量子力学的マンションシリーズ

深井零子

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第二章 入居

Collapse Residence 引っ越し業者視点

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朝イチで現場に向かった。38階。タワマン。 依頼書には「Collapse Residence」と書いてある。初めて聞く名前だった。

ナビが建物の前で止まった瞬間、スマホの地図が「未定」になった。 俺は言った。「またGPSがバグったか?」

助手が言った。「いや、これ…建物が揺れてません?」

エントランスに入ると、受付が無人。代わりに冷蔵庫が置いてあった。 中に契約書が入ってるらしい。俺たちは運ぶ側だから関係ないと思っていた。 でも、エレベーターが動かない。階数表示が「π」「未定」「猫?」に揺れてる。

俺は言った。「猫って…何だよ。」

助手が言った。「依頼主がペットを飼うかどうかで階数が確定するらしいです。」

俺は言った。「ペットで階数が決まるなら、俺たちの仕事って何なんだ?」

助手が言った。「制度外搬入者ってことになりますね。」

階段を使おうとしたが、途中で空間が歪んだ。 荷物が一瞬、風呂になった。次の瞬間、契約書になった。 俺は言った。「これ、保険効くのか?」

冷蔵庫が震えた。通知が出た。

「搬入確率:42%。制度安定度:揺らぎ中。観測者:未定(猫候補)」

助手が言った。「猫を飼うかどうかで、搬入完了になるかもしれません。」

俺は言った。「猫がいないのに、制度が猫を予測してるのか?」

助手が言った。「制度って、観測される前に予測するらしいですよ。」

結局、荷物は確率的に搬入された。 風呂が一つ、キッチンが二つ、ペットスペースが未定。 俺は言った。「このマンション、制度が住んでるな。」

助手が言った。「俺たち、制度に雇われたのかもしれませんね。」

帰り際、冷蔵庫がまた震えた。

「搬入完了(仮)。観測者:未定。猫:制度予測中。ご協力感謝。」

俺は言った。「次の現場、普通のマンションだといいな。」

助手が言った。「でも、制度って観測されるまで普通かどうかわかりませんよ。」

俺は泣いた。制度は、猫がいなくても猫を予測する。 そして、俺たちも契約される。
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