ニコラシカ

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5話

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 朝哉は暫く固まったままその場に立ちすくんでいた。一瞬、郭夜がおかしくなったのかとさえ思った。なんとか気を取り直してマジマジと郭夜をだが見ても、ふざけているような表情はしていないし至って真顔だ。

 いや、でも好きって照れもなく真顔で言うこと……? つかその前に好きってなによ? これ、どうとったらいいの?
 でも普通に考えて告白っつってたし「好きになったみたい」ってんなら最近のことって意味だよね? それってもう、確定じゃね……?

 思い至った考えに唖然となっていると「聞いているのか?」と問われる。

「き、聞いてる、けど……そもそもなんで今さら? 高校ん時からずっと居ててなんで?」
「あの日、お前キスしてきただろ」
「え、あ、ハイ……」

 覚えてませんが、と思いつつ頷くと「覚えてないみたいだけど」と郭夜も続けてくる。

「それ以来頭に残ってて、好きになったみたい」
「……っ? な、マジで? え、でもだって酔って訳わかってねーままのふざけたチューだろ……?」
「そんなん俺が知るか」

 淡々と言ってくる郭夜が男らしい。

 ああもう、これじゃあどっちが告白してるのかわかんねぇよ……!

 微妙になりつつも朝哉は笑って誤魔化そうとした。

「で、でも俺はお前とは友だちでいたいからその……」
「まあ、そうだろうな……。お前女好きだし。でも、俺は諦めるつもりはない。第一俺も男に興味はない。だけど俺をこんな風にしたきっかけを与えたのはお前なんだから、覚悟しろよ?」
「どういう意味っ?」

 郭夜の言葉に青くなり、朝哉は思わず壁にへばりつくように後退った。

「どういう意味もなにも、言葉のままだけど」

 動揺する朝哉に対し、告白した側であるはずの郭夜はひたすら堂々としている。

「こ、言葉のままって……! だいたいほんとなんだよ。そ、そりゃいきなりチューした俺が悪いのかもだけど、マジ酔ってて覚えてねーし」
「それ、俺が女でも言えんのか?」

 郭夜に言われ、朝哉はグッと詰まる。確かに郭夜がもし女だったら自分が酔って勝手に無理やりキスしたのなら、こんな言い草はないと思う。

「……ごめん。覚えてないからってのはなんか逃げだよ、な」

 朝哉が謝ると、だが郭夜はニコリと微笑んでくる。

「まあ実際俺は女じゃないし、それくらいのことで凹むつもりはないし、そもそも今現に不法侵入していたのは俺だし」

 不敵に笑われ、朝哉はまた唖然となる。どうにも振り回されている感じしかしない。告白したのは郭夜なのに、とまた思いながら朝哉はムッとした。

「じゃあなんで言うんだよ! くそ。だいたいそうだよ、勝手に人の家入んなよ、ストーカーか。鍵なんで持ってんだよ!」
「鍵は勝手に作ってた」
「待っ、っちょ、お前いつから俺のこと好きなの……?」

 微妙になりながら聞けば「ああ」と動じた様子もなく郭夜が答えてくる。

「好きになったのはキスされてからっつったろ。鍵はお前が俺に面倒かけてくる関係で作ったんだよ。現にキスされた日もお前、自分で鍵出すこともできなかったろうが」
「っう」

 そう言われると返す言葉もない。黙っていると郭夜が立ち上がった。それに対しとてつもなく警戒していると「そんなに構えるなよ」と笑われる。

「か、構えもするだろ! 好きって言われて……、……つかあの、覚悟とか言っただろが」
「覚悟したのか?」
「し、してない! してねーけどか、構えちゃうだろそんなん! だいたいお前、俺の親友なのに俺、どーしていいか……」
「好きになればいいと思うよ」
「い、いやいやいやいやいや……!」

 朝哉が青くなっていると郭夜はそのまま玄関に向かいだした。

「って、郭夜?」
「いや、今日はとりあえず打ち明けにきただけだから。じゃあまた」

 淡々とした様子で言い放つと、郭夜はそのまま出ていき、ご丁寧にも鍵をかけていった。

「……あ、あり得ないだろ……」

 一気に力が抜けた。動揺して、心臓が正直成人病にでもなったのかというくらい激しくどくどくいっている。

 なんで俺なの。

 動揺しまくった後に茫然と思う。

 あんなにモテててんのに。だいたい俺は女の子がいいんだよ……!

 もしかして冗談だったということはないだろうかと考えてみる。だが今まで付き合ってきて、郭夜がそういう冗談を言っているのを聞いたことがない。
どうしたらいいんだと朝哉は頭を抱えた。郭夜のことは好きなのだ。もちろん、そういう意味ではなく親友としてだが。
 これからもずっと大事な友だちとしてやっていけると思っていた。だというのに、本当にどうしていいのかわからない。
 とりあえずわかるのは、「好き」に応じられないけれども、友だちは止めたくないということだった。



 一方自分の部屋に戻った郭夜はとりあえずシャワーを浴びた。出るとまだ早い時間だが布団を敷いて夕食もとらずに横になる。じっと天井を見た後にふと目を逸らした。
 梓と話した後、意を決して勢いのまま朝哉の部屋に押しかけた。帰ってきた朝哉にそしてその勢いのまま告白した。ずっと顔色も変わっていなかったのは自分でもわかるし態度も普通だったと思う。
 だが実際は結構いっぱいいっぱいだった。ただでさえ男に興味ない相手に、むしろ女々しいところなんて逆に見せたくない。それもずっと友だちだったのだ。多分「嫌われたくない」という気持ちが無意識に働いたのだと思う。

「……好きだと言った時点で嫌われても仕方ないのにな」

 そもそも友だちという関係も、自分が好きになってしまった以上続けられる訳がない。友だちのままでも仲良くできるのなら嬉しいという気持ちは郭夜にもある。だがそれだけではどのみち自分が抑えられないのはわかっている。
 だったら言うしかないし、それを言われて朝哉が困るとしか思えないとわかっていても堪えることはできなかった。
 ため息をつくと、郭夜はそのまま目を閉じた。
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