偽りの仮面

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16話

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 沢山話をして、本音を言い合った。ただ本音と言っても、伊吹は特に何も隠していることなどないように芳は思っている。
 伊吹自身は「普段思ってること口にしてるようで肝心なことは言えてなかった」「すぐに逃げる方を選んでしまっていて情けない」「俺は情けなくて小さくて性格悪いんだ」などと言っていたが、芳としてはピンとこない。
 好きだと告げつつ何もしようとしなかった芳に対して前へ進めてくれたのは伊吹だ。初めてのキスの時だってそうだ。
 行きたいところもちゃんと口にしてくれるし、都合が悪い時は濁さずはっきりと断ってくる。はっきり言うことが性格悪いとでも言うのだろうか。
 確かに別れてくれと言われて電話にも出てくれなかったが、そもそも別れたいと思うなら理由がどうであれ相手から逃げたいくらいは思うだろうと芳は考える。そして別れたい理由に関しても、そもそも芳が素直な伊吹と違って自分をちゃんと出せていなかったのだ。どう思われても仕方がない。
 実際は芳にとってかわいすぎるくらいの理由だった訳だが、それだって本人は本気で悩んだのだろう。

 ……作り物の俺で悩ませてしまった。

 むしろ申し訳ないと思う。こうなっては情けなくとも、繋ぎ止めようと必死に自分を作るのではなく、本当の自分をさらけ出すしかない。
 もちろん努力はこれからも怠りたくはない。かわいい伊吹に見合う、年上の自慢出来る彼氏になれるよう、日々精進したいとは思う。

「芳は変なとこ真面目だと思う……」

 改めて自分の心意気を伊吹に告げると少し顔を赤らめつつも微妙な顔をされた。

「変?」
「うん……」
「そうなのか?」
「別に精進しなくていいよ。俺、今の芳好き」

 伊吹の言葉に、芳はかわいすぎて息が止まるかと思った。少々苦悩するような表情で芳はため息をつく。すると伊吹に笑われた。

「そういう顔ね、前だったらてっきり俺、また子どもみたいなこと言っちゃって芳に呆れられたのかなって思ってた」
「そんな訳がないだろう。お前がかわいすぎて息が止まりそうになっただけだよ」
「……相変わらず甘いけど、何だろ、ふふ、芳のがかわいい」

 少し残念なところも、と付け加えながら伊吹がまた笑う。

 残念、とは。

「俺は残念なのか」
「俺的にはいい意味でね」
「……なかなかにに難しいことを言う……」
「そうかなぁ」

 その後、顔を綻ばせ合いながらキスをした。



「その、伊吹と抱き合うのも……俺は童貞だからちゃんと勉強してからにしたかったんだ」

 しばらくしてから、とうとうそれも打ち明けた。さすがにいい大人が童貞だと知って引かれるだろうかと芳は思ったが「マジで? モテる人でも童貞ってあるんだ」と何故か嬉しそうにされた。

「伊吹……ひょっとしてだけど、喜んでる?」
「え? あー、うんごめん……ちょこっと。だって芳は絶対めちゃくちゃ彼女沢山いただろうしエッチも手慣れてんだろなーって思って勝手に嫉妬してたから」
「いもしない相手に嫉妬か」
「そう。ちゃんと話すって凄いね。あっという間に気持ち軽くなるもんな」

 本当に嬉しそうに言われ、少々複雑だが芳も笑った。

「あ、じゃあ俺が上になろうか? 俺もあんまり経験ないけど、一応したことはあるし……」
「いや、そこはせめて俺にさせてくれ……」

 かわいくて大事な伊吹だが、譲れないものもある。とはいえ伊吹もそうかもしれない。これはかなり話し合わないといけないかもしれないと芳は思ったが、杞憂だったようだ。

「いいよ。前にも言っただろ。俺はどっちでもいいって。芳とできるなら、どっちだって俺、嬉しいし」

 屈託のない笑顔で言われ、芳は片手で顔を覆った。

「どしたの」
「格好よすぎてかわいすぎるだろう……今すぐ押し倒したくなった」
「マジで? じゃあせっかくだし……」
「いや、駄目だ。何も用意してないし」
「前にもあったことなんだしさ、用意はしておこうよ。でもいいよ、今度から俺、ゴムとローション持ち歩くことにする」
「止めてくれ……。あと、最初は夜景が最高なホテルのスイートって決めてるんだ」
「うわ……」
「何だ」
「……う、ううん」
「おい、何でも話すんだろう?」
「……芳、結構乙女みたいなこと考えんだなーって……」

 そうなのか?
 この考えは乙女なのか?
 だって伊吹との初めてなのに?

 ポカンとしているとギュッと伊吹に抱きつかれた。

「芳、女の人だけじゃなくて男の人からもモテてんのにな。何だろこれ。ギャップ萌えってやつ?」
「もえ?」

 とは。

「俺はたまに伊吹とのジェネレーションギャップに襲われることがあるけど……」
「意味、ちょっと違うかな。まぁ、芳が好きってことだよ」
「それなら俺こそ伊吹を愛してるよ、とても大切で大事な人なんだ」

 それなら自分でも答えられるとばかりに芳は微笑んだ。伊吹の手を取り、指の爪にキスをする。

「……ほんと話さないとわからないもんだなぁってしみじみ思う……」

 伊吹はまた少し顔を赤らめてきた。

「今は何のことを言っているんだ?」
「愛してるなんて相手の指にキスするような大人の人が誰ともエッチしたことないなんて思う訳ないし」
「確かにお前には格好がいいところを見せたいと思ってきたけど、これくらいは別に経験なくてもできることだろう?」
「少なくとも俺にはできないよ?」
「伊吹はしなくていい。お前はかわいい俺の弟みたいな子でそしてかわいい恋人であってくれたらそれでいいよ」
「……こういうのってやっぱ性格なのかなっ?」
「何の話だ」

 まだまだ話し合わないとわからないことは多そうだ。ただ、わからないことがあるのはあるので楽しいとも芳はそっと思った。
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