114 / 120
4章 帰還編 双神の輪
113話
しおりを挟む
座り込んだまま聖杯を見ていると、そこに満ちていた光が五芒星の線に囲われた中をも満たしていく。その光はそのまま浮かび上がるようにさらに光り出し、辺りは眩しい輝きに包まれた。
その光の中に、人の姿が見える。男女どちらともわからないその存在を、流輝は昔から何度も何度も夢の中で見ていたことに気づいた。そして本能的に確信した。
ああ……アリータ神、だ。
そのアリータ神が二人に近づいてきた。その顔が見えた時、二人の脳裏に映像のようにこれまでの「光の救世主」の様子が浮かんでは消えていった。まるで走馬灯のように、時を遡るかのように、五人目、四人目、三人目と歴代の救世主の姿が、数々の記憶が浮かんでは消えていく。
彼らは二人と同じ世界から召喚されていたり、全く違う世界から召喚されていたりと様々だった。
愛おしい者を振り切って自身の世界へ悲しみを抱えながら帰還した救世主のことは、流輝は夢でも見たような気がする。というか見た夢を今の今までどれもことごとく忘れていたことに気づいた。
あまりに早い勢いで時が遡るせいで、時の流れにまるで少し激しい音楽を聞いているかのような錯覚を感じる。
そして流輝は見た。
一人の錬金術師が苦しむ姿を。
待って、これも……俺は夢で、見た。
穢れも何も知らない純粋な魂故に、ひたすら苦しみ、悲しみ、嘆いた錬金術師は、ずっと行っていた魔力の研究により闇の魔力を生み出してしまった。
身分の低さから受けていた迫害だけでなく、研究も認められず、飢えとともにつらい環境にいた錬金術師は潜在的に持っていた力と精神の不安定さも相まって、人間が扱ってはならないとされる能力を生み出したことになる。
闇の力は謎も多く、人間にとって恐ろしいものと見なされていた。それに闇だけでなく光も神が扱うものとして、人間は触れることすら禁忌と言われていた。
だが錬金術師は寂しさもあり、さらに闇の力で「魔獣」を作り出し、次に自分のしもべとして「魔族」を生み出した。魔族は闇の力を使った人体実験の結果であり、禁忌を超えた禁忌としか言いようのない行為だった。
見た……俺はこれを夢で、見た。なんでこんな夢を忘れていられたんだろう俺は。
だが夢で見ていないところも今は見えていた。
世界はそれが原因で魔獣が蔓延るようになる。魔族が人間を滅ぼそうとするようになる。
「あ……、あ」
流輝は体をがたがたと震わせた。そんな流輝に関わらず、浮かぶ出来事はどんどん遡っていく。最後にアリータ神と、そしてもう一人、双子の神の姿が見えた。
琉生も理解した。
二人は今、全ての真実と記憶を取り戻した。
「そんな……。まさか……まさか」
流輝は蒼白になり、足元から崩れ落ちるかのように倒れ込む。琉生はそんな流輝を支え、抱きしめた。
「……俺……、俺……。……そうだ、何度か俺、闇魔法の攻撃を受けたこと、あった……でもそれらが効いたこと、なかった、んだ……」
気のせいだろうかと首を傾げたりもしたが、今ならわかる。
「俺が……闇の神、モリーナだからだ」
光の神、アリータの双子の片割れであり、そして魔族たちが「魔王」として崇拝していた存在。それがモリーナであり、流輝はモリーナが転生した姿だった。
「そりゃ……そう、だよな。闇の神だもんな、闇魔法が効くわけ、ねーわ……」
元々は双子の創造神として、アリータとモリーナは存在していた。
アリータ神は剣技に優れ「癒し」と「浄化」の力を持っていた。
モリーナ神は魔法に優れ「安らぎ」と「眠り」の力を持っていた。
闇の神、モリーナも本来は心優しく正義感に溢れた神だった。闇の力も決して恐ろしいものではなく「安らぎ」「眠り」といった風に、穏やかで優しい力だった。
二人は自分たちが創造した世界を見守っていた。そうしているうちに、純粋で心優しいモリーナ神は人間に憧れるようになる。そしてモリーナ神は引き留めるアリータ神にどうしてもと別れを告げ、人間の世界へ降り立った。その魂はアリータ神の世界で人間として生まれ変わる。
だが人間の住む地上で生きていくには、真っ白で純粋な神であったモリーナ神にはあまりにも過酷だった。上から見守っているのと現実として生きるのでは全く勝手が違った。
モリーナ神の魂を持つ人間は嘆きや苦しみを何度も何度も経験しては生まれ変わりを繰り返した。そして何度目かの生、それが錬金術師だった。
元々闇の神であった魂を持つ錬金術師は不安定な精神の元で闇の魔力を作り出す。禁忌を重ね、人間の世界での闇に魅入られたモリーナ神の魂は、とうとう恐ろしい実験をしてしまった。
闇の魔力で魔獣を作り出し、エルフの亡骸を使って魔族を生み出した。その結果、人間の世界には魔獣が蔓延るようになった。気づけば人間であったはずが、魔王と呼ばれるようになっていた。
その後我に返り、自身の犯した罪の恐ろしさを思い知った。
アリータ神はどうしてもモリーナの魂を助けたかった。だが神は加護を送ることはできても直接干渉できない。
だからアリータ神は自分の親なる存在であるアスルガルタの元へ向かった。
アスルガルタは人間の創造神である双子のアリータとモリーナという神を作った聖神だ。人間には知られていない存在だが、全ての属性を兼ね備え絶対的権限を持っている。その姿は人の形を取っておらず、眩い靄につつまれたような状態としか双子の神も把握していない。
そんなアスルガルタならば人間の世界にも干渉できる。
その光の中に、人の姿が見える。男女どちらともわからないその存在を、流輝は昔から何度も何度も夢の中で見ていたことに気づいた。そして本能的に確信した。
ああ……アリータ神、だ。
そのアリータ神が二人に近づいてきた。その顔が見えた時、二人の脳裏に映像のようにこれまでの「光の救世主」の様子が浮かんでは消えていった。まるで走馬灯のように、時を遡るかのように、五人目、四人目、三人目と歴代の救世主の姿が、数々の記憶が浮かんでは消えていく。
彼らは二人と同じ世界から召喚されていたり、全く違う世界から召喚されていたりと様々だった。
愛おしい者を振り切って自身の世界へ悲しみを抱えながら帰還した救世主のことは、流輝は夢でも見たような気がする。というか見た夢を今の今までどれもことごとく忘れていたことに気づいた。
あまりに早い勢いで時が遡るせいで、時の流れにまるで少し激しい音楽を聞いているかのような錯覚を感じる。
そして流輝は見た。
一人の錬金術師が苦しむ姿を。
待って、これも……俺は夢で、見た。
穢れも何も知らない純粋な魂故に、ひたすら苦しみ、悲しみ、嘆いた錬金術師は、ずっと行っていた魔力の研究により闇の魔力を生み出してしまった。
身分の低さから受けていた迫害だけでなく、研究も認められず、飢えとともにつらい環境にいた錬金術師は潜在的に持っていた力と精神の不安定さも相まって、人間が扱ってはならないとされる能力を生み出したことになる。
闇の力は謎も多く、人間にとって恐ろしいものと見なされていた。それに闇だけでなく光も神が扱うものとして、人間は触れることすら禁忌と言われていた。
だが錬金術師は寂しさもあり、さらに闇の力で「魔獣」を作り出し、次に自分のしもべとして「魔族」を生み出した。魔族は闇の力を使った人体実験の結果であり、禁忌を超えた禁忌としか言いようのない行為だった。
見た……俺はこれを夢で、見た。なんでこんな夢を忘れていられたんだろう俺は。
だが夢で見ていないところも今は見えていた。
世界はそれが原因で魔獣が蔓延るようになる。魔族が人間を滅ぼそうとするようになる。
「あ……、あ」
流輝は体をがたがたと震わせた。そんな流輝に関わらず、浮かぶ出来事はどんどん遡っていく。最後にアリータ神と、そしてもう一人、双子の神の姿が見えた。
琉生も理解した。
二人は今、全ての真実と記憶を取り戻した。
「そんな……。まさか……まさか」
流輝は蒼白になり、足元から崩れ落ちるかのように倒れ込む。琉生はそんな流輝を支え、抱きしめた。
「……俺……、俺……。……そうだ、何度か俺、闇魔法の攻撃を受けたこと、あった……でもそれらが効いたこと、なかった、んだ……」
気のせいだろうかと首を傾げたりもしたが、今ならわかる。
「俺が……闇の神、モリーナだからだ」
光の神、アリータの双子の片割れであり、そして魔族たちが「魔王」として崇拝していた存在。それがモリーナであり、流輝はモリーナが転生した姿だった。
「そりゃ……そう、だよな。闇の神だもんな、闇魔法が効くわけ、ねーわ……」
元々は双子の創造神として、アリータとモリーナは存在していた。
アリータ神は剣技に優れ「癒し」と「浄化」の力を持っていた。
モリーナ神は魔法に優れ「安らぎ」と「眠り」の力を持っていた。
闇の神、モリーナも本来は心優しく正義感に溢れた神だった。闇の力も決して恐ろしいものではなく「安らぎ」「眠り」といった風に、穏やかで優しい力だった。
二人は自分たちが創造した世界を見守っていた。そうしているうちに、純粋で心優しいモリーナ神は人間に憧れるようになる。そしてモリーナ神は引き留めるアリータ神にどうしてもと別れを告げ、人間の世界へ降り立った。その魂はアリータ神の世界で人間として生まれ変わる。
だが人間の住む地上で生きていくには、真っ白で純粋な神であったモリーナ神にはあまりにも過酷だった。上から見守っているのと現実として生きるのでは全く勝手が違った。
モリーナ神の魂を持つ人間は嘆きや苦しみを何度も何度も経験しては生まれ変わりを繰り返した。そして何度目かの生、それが錬金術師だった。
元々闇の神であった魂を持つ錬金術師は不安定な精神の元で闇の魔力を作り出す。禁忌を重ね、人間の世界での闇に魅入られたモリーナ神の魂は、とうとう恐ろしい実験をしてしまった。
闇の魔力で魔獣を作り出し、エルフの亡骸を使って魔族を生み出した。その結果、人間の世界には魔獣が蔓延るようになった。気づけば人間であったはずが、魔王と呼ばれるようになっていた。
その後我に返り、自身の犯した罪の恐ろしさを思い知った。
アリータ神はどうしてもモリーナの魂を助けたかった。だが神は加護を送ることはできても直接干渉できない。
だからアリータ神は自分の親なる存在であるアスルガルタの元へ向かった。
アスルガルタは人間の創造神である双子のアリータとモリーナという神を作った聖神だ。人間には知られていない存在だが、全ての属性を兼ね備え絶対的権限を持っている。その姿は人の形を取っておらず、眩い靄につつまれたような状態としか双子の神も把握していない。
そんなアスルガルタならば人間の世界にも干渉できる。
0
あなたにおすすめの小説
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる