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6話
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伊吹は布団に潜り、まとまらない頭をひたすら捻ろうとしていた。
え、っと?
彼女に振られ男友達と飲んだ帰りに芳から声をかけられた。あまりの懐かしさと、避けられていたのではと思っていたのもあって伊吹はものすごく嬉しかった。また昔に戻れるだろうかとも思ったかもしれない。
芳はとても大人になっていてますます格好がよかったが、中身は昔の芳お兄ちゃんのままだと思った。
優しくて伊吹を甘やかせてくれる大好きな芳──
「……俺が昔、お前を避けてたのは、知ってた?」
「お前のこと、好きだからだ、好きだから避けていた」
えっと……。
好き、とは。
「違うんだ、そういう好きじゃない。伊吹のこと、恋愛対象として、好きだ」
流れはまとまっている。何一つごちゃごちゃとしていない。いたってシンプルだ。
だが伊吹の心がその流れに追いついていないというか、流れは記憶しているというのに把握できていない。
いや、だって何?
好きって、何?
そりゃ俺も好きだよ、芳のこと、嫌いな訳ない。だが近所のお兄ちゃんだったんだぞ。
あの後のことを思い返してもまだピンとこない。言われた言葉に内心では返事や疑問を投げつつも、伊吹はほとんど喋ってなかった。
「さすがに小さい頃は純粋に大事な弟みたいに思ってた。だけどもお前が中学生になって……俺は……」
それは、もしかして伊吹を避けるようになった頃のことなのだろうか。
「そんなの、許しがたい裏切りだとさえ思った。そして叶うはずのない想いだ。だから、もう会ってはいけないと思った。それでこっちの大学を受けたんだ」
やっぱり。
「でも、駄目だ。お前を見たら、駄目だ。やっぱり好きで……彼女がいるなら仕方がないとも思ったが……いないのなら」
男らしく、だが綺麗で整った顔が近づく。
え、待って。そんな、ちょっと待って、だって、だってその、俺ら男同士だよ?
そりゃ芳はカッコいいけど、憧れるくらい素敵だけど、でも待って、そんな──
思わずぎゅっと目を瞑りかけたところでふわりと抱き寄せられた。そして優しく抱いてきたかと思うと伊吹を離し、同じく優しく笑いかけてくる。
「わかっただろう? だから同じ部屋で寝るのは駄目だ。リビングに敷いたし、必要なものがあれば何でも勝手に使っていい。じゃあ、おやすみ」
「え? あ、え」
伊吹が戸惑っている中、芳は自室らしい部屋に引っ込んでしまった。そして今に至る。
布団の中で改めて「えっと」と小さく呟く。
キス、されるかと思った。いや、もちろんされたいのではない。
「うん。されたいんじゃない。だって」
だって芳は男で俺も男だ。
小さな頃は兄弟のようにずっと一緒で仲良く過ごしたとはいえ、実際は兄弟ではない。だからそこは問題ないのだが、そもそも男同士だ。
あの時も「待って」と焦った。ただ、あのままされていたら自分はどう思ったのだろう。
気持ち悪いと思った?
いや、まさか。芳に対して気持ち悪いなどと。
だが男だ。いや、それでも芳なのだ。
伊吹はため息をついた。混乱する。
わかっているのは、別に自分からキスをしたいと思ってはいなかったということだ。そんな気持ちを芳に対して持ったことがなかった。大好きな人だけれども、あくまでも近所のお兄ちゃんとして大好きだった。
だが、あのままキスをされていた場合、自分がどんな反応をしたのかはわからない。
もう一度、ちゃんと芳と話をするべきだろうかとも思った。好きだと言われて伊吹は何も答えていないし、芳も返事を求めてこなかった。芳は、こういう感情を持っているから一緒の部屋では寝られない、とだけ口にしたことになる。
ただ、それだけだから余計混乱しているのではないだろうか。
彼女にはよく何かを言われた後に答えを求められた。答えなければずっと問われていた気がする。
好きだから知りたいのだと言われたことがある。なるほど、だから答えがないと落ち着かないのかと一応理解し、伊吹もなるべく問いに対する答えを出すようにした。答えようのないことに対しても、なるべくがんばった。
知らないうちにそれに慣れていたのだろうか。芳の話は答えが必要そうな内容だったにも関わらず、途中でよくわからないまま締められた。それが妙に落ち着かない気がする。
だからといってドアを開けてあの部屋へ入るのは駄目だろう。芳は伊吹に向かって好きだからだと言った。だから同じ部屋では寝られない、と。
その部屋へ自ら入るなど、まるでそれこそそのつもりがなくとも勝手にこちらが答えを提供しているようなものだ。芳がするはずないとはいえ、無理やり襲われても文句はいえない行動だ。
「はぁ」
別に考える必要はない。芳は何も答えや結果を求めていなかった。事実を口にしただけだ。
ただ、だからといって「そうですか」と流せる内容ではない気がする。
芳と疎遠になってはいたが、伊吹にとって芳はずっとそれでも大好きな近所のお兄ちゃんという存在だった。しかも芳は自分の気持ちを晒してまで「こういう理由だから一緒に寝られない」と説明してくれた。伊吹だったら絶対そんな時は適当に誤魔化していたのではないだろうか。もしくはさすがに襲うまではしなくとも、流れに任せてキスくらいやらかしていたかもしれない。
こちらが家にお邪魔しているというのにそんな誠実な態度をしてくれた芳の気持ちを、なかったことのように流してしまっていいのだろうか。
だからといって、じゃあ気持ちに答えます、という訳にもいかない。芳が元々男が好きなのか、基本的に女が好きでも伊吹は別なのかはわからないが、少なくとも伊吹は女が好きだ。
「ああもう」
ひたすら頭を捻ろうとして、実際捻っていたのは体のほうだったせいで布団どころかシーツまでぐしゃぐしゃになってしまった。
え、っと?
彼女に振られ男友達と飲んだ帰りに芳から声をかけられた。あまりの懐かしさと、避けられていたのではと思っていたのもあって伊吹はものすごく嬉しかった。また昔に戻れるだろうかとも思ったかもしれない。
芳はとても大人になっていてますます格好がよかったが、中身は昔の芳お兄ちゃんのままだと思った。
優しくて伊吹を甘やかせてくれる大好きな芳──
「……俺が昔、お前を避けてたのは、知ってた?」
「お前のこと、好きだからだ、好きだから避けていた」
えっと……。
好き、とは。
「違うんだ、そういう好きじゃない。伊吹のこと、恋愛対象として、好きだ」
流れはまとまっている。何一つごちゃごちゃとしていない。いたってシンプルだ。
だが伊吹の心がその流れに追いついていないというか、流れは記憶しているというのに把握できていない。
いや、だって何?
好きって、何?
そりゃ俺も好きだよ、芳のこと、嫌いな訳ない。だが近所のお兄ちゃんだったんだぞ。
あの後のことを思い返してもまだピンとこない。言われた言葉に内心では返事や疑問を投げつつも、伊吹はほとんど喋ってなかった。
「さすがに小さい頃は純粋に大事な弟みたいに思ってた。だけどもお前が中学生になって……俺は……」
それは、もしかして伊吹を避けるようになった頃のことなのだろうか。
「そんなの、許しがたい裏切りだとさえ思った。そして叶うはずのない想いだ。だから、もう会ってはいけないと思った。それでこっちの大学を受けたんだ」
やっぱり。
「でも、駄目だ。お前を見たら、駄目だ。やっぱり好きで……彼女がいるなら仕方がないとも思ったが……いないのなら」
男らしく、だが綺麗で整った顔が近づく。
え、待って。そんな、ちょっと待って、だって、だってその、俺ら男同士だよ?
そりゃ芳はカッコいいけど、憧れるくらい素敵だけど、でも待って、そんな──
思わずぎゅっと目を瞑りかけたところでふわりと抱き寄せられた。そして優しく抱いてきたかと思うと伊吹を離し、同じく優しく笑いかけてくる。
「わかっただろう? だから同じ部屋で寝るのは駄目だ。リビングに敷いたし、必要なものがあれば何でも勝手に使っていい。じゃあ、おやすみ」
「え? あ、え」
伊吹が戸惑っている中、芳は自室らしい部屋に引っ込んでしまった。そして今に至る。
布団の中で改めて「えっと」と小さく呟く。
キス、されるかと思った。いや、もちろんされたいのではない。
「うん。されたいんじゃない。だって」
だって芳は男で俺も男だ。
小さな頃は兄弟のようにずっと一緒で仲良く過ごしたとはいえ、実際は兄弟ではない。だからそこは問題ないのだが、そもそも男同士だ。
あの時も「待って」と焦った。ただ、あのままされていたら自分はどう思ったのだろう。
気持ち悪いと思った?
いや、まさか。芳に対して気持ち悪いなどと。
だが男だ。いや、それでも芳なのだ。
伊吹はため息をついた。混乱する。
わかっているのは、別に自分からキスをしたいと思ってはいなかったということだ。そんな気持ちを芳に対して持ったことがなかった。大好きな人だけれども、あくまでも近所のお兄ちゃんとして大好きだった。
だが、あのままキスをされていた場合、自分がどんな反応をしたのかはわからない。
もう一度、ちゃんと芳と話をするべきだろうかとも思った。好きだと言われて伊吹は何も答えていないし、芳も返事を求めてこなかった。芳は、こういう感情を持っているから一緒の部屋では寝られない、とだけ口にしたことになる。
ただ、それだけだから余計混乱しているのではないだろうか。
彼女にはよく何かを言われた後に答えを求められた。答えなければずっと問われていた気がする。
好きだから知りたいのだと言われたことがある。なるほど、だから答えがないと落ち着かないのかと一応理解し、伊吹もなるべく問いに対する答えを出すようにした。答えようのないことに対しても、なるべくがんばった。
知らないうちにそれに慣れていたのだろうか。芳の話は答えが必要そうな内容だったにも関わらず、途中でよくわからないまま締められた。それが妙に落ち着かない気がする。
だからといってドアを開けてあの部屋へ入るのは駄目だろう。芳は伊吹に向かって好きだからだと言った。だから同じ部屋では寝られない、と。
その部屋へ自ら入るなど、まるでそれこそそのつもりがなくとも勝手にこちらが答えを提供しているようなものだ。芳がするはずないとはいえ、無理やり襲われても文句はいえない行動だ。
「はぁ」
別に考える必要はない。芳は何も答えや結果を求めていなかった。事実を口にしただけだ。
ただ、だからといって「そうですか」と流せる内容ではない気がする。
芳と疎遠になってはいたが、伊吹にとって芳はずっとそれでも大好きな近所のお兄ちゃんという存在だった。しかも芳は自分の気持ちを晒してまで「こういう理由だから一緒に寝られない」と説明してくれた。伊吹だったら絶対そんな時は適当に誤魔化していたのではないだろうか。もしくはさすがに襲うまではしなくとも、流れに任せてキスくらいやらかしていたかもしれない。
こちらが家にお邪魔しているというのにそんな誠実な態度をしてくれた芳の気持ちを、なかったことのように流してしまっていいのだろうか。
だからといって、じゃあ気持ちに答えます、という訳にもいかない。芳が元々男が好きなのか、基本的に女が好きでも伊吹は別なのかはわからないが、少なくとも伊吹は女が好きだ。
「ああもう」
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