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19話
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その後瑠衣だけでなく七瀬も無事進路が決まり、安心して三年の二学期を終えることができた。
本番は年明けだが、担任の教師も大丈夫だと太鼓判を押してくれている。部活でも心置きなくテニスをし倒せた。インターハイもかなりいいところまで行った。七瀬が中学の頃からずっと続けてくれていたら優勝だって手の届くところにいただろうなと思ったりも少しはしたが、高校でのテニス部を七瀬と一緒に引退できただけでも十二分に嬉しいことだ。
終業式を終え、大胡は他の友人と遊びに行くと言うので瑠衣は七瀬と二人で帰路についていた。大胡には「お前らも一緒に」と誘われたが七瀬が無言のまま大いに首を振って即断っており、大胡も別に気を悪くした様子もなく「そうだと思ったわ」と笑っていた。
「まあ冬休みに俺、五十島の許可なく普通にるいと遊ぶからな。必然的に五十島もついて来るだろ、どうせ」
ついでにニヤリと言い放ってきた。
家の近くまで来るとコンビニエンスストアに寄って肉まんと缶のホットコーヒーを買った。そして公園のベンチに座り、飲み食いする。
「つか家近いし、何ならどっちかの家で食えばよかったな。さむ」
「……食べながら公園で二人なの、俺は楽しい」
「そうか? 寒いのに?」
「肉まんもコーヒーも温かい」
「そりゃそうだけど」
ちょっと公園へ寄ろうか。
そう言ったのは、だが瑠衣だ。ようやく今ならちゃんと話をして謝れる気がしていた。馴れ合うように中途半端な付き合いを春からずっと続けていた気がする。もちろん、避けられていた七瀬が避けるのをやめて瑠衣といてくれるようになっただけでも嬉しいが、根本的なことを無視したまま年は越えられないとずっと思っていた。
だがやはりあのことが原因で七瀬は自暴自棄になったのだろうし、瑠衣を避けるようになった。それを謝るためとはいえ話題にして万が一また繰り返すことになったらどうしようかとつい思ってしまい、だらだらと言えないまま今に至っている。
「……五十島」
「なに」
「ちゃんと、話が、したい。あの時のことを、俺はどうしても謝りたい」
「……俺、生駒が謝ろうとしていたこと……気づいてたよ」
「え?」
じっと缶コーヒーを睨みつけるようにして言葉を絞り出していた瑠衣は思わず七瀬を見た。七瀬は少し切なげな、何とも言えない表情をしている。
「謝るのは俺。……ごめん。まず、好きになって」
「な」
何を言うんだと言いかけた瑠衣を遮るようにして七瀬は続けてきた。
「ずっと大切だった。なのに嫌な思いをさせてしまった。それなのに生駒はその後謝ろうとしてくれていた。でも俺……改めて謝られると同時に面と向かって振られることが、怖くて……嫌で……情けないだろ。だから、ずっとお前を避けてた。好きだと告げた時に見せたお前の反応に傷ついたんじゃない。だから謝らなくていい」
「……五十島」
「その後お前に彼女ができて……俺、もう立ち直れないかと思った。自暴自棄になったのは俺の弱さだ。そのせいでお前はさらに罪悪感を抱えてたかもしれないのに。だから謝るなら俺だ。その上、お前が好きだという気持ちをなくすこと、今に至るまで少しもできなかった。今も大好きだ……。大好きすぎて、あの風呂場の時以来なし崩し的にずっとお前に触れてきた。罪悪感抱えたお前が拒否できないのをいいことに。俺こそ謝ることしかしてない」
「そっ、れは違う」
違う。罪悪感で拒否できなかったんじゃない。自分でもいまいちわかっていなくとも、それだけは違うと断言できる。
慌てて否定すると七瀬は少し嬉しそうに笑みを見せてきた。
「あと、打算的な気持ちもあった。俺、性格悪いから」
「……大胡への態度を見てるとまぁ、性格悪い、は否定してやれないかも、だな。でも打算的って?」
「うん。……打算的なのは、罪悪感だけじゃなくて、もしかしたら俺にも多少、勝算あるんじゃないかなって、思えて」
「勝算?」
「……まあ、今のところ少し見いだせた勝算、全然進歩なさそうだけど」
勝算?
瑠衣が戸惑っていると七瀬が続けてきた。
「大好きだよ、お前が。多分これからもずっと。またお前に彼女ができたりして傷ついたりしても、大好きな気持ちはなくならない。だからあえて謝る代わりに言っておく。好きだ。振り向いてくれなくても、俺はお前がこれからもずっと好きだ」
何でそんなに、と瑠衣は鼻の奥がツンとした。
こいつ……俺のこと好きすぎじゃないか。
ただ、ふと今までの自分もひたすら七瀬のことばかり意識していたことを改めて実感した。ずっと無意識ですら、いつも七瀬を目で追っていた。学校の廊下でも部活中でも。謝らなきゃと思っているからだと自分ではずっと思ってきたが、もしかしてまさか、自分にもそういった感情がどこかにあったのだろうか。だからこそ、風呂場でのことがあったその後も触れてくる七瀬を拒否できずにいたのだろうか。女子に告白されても受け入れる気になれなかったのだろうか。
まさか?
いや、でも?
自分の中でそう思うと、おかしなもので「好き」という気持ちを明確に自覚できていないというのに、瑠衣は今すぐ瑠衣を抱きしめたくて仕方がなくなった。
ぎゅっと抱きしめて、そして、そうだ、キスも、したい。それに今したら何かわかる気がする。
感情を理解したり実感するのがピンとこなくても、したいと思うことならすぐに浮かんだ。
だからそうした。
顔を離すと少しぽかんとした七瀬が見えた。その鼻先にちらほらと白い柔らかそうなものが見えた。
雪だ。
辺りを見ようとした瑠衣に、今度は七瀬からキスをしてきた。
本番は年明けだが、担任の教師も大丈夫だと太鼓判を押してくれている。部活でも心置きなくテニスをし倒せた。インターハイもかなりいいところまで行った。七瀬が中学の頃からずっと続けてくれていたら優勝だって手の届くところにいただろうなと思ったりも少しはしたが、高校でのテニス部を七瀬と一緒に引退できただけでも十二分に嬉しいことだ。
終業式を終え、大胡は他の友人と遊びに行くと言うので瑠衣は七瀬と二人で帰路についていた。大胡には「お前らも一緒に」と誘われたが七瀬が無言のまま大いに首を振って即断っており、大胡も別に気を悪くした様子もなく「そうだと思ったわ」と笑っていた。
「まあ冬休みに俺、五十島の許可なく普通にるいと遊ぶからな。必然的に五十島もついて来るだろ、どうせ」
ついでにニヤリと言い放ってきた。
家の近くまで来るとコンビニエンスストアに寄って肉まんと缶のホットコーヒーを買った。そして公園のベンチに座り、飲み食いする。
「つか家近いし、何ならどっちかの家で食えばよかったな。さむ」
「……食べながら公園で二人なの、俺は楽しい」
「そうか? 寒いのに?」
「肉まんもコーヒーも温かい」
「そりゃそうだけど」
ちょっと公園へ寄ろうか。
そう言ったのは、だが瑠衣だ。ようやく今ならちゃんと話をして謝れる気がしていた。馴れ合うように中途半端な付き合いを春からずっと続けていた気がする。もちろん、避けられていた七瀬が避けるのをやめて瑠衣といてくれるようになっただけでも嬉しいが、根本的なことを無視したまま年は越えられないとずっと思っていた。
だがやはりあのことが原因で七瀬は自暴自棄になったのだろうし、瑠衣を避けるようになった。それを謝るためとはいえ話題にして万が一また繰り返すことになったらどうしようかとつい思ってしまい、だらだらと言えないまま今に至っている。
「……五十島」
「なに」
「ちゃんと、話が、したい。あの時のことを、俺はどうしても謝りたい」
「……俺、生駒が謝ろうとしていたこと……気づいてたよ」
「え?」
じっと缶コーヒーを睨みつけるようにして言葉を絞り出していた瑠衣は思わず七瀬を見た。七瀬は少し切なげな、何とも言えない表情をしている。
「謝るのは俺。……ごめん。まず、好きになって」
「な」
何を言うんだと言いかけた瑠衣を遮るようにして七瀬は続けてきた。
「ずっと大切だった。なのに嫌な思いをさせてしまった。それなのに生駒はその後謝ろうとしてくれていた。でも俺……改めて謝られると同時に面と向かって振られることが、怖くて……嫌で……情けないだろ。だから、ずっとお前を避けてた。好きだと告げた時に見せたお前の反応に傷ついたんじゃない。だから謝らなくていい」
「……五十島」
「その後お前に彼女ができて……俺、もう立ち直れないかと思った。自暴自棄になったのは俺の弱さだ。そのせいでお前はさらに罪悪感を抱えてたかもしれないのに。だから謝るなら俺だ。その上、お前が好きだという気持ちをなくすこと、今に至るまで少しもできなかった。今も大好きだ……。大好きすぎて、あの風呂場の時以来なし崩し的にずっとお前に触れてきた。罪悪感抱えたお前が拒否できないのをいいことに。俺こそ謝ることしかしてない」
「そっ、れは違う」
違う。罪悪感で拒否できなかったんじゃない。自分でもいまいちわかっていなくとも、それだけは違うと断言できる。
慌てて否定すると七瀬は少し嬉しそうに笑みを見せてきた。
「あと、打算的な気持ちもあった。俺、性格悪いから」
「……大胡への態度を見てるとまぁ、性格悪い、は否定してやれないかも、だな。でも打算的って?」
「うん。……打算的なのは、罪悪感だけじゃなくて、もしかしたら俺にも多少、勝算あるんじゃないかなって、思えて」
「勝算?」
「……まあ、今のところ少し見いだせた勝算、全然進歩なさそうだけど」
勝算?
瑠衣が戸惑っていると七瀬が続けてきた。
「大好きだよ、お前が。多分これからもずっと。またお前に彼女ができたりして傷ついたりしても、大好きな気持ちはなくならない。だからあえて謝る代わりに言っておく。好きだ。振り向いてくれなくても、俺はお前がこれからもずっと好きだ」
何でそんなに、と瑠衣は鼻の奥がツンとした。
こいつ……俺のこと好きすぎじゃないか。
ただ、ふと今までの自分もひたすら七瀬のことばかり意識していたことを改めて実感した。ずっと無意識ですら、いつも七瀬を目で追っていた。学校の廊下でも部活中でも。謝らなきゃと思っているからだと自分ではずっと思ってきたが、もしかしてまさか、自分にもそういった感情がどこかにあったのだろうか。だからこそ、風呂場でのことがあったその後も触れてくる七瀬を拒否できずにいたのだろうか。女子に告白されても受け入れる気になれなかったのだろうか。
まさか?
いや、でも?
自分の中でそう思うと、おかしなもので「好き」という気持ちを明確に自覚できていないというのに、瑠衣は今すぐ瑠衣を抱きしめたくて仕方がなくなった。
ぎゅっと抱きしめて、そして、そうだ、キスも、したい。それに今したら何かわかる気がする。
感情を理解したり実感するのがピンとこなくても、したいと思うことならすぐに浮かんだ。
だからそうした。
顔を離すと少しぽかんとした七瀬が見えた。その鼻先にちらほらと白い柔らかそうなものが見えた。
雪だ。
辺りを見ようとした瑠衣に、今度は七瀬からキスをしてきた。
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