67 / 120
2章 学生編 生きる覚悟
66話
しおりを挟む
以前酒場で怪しげな男に出会って以来、ラントはその酒場へ出向く回数が少々増えた。とはいえあからさまに多くはなっていないので周りから何か言われるほどでもない。
元々その酒場は貴族も出入りするとはいえ、ラントからすれば少々下品な場所だと思っていたため、実はあの時が初めての来店だった。双子に関しての不満を抱えつつ、普段付き合いのある貴族たちが絶対にいなさそうな場所で酒が飲みたくてやってきた場所だった。
そこで出会った男とは今もその酒場に行くたびに同席し、飲んでいる。上品で整った見た目ながらにどこか寒々しく胡散臭い雰囲気のある男は到底信用できるものではないが、その男はラントが酒場へ行くたびにやって来ては声をかけ、酒を奢ってくるせいもあるだろうか。姓も身分も名乗らず、ただの「アーリマン」としか知らない男を信用できるはずもないというのに、結局いつも同席していた。
胡散臭いが……だが決して下賤な者ではないだろう、少なくとも。服装や話し方、マナーからしてもそうだし、そもそもいつもどれだけ飲み食いしようがすべてこいつは何の問題もないかのように支払っているようだしな。
「いい加減、それほど邪魔に思われるなら行動に移すべきでは?」
今も胡散臭そうな笑みを浮かべつつもアーリマンは穏やかな口調でラントに提案してきた。とはいえ内容は穏やかとは到底言えないかもしれない。
「父がやつらをよく思っていないのは間違いないというのに、一切何もしようとしない。それは何か意味があるからだろうし、そうなると俺も何もすべきではないのだろうと考えるしかない」
「お父上は単に保身のためとは考えないのですか?」
「……それも考えた。しかし父は普段、状況を把握した上で上手く利用する方だ。例え身分の高い相手でもうまい汁を飲めるとわかっていればそれを逃さないし、邪魔だと思えば策略を巡らせ上手く事を運ぶ。そんな方がとても忌々しく思っている相手に何もせず手を出さないとなると、間違いなく意味があるはずだ」
「さすがは周りをよく熟知し判断されるラント様です。ご自分のお父上のこともよく把握されておられますね」
「当然だ」
少し得意げな気持ちになりながら、ラントは酒をあおった。するとアーリマンが酒を注いでくる。
双子の話をしていない時はどこから呼ぶのかアーリマンはとても見目のいい女を給仕としてラントのそばへつけてくることもある。その女たちはラントが希望すれば酌などだけでなく、その体さえも差し出してくる。最初の頃は「どこぞの馬の骨とも知れん女など」と断っていたが「女の身元は私が保証しますし、病気を持つ女などは一切おりません」というアーリマンの言葉に仕方なく相手をしてやって以来、気が向けば味わってはいる。その際の場所も、アーリマンがどこぞの屋敷の清潔そうな部屋を提供してくるため、それを利用していた。確かに女どもは清潔な格好をしているしドレスも安物ではなさそうだ。それに見目がいいだけでなく下品な感じもない。
ただ、今は双子の話をしているのもあって女たちはいない。よってラントも仕方なくアーリマンの酌でまた酒をあおった。
「ですがお父上が百パーセント間違いないと言い切れますか? 私からすればあなたのほうが見る目も行動力もありそうな気がしますが」
「ん? ああ、まあ、その可能性は、まあ」
「そんなラント様があの双子を疎ましく思い、邪魔だと判断されるのであれば、やはり間違いなく邪魔者でしかないと私も思います。そもそもそれこそどこの馬の骨かもわからない者だというのに、この間はあろうことか国の代表として四国連合会議が開催されたモールザ王国へ出向いた王女や重臣たちと共にあの双子も出向いたそうではないですか。あなたを差し置いて」
「……そうだ」
それを聞いた時は憤りのあまり、自室でいくつかの花瓶を壊してしまったくらいだった。心底忌々しかった。双子より年上であり実力も才能もあるラントを差し置いて、何故あの双子が同行するのか。ただそれに関してはあのまがい物である王女と仲よくしているから頼み込んで連れて行ってもらったのだろうとは思っている。どうせモールザ王国でも何もできずに馬鹿のように時間を持て余していたに過ぎないのだろうと思っていたが、同じく同行した貴族と知人である、ラントとも知り合いの貴族に話を聞くと実際会議には参加していなかったらしい。やはりな、としたり顔にもなったとはいえ、似た者同士勝手に仲よくすればいいがそれを笠に着て政治などに関わってくるのは許しがたい。
「双子はおそらく、あの身分の低い女の子どもである王女とたまたま知り合いだからとそれを利用しているに過ぎないと思いませんか?」
「ああ、思っている」
「きっと他のことでも似たようなことをしているに違いないでしょう」
「……そうだ、そうに違いない」
「ろくでもない存在です。生きる価値もない」
「……ああ、そうだ」
少々酒を飲みすぎたのか、アーリマンの言葉が妙に頭に響く。だが不快ではない。溶け込んでくるかのようにアーリマンの言葉だけがするりと耳から頭に入り、しみ込むように響く感じというのだろうか。
ラントが頷くと、アーリマンはにっこりと微笑んだ。
元々その酒場は貴族も出入りするとはいえ、ラントからすれば少々下品な場所だと思っていたため、実はあの時が初めての来店だった。双子に関しての不満を抱えつつ、普段付き合いのある貴族たちが絶対にいなさそうな場所で酒が飲みたくてやってきた場所だった。
そこで出会った男とは今もその酒場に行くたびに同席し、飲んでいる。上品で整った見た目ながらにどこか寒々しく胡散臭い雰囲気のある男は到底信用できるものではないが、その男はラントが酒場へ行くたびにやって来ては声をかけ、酒を奢ってくるせいもあるだろうか。姓も身分も名乗らず、ただの「アーリマン」としか知らない男を信用できるはずもないというのに、結局いつも同席していた。
胡散臭いが……だが決して下賤な者ではないだろう、少なくとも。服装や話し方、マナーからしてもそうだし、そもそもいつもどれだけ飲み食いしようがすべてこいつは何の問題もないかのように支払っているようだしな。
「いい加減、それほど邪魔に思われるなら行動に移すべきでは?」
今も胡散臭そうな笑みを浮かべつつもアーリマンは穏やかな口調でラントに提案してきた。とはいえ内容は穏やかとは到底言えないかもしれない。
「父がやつらをよく思っていないのは間違いないというのに、一切何もしようとしない。それは何か意味があるからだろうし、そうなると俺も何もすべきではないのだろうと考えるしかない」
「お父上は単に保身のためとは考えないのですか?」
「……それも考えた。しかし父は普段、状況を把握した上で上手く利用する方だ。例え身分の高い相手でもうまい汁を飲めるとわかっていればそれを逃さないし、邪魔だと思えば策略を巡らせ上手く事を運ぶ。そんな方がとても忌々しく思っている相手に何もせず手を出さないとなると、間違いなく意味があるはずだ」
「さすがは周りをよく熟知し判断されるラント様です。ご自分のお父上のこともよく把握されておられますね」
「当然だ」
少し得意げな気持ちになりながら、ラントは酒をあおった。するとアーリマンが酒を注いでくる。
双子の話をしていない時はどこから呼ぶのかアーリマンはとても見目のいい女を給仕としてラントのそばへつけてくることもある。その女たちはラントが希望すれば酌などだけでなく、その体さえも差し出してくる。最初の頃は「どこぞの馬の骨とも知れん女など」と断っていたが「女の身元は私が保証しますし、病気を持つ女などは一切おりません」というアーリマンの言葉に仕方なく相手をしてやって以来、気が向けば味わってはいる。その際の場所も、アーリマンがどこぞの屋敷の清潔そうな部屋を提供してくるため、それを利用していた。確かに女どもは清潔な格好をしているしドレスも安物ではなさそうだ。それに見目がいいだけでなく下品な感じもない。
ただ、今は双子の話をしているのもあって女たちはいない。よってラントも仕方なくアーリマンの酌でまた酒をあおった。
「ですがお父上が百パーセント間違いないと言い切れますか? 私からすればあなたのほうが見る目も行動力もありそうな気がしますが」
「ん? ああ、まあ、その可能性は、まあ」
「そんなラント様があの双子を疎ましく思い、邪魔だと判断されるのであれば、やはり間違いなく邪魔者でしかないと私も思います。そもそもそれこそどこの馬の骨かもわからない者だというのに、この間はあろうことか国の代表として四国連合会議が開催されたモールザ王国へ出向いた王女や重臣たちと共にあの双子も出向いたそうではないですか。あなたを差し置いて」
「……そうだ」
それを聞いた時は憤りのあまり、自室でいくつかの花瓶を壊してしまったくらいだった。心底忌々しかった。双子より年上であり実力も才能もあるラントを差し置いて、何故あの双子が同行するのか。ただそれに関してはあのまがい物である王女と仲よくしているから頼み込んで連れて行ってもらったのだろうとは思っている。どうせモールザ王国でも何もできずに馬鹿のように時間を持て余していたに過ぎないのだろうと思っていたが、同じく同行した貴族と知人である、ラントとも知り合いの貴族に話を聞くと実際会議には参加していなかったらしい。やはりな、としたり顔にもなったとはいえ、似た者同士勝手に仲よくすればいいがそれを笠に着て政治などに関わってくるのは許しがたい。
「双子はおそらく、あの身分の低い女の子どもである王女とたまたま知り合いだからとそれを利用しているに過ぎないと思いませんか?」
「ああ、思っている」
「きっと他のことでも似たようなことをしているに違いないでしょう」
「……そうだ、そうに違いない」
「ろくでもない存在です。生きる価値もない」
「……ああ、そうだ」
少々酒を飲みすぎたのか、アーリマンの言葉が妙に頭に響く。だが不快ではない。溶け込んでくるかのようにアーリマンの言葉だけがするりと耳から頭に入り、しみ込むように響く感じというのだろうか。
ラントが頷くと、アーリマンはにっこりと微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる