ヒロイン効果は逃れられない

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17話

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 案の定、フィンリーの近くまでやって来た男はとても心当たりのある外見特徴をしていた。最後の攻略対象に違いないとしか思えない。
 ちなみに最後の攻略対象の名前はアート・トラウトンといってゲーム設定では二十四歳と攻略キャラの中で一番年上だ。カリッドとジェイクが十八歳、デイリーが二十二歳、リースが二十三歳と、皆さほど変わらないのだが、今改めて自分より年下がいないことにフィンリーは気づいた。感覚的にはジェイクが下に思えることも昔はあったが、自分や周りが前世の年齢に近くなってきているからか、相手が可愛くない成長をしているからか、今では残念ながらそんな風に思えなくなってきている。
 アートは身長も確か攻略対象の中で一番高かったように思う。髪はオレンジっぽい茶色をしておりタレ目気味の目も茶色だったはずだ。目の前の男が持つ特徴と一致する。軟派な雰囲気というところまで相違ない。ちなみに前世では名前に何も思う所はなかったが、今改めて思い出すとどこかで聞いたことのある姓だなと何となく思った。

「俺、喧嘩強いよー? あっという間にのしてしまうから覚悟しな」

 こんな場だというのに楽しげに言う口調もどこか軽い。ただでさえフィンリーにやられっぱなしの上に、長身でそれなりにしっかりとした体つきの男が加わったことで一気にやる気が落ちたのだろう。男たちは「覚えてやがれ」という、あるあるながらに実際はリアルでなど聞いたことなんてなかった捨て台詞を残し、あっという間に逃げていった。

「お兄さん見かけによらず強いねー。でも大丈夫だった?」
「……はい、ありがとうございます」
「あ、俺のが年上だから敬語なのかな。よかったら普通に喋ってよ。そのほうが気楽でよくない?」
「いえ、知らない方ですし……」
「だったら友だちになればいいんじゃない? 俺アート。アート・トラウトン。あんた……って、どうしたのっ?」

 名乗られた瞬間に決定打を打たれ、顔を両手で覆いながら天を仰いだフィンリーにアートはぎょっとしたように聞いてきた。

「……いえ。ちょっとしたことで。……あと感謝はしてますが別にお友だちになる必要はなくないですか」

 親しくならずこのまま別れればいいじゃないかとフィンリーは何でもないような素振りで言い放った。失礼な態度を人になるべく取りたくない性質だけに心苦しさはあるが致し方ない。

「そんなこと言うなよー。そうだ。俺ちょうど今から何人かの友だちと飲む予定だったんだよ。綺麗なお姉ちゃんもいるぞ? 年上の女は嫌いか?」
「フィンリーと言います、よろしくお願いします」

 そんなことを聞いてしまってはそう答えざるを得ない。即答したフィンリーに対し、アートが吹き出した。

「ぶは。お前面白いな。敬語やめたら連れてってやるよフィンリー」
「ああ、よろしく、アート」

 綺麗なお姉さん方とは望む形では親しくなれなかったが、皆いい人ばかりだった。こんな風にわいわいと酒を飲んだのは前世以来だ。正直、楽しかった。

「でさ、フィンリーってどっちかっつーと喧嘩になる前に泣いちゃいそうだろ」
「やんちゃそうだけど細っこいもんな」
「可愛い綺麗な顔してるもんね」
「ちょっとやめてくれないか、寄ってたかって。俺これでも結構筋肉あるんだからな」

 アートの話に皆がうんうん頷いていることにムッとしたフィンリーはシャツの腕をまくり、力こぶを作って見せた。

「ほんとだ、意外にあるね」
「悪くないじゃん」
「めっちゃあるってほどじゃないけど……うん、思ったよりあるね」
「実際にさー、こいつめっちゃ喧嘩強かったんだよね。何人もいたのに物怖じせずで軽々と投げたり蹴ったり。俺一気に気に入っちゃってさ」

 周りがわいわいフィンリーの腕について口にしていると、アートが楽しげにジェスチャー付きで続けてきた。
 気に入ったという言葉に、フィンリーこそ一気に酔いがさめる。だがアートは気に入ったと口にしながらも通りかかった女性に「マリアンヌ、今日こそ俺と付き合って」などと気軽に口説いている。どうやら普通に男として気に入ったという意味だとわかり、ホッとした。
 しばらく楽しんだがさすがにジェイクに悪いなと思い、フィンリーは皆と別れてジェイクを探すことにした。

「短い時間だったけど楽しかったよ、アート」
「俺も楽しかった。お前この近くに住んでんの? 見かけたことなかったけど引っ越してきたとか?」
「ちょっと離れたとこからたまたま来たんだ」
「そっか。じゃあもうここには来ないかもなのか?」
「……いや、また来るよ。その時は遊びに来てもいい?」
「もちろんだよ。この店かもしくはあの店によくいる。ああ、それとも家に来てくれてもいい。トラウトン商会ってわかるか」

 ああ、聞いたことのある姓だと思ったのは間違いではなかったかとフィンリーは納得した。前世ではただのキャラクターとしてしか把握していなかったが、現世ではフィンリー自身もこの世界で生活をしている。自分の領地にある大きな商会を知らないはずもない。アートはそういえばゲームでの紹介にも「商家の息子」とあったのをぼんやり思い出した。とりあえず帰ったらベラムに書いてある内容を読み返そうと心に誓う。

「うん、わかるよ」
「そっか。俺、そこの息子だから直接来てくれたら誰かしらいるからさ、俺に用事だって声かけてみてくれ」
「わかった。じゃあまたな」
「おう。気をつけて帰れよ」

 路地で襲われていたところに出くわしたにも関わらず、途中まで送ろうという発想すらないところがむしろフィンリーとしては好感度が上がった。ちゃんと男友だちとして扱ってくれているということだ。
 その後すぐにジェイクを見つけた、というか見つかった。見つけた瞬間、ジェイクは人目をはばからずフィンリーを抱きしめてきた。よほど必死になって探していたのだろう。やはりさすがに申し訳ないなと思った。

「……酒臭い」
「その、ごめんって。実は悪そうなやつらに喧嘩吹っかけられてたんだけど助けてくれた人がいてさ。その人と仲良くなって何人かで飲んでた」
「どういうことですか……何をやってるんです。……とりあえずその悪そうなやつらの顔は覚えてますか。一人一人特徴を述べていただきますからね。あと助けたというヤツ。そいつも誰かわかっているなら聞いておきましょうか」
「アートも? お礼でもすんの?」
「……アート? お礼? ああ、そうですね」

 頭に過ってもいなかったといった口調の返答に、フィンリーはあまり教えたくない気がとてつもなくしてきた。
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