76 / 120
2章 学生編 生きる覚悟
75話
しおりを挟む
「……クソ」
ニヤリと笑ってくる男は長い耳に紫がかった黒髪、そして紫色の目という魔族の典型的な特徴だけでなく、かなり美しい顔立ちをしている。だがどこか寒々しく禍々しい。そして琉生でさえその男の魔力が半端ないとわかったようだった。
「にしてもお前ら人間風情がよくこの結界の中無事ここまで来られたな? それとも光の救世主ともなればただの人間でさえねぇのか? おいアーリィ! 双子ちゃん見つけたぜ」
「アーリィなんて気色の悪い呼び方してくるなアンディ」
一人だけでも面倒だというのにさらに強い気配が感じられる魔族が、同じく瞬時に現れた。アーリィと呼ばれたこの魔族もアンディと呼ばれた魔族と同じ典型的特徴を持つ上にかなり美しい顔立ちをしている。そして同じく禍々しい。
クソ、ルイの調子が悪いってのにこんなのが二人もかよ……いけるか……?
「じゃあちゃんと呼べばいいのか? アーリマ……」
「呼ばなくていい。こいつらが例の双子か……お初にお目にかかります、お二人さん。ずっとお会いしたいと思っていましたよ」
こいつら、などと言ったすぐそのあとに空々しい様子で丁寧に話しかけ、正確な名前はわからないままだがアーリィはボウ・アンド・スクレープと呼ばれる右足を引いて右手を体に添えさせ、左手を横に真っ直ぐ差し出すように伸ばす挨拶をしてきた。皮肉にしか見えない。
流輝はいつでも魔法で攻撃できるよう手に力をそっと込めた。するととってつけたような笑みを浮かべているアーリィが怪訝な顔をしてくる。そしてじっと流輝を見てきた。
「な、何だよ」
「……いえ……。……?」
怪訝な顔のまま流輝を見ていたアーリィは、だがハッとなったように窓のほうへ顔を向けた。
「どうしたんだ?」
「アンディ、外の様子を見てきてくれ。何やらたくさんの人間の気配を感じる」
「マジかよ。どうする? いたら皆殺しか?」
「……いや、やはり俺が行こう。お前はこいつらを見てろ」
「見てろって、おい! 殺るんじゃねーのか、ってもういねえじゃねーか。ッチ。何だよ。さっさと殺しちまったほうが安全だろうが。なあ?」
なあ、とアンディは楽しそうに双子を見てきた。琉生がレイピアを掲げる。
「おいおい、無理すんなよ双子の片割れちゃん。お前ら救世主っつってもまだ成長過程なんだろ? でも大したもんだわ。魔族用の探知結界の中じゃあ、力の弱い人間なら立ってんのもきついはずだからな」
そういうことか、と流輝は理解した。だがそうなると何故自分は眠らされていた分まだ多少靄がかかっていた頭がむしろすっきりしたのだろうと思う。
「うるさい。お前らなどに殺されはしない。それに俺の剣はそんなにやわじゃない」
「無理すんなって! とりあえ……ッチ。アーリィは何してやがんだ。人間が何人も入ってきてんじゃねーか。つかお前ら探知機でもついてんの? すげー真っすぐやってくるおっさんどもがいるんだけど。あーあ。散々いたぶってなぶり殺しにしよーと思ったのにな。面倒なのはごめんだからサクっと殺るわ。じゃあな」
アンディが無駄に喋っている間にその魔力を推し量っていた流輝は、アンディが放ってくる魔法を容易に跳ね返すつもりでいた。だがその前に駆けつけてきた男が双子を庇うように飛び込んでくる。
「っドルフッ?」
咄嗟のこと過ぎてそれを避けられない上に、血は繋がってないとはいえ一応伯父となる相手の名前を流輝は呼び捨てにしてしまった。
「……ぅ……ご、無事ですか」
飛び込んだおかげでむしろ上手く逸れたのか、直撃はしなかったようだが酷い傷をドルフは負ったようだ。
「ぶ、無事です、が、何故伯父上、が……?」
琉生も動揺が隠せないといった様子でドルフを抱えながら聞いている。
「ッチ。邪魔してんじゃねーよ人間のおっさん。まあいい。三人まとめて仲よく殺してやる。感謝しろ」
けっこうな威力の魔法を放ってきたにも関わらず、アンディはさらに強い力を手に掲げた。ハッとなり、流輝は躊躇も忘れてそれよりも強い力を思いきりアンディに放つ。咄嗟のことで普段使っている魔法と全然違う力がアンディめがけて走った。途端にアンディは黒い炎に包まれ、叫び声をあげながら炭となって消え去った。
「リ、リキ……大丈夫……?」
琉生が少し驚きながらも心配そうに見てくる。
「あ、ああ……」
少しドキドキとしていた。今繰り出した魔法に動揺もしていたが、何より自分のやったことに動揺していた。
魔族に会ったのも今日が初めてだった。そして見た目は違うものの人とあまり変わらないようなものを流輝は殺してしまった。
だが感傷に浸っている暇はない。ドルフにも聞きたいことはたくさんあるが、今はここから逃げることが先決だった。
「伯父上、とりあえず歩けますか……?」
「あ……あ。大丈夫、です……」
唖然と流輝を見ていたドルフもハッとなったように頷く。そしてその際に傷が相当痛んだようでうめき声を上げてきた。満身創痍といったドルフに結界のせいで具合の悪い琉生、そして内心動揺している流輝。やはり戦いは避けて思いきり逃げなくてはと思っていると目の前にアーリィがまた現れた。
「そ、んな」
「……アンディを倒した魔法……」
だがアーリィはぼそりと呟くとまた流輝を見てくる。しかしニヤリと笑うと「私の仕事はここまでにします。ではごきげんよう。いずれ機会があればまた」とまた丁寧に挨拶の仕草をしてくると消えてしまった。
ニヤリと笑ってくる男は長い耳に紫がかった黒髪、そして紫色の目という魔族の典型的な特徴だけでなく、かなり美しい顔立ちをしている。だがどこか寒々しく禍々しい。そして琉生でさえその男の魔力が半端ないとわかったようだった。
「にしてもお前ら人間風情がよくこの結界の中無事ここまで来られたな? それとも光の救世主ともなればただの人間でさえねぇのか? おいアーリィ! 双子ちゃん見つけたぜ」
「アーリィなんて気色の悪い呼び方してくるなアンディ」
一人だけでも面倒だというのにさらに強い気配が感じられる魔族が、同じく瞬時に現れた。アーリィと呼ばれたこの魔族もアンディと呼ばれた魔族と同じ典型的特徴を持つ上にかなり美しい顔立ちをしている。そして同じく禍々しい。
クソ、ルイの調子が悪いってのにこんなのが二人もかよ……いけるか……?
「じゃあちゃんと呼べばいいのか? アーリマ……」
「呼ばなくていい。こいつらが例の双子か……お初にお目にかかります、お二人さん。ずっとお会いしたいと思っていましたよ」
こいつら、などと言ったすぐそのあとに空々しい様子で丁寧に話しかけ、正確な名前はわからないままだがアーリィはボウ・アンド・スクレープと呼ばれる右足を引いて右手を体に添えさせ、左手を横に真っ直ぐ差し出すように伸ばす挨拶をしてきた。皮肉にしか見えない。
流輝はいつでも魔法で攻撃できるよう手に力をそっと込めた。するととってつけたような笑みを浮かべているアーリィが怪訝な顔をしてくる。そしてじっと流輝を見てきた。
「な、何だよ」
「……いえ……。……?」
怪訝な顔のまま流輝を見ていたアーリィは、だがハッとなったように窓のほうへ顔を向けた。
「どうしたんだ?」
「アンディ、外の様子を見てきてくれ。何やらたくさんの人間の気配を感じる」
「マジかよ。どうする? いたら皆殺しか?」
「……いや、やはり俺が行こう。お前はこいつらを見てろ」
「見てろって、おい! 殺るんじゃねーのか、ってもういねえじゃねーか。ッチ。何だよ。さっさと殺しちまったほうが安全だろうが。なあ?」
なあ、とアンディは楽しそうに双子を見てきた。琉生がレイピアを掲げる。
「おいおい、無理すんなよ双子の片割れちゃん。お前ら救世主っつってもまだ成長過程なんだろ? でも大したもんだわ。魔族用の探知結界の中じゃあ、力の弱い人間なら立ってんのもきついはずだからな」
そういうことか、と流輝は理解した。だがそうなると何故自分は眠らされていた分まだ多少靄がかかっていた頭がむしろすっきりしたのだろうと思う。
「うるさい。お前らなどに殺されはしない。それに俺の剣はそんなにやわじゃない」
「無理すんなって! とりあえ……ッチ。アーリィは何してやがんだ。人間が何人も入ってきてんじゃねーか。つかお前ら探知機でもついてんの? すげー真っすぐやってくるおっさんどもがいるんだけど。あーあ。散々いたぶってなぶり殺しにしよーと思ったのにな。面倒なのはごめんだからサクっと殺るわ。じゃあな」
アンディが無駄に喋っている間にその魔力を推し量っていた流輝は、アンディが放ってくる魔法を容易に跳ね返すつもりでいた。だがその前に駆けつけてきた男が双子を庇うように飛び込んでくる。
「っドルフッ?」
咄嗟のこと過ぎてそれを避けられない上に、血は繋がってないとはいえ一応伯父となる相手の名前を流輝は呼び捨てにしてしまった。
「……ぅ……ご、無事ですか」
飛び込んだおかげでむしろ上手く逸れたのか、直撃はしなかったようだが酷い傷をドルフは負ったようだ。
「ぶ、無事です、が、何故伯父上、が……?」
琉生も動揺が隠せないといった様子でドルフを抱えながら聞いている。
「ッチ。邪魔してんじゃねーよ人間のおっさん。まあいい。三人まとめて仲よく殺してやる。感謝しろ」
けっこうな威力の魔法を放ってきたにも関わらず、アンディはさらに強い力を手に掲げた。ハッとなり、流輝は躊躇も忘れてそれよりも強い力を思いきりアンディに放つ。咄嗟のことで普段使っている魔法と全然違う力がアンディめがけて走った。途端にアンディは黒い炎に包まれ、叫び声をあげながら炭となって消え去った。
「リ、リキ……大丈夫……?」
琉生が少し驚きながらも心配そうに見てくる。
「あ、ああ……」
少しドキドキとしていた。今繰り出した魔法に動揺もしていたが、何より自分のやったことに動揺していた。
魔族に会ったのも今日が初めてだった。そして見た目は違うものの人とあまり変わらないようなものを流輝は殺してしまった。
だが感傷に浸っている暇はない。ドルフにも聞きたいことはたくさんあるが、今はここから逃げることが先決だった。
「伯父上、とりあえず歩けますか……?」
「あ……あ。大丈夫、です……」
唖然と流輝を見ていたドルフもハッとなったように頷く。そしてその際に傷が相当痛んだようでうめき声を上げてきた。満身創痍といったドルフに結界のせいで具合の悪い琉生、そして内心動揺している流輝。やはり戦いは避けて思いきり逃げなくてはと思っていると目の前にアーリィがまた現れた。
「そ、んな」
「……アンディを倒した魔法……」
だがアーリィはぼそりと呟くとまた流輝を見てくる。しかしニヤリと笑うと「私の仕事はここまでにします。ではごきげんよう。いずれ機会があればまた」とまた丁寧に挨拶の仕草をしてくると消えてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる