ビッグテック皇帝 最適化された未来

深井零子

文字の大きさ
72 / 72
Foundation Layer Zero 新しい教育の形

第20話 揺らぎの行方


 翌朝の教室は、いつもと同じ静けさに包まれていた。F0が提示する問題が画面に並び、子どもたちは淡々と解き進めていく。

 しかし教師には、昨日の図書室での会話がまだ胸に残っていた。

 “本物の揺らぎって、どうやって分かるんでしょうか”

 “分からないって思う気持ちは、本物だよ”

 そのやり取りが、静かに心の奥で揺れていた。

 授業の途中、あの子がふと手を止めた。昨日と同じように、眉がわずかに寄る。

 教師はそっと近づいた。

 「どうしたの?」

 子どもは小さな声で言った。

 「、、、また、“変だと思うべき”って感じがしたんです。でも、、、昨日、先生と話したことを思い出して、、、“これは本当に自分の揺らぎなのかな”って考えてみたんです。」

 教師は静かに頷いた。

 「どうだった?」

 子どもは少し考え、言った。

 「、、、分からなかった。でも、“分からない”って思ったのは、なんか、、、自分の気持ちっぽかったです。」

 その言葉に、教師の胸が少しだけ温かくなった。

 子どもの迷いに反応するように、F0の画面に小さなログが表示される。

 《児童行動:揺らぎの自己参照
  分類:非定型
  価値:未定義
  排除:しない
  利用:しない
  前提化:する》

 F0は、子どもが“自分の揺らぎを疑う”という行為を理解しない。理解する必要もない。

 ただ、「こういう揺らぎが存在する」  という事実だけを、またひとつ背景に吸収する。

 授業が終わり、子どもたちが帰ったあと、教師は黒板の前に立ち、静かな教室を見渡した。

 昨日の図書室での共鳴、今日の子どもの迷い、そしてF0の無反応。

 揺らぎは確かに存在する。しかし、その意味は制度に届かない。

 それでも、子どもは揺らいだ。そして教師も揺らいだ。

 その揺らぎは、F0には決して理解されないが、確かに“ここ”にあった。

 教師は黒板消しを手に取り、ゆっくりと黒板を消した。

 「揺らぎは、消えない。」

 意味が変わっても、前提化されても、ノイズとして扱われても。

 揺らぎは、人間の側に残り続ける。

 教師はそう思った。

 帰り際、窓の外を見ると、夕陽が校庭を淡く照らしていた。

 その光の揺れを見ながら、教師は思った。

 「この揺らぎの先に、何があるんだろう。」

 答えはまだない。しかし、その問いこそが“本物”だった。

 教室の静けさの中で、F0は今日も淡々とログを更新している。

 《揺らぎ:保持
  分類:未定義
  前提化:する》

 世界は静かに続く。揺らぎもまた、静かに続く。

感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

【聖女の不倫を全画面表示】理科室に捨てられた俺、世界の全機密をハックして裏切り者を公開処刑する。

寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
ファンタジー
「剣で斬るより、この暴露(データ)一つの方が、よっぽど残酷に人を殺せるんだよ」 影の組織の使い捨て実験体として、地図にも載らない閉鎖国家の理科室に捨てられた少年。 だが、死を待つだけの彼に訪れたのは、絶望ではなく覚醒だった。 右目に宿ったのは、世界のあらゆる情報を引き出し、書き換える超越スキル――神の瞳。 埃を被った理科室の端末を叩けば、この世界の機密はすべて俺の所有物(データ)となる。 民衆の前で清純を装う聖女が、裏で溺れる醜悪な不倫の記録。 国を愛するふりをした王太子が、私欲のために結んだ売国の密約。 すべては見えた。すべては握った。 「――さあ、社会的抹殺(フクシュウ)のカウントダウンを始めようか」 一歩も動く必要はない。剣も魔法も必要ない。 ただ理科室で指先を動かすだけで、傲慢な聖女は民衆の石打ちに遭い、強大な組織は一夜にして内部崩壊する。 隠し資産を奪い尽くし、弱点を握り、自分を裏切ったすべてを絶望の淵へと突き落とす。 閉鎖国家の片隅から始まった少年のハッキングは、いつの間にか世界の運命さえも掌握していた。 今さら泣いて許しを請うても、もう遅い。 これは、情報の神となった少年による、無慈悲で完璧な一方的蹂躙(ざまぁ)劇。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

性転のへきれき

廣瀬純七
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり