部活の後輩に執着される(青春スポーツものではない)

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1.中学生(出会い)

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硬式テニス、これは中学の俺の全てだった。
 学生時代テニスをやっていた両親に連れられて、生で硬式テニスの試合を見に行った。幼い俺はルールも知らないながらも緊迫した会場の空気感、生死をかけているような選手の気迫、目で追うので精一杯の黄色いボールに全身を震わせた。そして点が入るたびに歓声が上がり、試合を制した瞬間に会場が震えるほどの熱気と、選手の雄叫びが俺の五感を奪ったのだ。

 それ以来、俺はテニスの世界に足を踏み入れた。最初はソフトテニスから。そして中学に上がる頃には硬式テニスを本格的に始めていた。近くの中学には硬式テニス部は無いため、わざわざ隣町のそこそこ大きめの中学に通った。当然部員も多く、一年なんてレギュラーはおろかラケットもろくに握らせてもらえない。しかし俺は補欠選手としてただ1人一年から練習に参加できた。つまり。実力はそこそこあった。
 そして3年が引退してからはレギュラー選手として順調に上がり、3年生の頃には県大会常連校として、全国出場を期待されていた。

 そしてその春、新入生がやってきた。

 ◻︎◻︎◻︎


 3年生の中体連、俺は個人戦で県大会準決勝で敗退。相手はすでに全国で名も知れている佐久間という男。勝手にライバル視しているが、こいつはどうしても倒せない男だった。
 そして全国へ繋ぐための残された綱である、命をかけた団体戦。
 ダブルス戦では引き分け、シングルスでも引き分けで続いた。つまり決勝で勝敗が分かれる勝負。おれはいつもシングルスで、あえて先鋒で戦い勝利し、チームの指揮を高める役割だったので、今回もその振り分けだった。もちろん勝利し、後のメンバーに繋いだ。残念ながら次鋒では負けてしまい、残るは陰陽を分かつ大将戦。今年はそれがイレギュラーだった。大将戦の選手は1年の天才、早川という男だった。

 ◻︎◻︎◻︎
 早川はうちの中学に入学してからすぐに注目を集めた。理由はその中学生らしからぬ容姿だ。中1、つまりつい最近まで小学生だったにも関わらず、どこか垢抜けた美少年は大人になれば美しい男に変身することが容易に想像できた。当然女子を中心に話題に上る。そして身長も170近くあり、まだ成長途中ということでスポーツ系の部活動の勧誘も多数あった。その数々の人気スポーツを蹴ってウチの新入部員挨拶の場にいた時は少し驚いたがハッキリいうと俺には関係ないことだったのであまり興味は無かった。そのプレーを見るまでは。
 新入部員は入って最初は玉拾い、そしてランニングや筋トレなど、体作りと基礎の基礎から始めるのでコートに立つどころかラケットすら握れない。この時点で数人は辞めてしまうのだが、早川は辞めなかったし、黙々と基礎もこなしていた。
 そしていよいよラケットを持っての練習が始まる。そこで早川がテニス経験者ということが判明し、また注目を集めた。軽くラリーを見てみようとなり、部長である俺の同級生の水元が相手となった。まず水元は下から優しくボールを打ち、早川も軽く流してしばらくラリーが続いた。そして水元が左右にボールを振り始めると早川もなんなく応戦し、さらにはアウトラインギリギリも攻めてきたのだ。見ればわかるがこの慣れた感じは素人のそれでは無かった。
 早川の実力と才能はすぐに明るみになり、強豪とも言えるうちのテニス部では前代未聞の一年生レギュラーかつエースとなったのだ。練習試合や小さな本番試合では負けたことが無かった。もちろん、相手は素人ばかりの同学年が多かったのだが、それでも、たまに相手になる先輩たちにも負けることはなかった。それは当然、俺でもだった。
 俺は自分のテニスの実力をこの部内では1番だと思っていた。これは驕りではなく、事実だ。部内で俺はほとんど負け無しであったから。そして、目の前の戦ったことない相手を戦績だけで判断せずに、油断しないでいつも試合をしていたつもりだ。
 そして負けたのだ。油断せずに全力で戦ったつもりの相手に。早川に。

 俺は早川が苦手だった。俺よりもテニスが上手いことへの嫉妬や羨望ももちろんある。だが、決定的な理由は他にあった。会話をする時はいつもじっと目を合わせて逸らさないし、距離が離れていてもなぜかふとした時に早川を見ると必ず目が合った。さらにあいつは無意味に2人きりになろうとするし、なったらなったで過度にスキンシップを求めてきた。誰にでもそうならここまで不満は持たないが、なぜか俺にだけ。大勢の中で取るコミュニケーションと、2人きりの時では明らかに話し方や纏う雰囲気の熱が違った。そして嫌でも早川の二面性…表と裏の顔を知ることになった。表の顔は簡単に言えば八方美人だ。誰にでも分け隔てなく接し、周りをよく見て気を配り、いつも優しい目をして相手の懐にするんと入る。
 だが、裏の顔-ある意味これが本当の顔かもしれない-、つまり俺だけに見せる顔には、一体どこに周りを見る余裕があるのだと思えるほど俺しか写っていないのだ。そして俺しか映っていない、感情を読み取れない目のまま、他の人にもかけるようなセリフを吐くのだ。

『先輩お疲れ様です』
『ちょっとフォームで直したいところがあって…』
『今度個人的に教えてくれませんか?』
『先輩って水元部長と仲良いですよね、いつもどんな話してるんですか?』


 そういえば、俺と早川が関わるようになったのは早川が正式なレギュラーとして同じコートに立ち始めてからだった。それ以前は挨拶くらいはしたことがあるが、それ以上の会話をした記憶はない。いつからあんなまとわりつくような視線を向けられていたんだ?そう考えると、初めて会った時からそうだったようにも思えるし、つい最近のことであるとも思えた。

 ある日、部活動が終わり、たまたま自主練のために残っていた俺と早川だけの部室。俺はさっさと着替えて帰ろうとしていた。だが。
「先輩、俺のこと避けてますよね?」
 ロッカーに手をつき、前方を体で塞がれいきなり話しかけられる。
「っ…は?なんだよ急に」
「最近、先輩俺と全然目合わせてくれないし、話しかけてもすぐどっかいくし、練習も付き合ってくれないじゃないすか」
「そんなことないって…お前の気のせいだよ」
 確かに、最近の早川は何か焦っているような圧を感じたし、たまに口を開けて何かを話そうとするが結局はなにも話さない、ということが多かった。そのことに俺は本能的に、直感的に嫌な気がしたので、何かと理由をつけては避けていた。
 俺は頭上から浴びせられる視線と早川の圧で顔を上げることはできなかった。どうしても恐ろしかったから。
「じゃあ、こっち向いてくださいよ、ねえ」
「…、いや、逆になんか、面と向かうの恥ずかしいてか…」
「先輩」
 いつのまに近寄っていたのか、早川に肩を押され無理やり顔を合わせられる。少し優しく押されたので痛みはない。早川が手で掴んでいる俺の肩はその指の硬さと手のひらの大きさを、同じ男、しかも後輩の相手に恐怖を感じたという屈辱を一生忘れることはないだろう。

「もう我慢するの辞めます」
「…」

「俺、先輩のことが好きです」

「…は?」
「ほんとはちゃんと普通に仲良くなっていきたかったけど、先輩が勝手に離れてくからもうハッキリ言った方がいいと思って」
「いや、そうじゃないだろ…好きってお前」
「この通りっすよ」
 そう言って後輩に唇を塞がれた。
 ファーストキスは美形の後輩、男。
 反射で押し返すが俺の頭よりやや上の方で押さえつけられているので、思ったように力は出なかった。
 時間的には3秒くらい。体感で1分。そんなキスがふと終わりるが、俺は焦りと動揺、困惑で言葉が出てこなかった。

「俺本当はテニス…てかスポーツとか嫌いなんすよ。」
「…な、に」
「でも俺が試合に勝つと先輩、自分のことのように喜んでくれるじゃないすか」
 それはそうだ。同じ部活の仲間が勝てば嬉しくないはずがない。
「もうほんとに、こんな可愛い笑顔を俺が引き出してると思ったら興奮止まんなくて、知ってます?おれ大会で負けたことないすよ」
「…あ」
 言われてみれば。
「全部アンタのためにやってたんだ。これからもアンタのために頑張る。最後の中総体だって、団体戦頑張るつもりですよ」
「お、おう…」
「だからさ、その前に」
 そっと俺の耳元に口を寄せる。


 先輩を俺にください。


 ◻︎◻︎◻︎
 そして現在。次鋒戦が終わり大将戦前、誰もいないトイレで。
「先輩、この試合、勝って全国行きたいですよね?」
 俺はすぐに早川の言ってることが理解できた。
 あの日以来、早川はことあるごとに俺に性的な手で触れて、好きあらば強引にキスをし、他にも人がいなければ堂々と押し倒すような真似をしてきた。キスは不意打ちが多く逃げきれないこともあったが、それ以上の行為に発展しないよう必死に抵抗してきた。

「お前…この状況で何言ってんのかわかってんのか…?」

 目の前の男の独りよがりな言動に怒りのあまり声が震えた。握る拳は爪が食い込んで痛い。

「もちろん」
「あ、のなあ、この試合、俺とお前だけのもんじゃないんだぞ!?仲間や、対戦相手だって本気で挑んでんだ、それを、それが…」
「俺にとっては、俺と、先輩のためだけですよ」
「…」
 俺は脱力してしまい、言葉も発せなくなった。
 始めてだったのだ、こんなにもスポーツに対して真摯に向き合っていない人間と会ったのは。
 そして神は、こんな邪悪な男に才能を与えてしまった。
「…もういい」
「決心つきました?」
 後輩はいやらしい笑みを隠そうともせず俺の頬に触れてきた。
「ああ…」
「じゃあ、この試合終わったらすぐにーー」
 おれはその手を跳ね除ける。
「試合に勝とうが負けようがどうでもいいよ」
「…は?」
「そんな、くだらねえ賭けで勝敗決めようが俺は嬉しくも悲しくもねえよ、お前の好きにしろ」
「そもそも俺がお前に体売ったところで勝てる保証もないわけだし」
 そういって俺は振り返りもせずその場を離れた。
 怒りとも、悲しみとも言えない感情がない混ぜになっていたが、その場を去る時には俺の心はすっかり空虚で満たされていた。

 後輩は試合に負けた。ワザと手を抜いたのか、それとも本当に相手に及ばなかったのかは分からない。俺たちは全国に行くことなく中学の青春を終わらせた。
 その日以来テニス部には顔を出していない。後輩とも会っていない。たまに顔を合わせることはあっても絶対に2人きりにはならないし言葉を交わすこともなかった。
 この時の俺の人生とも言えるテニスを汚されたこと、そしてどれだけ無視をして見ないふりをしても俺の思い出に刻まれ、一生忘れることができないであろう早川のことを心から憎んだ。
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