君の風を

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17話

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 久しぶりに部活のない休日、瑠衣は買い物をしに駅前の商店街に来ていた。地元商店街と言っても侮れない。老舗といった風情の日本茶の店や呉服店、昔ながらの精肉店や鮮魚店、青果店以外にもアジア風の雑貨店や手頃な値段ながらに今風のファッションを楽しめるアパレルショップなどもある。瑠衣は興味ないものの、七瀬が好みそうなシルバーアクセサリーを置いている店もあるので、もしかしたら七瀬はいつもそこで買っているのかもしれない。他にも気軽に食べ歩きのできるB級グルメ的なホットスナックを店頭に置いている店や中々に人気のある甘味処もあったりする。そのため休日はそれなりの賑わいを見せている。
 とりあえず買いたいものを買った後、ついでにその辺をぶらついていると少し向こうに七瀬がこちらへ向かって歩いているのを見つけた。離れている時は他の人たちで隠れているのもあって七瀬一人かと思ったが、どうやら瑠衣の知らない女性と一緒のようだと少しして気づいた。
 思わず隠れていた。隠れる必要など全くないというのに、体が勝手に動いていたというのだろうか。
 近づいてきていた七瀬とその女性を「俺は何をしているんだ」と自分に呆れながらもそっと窺う。女性はそれなりに年上の大人だった。綺麗な顔で小柄だがスラリとしている。おまけに驚いたことに七瀬が穏やかそうな表情をしているだけでなく、時折少し笑ったりしていた。
 今は女子と一緒にいることが基本ないものの、少し前までの七瀬は女子といてもいつも無表情だった。昔は明るかったのに、多分瑠衣のせいでそうなったのだと思うと申し訳なさすらあった。それに瑠衣と一緒の時も今の七瀬は基本的にあまり表情に出さない。それもあって余計に、七瀬の部屋であんなことをされていてもろくすっぽ抵抗もできなかったりする。その時の七瀬はほんのり嬉しそうな表情を見せてくれるからだ。
 だというのに、瑠衣の見知らぬ女性と一緒にいる七瀬は穏やかそうだった。ほんの少しではあるものの笑みまで見せていた。
 傷ついている自分を瑠衣は感じた。自分が理不尽でしかないのはわかっている。だが勝手に心が傷ついてくるのをどうすることもできない。
 瑠衣に気づいていない七瀬はそのまま女性とカフェへ入って行った。瑠衣はといえば、沈んだ気持ちのまま家に帰るしかなかった。
 夕方、七瀬から『今会える?』と連絡が来ていた。つい「あの女の人と会ってたくせにこいつ何考えてんだ」などと思ってしまう。別に会うイコール抜き合う、というわけではないが七瀬の部屋に連れ込まれたら大抵いつもされているせいでつい直結してしまう。
 ふざけんなと返そうとして、だがかろうじて思いとどまれた。七瀬は別に「しよう」と言ってきたわけではないし、女性と会っていようがどうしようが基本的に瑠衣と会うことに何らおかしいことなどない。だってただの幼馴染だ。
 ため息をつきながら瑠衣は『大丈夫』と返した。すると見張っていたのかと言いたくなるくらい即既読がついて『じゃあ俺の家来て』と返信がある。またつい「抜き合う」ことが直結しそうになり『お前が俺のとこ来い』と打ち返していた。即『わかった』と返信があり、待機でもしていたのかと思うくらい大した時間もかからずに七瀬はやって来た。

「お前、俺の部屋では絶対その、あーゆーこと、するなよ」
「あーゆーこと?」

 惚けている様子もなく、七瀬は本当にわからないといった表情で首を傾げてくる。瑠衣は顔が少し熱くなるのがわかった。言うんじゃなかったと思いつつ引けなくて「ぬ、抜いたりするやつ」と顔を逸らしながら答える。

「ああ……わかった、けど、だったらそういう顔しないで」
「そういうって、どんな顔を言ってるんだよ」
「赤くなってすごく困ったような顔?」
「困ったんだから仕方ないだろ。あと普通に恥ずかしかったんだよ」

 つい正直に答えると「そういうとこも。もっと困らせたくなるし恥ずかしいと思わせたくなる」などと言われた。

「……お前、やっぱり仕返し的な……?」
「え?」
「い、いや、何でもない」

 先ほど女性と一緒だった時に感じたショックがぶり返してきた。

「どうしたんだ生駒」
「何でもないよ」
「……本当に?」
「ああ」
「……ならいいけど……。……あ、そうだ。会いたかったのはこれ、渡したかったから」

 渡したかった、と七瀬は小さな紙袋を差し出してきた。何だろうとつい受け取ると「開けて」と促される。言われた通り開けると中にはシルバーのテニスラケットの形をしたものと小さなボールが一緒に繋がれたキーホルダーが入っていた。

「な、にこれ」
「やる」
「え、いやだって、何で」
「テニス部、誘ってくれたから?」
「何で疑問形なんだよ」

 呆れた後に瑠衣は思わず少し笑った。傷ついたはずが、今は軽くなっている。なので気持ちも寛大になり、先ほどの女性を浮かべながら「つか、こういうのは彼女とか好きな相手にしてやれよ」などと言っていた。

「うん」

 七瀬はただ頷いてくる。どういう意味で頷いたのかよくわからず、瑠衣は「さっき実は五十島が大人の女性と歩いているの見かけたんだけど」とつい切り出していた。

「ああ、うん」
「あの人にあげたりとか、さ」
「? 何で」
「いやだって」

 彼女だろと言いかけてとどまった。別に彼女だと聞いたわけではない。瑠衣は思い切ってそのまま聞いてみることにした。

「えっと、さっきの人ってどういう人、だろうか?」
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