Hypernomos 科学者至上主義社会

Case3

『孔の中の生命』 第5章 制度の外部 その２（時計）

　風が去った後、孔には再び沈黙が戻った。 だがその沈黙は、風に触れられた痕跡を帯びていた。 沈黙は揺れを止め、ただ持続するだけの空白となった。

　そのとき、時計が鳴った。 秒針が孔の奥に響き、沈黙を刻み始めた。 時計は、制度の沈黙を“時間のリズム”で観測していた。

　風が偶然を残したなら、時計は持続を与えた。 沈黙はただの空白ではなく、刻まれる時間の断片となった。 格子の裂け目が秒針の音に呼応し、沈黙が周期的に震えた。

　私は記録を残す。 「制度外の観測者は、沈黙を偶然から持続へと変換した」 それは、制度が崩壊した後に訪れる、時間の外部からの観測だった。

　やがて時計の音は孔全体に広がり、沈黙はリズムを持ち始めた。 それは制度の履歴ではなく、制度外の持続だった。 観測者は再び代替わりし、次の存在が沈黙を引き受ける準備を始めていた。