23 / 120
1章 幼少編 異世界召喚
22話
しおりを挟む
毎日勉強や剣などの訓練をがんばっている双子に、ある日モリスが「ゆっくり市場で過ごしてくるといい」とフランに硬貨の入った袋を預けてくれたらしい。流輝はとてつもなくうきうきしながら馬車へ乗った。
思えば町中には遊びで出かけたことなどなかった気がする。この世界に飛ばされて最初の頃に逃げた時や、琉生を探して迷い込んだ時の思い出しかない。ろくでもない。
それ以外はそれこそいい思い出がないだろうからと市場にも基本的に用事がない限り、そして何人もの付き添いがない限り遊びで出かけるのを禁止されていた。確かにそれはそうなのだが、流輝にとってトラウマになるほどでもない。琉生に一応聞いてみたが「俺が泣き虫でもさすがにトラウマレベルじゃないよ」と笑われた。第一使用人に頼んで買い物について行ったくらいだったなと流輝も思い出す。
どこか腫れ物を扱うように接してきていたかもしれないがこれからは違う、と言っていたモリスが早速いい意味で実行してくれたんだなと思い、流輝はさらに笑みが浮かんだ。
「リキ。兄さん。嬉しいにしても喜びすぎ」
そして琉生に苦笑された。
ゆっくり見たことのなかった町の中心街にある市場は、あんな路地裏があるとは思えないほど活気に溢れていた。店員が呼びかける声や客たちの声、通りがかりの人々の声、たくさんの声が生活音とともに行き交う。
「せっかくですから何か食べられますか?」
フランに聞かれて流輝は「うん」と元気よく頷きながらも辺りを見渡した。どうせ何を売っているのかほぼわからないのだし匂いで判断しようと深呼吸する。
「あっ、ねえ。あれ! あれなに?」
流輝が指差す先を見て、キャスが「ロックラビットの串ですよ」と答えてくれた。
「ろっく……?」
「色んなところで見られる小動物です。岩みたいに硬い角は小物細工くらいにしか役に立ちませんが、肉が食用として使えるんですよ」
「小動物……」
琉生が少し青ざめている。もしかしたら元の世界にいた犬や猫、うさぎやタヌキといった小さな動物を頭に浮かべてしまい、食用と聞いて少し引いているのかもしれない。最近剣の腕とともに何となく強くなってきた気がする琉生だが、まだまだだなと流輝は微笑ましく思った。ちなみに流輝は小動物と聞いても頭に浮かんだのは肉の塊なので問題ない。
「食べますか?」
フランに聞かれて流輝は何度も頭を縦に振った。ちなみに琉生は横に振っている。
「野生のロックラビットの肉は少し硬いんですけどね、食用として育てられている一般的なロックラビットは柔らかくて美味いですよ。特に庶民にとってはカウネスよりもこのロックラビットのほうが定番の肉かもですね。屋台でもこうして串にされてよく売られてます。それぞれ自家製のタレに漬けたものを焼いてるんですよ。シンプルだけど美味いんです。酒にも合う。あ、お二人は酒、駄目ですよ」
フランが買っている間にキャスが説明してくれた。好奇心でいっぱいになっているところにフランが串を差し出してきた。見た目はもちろんのこと、近くで嗅ぐとなおさら美味しそうな匂いがする。
「ルイ。見てみろよ普通の肉だって。大丈夫。味つけもこれはピリ辛とかじゃねえし食べやすいって。一口食ってみねえ? なんかさ、元の世界で食べてた豚みたいな感じ!」
一口食べてやはり美味しかったので琉生に差し出すと、一旦引き気味だった琉生は、思い切ったように頷くと差し出した肉に顔を近づけてきた。そして恐る恐る食べる。
「……、……うん、お肉だ」
「な! フラン。俺、これもう一本食べたい」
「ルイ様は?」
「俺は……そんなにいらない」
「だったら俺のこの食いさし食べろよ。あと二切れほどしかないし。だからフラン、やっぱ串あともう二本で!」
「なあなあフラン。俺はあのパラクレタ食いてぇ」
「黙れキャス」
「パラクレタって何?」
気になった流輝が聞くと穀物の粉と砂糖、ミルク、卵を混ぜた生地を広げて焼いたものだと教えてくれた。多分クレープみたいなものだろうと流輝は何となく把握する。砂糖や塩といったものは言語が違っても元の世界の言葉に変換して考えやすいのでわかりやすいが、料理されたものや元の世界にない素材だといまだにわからないものは少なくない。
黙れ、と言いながらもフランはキャスにパラクレタを買ってあげたようだ。優しい、と内心思いつつ、流輝と琉生はどんなものかキャスに見せてもらった。元の世界のように生クリームたっぷり、とはいかないものの、甘くてジューシーそうな赤い果物だろうか、がまるごと入りつつ、砂糖で煮込まれたのだろうか、柔らかいゼリーのようにもなって中を満たしている。
「……『イチゴ』みたいだ」
じっと見ながら琉生が呟く。
「エペリのパラクレタです。新鮮で甘酸っぱくて美味しいですよ。リキ様とルイ様も食べられます?」
「俺は肉食べてるし……」
ちらりと琉生を見るも、琉生は首を横に振っている。甘いものが実はとてつもなく好きなくせに何故素直に甘いのが好きと言って飛びつかないのか流輝には不思議で仕方がない。フランは「俺は飲み物を買ってきます」と言ってその場を離れたが、すぐに「うっかり間違えてパラクレタを買ってしまいました」と戻ってきた。
「何をどうしたら間違えんの?」
甘いパラクレタを幸せそうに食べていたキャスが唖然とした風に聞いている。
「申し訳ありません。ですが無駄にするのももったいないのでもしよかったらルイ様、食べていただいてもよろしいでしょうか。俺は辛いものが好きな分、甘いものが少々苦手で……」
「う、うん。わかった」
戸惑ったようにパラクレタを受け取る琉生がこっそり嬉しそうな様子であるのに気づいている流輝は、ますます顔中に笑みが広がった。
思えば町中には遊びで出かけたことなどなかった気がする。この世界に飛ばされて最初の頃に逃げた時や、琉生を探して迷い込んだ時の思い出しかない。ろくでもない。
それ以外はそれこそいい思い出がないだろうからと市場にも基本的に用事がない限り、そして何人もの付き添いがない限り遊びで出かけるのを禁止されていた。確かにそれはそうなのだが、流輝にとってトラウマになるほどでもない。琉生に一応聞いてみたが「俺が泣き虫でもさすがにトラウマレベルじゃないよ」と笑われた。第一使用人に頼んで買い物について行ったくらいだったなと流輝も思い出す。
どこか腫れ物を扱うように接してきていたかもしれないがこれからは違う、と言っていたモリスが早速いい意味で実行してくれたんだなと思い、流輝はさらに笑みが浮かんだ。
「リキ。兄さん。嬉しいにしても喜びすぎ」
そして琉生に苦笑された。
ゆっくり見たことのなかった町の中心街にある市場は、あんな路地裏があるとは思えないほど活気に溢れていた。店員が呼びかける声や客たちの声、通りがかりの人々の声、たくさんの声が生活音とともに行き交う。
「せっかくですから何か食べられますか?」
フランに聞かれて流輝は「うん」と元気よく頷きながらも辺りを見渡した。どうせ何を売っているのかほぼわからないのだし匂いで判断しようと深呼吸する。
「あっ、ねえ。あれ! あれなに?」
流輝が指差す先を見て、キャスが「ロックラビットの串ですよ」と答えてくれた。
「ろっく……?」
「色んなところで見られる小動物です。岩みたいに硬い角は小物細工くらいにしか役に立ちませんが、肉が食用として使えるんですよ」
「小動物……」
琉生が少し青ざめている。もしかしたら元の世界にいた犬や猫、うさぎやタヌキといった小さな動物を頭に浮かべてしまい、食用と聞いて少し引いているのかもしれない。最近剣の腕とともに何となく強くなってきた気がする琉生だが、まだまだだなと流輝は微笑ましく思った。ちなみに流輝は小動物と聞いても頭に浮かんだのは肉の塊なので問題ない。
「食べますか?」
フランに聞かれて流輝は何度も頭を縦に振った。ちなみに琉生は横に振っている。
「野生のロックラビットの肉は少し硬いんですけどね、食用として育てられている一般的なロックラビットは柔らかくて美味いですよ。特に庶民にとってはカウネスよりもこのロックラビットのほうが定番の肉かもですね。屋台でもこうして串にされてよく売られてます。それぞれ自家製のタレに漬けたものを焼いてるんですよ。シンプルだけど美味いんです。酒にも合う。あ、お二人は酒、駄目ですよ」
フランが買っている間にキャスが説明してくれた。好奇心でいっぱいになっているところにフランが串を差し出してきた。見た目はもちろんのこと、近くで嗅ぐとなおさら美味しそうな匂いがする。
「ルイ。見てみろよ普通の肉だって。大丈夫。味つけもこれはピリ辛とかじゃねえし食べやすいって。一口食ってみねえ? なんかさ、元の世界で食べてた豚みたいな感じ!」
一口食べてやはり美味しかったので琉生に差し出すと、一旦引き気味だった琉生は、思い切ったように頷くと差し出した肉に顔を近づけてきた。そして恐る恐る食べる。
「……、……うん、お肉だ」
「な! フラン。俺、これもう一本食べたい」
「ルイ様は?」
「俺は……そんなにいらない」
「だったら俺のこの食いさし食べろよ。あと二切れほどしかないし。だからフラン、やっぱ串あともう二本で!」
「なあなあフラン。俺はあのパラクレタ食いてぇ」
「黙れキャス」
「パラクレタって何?」
気になった流輝が聞くと穀物の粉と砂糖、ミルク、卵を混ぜた生地を広げて焼いたものだと教えてくれた。多分クレープみたいなものだろうと流輝は何となく把握する。砂糖や塩といったものは言語が違っても元の世界の言葉に変換して考えやすいのでわかりやすいが、料理されたものや元の世界にない素材だといまだにわからないものは少なくない。
黙れ、と言いながらもフランはキャスにパラクレタを買ってあげたようだ。優しい、と内心思いつつ、流輝と琉生はどんなものかキャスに見せてもらった。元の世界のように生クリームたっぷり、とはいかないものの、甘くてジューシーそうな赤い果物だろうか、がまるごと入りつつ、砂糖で煮込まれたのだろうか、柔らかいゼリーのようにもなって中を満たしている。
「……『イチゴ』みたいだ」
じっと見ながら琉生が呟く。
「エペリのパラクレタです。新鮮で甘酸っぱくて美味しいですよ。リキ様とルイ様も食べられます?」
「俺は肉食べてるし……」
ちらりと琉生を見るも、琉生は首を横に振っている。甘いものが実はとてつもなく好きなくせに何故素直に甘いのが好きと言って飛びつかないのか流輝には不思議で仕方がない。フランは「俺は飲み物を買ってきます」と言ってその場を離れたが、すぐに「うっかり間違えてパラクレタを買ってしまいました」と戻ってきた。
「何をどうしたら間違えんの?」
甘いパラクレタを幸せそうに食べていたキャスが唖然とした風に聞いている。
「申し訳ありません。ですが無駄にするのももったいないのでもしよかったらルイ様、食べていただいてもよろしいでしょうか。俺は辛いものが好きな分、甘いものが少々苦手で……」
「う、うん。わかった」
戸惑ったようにパラクレタを受け取る琉生がこっそり嬉しそうな様子であるのに気づいている流輝は、ますます顔中に笑みが広がった。
0
あなたにおすすめの小説
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる