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18.尋ねられる鼠
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僕はもうどうしたらいいのかわからない。五月先生の声が心地よくて、そして触れられる至るところが気持ちよくて。
気づけば翻弄され、あろうことか先生が後ろから見ているというのに自分で、した。
「……」
考えられない。いったい自分は何をやっているのだろう。死にたい。いや、実際死ぬのは嫌だけど気持ち的に死にたい。
ただ自分でもした後、五月先生は「できるじゃないですか」とニッコリ褒めてくれた。
褒められた。その時は何だか嬉しかった。
何ていうかもう色々おかしいけれども、多分後ろから抱きすくめられた時点でだんだんと「おかしい」という感覚が麻痺してしまっていたのかもしれない。
「ご自分でもちゃんとできますね、よかった」
そんな風に優しく言われ、後ろから耳元にキスされ、僕は小さな子どもが大人に褒めてもらったかのような、くすぐったささえある嬉しさが湧き起こってしまった。
思わず赤くなっていると、また後ろから抱きすくめられ、僕は抵抗することも忘れてされるがままだった。
本当に僕は何をやっているのだろう。意味がわからないし恥ずかしいし、何だかもうどうしたらいいのかわからない。やっぱり死にたい。
「で。同級生のカンノくんとは何かあったんですか」
後でようやく自分の状態を整えてから、所在なさげにとりあえずお茶を出した僕に、五月先生が聞いてきた。
あんなことされて、そして自分もしてしまってどう対応すればいいかわからない、どうしたらいいかわからないなどと頭の中でぐるぐるさせていた僕は「は……?」と思わず怪訝な顔でおもいっきり五月先生を見てしまった。
やってしまった。ひたすら先生の顔を見ないようにしていたというのに。まともに見てしまい、僕はまた自分の顔が熱くなるのがわかった。
「? どうかしました? なぜ顔を赤くさせておられるんです?」
いや、普通はなるでしょう……っ? むしろなぜあなたはそんなに平然とされてるんです……っ? どうしていいかわからない僕がおかしいんですか……っ?
頭の中だけでそういったつっこみが一気に十個ぐらいは出てきた。
「……っす、すみませ……」
なのに出てきた言葉はそれだけとか、本当に僕は。
「まあ、お茶でも飲んで」
「は、はぁ。ありがとうござい、ます」
僕が出したお茶ですけども。
でもお茶を飲むと実際落ち着いてきた。何なのだろう。もしかしたら男同士でこういうことするのって、実はそう特殊でもないのだろうか、などと思えてくる。
もしかして、仲がいい同士なら、いっそ抜き合ったりもしているとか? ……五月先生と仲がいいのではないのだけれども。
「内藤先生?」
名前を呼ばれてハッとした。ええと、そういえば何か聞かれていたのだっけか。
……ああ。
「あ、えっと……。何かというか。僕はその、彼に……苛められていた、というか……」
普通なら聞かれても適当に誤魔化していただろうに、僕はなぜか普通に答えていた。
とても仲よくしてくれた友だち。いや、友だちだと思っていたのは自分だけだったのかもしれない。酷い苛めを彼から受けたわけではなかったけれども、友だちだと思っていただけにかなり僕はショックだった。
「蛙やカタツムリ、ねぇ……」
僕が一通り、と言っても大した話はなかったけれども、とりあえず話し終えた後、五月先生が何やら考えるように呟いた後に苦笑している。なぜだろう。
なぜと言えば、こうしてお茶を飲みながら過去の話をしている自分もなぜなのだろうと思うけれども。
「あなたのその、人に対して変に構えているところがあるのは、そこから来ているんですかね」
「……わかりません」
僕はただ、そうとだけ答えた。
「ふふ。……でもねえ先生。本当に苛められたんだと今でも思いますか?」
「……? え? なぜ、です……? 今は……そもそも、もう気にして、ません」
五月先生がジッとこちらを見てくる。僕は少々俯きながら目を逸らした。
「そうですか? だったらなぜまだ夢に見るんです」
ふと気づけば五月先生が僕のそばに来ていた。
「……っ」
驚いた僕はびくつく。離れようとしたけれども、その前に五月先生に抱き寄せられていた。
「……何するん、です? 離してくださ、い」
おどおどしながらも何とか伝える。思えば先ほどかなり密着していたというのに、僕はやはりこんなに近い状態になんて、慣れない。
だいたいなぜ五月先生はこれほど接触してくるのだろう。僕は毎回、離して欲しい、やめて欲しいと気力を振り絞って言っているはずなのに。
……これもある意味苛め、なのかな。
僕はやはり五月先生に嫌われているのだろうか。そう思い至ると、僕は何となく悲しくなってきた。確かに僕自身は五月先生が苦手だけれども、やはり人から嫌われるのは切ない。
「どうされたんです? なぜ怯えるだけじゃなく、そんな顔してるんです?」
あなたのせいです。
「……どうも、しません……。離して、ください」
どうせそう言っても離してくれないくせにと思っていると、すっと離された。僕は思わず五月先生を見た。
「言われた通りにしたのになぜそんな不思議そうな顔をしてくるんだ?」
「……ぁ、いえ……」
「ねえ、内藤先生。大人ならこうやって例えば抱きしめたり、でも離してと言われたらちゃんと離したりもしますけどね。子どもならそもそも抱きしめるという表現なんかわからないだろうし、相手が何を喜ぶかなんてわからないまま、ムリヤリ自分の考えを押しつけたり、どうしていいかわからない思いをそのままぶつけたりすると思いませんか?」
「……?」
五月先生は何を言いたいのだろうか。僕が怪訝そうに先生を見ていると、五月先生はまた苦笑してきた。
「虫は、その子が本当にあなたに嫌な思いをさせるためにくれたんですかね」
……だって、僕は虫を貰っても嬉しくなかったし、どちらかというと他の男子と違って虫は怖かった……し……。
……他の。
……他の男子は、そういえばよく、蛙つかまえて友だち同士で遊んで、たっけ?
「……ぁ、れ?」
何だかよくわからなくなってきた。僕が首を傾げていると、五月先生がまた僕を引き寄せてきた。
「わからなければ仕方ありませんね。でも考えてみるといい……」
そしてそのまま僕の顔を近づけ、唇を合わせてきた。
気づけば翻弄され、あろうことか先生が後ろから見ているというのに自分で、した。
「……」
考えられない。いったい自分は何をやっているのだろう。死にたい。いや、実際死ぬのは嫌だけど気持ち的に死にたい。
ただ自分でもした後、五月先生は「できるじゃないですか」とニッコリ褒めてくれた。
褒められた。その時は何だか嬉しかった。
何ていうかもう色々おかしいけれども、多分後ろから抱きすくめられた時点でだんだんと「おかしい」という感覚が麻痺してしまっていたのかもしれない。
「ご自分でもちゃんとできますね、よかった」
そんな風に優しく言われ、後ろから耳元にキスされ、僕は小さな子どもが大人に褒めてもらったかのような、くすぐったささえある嬉しさが湧き起こってしまった。
思わず赤くなっていると、また後ろから抱きすくめられ、僕は抵抗することも忘れてされるがままだった。
本当に僕は何をやっているのだろう。意味がわからないし恥ずかしいし、何だかもうどうしたらいいのかわからない。やっぱり死にたい。
「で。同級生のカンノくんとは何かあったんですか」
後でようやく自分の状態を整えてから、所在なさげにとりあえずお茶を出した僕に、五月先生が聞いてきた。
あんなことされて、そして自分もしてしまってどう対応すればいいかわからない、どうしたらいいかわからないなどと頭の中でぐるぐるさせていた僕は「は……?」と思わず怪訝な顔でおもいっきり五月先生を見てしまった。
やってしまった。ひたすら先生の顔を見ないようにしていたというのに。まともに見てしまい、僕はまた自分の顔が熱くなるのがわかった。
「? どうかしました? なぜ顔を赤くさせておられるんです?」
いや、普通はなるでしょう……っ? むしろなぜあなたはそんなに平然とされてるんです……っ? どうしていいかわからない僕がおかしいんですか……っ?
頭の中だけでそういったつっこみが一気に十個ぐらいは出てきた。
「……っす、すみませ……」
なのに出てきた言葉はそれだけとか、本当に僕は。
「まあ、お茶でも飲んで」
「は、はぁ。ありがとうござい、ます」
僕が出したお茶ですけども。
でもお茶を飲むと実際落ち着いてきた。何なのだろう。もしかしたら男同士でこういうことするのって、実はそう特殊でもないのだろうか、などと思えてくる。
もしかして、仲がいい同士なら、いっそ抜き合ったりもしているとか? ……五月先生と仲がいいのではないのだけれども。
「内藤先生?」
名前を呼ばれてハッとした。ええと、そういえば何か聞かれていたのだっけか。
……ああ。
「あ、えっと……。何かというか。僕はその、彼に……苛められていた、というか……」
普通なら聞かれても適当に誤魔化していただろうに、僕はなぜか普通に答えていた。
とても仲よくしてくれた友だち。いや、友だちだと思っていたのは自分だけだったのかもしれない。酷い苛めを彼から受けたわけではなかったけれども、友だちだと思っていただけにかなり僕はショックだった。
「蛙やカタツムリ、ねぇ……」
僕が一通り、と言っても大した話はなかったけれども、とりあえず話し終えた後、五月先生が何やら考えるように呟いた後に苦笑している。なぜだろう。
なぜと言えば、こうしてお茶を飲みながら過去の話をしている自分もなぜなのだろうと思うけれども。
「あなたのその、人に対して変に構えているところがあるのは、そこから来ているんですかね」
「……わかりません」
僕はただ、そうとだけ答えた。
「ふふ。……でもねえ先生。本当に苛められたんだと今でも思いますか?」
「……? え? なぜ、です……? 今は……そもそも、もう気にして、ません」
五月先生がジッとこちらを見てくる。僕は少々俯きながら目を逸らした。
「そうですか? だったらなぜまだ夢に見るんです」
ふと気づけば五月先生が僕のそばに来ていた。
「……っ」
驚いた僕はびくつく。離れようとしたけれども、その前に五月先生に抱き寄せられていた。
「……何するん、です? 離してくださ、い」
おどおどしながらも何とか伝える。思えば先ほどかなり密着していたというのに、僕はやはりこんなに近い状態になんて、慣れない。
だいたいなぜ五月先生はこれほど接触してくるのだろう。僕は毎回、離して欲しい、やめて欲しいと気力を振り絞って言っているはずなのに。
……これもある意味苛め、なのかな。
僕はやはり五月先生に嫌われているのだろうか。そう思い至ると、僕は何となく悲しくなってきた。確かに僕自身は五月先生が苦手だけれども、やはり人から嫌われるのは切ない。
「どうされたんです? なぜ怯えるだけじゃなく、そんな顔してるんです?」
あなたのせいです。
「……どうも、しません……。離して、ください」
どうせそう言っても離してくれないくせにと思っていると、すっと離された。僕は思わず五月先生を見た。
「言われた通りにしたのになぜそんな不思議そうな顔をしてくるんだ?」
「……ぁ、いえ……」
「ねえ、内藤先生。大人ならこうやって例えば抱きしめたり、でも離してと言われたらちゃんと離したりもしますけどね。子どもならそもそも抱きしめるという表現なんかわからないだろうし、相手が何を喜ぶかなんてわからないまま、ムリヤリ自分の考えを押しつけたり、どうしていいかわからない思いをそのままぶつけたりすると思いませんか?」
「……?」
五月先生は何を言いたいのだろうか。僕が怪訝そうに先生を見ていると、五月先生はまた苦笑してきた。
「虫は、その子が本当にあなたに嫌な思いをさせるためにくれたんですかね」
……だって、僕は虫を貰っても嬉しくなかったし、どちらかというと他の男子と違って虫は怖かった……し……。
……他の。
……他の男子は、そういえばよく、蛙つかまえて友だち同士で遊んで、たっけ?
「……ぁ、れ?」
何だかよくわからなくなってきた。僕が首を傾げていると、五月先生がまた僕を引き寄せてきた。
「わからなければ仕方ありませんね。でも考えてみるといい……」
そしてそのまま僕の顔を近づけ、唇を合わせてきた。
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