1 / 20
1話
しおりを挟む
「冗談だろ?」
ふと聞こえてきた言葉に瑠衣はハッとなり振り返った。見ればいかにも親しげな男子生徒二人が何やらふざけながら廊下を歩いていた。瑠衣は吸い込んだままだった息を深く吐く。
「どうかしたのか」
「いや、何でもないよ。それより大胡、今日の二年対一年の練習試合さ、俺ら主に平行陣でいかないか」
「おう。いいよ」
生駒 瑠衣(いこま るい)は中学の頃から高校生の今に至るまでずっと部活はテニスを続けている。先日三年が引退したのを機に主将にもなった。副主将と協力し合い、春にある全国選抜高校テニス大会に向けて気合いを入れている。目指すはインターハイ優勝、とますます部活に打ち込んでいた。
放課後、ある程度体を温めてから始めた二年対一年の練習試合で難なく対戦相手の一年生ダブルスからあっという間に4ポイント先取した瑠衣は、ベンチの上で軽くストレッチしながらスポーツドリンクを飲んでいた。するとフェンスの向こう側を通る派手な髪色が目に入ってくる。
「あいつ、たまにここ通ってっけどいつも違う女子連れてんよなー」
「あ、ああ」
金色のような髪色はとても目立つ。普通なら浮いてみえたり下品に見えそうな派手色だというのに、五十島 七瀬(いかじま ななせ)がするとまるで生まれつきそんな色だったかのように違和感なく似合っていた。彫りが深いわけではないのだが涼しげな切れ長の目に目力があるからだろうか。それとも怖そうに見えつつも色白で全体的に色素が薄そうな雰囲気だからだろうか。それとも結局のところ美形だからだろうか。もしくは単に眉も髪と同じような色だからかもしれない。
とはいえ七瀬が生まれつきその色でないことは瑠衣だけでなく今隣にいる阿茶野 大胡(あさの だいご)も知っている。二人とも七瀬と中学が同じで、そして七瀬は中学二年まで黒髪だった。大胡は「よくある中二病ってやつか?」などと当時言っていたが、多分そうではないことを瑠衣は知っている。自分のせいなのだろうとさえ思っている。
「とっかえひっかえして遊んでるらしいな」
「……」
「えるしってるか。黒王子はかたっぱしからたべる」
「俺は瑠衣だ」
「ガチで返すなよ、そこは乗るか流そう。いやでもマジで入れ食いらしいぞ。すげーなあいつ。にしてはいつ見てもつまらなさそうな顔してっけどな。何なら俺と変わって欲しい、是非」
「……。っていうか黒王子って何」
呆れながら話を終わらせようとした瑠衣はふと怪訝に思って大胡を見た。
「え、知らないのか? 五十島って黒王子って呼ばれてるらしいぞ」
「誰から」
「女子とかだろ。クールで冷たい雰囲気からって聞いたわ、隣の大里から」
「誰だよ大里」
「俺の隣の席の女子。ちょっとうるせーけど胸がでかい」
「……」
「あ、違うぞ? 俺の本当の好みは美乳であって、でかさに魅かれてるわけじゃ……」
「とてつもなくどうでもいいけどな。……にしても黒王子って。嫌がらせ? 冷たい雰囲気って、怖がられてるとかそういう?」
「だとしたら女子たちそこまで寄りつかないだろ。そうじゃなくてクールで冷たそうだけどそこがいい、カッコいい素敵、ってやつじゃないのか。王子って付くわけだし」
「あー……」
恥ずかしい二つ名付けられてるぞ五十島……。
同じ高校とはいえ一年の頃からずっと一言も話していない七瀬に対して瑠衣は心の中で同情した。
「ちなみにお前は光王子な」
「へえ。……、……はい?」
「優しそうな表情と実際優しい性格が素敵、らしい」
「勘弁して欲しい……」
俺にもついてた、と瑠衣はそっと顔を覆った。
黒王子はどうかと思いつつ、確かに七瀬は冷たい雰囲気を漂わせている。笑うことなどないのではないかというくらい、いつ見ても大胡が言うようにつまらなさそうな、どうでもよさそうな表情をしていた。男子と楽しげに親しくしているところは見かけない。とはいえ見かけるたびにいつも誰か女子が周りにいるせいか一匹狼といった感じでもなく、やはり派手に遊んでいる風に見えた。
「にしても一緒の中学から来てる二人がおモテになるってのに俺だけ何か切ないわ」
「この間彼女できそうって言ってなかった?」
「あれ、お前狙いだった」
「……それはごめん」
「まあお前が人気あるのはわかるとして、何で五十島もモテんだろな。いやそりゃ背は高いし何より顔がいいんだろけど、見るからに派手だし素っ気ないし愛想ないし、今の五十島からは遊ぶだけ遊んで捨てられそうな図しかうかばないぞ」
そろそろ俺らも次の試合だな、と立ち上がりながら大胡がため息をついている。
「……」
「昔はそういうやつじゃなかったのにな。明るくて人懐こかった記憶」
「……坂田たちもうそろそろ終わりそうだぞ。少し間が空いたし、ちょっと体動かすぞ」
「お? おう」
大胡の記憶に間違いはない。実際、七瀬は明るかった。瑠衣は大胡と小学生の頃から親しくしているが、七瀬とは保育園の頃からの幼馴染だった。七瀬は人懐こくて誰からも好かれるようなタイプだった。
いつから変わったかって、やっぱり中学二年の頃から、だな。
ラケットを持ちながら瑠衣はそっと目を瞑った。
ふと聞こえてきた言葉に瑠衣はハッとなり振り返った。見ればいかにも親しげな男子生徒二人が何やらふざけながら廊下を歩いていた。瑠衣は吸い込んだままだった息を深く吐く。
「どうかしたのか」
「いや、何でもないよ。それより大胡、今日の二年対一年の練習試合さ、俺ら主に平行陣でいかないか」
「おう。いいよ」
生駒 瑠衣(いこま るい)は中学の頃から高校生の今に至るまでずっと部活はテニスを続けている。先日三年が引退したのを機に主将にもなった。副主将と協力し合い、春にある全国選抜高校テニス大会に向けて気合いを入れている。目指すはインターハイ優勝、とますます部活に打ち込んでいた。
放課後、ある程度体を温めてから始めた二年対一年の練習試合で難なく対戦相手の一年生ダブルスからあっという間に4ポイント先取した瑠衣は、ベンチの上で軽くストレッチしながらスポーツドリンクを飲んでいた。するとフェンスの向こう側を通る派手な髪色が目に入ってくる。
「あいつ、たまにここ通ってっけどいつも違う女子連れてんよなー」
「あ、ああ」
金色のような髪色はとても目立つ。普通なら浮いてみえたり下品に見えそうな派手色だというのに、五十島 七瀬(いかじま ななせ)がするとまるで生まれつきそんな色だったかのように違和感なく似合っていた。彫りが深いわけではないのだが涼しげな切れ長の目に目力があるからだろうか。それとも怖そうに見えつつも色白で全体的に色素が薄そうな雰囲気だからだろうか。それとも結局のところ美形だからだろうか。もしくは単に眉も髪と同じような色だからかもしれない。
とはいえ七瀬が生まれつきその色でないことは瑠衣だけでなく今隣にいる阿茶野 大胡(あさの だいご)も知っている。二人とも七瀬と中学が同じで、そして七瀬は中学二年まで黒髪だった。大胡は「よくある中二病ってやつか?」などと当時言っていたが、多分そうではないことを瑠衣は知っている。自分のせいなのだろうとさえ思っている。
「とっかえひっかえして遊んでるらしいな」
「……」
「えるしってるか。黒王子はかたっぱしからたべる」
「俺は瑠衣だ」
「ガチで返すなよ、そこは乗るか流そう。いやでもマジで入れ食いらしいぞ。すげーなあいつ。にしてはいつ見てもつまらなさそうな顔してっけどな。何なら俺と変わって欲しい、是非」
「……。っていうか黒王子って何」
呆れながら話を終わらせようとした瑠衣はふと怪訝に思って大胡を見た。
「え、知らないのか? 五十島って黒王子って呼ばれてるらしいぞ」
「誰から」
「女子とかだろ。クールで冷たい雰囲気からって聞いたわ、隣の大里から」
「誰だよ大里」
「俺の隣の席の女子。ちょっとうるせーけど胸がでかい」
「……」
「あ、違うぞ? 俺の本当の好みは美乳であって、でかさに魅かれてるわけじゃ……」
「とてつもなくどうでもいいけどな。……にしても黒王子って。嫌がらせ? 冷たい雰囲気って、怖がられてるとかそういう?」
「だとしたら女子たちそこまで寄りつかないだろ。そうじゃなくてクールで冷たそうだけどそこがいい、カッコいい素敵、ってやつじゃないのか。王子って付くわけだし」
「あー……」
恥ずかしい二つ名付けられてるぞ五十島……。
同じ高校とはいえ一年の頃からずっと一言も話していない七瀬に対して瑠衣は心の中で同情した。
「ちなみにお前は光王子な」
「へえ。……、……はい?」
「優しそうな表情と実際優しい性格が素敵、らしい」
「勘弁して欲しい……」
俺にもついてた、と瑠衣はそっと顔を覆った。
黒王子はどうかと思いつつ、確かに七瀬は冷たい雰囲気を漂わせている。笑うことなどないのではないかというくらい、いつ見ても大胡が言うようにつまらなさそうな、どうでもよさそうな表情をしていた。男子と楽しげに親しくしているところは見かけない。とはいえ見かけるたびにいつも誰か女子が周りにいるせいか一匹狼といった感じでもなく、やはり派手に遊んでいる風に見えた。
「にしても一緒の中学から来てる二人がおモテになるってのに俺だけ何か切ないわ」
「この間彼女できそうって言ってなかった?」
「あれ、お前狙いだった」
「……それはごめん」
「まあお前が人気あるのはわかるとして、何で五十島もモテんだろな。いやそりゃ背は高いし何より顔がいいんだろけど、見るからに派手だし素っ気ないし愛想ないし、今の五十島からは遊ぶだけ遊んで捨てられそうな図しかうかばないぞ」
そろそろ俺らも次の試合だな、と立ち上がりながら大胡がため息をついている。
「……」
「昔はそういうやつじゃなかったのにな。明るくて人懐こかった記憶」
「……坂田たちもうそろそろ終わりそうだぞ。少し間が空いたし、ちょっと体動かすぞ」
「お? おう」
大胡の記憶に間違いはない。実際、七瀬は明るかった。瑠衣は大胡と小学生の頃から親しくしているが、七瀬とは保育園の頃からの幼馴染だった。七瀬は人懐こくて誰からも好かれるようなタイプだった。
いつから変わったかって、やっぱり中学二年の頃から、だな。
ラケットを持ちながら瑠衣はそっと目を瞑った。
0
あなたにおすすめの小説
雪色のラブレター
hamapito
BL
俺が遠くに行っても、圭は圭のまま、何も変わらないから。――それでよかった、のに。
そばにいられればいい。
想いは口にすることなく消えるはずだった。
高校卒業まであと三か月。
幼馴染である圭への気持ちを隠したまま、今日も変わらず隣を歩く翔。
そばにいられればいい。幼馴染のままでいい。
そう思っていたはずなのに、圭のひとことに抑えていた気持ちがこぼれてしまう。
翔は、圭の戸惑う声に、「忘れて」と逃げてしまい……。
もしも願いが叶うなら、あの頃にかえりたい
マカリ
BL
幼馴染だった親友が、突然『サヨナラ』も言わずに、引っ越してしまった高校三年の夏。
しばらく、落ち込んでいたが、大学受験の忙しさが気を紛らわせ、いつの間にか『過去』の事になっていた。
社会人になり、そんなことがあったのも忘れていた、ある日の事。
新しい取引先の担当者が、偶然にもその幼馴染で……
あの夏の日々が蘇る。
【完結】後悔は再会の果てへ
関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。
その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。
数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。
小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。
そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。
末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
両片思いの幼馴染
kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。
くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。
めちゃくちゃハッピーエンドです。
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
恋の闇路の向こう側
七賀ごふん
BL
学校一の優等生として過ごす川音深白には、大切な幼馴染がいる。
家庭の事情で離れ離れになった幼馴染、貴島月仁が転校してくることを知った深白は、今こそ昔守られていた恩を返そうと意気込むが…。
────────
クールで過保護な攻め×完璧でいたいけど本当は甘えたい受け
箱入りオメガの受難
おもちDX
BL
社会人の瑠璃は突然の発情期を知らないアルファの男と過ごしてしまう。記憶にないが瑠璃は大学生の地味系男子、琥珀と致してしまったらしい。
元の生活に戻ろうとするも、琥珀はストーカーのように付きまといだし、なぜか瑠璃はだんだん絆されていってしまう。
ある日瑠璃は、発情期を見知らぬイケメンと過ごす夢を見て混乱に陥る。これはあの日の記憶?知らない相手は誰?
不器用なアルファとオメガのドタバタ勘違いラブストーリー。
現代オメガバース ※R要素は限りなく薄いです。
この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。ありがたいことに、グローバルコミック賞をいただきました。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる