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大乱と統一

バルナバス

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バルナバスは、ほくそ笑みを浮かべていた。
相手は大公の実子達である。

まとめて屠り公国を丸ごと手中に収める事が出来るのだ。

いや、あのエルネスティーネを妾にする事も可能だ。
謀叛人を屠り、姫を我が物とする事で公国を守護したと、大手を振って国を労せずに手に入るのだ。

笑うなと言う方が無理な話だ。
太鼓腹をゆさゆさと揺らし、初老に差し掛かるバルナバスは「くくくっ」と喉で笑った。

それに奴等が降伏を拒んでも、国民を犠牲には出来ない。
開門した時に全軍を突撃させれば良いし、仮に降伏した場合は、兄弟に対しては姉の助命を盾に縛り首。
将兵達は、奴隷に貶めてやれば良い。

彼にしてみたら、実に愉快である。

特にエルネスティーネを散々に甚振いたぶり尽くし、ヒイヒイ言わせるのが、今から楽しみでならない。

そんな目出度い妄想に耽り、股関の孟宗竹がムクムクになった時に、テントの表から兵士の報告が入る。

「失礼します。敵軍が城壁より書状が渡されました。」

「……読め」

ニヤ付きながら、降伏を望むバルナバスは話を聴く体勢を取る。

この圧倒的な兵士数だ。
相手の負けは確定の勝負。
命は惜しいのが人の常。
抗戦より、降伏に決まっている。

そして敵が降伏すれば、首都の殆どを無傷で我が物に出来る。
笑いが止まらん。

しかし書状には

「議論した結果、妾は徹底抗戦を決定した。して、貴軍の提案に乗っ取り、民間人を解放する。」

ほぉ?
徹底抗戦か。
ならば突撃か。
文書は続く様で兵士は読み上げる。

「……尚、城門の開き悪いため、城壁より縄梯子なわはしごを下げ、そこより民間人を降ろし解放する。尚、民の一人に妾より秘密の言伝を授ける為、バルナバス卿に面会を望む。
エルネスティーネ・フォン・ヴィルヘルムより……以上であります。」

ぬぬっ!?
これでは突撃は不可能ではないか!
顎髭を撫でながら、バルナバスは1人の男を呼んだ。

「フリッツ辺境伯はおるか!」

すると外で控えてたのか、フリッツと呼ばれた中年の男が入って来た。

「…………はっ、フリッツめは此処に。」

「フリッツよ、どうするのだ!お前の策が外れたではないか!」

バルナバスはワナワナと拳を震わせ、先程の優越感とは逆に、不快感をあらわにした表情でフリッツを睨む。

フリッツは涼しげな顔で、バルナバスの怒りを受け流す。

「……策を看破されたのでしょうな。まずは見事と敵将を褒めまする。しかし、策の看破や次策を用意するのは当たり前であります。


「では、何か手はあるのか!?」

「……あります。非情に汚れた策であります。が。」

涼しげな表情を変えず、フリッツはバルナバスをチラリと一瞥した。

「良い良い!ならば、とっとと話せ。エルネスティーネ姫と国を手に入れらるならば、どんな手段でも構わん!!」

「………………御意。」
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