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4.幽囚
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あれからしばらく散々な目に合い、これ以上ない醜態を晒した俺は抵抗する気力も失い、されるがまま寝室まで運ばれた。
やや硬めのスプリングに横たえられると、早川の匂いに包まれ、俺はこいつに屈服したんだと思い知らされる。
まだ乾かずにぬるつく中は、未だに萎えることを知らない早川の性器を歓待する。
途切れることのない呪いの言葉を聞かされ続け、俺は何度も意識を飛ばしては戻すことを繰り返した。
途中からは我を忘れて早川を求める言葉を発し、自ら早川の上に乗り腰を降った。
「これがメス堕ちってやつですかねっ?俺専用になっちゃった先輩♡俺が一生ずっと永遠に愛すんで、先輩も俺だけ見て、俺だけ好きでいてくださいね♡」
見惚れるほどの笑顔でそう囁いてきた早川の言葉を最後に、俺の記憶は曖昧なものとなる。
◻︎◻︎◻︎
驚いたことにまだ1日半しか経っていないらしい。目が覚めてすぐ横にあった早川のスマホの時計を確認する。日曜夕方だが、残念ながら明日は祝日のため学校は休みだ。俺はいつこの箱庭から出してもらえるかわからない。
部屋には早川はいない。物音も聞こえないからもしかしたら外出しているのかもしれない。俺は痛む腰を抑えて起き上がる。
軽く周囲を見渡すが俺の着ていた服は見当たらない。早川のものらしきシャツやパンツはあるが、他人のものを無断で拝借するのは気が引けた。せめて下着くらいは取り戻せないかと部屋を出た。全裸なのはこの際どうでもよい。
まず最初に浴室へ向かった。早川の部屋から浴室までの短い道のりでは、ホコリも落ちていなければ、物が置かれていることもなく、不気味だった。中に入ればゴウンゴウンと機械音が聞こえる。洗濯機が回っているのでおそらく俺の服が洗濯されているのだろう…たぶん、おそらく、そうであってほしい。
仕方ないのでその場にあった未使用のバスタオルを体に巻く。大きめなので肩から太ももまで隠れてありがたかった。
リビングルームは必要最低限と言った内装で、やはりこれも温度が感じられなかった。食事をするためのテーブルと椅子があり、ソファとテレビ、あとは小さな本棚があった。ラグマットや小物入れ等、細々とした家具はあったが、男2人が住んでいたとは思えないほど綺麗すぎていた。
椅子には俺が持っていた鞄が置かれており、荒らされた様子はなかった。
自分のスマホを手に取り、メッセージアプリを開く。母からいつ帰ってくるのかの確認のメッセージがきていた。あらかじめ、友達の家に泊まるからと伝えていたが、帰る日時は伝えていなかった。今もいつここから出られるのか分からないため、とりあえず帰宅時間は後ほど伝える旨を送っておいた。
その他にも友人から何通かメッセージが来ていたが、とても返信できる気分ではないためそのままスリープモードに切り替えた。
一瞬、ほんの一瞬だけ助けを求めようとも思ったが、自分の醜態を誰かに曝け出すのはとてもじゃないが考えられなかったのですぐにやめた。
気力が抜けてそのまま椅子に座る。大きな虚脱感に包まれ、思考も停止し、ただ窓の外を見つめた。今日は晴天だった。
◻︎◻︎◻︎
ガチャ、という扉の音で我に帰る。どれくらいぼーっとしていたか分からない。
「あれ、そんなトコ座ってて大丈夫ですか?まだ体しんどいじゃないですか?」
ビニール袋を提げて早川がリビングへやってきた。
「てかその格好…あっ、今先輩の服全部洗ってましたね。俺の服着てくれてて良かったのに」
うんともすんとも言わない俺が気にならないのか、それともこうなっていることを予測できているのか、1人で喋り、俺を勝手に抱えてソファに座らせた。しっとりとした反発のある柔らかいソファだった。
「今替えの服取ってきますね…あ、水ここに置いときます」
市販のミネラルウォーターをテーブルに置き、奥の方は歩いて行く早川を目線だけで見送り、俺はペットボトルに手を伸ばした。
俺は自覚しているより弱っているようで、ペットボトルのキャップが開けられなかった。どれだけ力を込めたつもりでもびくともしない。一瞬開ける方向を間違っているのかと疑ったくらいだ。
ほぼ成人男性と変わらない男が、たかだかペットボトルの蓋ごときも開けられないなんて…と、小刻みに小さな震える手のひらを見つめる。
諦めて水をテーブルに置き直したと同時に早川が戻ってくる。
「あれ、先輩昨日から何も口にしてないから水くらいは飲まないと」
パキ、となんてことない動作でキャップを開けて俺に水を渡す。俺は礼も言わずに受け取って一口飲み込んだ。
体はかなり乾いていたようで、二口、三口と一気に半分ほど飲んでいた。
「俺、ご飯用意するんで、これに着替えててください」
そっと差し出された洋服一色。下着はコンビニで買ってきたと分かるパッケージのものだった。
「…」
「…着れますか?俺が着せてあげましょうか?」
「っ…1人で、着る、から…」
「……そう。わかりました。じゃあなんかあったら声かけてください」
「…」
その場で着替えを行う。早川はキッチンへ向かったが、カウンターキッチンなので俺のことは丸見えだ。着替えさせられるのは嫌なのに裸を見られるのは平気という、ズレた感覚を抱えるようになっていたことには気が付かなかった。
知らない柔軟剤の匂いは、昨夜俺にまとわりついていたあのベッドと微かに同じだった。いい匂いのはずなのに腹の奥から全身がザワザワと戦慄く。同時に、植え込まれた快楽の種もほのかに目覚めさせる。
「先輩。お待たせしました」
テーブルの上には体に優しそうなレトルト食品が並んでいた。
「ほんとは俺自炊してるんで料理もっと得意なんですよ。でも今急いでたんですぐに用意できるのにしたんです」
「…そうか」
聞いてもいないのにわざわざ言い訳をして料理ができることをアピールして何になるのだろう。素っ気ない相槌を打ち、出されたものを口に運んだ。
腹は減っているはずなのに、食欲はまったく無かったので半分くらい残してしまったが、早川は文句も言わず片付けた。
「次はちゃんと俺が作るんで、先輩の好きなものいっぱい教えてくださいね」
暗にまたこの部屋へ来ることを伝えられてゲンナリする。わかっていたことだが、早川との関係はこれきりであれ、という俺の望みが潰えた。俺は一生この男に縛り付けられて生きていくかもしれない。
「今日はもう手出さないんで、残りの時間いっぱいおしゃべりしましょう?」
ソファで横に並んで座る俺と早川。ピッタリと半身を密着させ、腕を絡ませ手を繋ぎ、こて、と俺の方に頭を乗せる。心底不愉快だった。
「先輩は、俺に聞きたいこととかありますか?」
嬉しそうに話しかけてくる早川。聞きたいことなんて一つしかない。
「なんで俺にこんなことしたんだ」
「そんなの、先輩が好きだからに決まってるじゃないですか」
「なんで俺のことが好きなの」
「先輩は覚えてないと思うんですけど、実は俺たち、俺が小6の時に出逢ってるんです」
「え…」
「先輩が隣町の運動公園のコートで練習試合?してたとき、俺そこに併設されてる体育館の方でバスケの練習してたんです。俺小学校はバスケのクラブ入ってたんで」
確かに俺が中1の時、たった一回だったがそこで練習試合をしたことははっきりと覚えている。対戦校の都合で急遽場所がそこへ変更になったが、大会用とかに作られていないため、設備が微妙で緩めのネットとやたら砂が撒かれていた(掃除が行き届いていない)ので過去最悪の印象だった。
「そんで、練習終わりにぼーっと見てたら先輩が試合してて、なんか1試合勝っただけですごい嬉しそうにしてるからそんなに楽しいのかなーって思ってつい近くで観戦してたんです。そしたら試合に勝った先輩がコートから出てきて、俺に気がついて声かけてくれたんです」
「俺がか?」
「はい」
「嘘だ…覚えてない」
「俺は覚えてますよ。『もしかして興味ある?』て声かけてくれて。俺びっくりしてつい、はいって反射で言っちゃって。そしたら先輩、試合の時と同じような笑顔で見学おいで、とか、ラケット握ってみる?とかいろいろ言ってくれて。結局、先輩はすぐに帰っちゃったんですけど、俺そっからバスケやめて残りの1年間はテニスめっちゃやりました」
「…俺の、せいだったのか…」
「はい。最初は先輩と一緒にテニスしたいって思ってたんですけど、だんだん先輩のあの時の情熱を向けられるテニスが憎く思えてきて。変でしょ?スポーツに嫉妬するって。でも俺その時自覚したんです。『俺は先輩のことが好きなんだ』って」
「そ、んな…俺も覚えてないくらいの一瞬の出来事だったんだろ、なのに、なんで…」
「そういう一瞬の出来事で人生変えられた人なんていっぱいいるでしょ。俺の場合は先輩がそうだっただけです。実際、先輩と出逢ってからは頭の中先輩でいっぱいだったし、いざ先輩と同じ中学入って先輩見つけたらよりはっきり先輩への感情を再認識しました」
「…」
「確かに中学時代、ほとんど関わることはできなかったけど、俺はずっと先輩だけを見てましたよ。いざ行動に起こすと俺の愛情ってこんなに大きくて歪んでたんだって自分でも驚きましたけど」
「…にしたって、好きな人相手にすることがあれかよ…」
「だって!先輩には俺の本性を包み隠さず見てもらいたかったから!俺をこういうふうに変えたのは先輩なんだから、先輩には責任をとってもらわないと」
「さっきからお前言ってることおかしいぞ…」
「だから、わかってますって。でもいいんです。先輩には俺がいかに先輩のことが大好きかってことを分かってもらえたらそれでいいんで」
「…」
「俺の1番は、家族でも友人でも俺自身でもなくて、先輩なんですよ?なりふりなんて構ってられない。誰かに取られる前に俺が奪い取らなきゃ」
きっとこれは、熱に浮かされてみる悪夢なんだ。
「先輩?」
「……要は…俺はずっとお前に縛られるんだろ…」
「縛るなんてそんな!俺の玉座に一生座ってもらうんですよ。それだけ」
「…言ってることわけわかんねえ……」
俺はだんだんと背中を丸め、頭を抱える。頭痛がする。
「先輩」
「なんだよ……」
「キスしてください」
「…」
この期に及んで何を急に。俺は訝しげに早川を見る。そこには頬を赤らめ、美しい顔で美しく微笑む早川がいた。
「…目、とじろ…」
嬉しそうに瞼を下す早川。長いまつ毛を見つめる。俺はかすかに触れるだけのキスをした。
「…せんぱい」
目を開けたと思ったら、その目をきゅう、と絞ってまるで初恋が叶ったかのようないじらしい笑顔を見せる。
そのまま俺を力いっぱい抱きしめて首元に顔を埋めた。深く息を吸っているのがわかる。
「次は、心も俺にくださいね?」
早川は耳元でうっとりと囁いた。
俺は何も言わずにされるがまま外を見ていた。空は少しだけ曇っていて、やがて泣き出しそうな色をしていた。
やや硬めのスプリングに横たえられると、早川の匂いに包まれ、俺はこいつに屈服したんだと思い知らされる。
まだ乾かずにぬるつく中は、未だに萎えることを知らない早川の性器を歓待する。
途切れることのない呪いの言葉を聞かされ続け、俺は何度も意識を飛ばしては戻すことを繰り返した。
途中からは我を忘れて早川を求める言葉を発し、自ら早川の上に乗り腰を降った。
「これがメス堕ちってやつですかねっ?俺専用になっちゃった先輩♡俺が一生ずっと永遠に愛すんで、先輩も俺だけ見て、俺だけ好きでいてくださいね♡」
見惚れるほどの笑顔でそう囁いてきた早川の言葉を最後に、俺の記憶は曖昧なものとなる。
◻︎◻︎◻︎
驚いたことにまだ1日半しか経っていないらしい。目が覚めてすぐ横にあった早川のスマホの時計を確認する。日曜夕方だが、残念ながら明日は祝日のため学校は休みだ。俺はいつこの箱庭から出してもらえるかわからない。
部屋には早川はいない。物音も聞こえないからもしかしたら外出しているのかもしれない。俺は痛む腰を抑えて起き上がる。
軽く周囲を見渡すが俺の着ていた服は見当たらない。早川のものらしきシャツやパンツはあるが、他人のものを無断で拝借するのは気が引けた。せめて下着くらいは取り戻せないかと部屋を出た。全裸なのはこの際どうでもよい。
まず最初に浴室へ向かった。早川の部屋から浴室までの短い道のりでは、ホコリも落ちていなければ、物が置かれていることもなく、不気味だった。中に入ればゴウンゴウンと機械音が聞こえる。洗濯機が回っているのでおそらく俺の服が洗濯されているのだろう…たぶん、おそらく、そうであってほしい。
仕方ないのでその場にあった未使用のバスタオルを体に巻く。大きめなので肩から太ももまで隠れてありがたかった。
リビングルームは必要最低限と言った内装で、やはりこれも温度が感じられなかった。食事をするためのテーブルと椅子があり、ソファとテレビ、あとは小さな本棚があった。ラグマットや小物入れ等、細々とした家具はあったが、男2人が住んでいたとは思えないほど綺麗すぎていた。
椅子には俺が持っていた鞄が置かれており、荒らされた様子はなかった。
自分のスマホを手に取り、メッセージアプリを開く。母からいつ帰ってくるのかの確認のメッセージがきていた。あらかじめ、友達の家に泊まるからと伝えていたが、帰る日時は伝えていなかった。今もいつここから出られるのか分からないため、とりあえず帰宅時間は後ほど伝える旨を送っておいた。
その他にも友人から何通かメッセージが来ていたが、とても返信できる気分ではないためそのままスリープモードに切り替えた。
一瞬、ほんの一瞬だけ助けを求めようとも思ったが、自分の醜態を誰かに曝け出すのはとてもじゃないが考えられなかったのですぐにやめた。
気力が抜けてそのまま椅子に座る。大きな虚脱感に包まれ、思考も停止し、ただ窓の外を見つめた。今日は晴天だった。
◻︎◻︎◻︎
ガチャ、という扉の音で我に帰る。どれくらいぼーっとしていたか分からない。
「あれ、そんなトコ座ってて大丈夫ですか?まだ体しんどいじゃないですか?」
ビニール袋を提げて早川がリビングへやってきた。
「てかその格好…あっ、今先輩の服全部洗ってましたね。俺の服着てくれてて良かったのに」
うんともすんとも言わない俺が気にならないのか、それともこうなっていることを予測できているのか、1人で喋り、俺を勝手に抱えてソファに座らせた。しっとりとした反発のある柔らかいソファだった。
「今替えの服取ってきますね…あ、水ここに置いときます」
市販のミネラルウォーターをテーブルに置き、奥の方は歩いて行く早川を目線だけで見送り、俺はペットボトルに手を伸ばした。
俺は自覚しているより弱っているようで、ペットボトルのキャップが開けられなかった。どれだけ力を込めたつもりでもびくともしない。一瞬開ける方向を間違っているのかと疑ったくらいだ。
ほぼ成人男性と変わらない男が、たかだかペットボトルの蓋ごときも開けられないなんて…と、小刻みに小さな震える手のひらを見つめる。
諦めて水をテーブルに置き直したと同時に早川が戻ってくる。
「あれ、先輩昨日から何も口にしてないから水くらいは飲まないと」
パキ、となんてことない動作でキャップを開けて俺に水を渡す。俺は礼も言わずに受け取って一口飲み込んだ。
体はかなり乾いていたようで、二口、三口と一気に半分ほど飲んでいた。
「俺、ご飯用意するんで、これに着替えててください」
そっと差し出された洋服一色。下着はコンビニで買ってきたと分かるパッケージのものだった。
「…」
「…着れますか?俺が着せてあげましょうか?」
「っ…1人で、着る、から…」
「……そう。わかりました。じゃあなんかあったら声かけてください」
「…」
その場で着替えを行う。早川はキッチンへ向かったが、カウンターキッチンなので俺のことは丸見えだ。着替えさせられるのは嫌なのに裸を見られるのは平気という、ズレた感覚を抱えるようになっていたことには気が付かなかった。
知らない柔軟剤の匂いは、昨夜俺にまとわりついていたあのベッドと微かに同じだった。いい匂いのはずなのに腹の奥から全身がザワザワと戦慄く。同時に、植え込まれた快楽の種もほのかに目覚めさせる。
「先輩。お待たせしました」
テーブルの上には体に優しそうなレトルト食品が並んでいた。
「ほんとは俺自炊してるんで料理もっと得意なんですよ。でも今急いでたんですぐに用意できるのにしたんです」
「…そうか」
聞いてもいないのにわざわざ言い訳をして料理ができることをアピールして何になるのだろう。素っ気ない相槌を打ち、出されたものを口に運んだ。
腹は減っているはずなのに、食欲はまったく無かったので半分くらい残してしまったが、早川は文句も言わず片付けた。
「次はちゃんと俺が作るんで、先輩の好きなものいっぱい教えてくださいね」
暗にまたこの部屋へ来ることを伝えられてゲンナリする。わかっていたことだが、早川との関係はこれきりであれ、という俺の望みが潰えた。俺は一生この男に縛り付けられて生きていくかもしれない。
「今日はもう手出さないんで、残りの時間いっぱいおしゃべりしましょう?」
ソファで横に並んで座る俺と早川。ピッタリと半身を密着させ、腕を絡ませ手を繋ぎ、こて、と俺の方に頭を乗せる。心底不愉快だった。
「先輩は、俺に聞きたいこととかありますか?」
嬉しそうに話しかけてくる早川。聞きたいことなんて一つしかない。
「なんで俺にこんなことしたんだ」
「そんなの、先輩が好きだからに決まってるじゃないですか」
「なんで俺のことが好きなの」
「先輩は覚えてないと思うんですけど、実は俺たち、俺が小6の時に出逢ってるんです」
「え…」
「先輩が隣町の運動公園のコートで練習試合?してたとき、俺そこに併設されてる体育館の方でバスケの練習してたんです。俺小学校はバスケのクラブ入ってたんで」
確かに俺が中1の時、たった一回だったがそこで練習試合をしたことははっきりと覚えている。対戦校の都合で急遽場所がそこへ変更になったが、大会用とかに作られていないため、設備が微妙で緩めのネットとやたら砂が撒かれていた(掃除が行き届いていない)ので過去最悪の印象だった。
「そんで、練習終わりにぼーっと見てたら先輩が試合してて、なんか1試合勝っただけですごい嬉しそうにしてるからそんなに楽しいのかなーって思ってつい近くで観戦してたんです。そしたら試合に勝った先輩がコートから出てきて、俺に気がついて声かけてくれたんです」
「俺がか?」
「はい」
「嘘だ…覚えてない」
「俺は覚えてますよ。『もしかして興味ある?』て声かけてくれて。俺びっくりしてつい、はいって反射で言っちゃって。そしたら先輩、試合の時と同じような笑顔で見学おいで、とか、ラケット握ってみる?とかいろいろ言ってくれて。結局、先輩はすぐに帰っちゃったんですけど、俺そっからバスケやめて残りの1年間はテニスめっちゃやりました」
「…俺の、せいだったのか…」
「はい。最初は先輩と一緒にテニスしたいって思ってたんですけど、だんだん先輩のあの時の情熱を向けられるテニスが憎く思えてきて。変でしょ?スポーツに嫉妬するって。でも俺その時自覚したんです。『俺は先輩のことが好きなんだ』って」
「そ、んな…俺も覚えてないくらいの一瞬の出来事だったんだろ、なのに、なんで…」
「そういう一瞬の出来事で人生変えられた人なんていっぱいいるでしょ。俺の場合は先輩がそうだっただけです。実際、先輩と出逢ってからは頭の中先輩でいっぱいだったし、いざ先輩と同じ中学入って先輩見つけたらよりはっきり先輩への感情を再認識しました」
「…」
「確かに中学時代、ほとんど関わることはできなかったけど、俺はずっと先輩だけを見てましたよ。いざ行動に起こすと俺の愛情ってこんなに大きくて歪んでたんだって自分でも驚きましたけど」
「…にしたって、好きな人相手にすることがあれかよ…」
「だって!先輩には俺の本性を包み隠さず見てもらいたかったから!俺をこういうふうに変えたのは先輩なんだから、先輩には責任をとってもらわないと」
「さっきからお前言ってることおかしいぞ…」
「だから、わかってますって。でもいいんです。先輩には俺がいかに先輩のことが大好きかってことを分かってもらえたらそれでいいんで」
「…」
「俺の1番は、家族でも友人でも俺自身でもなくて、先輩なんですよ?なりふりなんて構ってられない。誰かに取られる前に俺が奪い取らなきゃ」
きっとこれは、熱に浮かされてみる悪夢なんだ。
「先輩?」
「……要は…俺はずっとお前に縛られるんだろ…」
「縛るなんてそんな!俺の玉座に一生座ってもらうんですよ。それだけ」
「…言ってることわけわかんねえ……」
俺はだんだんと背中を丸め、頭を抱える。頭痛がする。
「先輩」
「なんだよ……」
「キスしてください」
「…」
この期に及んで何を急に。俺は訝しげに早川を見る。そこには頬を赤らめ、美しい顔で美しく微笑む早川がいた。
「…目、とじろ…」
嬉しそうに瞼を下す早川。長いまつ毛を見つめる。俺はかすかに触れるだけのキスをした。
「…せんぱい」
目を開けたと思ったら、その目をきゅう、と絞ってまるで初恋が叶ったかのようないじらしい笑顔を見せる。
そのまま俺を力いっぱい抱きしめて首元に顔を埋めた。深く息を吸っているのがわかる。
「次は、心も俺にくださいね?」
早川は耳元でうっとりと囁いた。
俺は何も言わずにされるがまま外を見ていた。空は少しだけ曇っていて、やがて泣き出しそうな色をしていた。
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