ヒロイン効果は逃れられない

Guidepost

文字の大きさ
8 / 45

8話

しおりを挟む
 家に戻ってきた翌年、フィンリーの父親がとうとう再婚してしまった。ずっと亡くなった最愛の妻を思っているのでと周りからの話を断り続けていたらしいが、王からも「そろそろよいのではないか」と言われてしまったようだ。皇帝派の代表とも言えるシューリス家当主としてはもう断ることもできなかったのだろう。
 ゲームの流れを担う大きな出来事の一つが来る。しかもゲームのヒロインは継母やその連れ子と上手くいっていなかった。シンデレラかよと思った記憶があるくらいだ。継母がヒロインを嫌って苛めてくるのをさすがに父親は知らなかったが、雰囲気は滲み出るのだろう。ただでさえ渋々受けた再婚だったのもあり夫婦仲もすぐに悪くなったはずだ。そのゲーム設定を思うとフィンリーは憂鬱でしかなかった。
 だが蓋を開けてみれば全然問題なかった。継母としてやってきた人は父親よりわりと若い上にとても綺麗だった。頭の中が永遠の二十三歳男でもあるフィンリーとしては美人が来たと思わずテンションが上がったくらいだ。実際にフィンリーの体もその年齢に伴っていたら夜のお供に、乙女ゲーあるあるではなくそれこそAVあるあるな「義母とのいけない秘密の遊び」なるものを妄想してしまっていたかもしれない。残念なが……いや、幸いなことに実際は十三歳のいたいけな少年なので、新しい綺麗なお母さんという存在に心を弾ませておく。
 そしてゲームでは悪役令嬢という重要な立ち位置であった一つ年下の妹となるアイリス。この少女がまたとても可愛かった。赤っぽい茶色の長い髪はくるくると跳ねている。いや巻いていると言うのだろうが、ゲームのイラストで見たようなきつい縦巻きロールではなく自然に見えて悪くない。そして青緑色をしたキツめのつり目はフィンリーからすれば愛嬌さえ感じられた。身長はまだ今のところフィンリーと変わらないがさすが女の子というのだろうか、華奢で柔らかそうな様子にただでさえ前世では相当兄属性であったフィンリーは別に敵に襲われるゲームではないというのに全てのものから守ってやりたくて仕方なかった。
 桃から聞いたりゲームのサイトで見たりしたアイリス・シューリスの設定では継母の連れ子であり血の繋がらない一つ違いの妹となるが、最初から互いに一人っ子だったのもありどう接したらいいかわからないまますれ違っていく。その後攻略対象であるこの国の第二王子にアイリスは一目ぼれをして権威を利用し婚約者となったが、その第二王子がヒロインに好意を寄せてきたことをきっかけに、嫉妬から嫌がらせをするようになる。継母も愛を得られない夫が唯一大切にしている娘だけによく思っておらず、ますます悪い方向へいくばかりだった。攻略キャラたちはそんな中健気にも懸命に明るく過ごそうとしているヒロインをますます好きになっていくという展開だ。

 男である俺からすれば健気な女の子は確かに悪くないけどさ、乙女ゲーだろ。女子の皆さんもそういう女の子ありなの。

 そんな疑問を桃にぶつけてみると「他は知らないけど私は嫌いじゃないよフィンリーちゃん。顔が可愛いから。あと攻略キャラがヤバい感じのイケメンだからそれで十分」などとよくわからない答えが返ってきたのを思い出す。

 とりあえず家族仲に関しては回避できるなこれ。

 フィンリーは新しくできた美人の母親と可愛い妹にホクホクしながら思った。
 継母は最初こそフィンリーに対して多少よそよそしかったが、ひたすら懐く義理の息子を嫌うほど嫌な性格でないこともすぐにわかった。むしろ新しい家族と上手くやっていけるのかとても不安に感じていたようだ。再婚とはいえさすがに新婚である父親を仕事に縛り付けるほど、王の宮殿は血も涙もない職場ではないようで父親もしばらく家にいたが、最愛だった先妻の残した大切な息子が難しい年齢ながらにとても懐いている女性に対して、気づけば関心を寄せていたようだ。きっと二人はいい夫婦になれるに違いないと中身は大人なフィンリーはニヤリと思う。
 アイリスもやはり最初はどう接したらいいかわからない様子で素直ではなかったが、そんなこと全く気にしない妹ひたすら可愛い兄により、すぐ打ち解けてきた。そうなるとますます可愛くなるのも仕方がない。ジェイクはといえばフィンリーの妹として敬意をもって接している。また、ゲームではヒロインの世話係でいて友人枠だったメアリだが、現状ではアイリスと何故か気が合うようで気づけばとても仲良くなっていた。メアリは多分このままアイリスの世話係になるだろうと言われている。一見タイプの合わなさそうな二人だけにどんな話をしているのだろうと、この間たまたま聞こえてきた会話をマナーが悪いと承知の上でこっそり聞いてみた。

「わかりますアイリス様。穏やかな雰囲気に溢れているのにとても快活で明るくて優しくて」
「でしょう。とても素敵。あのミルクティーのような淡い髪の色がまたぴったりよね」

 よくわからないがどうやら誰かについて熱く語っているらしい。あまり立ち聞きするのも何だしとその場を離れながらフィンリーは首を傾げた。前世ならアイドルの話かと思うところだが、あいにくこの世界にそういったメディアはない。ただヒントはあった。ミルクティーのような淡い髪の色だ。俺もそうだけど、と思いつつ自分のわけがないとはわかっている。多分リースのことだろう。あの年齢の少女なら年上で美形で背も高い優しくて穏やかな、しかも身分も高い青年に対して憧れない訳がない。

 ……でもリースって快活か? 俺の見てないところでは元気なのか? 元気なリース……、はは。ちょっと想像つかないな。もしくは憧れるあまりの妄想か?

 どちらにしても可愛らしいことだと小さく笑った。ちなみにメアリを彼女候補と考えるのはすでに諦めている。相変わらず美人だし素敵な女の子だとは思うが、身近過ぎるというかジェイクの双子だけに色々と似ているため、やはりそういった目線で見ることはできない。素敵な一つ年上のお姉さんといったところだろうか。
 ところで前世では妹に彼氏ができるなんて耐え難いとさえ思っていたが、今はそうも言っていられない。アイリスがゲーム設定どおりに王子と婚約して上手くいってくれてもいいし、今言っていたようにリースを憧れから恋愛目線で見るようになって上手くいってくれてもフィンリーとしてはありがたいことだったりする。第二王子のカリッドは俺様で偉そうだったが桃は「俺様なんだけどそこが妙に純粋さ感じる」とも言っていた。しかもゲームプレイヤーの中では一番人気らしい。ということはよく知るといいやつなのかもしれない。だからアイリスが設定どおり好きになるのなら全面的に応援したい。

「アイリス……お兄ちゃんは心から応援するからな」

 ぐっと片手を握りしめていると「何を応援するんです?」と後ろから聞かれた。

「……ジェイク。頼むからいつの間にか俺の後ろにいるっての、そろそろやめてよ」
「じゃあ隣にいます」
「そうじゃねぇ……。つかいくら仕事だからってそんなずっとくっついてなくていいから。ジェイクの好きなことして過ごしなよ」

 いくら友人として付き合えていても最低限の警戒はしておくべきだし、そもそもジェイクも他に仕事があるだろうし、何か好きなことをしてゆっくり過ごす時間も必要だろう。

「そうはいきませんし、そもそもオレは好きに過ごしてますが」
「……。っだいたいジェイクはまだ俺の世話係でもないだろ」
「来年正式になりますし、正式だろうが仮だろうがオレにとっては何ら変わりありません」

 ジェイクはにっこりと微笑んだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。

Q矢(Q.➽)
BL
愛する人達を守る為に、俺は戦いに出たのに。 満身創痍ながらも生き残り、帰還してみれば、とっくの昔に彼は俺を諦めていたらしい。 よし、じゃあ、もう死のうかな…から始まる転生物語。 愛しすぎて愛が枯渇してしまった俺は、もう誰も愛する気力は無い。 だから生まれ変わっても君には会いたく無いって願ったんだ。 それなのに転生先にはまんまと彼が。 でも、どっち? 判別のつかないままの二人の彼の愛と執着に溺死寸前の主人公君。 今世は幸せになりに来ました。

猫になった俺、王子様の飼い猫になる

あまみ
BL
 車に轢かれそうになった猫を助けて死んでしまった少年、天音(あまね)は転生したら猫になっていた!?  猫の自分を受け入れるしかないと腹を括ったはいいが、人間とキスをすると人間に戻ってしまう特異体質になってしまった。  転生した先は平和なファンタジーの世界。人間の姿に戻るため方法を模索していくと決めたはいいがこの国の王子に捕まってしまい猫として可愛がられる日々。しかも王子は人間嫌いで──!?   *性描写は※ついています。 *いつも読んでくださりありがとうございます。お気に入り、しおり登録大変励みになっております。 これからも応援していただけると幸いです。 11/6完結しました。

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

処刑されたくない悪役宰相、破滅フラグ回避のため孤独なラスボス竜を懐柔したら番として溺愛される

水凪しおん
BL
激務で過労死した俺が転生したのは、前世でやり込んだBLゲームの悪役宰相クリストフ。 しかも、断頭台で処刑される破滅ルート確定済み! 生き残る唯一の方法は、物語のラスボスである最強の”魔竜公”ダリウスを懐柔すること。 ゲーム知識を頼りに、孤独で冷徹な彼に接触を試みるが、待っていたのは絶対零度の拒絶だった。 しかし、彼の好物や弱みを突き、少しずつ心の壁を溶かしていくうちに、彼の態度に変化が訪れる。 「――俺の番に、何か用か」 これは破滅を回避するためのただの計画。 のはずが、孤独な竜が見せる不器用な優しさと独占欲に、いつしか俺の心も揺さぶられていく…。 悪役宰相と最強ラスボスが運命に抗う、異世界転生ラブファンタジー!

婚約解消されたネコミミ悪役令息はなぜか王子に溺愛される

日色
BL
大好きな王子に婚約解消されてしまった悪役令息ルジア=アンセルは、ネコミミの呪いをかけられると同時に前世の記憶を思い出した。最後の情けにと両親に与えられた猫カフェで、これからは猫とまったり生きていくことに決めた……はずなのに! なぜか婚約解消したはずの王子レオンが押しかけてきて!? 『悪役令息溺愛アンソロジー』に寄稿したお話です。全11話になる予定です。 *ムーンライトノベルズにも投稿しています。

処理中です...