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グラード王国王都ヴェーテル

告白と素顔と見守る者達。

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メタルバトラーは、困ってしまった。

サラが、この後もついて来るなら、素顔を曝す事となる。
そればかりが、ささやかながら、今夜は食事会を行うと言うのだ。

仕方ない。腹を括って、王族に打ち明けよう。
友と言ってくれた陛下に対し、誠意を見せる必要はある。

城の一室を借りているメタルバトラーは、メイドを呼び、陛下に王族だけで晩餐をしたいと伝えて欲しいと願いを頼んだ。

結果はOKだった。

晩餐の時間になり、メタルバトラーは、食卓の間へ向かった。
すると先の国王の妃、即ち太后と陛下夫妻に、その子である、4人の子息子女。そして、サラの王族一同が集まっていた。メタルバトラーは1人ひとりに挨拶を済ませると、少し迷いがあったが、意を決し全てを打ち明ける事にした。

「ご家族水入らずの晩餐に、お誘いして頂いたこと、誠に恐悦至極であります。しかしながら、俺は皆様に打ち明けねばならない事があります。」

そして、メタルバトラーは変身を解いて、藤倉 信に戻る。

「俺の本当の名前は、藤倉 信。藤倉が名字で、信が名前。年齢は27歳、出身国は、日本。」

変神を解く姿をまるで魔法を見る様に驚いていたが、サイとサラは異口同音で尋ねた。

『ニホン?』

信は大きく頷いてから、

「そう。日本。サラ、俺がこの世界・・・・と言ったの覚えているかい?…つまり、」

そこから信は、元の世界での戦い、そして失意と無気力に捕らわれて行く日々の葛藤。
そんな中での『神』と言う存在に導かれ、自らこの世界に踏み込み、初めての戦闘を行った事、サラに出会った経緯を詳しく話した。

最初は皆は眉唾物なおとぎ話を聴くような様子であったが、信の真剣な眼差しと、信じて貰えるか判らない話を勇気を持って打ち明けた気持ちを汲み取ってくれた。
特にサラは第一声で

「わたくしは信じます。あの力を見れば、信の言葉は誠と思います。その力で前の世界を救ったのですから。」

言った。するとサイも

「そうだな。余を友と信じ、そしてその家族である、母上や妻、子らに打ち明けてくれた。余もそなたを信じ協力させて貰おう。」

前の世界では、孤独で戦い抜いて来た。
支えるものは、世界を護り平和にすると言う、意思だけであった。
しかし今、この瞬間に信を支え、信も護りたいのは世界だけでなく、目の前の人々と、これから出会う人々だろうと、確信したのである。

「ありがとうございます。しかし、もう二つ悩みが。」

「なんだ?遠慮無く申せ。」

「俺の服装、悪目立ちします、よね?。後、テーブルマナーとかマナー全般が壊滅的ですよ。」

それを聞いて、皆は大笑いした。

「大丈夫だ、マナー等についてはサラが教えてくれるだろう。服装もサラの方がセンスが良い。なぁ?サラ。」

「あ、あ、あ、兄上、何を」

それに便乗する様に太后や王妃が、

「良い殿方を見つけたものね。」

「これで後家にならずに…」

と言うものだから、

「は、、は、母上、義姉上!」

とサラの何かに拍車をかける。
太后が信に

「サラは17になります。不束者ですが、末長く………」

サラは慌ててワーワーと捲し立てる。

サイは信に確かに公では、テーブルマナーは徹底して守るが、普段家族で食卓を囲む時は、こんな感じだから気にするなと、笑いながら話てくれた。


食事を終え、入浴後、自室に戻る信を待っていたかの様に、サラが廊下で立っていた。

「サラ?どうしたんだ?」

「うん。信、母上達の言った事、あんまり気にしないで。後、信は前の世界で、確かに誰も称賛しなかったかも知れない。…………でも……でもね。神様はそれを知っていた。そして、私達家族も、それを知った。世界の誰も誉めなくても、私は信を誉めるよ。信は良く護ったよ。世界も、顔も知らない人々も。だから、神様はこの世界も救って欲しくて、信はやって来てくれた。だから出会えた。信、貴方は貴方の誇りがあるわ。だから、私は貴方を誉めるし、尊敬するわ。」

信はサラの言葉を胸に一言一言刻んでいた。
俺の戦いは無駄ではなかった。
だから、これからも戦って行ける。
無意味な闘争でなく、大切なモノを護り抜く為に。

「なぁ、サラ。」

「……なぁに?」

「やっぱ、その砕けた話し方が俺は良いと思う。少なくとも、俺は話しやすいし、その方が俺は好きだ。」

え?え?え?……………好きだ?

サラは、一瞬考えが纏まらず、?が浮かんでいたが、やがて顔が真っ赤になっていくのが自身でも感じ取っていた。

しかし、信も何でサラが顔面紅潮しているのか解らない。

「ん?熱あるのか?」

サラの額に手を当てるも、

「だ、だ、大丈夫よ!大丈夫、そ、それじゃお休みなさい。明日街を案内するわね!」

と、慌てて信から離れ、小走りで自分の部屋に向かうサラ。
その後ろ姿を、信は見送りつつ、

『俺、何か変な事したかなぁ』

と、信は思いながら自室へ向かって行った。



その一部始終を王家メイドズは見ていた。

『やっと、姫様にも春が来ましたわwww』

『姫様、ワタクシ共は姫様の恋を応援するザマス。』

『しっかし、信ってヤツも朴念仁よね?』

『そうそう、乙女心が理解出来てないわ!』

『でもザマス。明日はデートザマス。その後は世界を二人で歩くザマス。恋はきっと愛に変わるザマスよ!』

むふふ、と影で嗤うメイドズを知るものはいない。
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