「……っ、と。勇気かよ、お前声デケエよ耳元で出す音量じゃねえ!!」
「うむ!!それはまっこと申し訳ない!!」
「うるせぇ!!改善をしろ!!……ったく、まあモニター見てくれや」
青葉達也、と呼ばれた青髪がモニターの方を顎でしゃくって見せる。促されるまま勇気と呼ばれた青年はモニターを見やる。
「今よぉ、1人でバトル続けてるチビ助がこん中にいるんだよ。んで、俺のダチが38人目の挑戦者ってことで入ってんだ」
「ふむ、38人とタイマンを張るなどなかなかストイックな選手だな!!」
「……あーいや、それがよ。タイマンじゃなくって1対2とか1対3でも連勝してんだよ。そいつ」
「……何!?」
思わず驚きを隠せなかったようで、勇気は目を見開く。その目に、野外モニターから映し出された映像が流れ込む。
赤髪の男と金髪の男がそれぞれ【Light Gun】を構えて辺りを警戒している。ステージは野外戦用のフィールドのようで、二人はコンテナの裏のような場所でしゃがみこんでいた。
『……へへっ、こっちで耐え切りゃアイツも【コネクト制限】になるだろ』
『突っ込んでって負けんなら頭使うまでってやつだよな』
2人がそう呟く音がモニターから流れる。
「あの金髪と赤髪はなかなかセコい手を使うな!!男なら正々堂々と勝負をするべきだろうっ!!不甲斐ない根性曲がりだ!!」
「……あー、ソウダナ」
青葉は目線を下に向けて生返事で返す。どうやら今入っている友人とは彼らのことらしい。しかし隣の彼の様子の変化など目もくれずに、勇気は画面内で急激に起きた変化に心を奪われたようだった。
「……青葉達也、例のストイック選手とは、今コンテナの上に立ってる黒髪の少年のことか?」
「……っ!!そうだっ!!うっわ、死角じゃねえかっ!?」
青葉は早く友人らが気がつくようにと祈り始める。しかしその想いも虚しく一瞬で2人は光の粒子に変化し、その場にはコンテナから降り立った少年の姿だけが残されていた。
「え、なになに今勝手に【Down】してたけど!?」
「バグ?だってアイツ、コンテナから飛び降りただけだったろ?」
あまりの急展開に周りの観衆もどよめいていた。その中でたった1人、全てを視認していた勇気は目を爛々と輝かせていた。
(速い……速すぎるだろ!?1秒にも満たない間に袖に入れた【Light Knife】を相手の急所に的確に当てて【Down】させただなんて……!!)
知らず知らずのうちに冷や汗が頬を伝っている。それを拭くことなく、勇気は足を進めた。
そして【DIVE POD】の前で列を成す群衆に声をかける。
「すまない、次、戦わせてくれないか?」
「なんだよ割り込むな……って、お前は穂村勇気!?なんで全国区の選手がっ!?」
「ミナト杯に出た帰りだ。頼む、彼とはどうしても手合わせしたいんだ」
「いいよいいよ!!その代わり後でサインちょうだい!!」
「ああ、約束しよう!!恩にきる!!」
勇気はなかなかに有名人であったようで、周りの人間も快く順番を譲っていく。
丁度、横倒しになったロッカーのような形をしている【DIVE POD】の中から先程戦っていた金髪たちが出てくるところだった。頭を押えながら悔しそうにしていた2人だったが、目の前に立つ勇気の姿を見ると目を見開いてニヤリと笑みを浮かべた。
「誰かと思ったら穂村勇気じゃねえか!!頼むよ、あの生意気なチビをコテンパンにして俺らの仇をとってくれ!!」
そう言って馴れ馴れしく肩に手をかけようとする金髪の横をすり抜けて、勇気は【DIVE POD】の中に入る。そして蓋を閉める間際に声をかけた。
「勝利に固執するのは良い事だが、ルールを逆手にとって相手を潰すことは勝利とは言わん!!次からはスポーツマンシップに則った戦い方ができるようになろうな!!」
言われたことを噛み砕ききれず呆然としている金髪らにニコリと笑いかけて勇気は完全にロックをかけた。
そして、中で起動ボタンを押す。目の前に映し出された画面の中から【Connect】と表示されているボタンを選んで、押した。
「コネクト!!」
そう叫ぶと彼の意識はデータ世界に引っ張り出される。一度瞬きをすると、次の瞬間には彼はバトルフィールドで1人立っていた。
先程金髪らが戦っていたステージだ、と即座に判断する。そしてその場で両手を上げた。
「先に名乗ろう!!俺の名前は穂村勇気!!すまない少年!!戦う前に話がしたい!!ご覧の通り今の俺にはバトルを始める意思はない!!すぐ終わる話だ、隠れずに出てきて欲しい!!」
野外だというのにまるで反響しているかのように聞こえる声量で勇気は叫ぶ。……数秒経ったころ、80メートル程先で人影が動いた。崩壊した建物の壁裏に隠れていたらしい少年が、勇気の言葉に出てきたのだった。
「ありがとう!!手短に要件を伝える!!」
目の中にキラキラと光を浮かべ、勇気は大声で彼に向けて叫んだ。
「景村印斬!!我が帯宏高校SPOT部に来てくれ!!君ほどの実力なら我が校の部活推薦で通るはずだ!!まだ出願期間内!!何の問題もなくここに入れる!!!」
その言葉を聞いて、一瞬少年が目を見開いた……ように見えた。少し間があってから、少年は右手をタタタッと動かす。数秒後、勇気の右端に通知が映った。どうやら少年はチャットで返事をしたらしい。空中をスワイプして内容を確認する。
『高校とか、まだ考えてなかった』
「そうか!!ならば是非帯宏高校に来てくれ!!!」
そう言うと少し困った顔をした後、少年はメッセージの続きを送る。
『正直、SPOTはもうこの大会で終わりにしようって思ってたんで、お断りします』
この言葉に勇気は酷く驚き思わず声を荒らげた。
「なぜだーー!!?君ほどの実力者が、なんで辞めるだなんてーーー!!!」
ビックリしている勇気に対して、少年は目をふせながら次のメッセージを送信する。
『だって、こんな遊び続けてたって何の役にも立たないじゃないですか。これ以上続ける意味が分からなくなったんです。もう、決めてますから』
勇気からは見えないが、その目や指先はふるふると震えている。彼にとって、SPOTの引退はこの文面に込められた以上に悩んだ末の結論だったのだろう。はぁ、と息を吐いて少年はナイフを構える。ここまでちゃんと言えば諦めてくれるだろう、とでも思ったのだろう。
しかし、勇気の粘りは少年の想定を超えてしまっていた。
「君の気持ちは分かった!!だが、その力は俺たちにとっては『何の役にも立たない』ものなどではない!!」
その言葉に、一瞬印斬が目を見開く。ニコリと白い歯を見せて勇気は言葉を続ける。
「俺たちのSPOT部は全国優勝を目指している!!君ほどのアタッカーがいれば、次の年のSPOT部は最強になること間違いなし!!俺たちには、君の力が必要なんだ!!!」
『……僕があなたの学校の部活に入れば、役に立てるんですか』
「もちろんだ!!!それだけでは無い!!約束しようっ!!帯宏高校SPOT部は、君にとっても大きな意味のあるものを与えると!!!そう──青春を手に入れられると!!!」
もはや暑苦しすぎて胡散臭いレベルである。野外モニターを見ている観衆の心はみなその思いに囚われていた。
しかし、印斬にとっては何かが響いたらしい。少し考え、じっくり考え……そして、1つの結論を出した。
『……じゃあ、あなたが僕に勝ったら、考えます』
その言葉に言質を取ったとばかりに勇気は笑顔を見せる。
「交渉成立だ!!さあ、そうと決まれば……思う存分戦おうではないか!!!」
その言葉に、今度こそ覚悟を決めた表情で印斬も一度コクリと頷く。
こうして、2人の戦いの火蓋が切って落とされた。
数十分前。決勝戦直前。会場受付モニター付近。
「うむっ!!!景村印斬、どこに行ったのか全く見当もつかん!!!」
そこには、独り言にしてはだいぶ大きな声で人探しを行う、1人の青年がいた。
「はっはっはっ!しかし!まだ【DIVE POD】に入ってはいないらしいからなっ!!ここで待ち構えていれば必ずや声をかけることができるだろう!!さすがは俺!!ここであえて探すのではなく待つことを選択するとは、なかなかの上策!!」
そう言って高笑いする彼を、何人かが遠巻きにしてひそひそと話し合いながら見ている。雰囲気は熱血正統派主人公のように見えるのに、発言は小賢しい悪党のそれである。
──ピーンポーンパーンポーン
その時、会場内にアナウンスが流れた。根は真面目なのだろう。周りの人の迷惑にならないように青年は口を噤む。
『──これより、【DIVE IN SPOT】大会ミナト杯、17歳以下個人競技の部、決勝戦を開始します。競技開始前に1点連絡がございます。決勝戦参加予定だった景村印斬選手は、大会規定に則り棄権扱いとします。それでは、各選手は【DIVE POD】の起動を行ってください。繰り返します、これより......』
……。
青年は黙った。
たっぷり数十秒黙った。
そして。
「なにいいぃぃぃ!!!???」
今日一番の大声で驚き、警備員に思い切り注意される羽目になったのだった。
○○○
「いかんいかん、俺としたことが取り乱してしまった!!!」
数分後、ようやく解放された青年は頭を掻きながら会場周りを歩いていた。
「いやはや、まさかペア部門と個人部門で受付入口が違うとは!!神宮寺零都先輩に聞いておくべきだったなっ!!反省反省!!」
そう言ってカラッと笑う。が、すぐに神妙な顔をして考え始めた。
「うむ……だが、彼を逃してしまったのは変わりない!!さて、ここの近辺にまだいれば良いのだが……!!」
そう呟きながら(という声量ではなかったが)、建物の裏手にまで進む。
「いざとなったら神宮寺零都先輩に調査してもらうか、浮雲燐梨の家の力で協力を頼むか……うん?」
と、そこで青年は足を止めた。目の前にあるのは公衆【DIVE POD】。そこの前に人だかりができているのが見えたのだ。
その後ろの方に立っている青髪の男に、青年は声をかけた。
「やあやあ、青葉達也!!これは一体なんの騒ぎだ!!」
「……っ、と。勇気かよ、お前声デケエよ耳元で出す音量じゃねえ!!」
「うむ!!それはまっこと申し訳ない!!」
「うるせぇ!!改善をしろ!!……ったく、まあモニター見てくれや」
青葉達也、と呼ばれた青髪がモニターの方を顎でしゃくって見せる。促されるまま勇気と呼ばれた青年はモニターを見やる。
「今よぉ、1人でバトル続けてるチビ助がこん中にいるんだよ。んで、俺のダチが38人目の挑戦者ってことで入ってんだ」
「ふむ、38人とタイマンを張るなどなかなかストイックな選手だな!!」
「……あーいや、それがよ。タイマンじゃなくって1対2とか1対3でも連勝してんだよ。そいつ」
「……何!?」
思わず驚きを隠せなかったようで、勇気は目を見開く。その目に、野外モニターから映し出された映像が流れ込む。
赤髪の男と金髪の男がそれぞれ【Light Gun】を構えて辺りを警戒している。ステージは野外戦用のフィールドのようで、二人はコンテナの裏のような場所でしゃがみこんでいた。
『……へへっ、こっちで耐え切りゃアイツも【コネクト制限】になるだろ』
『突っ込んでって負けんなら頭使うまでってやつだよな』
2人がそう呟く音がモニターから流れる。
「あの金髪と赤髪はなかなかセコい手を使うな!!男なら正々堂々と勝負をするべきだろうっ!!不甲斐ない根性曲がりだ!!」
「……あー、ソウダナ」
青葉は目線を下に向けて生返事で返す。どうやら今入っている友人とは彼らのことらしい。しかし隣の彼の様子の変化など目もくれずに、勇気は画面内で急激に起きた変化に心を奪われたようだった。
「……青葉達也、例のストイック選手とは、今コンテナの上に立ってる黒髪の少年のことか?」
「……っ!!そうだっ!!うっわ、死角じゃねえかっ!?」
青葉は早く友人らが気がつくようにと祈り始める。しかしその想いも虚しく一瞬で2人は光の粒子に変化し、その場にはコンテナから降り立った少年の姿だけが残されていた。
「え、なになに今勝手に【Down】してたけど!?」
「バグ?だってアイツ、コンテナから飛び降りただけだったろ?」
あまりの急展開に周りの観衆もどよめいていた。その中でたった1人、全てを視認していた勇気は目を爛々と輝かせていた。
(速い……速すぎるだろ!?1秒にも満たない間に袖に入れた【Light Knife】を相手の急所に的確に当てて【Down】させただなんて……!!)
知らず知らずのうちに冷や汗が頬を伝っている。それを拭くことなく、勇気は足を進めた。
そして【DIVE POD】の前で列を成す群衆に声をかける。
「すまない、次、戦わせてくれないか?」
「なんだよ割り込むな……って、お前は穂村勇気!?なんで全国区の選手がっ!?」
「ミナト杯に出た帰りだ。頼む、彼とはどうしても手合わせしたいんだ」
「いいよいいよ!!その代わり後でサインちょうだい!!」
「ああ、約束しよう!!恩にきる!!」
勇気はなかなかに有名人であったようで、周りの人間も快く順番を譲っていく。
丁度、横倒しになったロッカーのような形をしている【DIVE POD】の中から先程戦っていた金髪たちが出てくるところだった。頭を押えながら悔しそうにしていた2人だったが、目の前に立つ勇気の姿を見ると目を見開いてニヤリと笑みを浮かべた。
「誰かと思ったら穂村勇気じゃねえか!!頼むよ、あの生意気なチビをコテンパンにして俺らの仇をとってくれ!!」
そう言って馴れ馴れしく肩に手をかけようとする金髪の横をすり抜けて、勇気は【DIVE POD】の中に入る。そして蓋を閉める間際に声をかけた。
「勝利に固執するのは良い事だが、ルールを逆手にとって相手を潰すことは勝利とは言わん!!次からはスポーツマンシップに則った戦い方ができるようになろうな!!」
言われたことを噛み砕ききれず呆然としている金髪らにニコリと笑いかけて勇気は完全にロックをかけた。
そして、中で起動ボタンを押す。目の前に映し出された画面の中から【Connect】と表示されているボタンを選んで、押した。
「コネクト!!」
そう叫ぶと彼の意識はデータ世界に引っ張り出される。一度瞬きをすると、次の瞬間には彼はバトルフィールドで1人立っていた。
先程金髪らが戦っていたステージだ、と即座に判断する。そしてその場で両手を上げた。
「先に名乗ろう!!俺の名前は穂村勇気!!すまない少年!!戦う前に話がしたい!!ご覧の通り今の俺にはバトルを始める意思はない!!すぐ終わる話だ、隠れずに出てきて欲しい!!」
野外だというのにまるで反響しているかのように聞こえる声量で勇気は叫ぶ。……数秒経ったころ、80メートル程先で人影が動いた。崩壊した建物の壁裏に隠れていたらしい少年が、勇気の言葉に出てきたのだった。
「ありがとう!!手短に要件を伝える!!」
目の中にキラキラと光を浮かべ、勇気は大声で彼に向けて叫んだ。
「景村印斬!!我が帯宏高校SPOT部に来てくれ!!君ほどの実力なら我が校の部活推薦で通るはずだ!!まだ出願期間内!!何の問題もなくここに入れる!!!」
その言葉を聞いて、一瞬少年が目を見開いた……ように見えた。少し間があってから、少年は右手をタタタッと動かす。数秒後、勇気の右端に通知が映った。どうやら少年はチャットで返事をしたらしい。空中をスワイプして内容を確認する。
『高校とか、まだ考えてなかった』
「そうか!!ならば是非帯宏高校に来てくれ!!!」
そう言うと少し困った顔をした後、少年はメッセージの続きを送る。
『正直、SPOTはもうこの大会で終わりにしようって思ってたんで、お断りします』
この言葉に勇気は酷く驚き思わず声を荒らげた。
「なぜだーー!!?君ほどの実力者が、なんで辞めるだなんてーーー!!!」
ビックリしている勇気に対して、少年は目をふせながら次のメッセージを送信する。
『だって、こんな遊び続けてたって何の役にも立たないじゃないですか。これ以上続ける意味が分からなくなったんです。もう、決めてますから』
勇気からは見えないが、その目や指先はふるふると震えている。彼にとって、SPOTの引退はこの文面に込められた以上に悩んだ末の結論だったのだろう。はぁ、と息を吐いて少年はナイフを構える。ここまでちゃんと言えば諦めてくれるだろう、とでも思ったのだろう。
しかし、勇気の粘りは少年の想定を超えてしまっていた。
「君の気持ちは分かった!!だが、その力は俺たちにとっては『何の役にも立たない』ものなどではない!!」
その言葉に、一瞬印斬が目を見開く。ニコリと白い歯を見せて勇気は言葉を続ける。
「俺たちのSPOT部は全国優勝を目指している!!君ほどのアタッカーがいれば、次の年のSPOT部は最強になること間違いなし!!俺たちには、君の力が必要なんだ!!!」
『……僕があなたの学校の部活に入れば、役に立てるんですか』
「もちろんだ!!!それだけでは無い!!約束しようっ!!帯宏高校SPOT部は、君にとっても大きな意味のあるものを与えると!!!そう──青春を手に入れられると!!!」
もはや暑苦しすぎて胡散臭いレベルである。野外モニターを見ている観衆の心はみなその思いに囚われていた。
しかし、印斬にとっては何かが響いたらしい。少し考え、じっくり考え……そして、1つの結論を出した。
『……じゃあ、あなたが僕に勝ったら、考えます』
その言葉に言質を取ったとばかりに勇気は笑顔を見せる。
「交渉成立だ!!さあ、そうと決まれば……思う存分戦おうではないか!!!」
その言葉に、今度こそ覚悟を決めた表情で印斬も一度コクリと頷く。
こうして、2人の戦いの火蓋が切って落とされた。
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