ニコラシカ

Guidepost

文字の大きさ
10 / 20

10話

しおりを挟む
 目が覚めると朝哉はちゃんと布団の中で転がっていて、そのふかふか具合が気持ちいいと思った瞬間、言いようのない頭痛に襲われた。
 何事っ? と思いつつ恐る恐るゆっくりと寝返りを打つと、隣で郭夜が寝ている。

「……っ? 、……く」

 今度こそ「え」っと声を上げそうになったがその前にやはり頭痛のせいで朝哉は頭を抱えた。ゆっくりと周りを見てみれば、見慣れた自分の家ではなく郭夜の家だと分かる。

 そういえば昨日ここに来て……あーそいやビール、飲んだわ。

 ただ、普通にグラスでちょっと飲んだくらいの記憶しかない。二日酔いに悩まされる程飲んだ記憶がない。ついでにその後の記憶もない。そのまま酔いつぶれてしまい、仕方なくここに寝かされたのだろうかと朝哉は思った。
 一瞬、そのまま襲われてないだろうなと不安になったが、幸い尻に違和感はない。もちろん基本的に郭夜がそういうことを無理やりしてこないとわかってはいるが、それを言うなら郭夜が自分をそういう意味で好きになるとは、とも思うのでなんとも言えない。
 とりあえずなにか鎮痛剤がないか聞こうと思い、眠っている郭夜を朝哉は死んだような目で見た。静かに、といっても起きている郭夜も基本的に煩いことはまずないが、静かに眠っている郭夜の寝顔は正直、好きだと言われて困惑している朝哉ですら綺麗だと思う。ちゃんと男らしいのに美形でもある。
 郭夜が女だったらな、と朝哉はふと思った。女だったら、例え友だちであってもこんなに困惑しないと思った。ただでさえ友だちとしか思っていない相手をそういう目で見るのは簡単と言えないのに、今まで考えたこともない同性だとか、ハードルが高すぎる。それでも友だちとしては本当に好きで、だからこそ困る。

「あー、もう」

 思わずそう口にしていると郭夜の目が薄っすらと開いた。

「起きた?」
「……おはよう、早いな」

 低い声で言われ、むしろ「早いのか」と朝哉は時計を探した。掛け時計は無く、敷かれたこの布団から少し離れたところに小さな置時計を見つけた。

「えらく存在が控えめなおしとやかな時計だな」
「……朝からなに言ってるんだ……?」

 朝哉の言葉に対して辛辣でいて素っ気ない返事が返ってくる。改めて「こいつは本当に俺のことが好きなのか」と思いつつ「なんでもねーよ!」と時計を見ると確かにまだ七時にもなっていない。

「はぇえよ、寝直してー。けど頭すげー痛いんだけど。ねー、かぐちゃん、頭痛薬ねえ?」
「かぐちゃん言うな」

 嫌そうに言いながらも郭夜は起き上がり、台所の辺りに向かう。

「ほら。……二日酔いか?」

 そして水の入ったグラスと錠剤を持ってきた。

「サンキュー。んー、俺、そんな飲んだっけ?」
「あー……どうだろうな」

 朝哉の言葉に郭夜はふい、と顔を逸らす。怪訝に思いつつ郭夜を見た後で「とりあえず薬飲んだらもっかい寝ていー?」と朝哉は痛む頭に顔をしかめながら聞いた。

「構わない。……薬、俺が口移しで飲ませてやろうか?」

 頷いてから郭夜がじっと朝哉を見ながら少しニヤリとしてきた。丁度錠剤を飲む前に一口水を、とグラスから口に含んでいた朝哉はそれを思い切り吹き出す。少量だったのが幸いだが、その少量の水は郭夜の顔に集中した。

「……いくらお前のことが好きでもこういうプレイは好きじゃない」
「はっ? プレイじゃねーよ……! あーもう! とりあえず吹きかけたのはゴメン」

 ぶつぶつと文句を言いながらも、着ていた服で顔を拭っている郭夜に一応謝ってから朝哉は薬を飲んだ。飲み終えると空いたグラスを郭夜が黙って回収してくる。こういうさりげないところは相変わらず男前だなと思いつつ、朝哉はまた横になった。

「なんで口移しとか余計なこと言うんだよ」

 追及しなくてもいいというのについ文句として口に出てしまった。戻ってきた郭夜は横になっている朝哉の隣に座ると「抜き合ったことに比べたらこれくらい」とむしろ腹立たしい程淡々とした顔で言ってくる。

「そりゃそうかもだけ……って、待て。抜き合うってなんだよ。なんでそんな例えが出てくんだよ」

 例えだよな? とりあえず比較としてあえてそんなこと言ってきた、へたくそな言葉プレイみたいなものだよなと朝哉は微妙な顔で郭夜を見た。

「例え? なんのことだ」
「いや、だから抜き合うとか……」
「例えじゃないけど」
「え?」
「……お前がその気になってきたから俺も遠慮なく」
「えっ?」

 朝哉はむしろ変な笑顔になって固まる。

「頭痛いんだろ。とりあえず一旦寝ろよ」
「は? いやいやいや、だって今、余計頭痛くなるようなことぶちかまされた……! ちょ、冗談だよな?」
「なんで俺が冗談でそんなこと言わなきゃなんだよ。別に笑うとこないような内容なのに」
「ああ笑えねーな……! ええええっ、ちょ、ほんっとなにしてくれてんの?」

 酒で頭が痛いはずだったが、もはや今は何で頭が痛いのかさえ混乱しながら朝哉はその頭を抱える。

「……俺が完全に悪者みたいに言うけど、お前がその気になってきたから俺も、じゃあって感じだったんだけど」

 朝哉の物言いに、郭夜は落ち込むどころか「なにを言っているんだ?」といった怪訝な顔を浮かべてくる。怪訝な顔になりたいのはむしろこちらだ、と朝哉はさらに頭を抱えた。

 その気って、なに。
 酔っぱらった俺、どういうこと。

 言われた郭夜の言葉を疑う気は、やはり朝哉には無い。最近の郭夜はひたすら「お前どうしちゃったの」と言いたい感じではあるが、それでも根本が変わる訳でもなく、好きだと言ってきても尚甘さすらない。この状況で、郭夜が嘘を吐くとは今までの郭夜を知っているだけに思えずに、朝哉はひたすら痛む頭で考える。
 そういえば、とキスをされた記憶が薄らと浮かんだ。よくよくぼんやりした脳をひねり出そうとすると、それもただの軽いキスではなく濃厚なやつだったとさらに浮かぶ。気持ちがいいとそして思った記憶もある。
 相手が郭夜だとどこかでわかっていながらも、そういうことがどうでもいいことのような気がして、ひたすら気持ちよさに反応していたように思える。

「……誰か俺の記憶を弄った? つかお前、俺の脳、なんか弄った?」
「そんなことできるならむしろお前が俺を好きになるよう弄る」
「ですよね……!」

 朝哉はひたすら微妙な顔になりながら「とりあえず頭治るよう、寝る……」と、そのまま目を閉じる。郭夜が「あーうん、頭な」とどこかおかしそうに呟いているのが聞こえたが、そのままスルーして寝ることに集中した。
 基本的に寝つきはとてつもなくいいので、今こんな状況でも気づけば寝ていたらしい。次に目が覚めると昼前になっていて、頭痛に関してはまだほんのりと違和感はあるものの、鎮痛剤のせいか、やったことのない麻薬をやった後のようにどこか気持ちがいい。

 ……気持ちがいいといえば……。

 朝哉は少し重い体を起こしながら思った。幻、夢、なにかそんな感じだったらよかったのにと思いつつも、郭夜とキスして気持ちがいいと思った記憶は相変わらずぼんやりとだが残っている。それを思い出すと気分が落ち込むというか、ひたすら微妙になる。
 だが「起きたのか。とりあえず飯でも食え」と郭夜が目玉焼きとご飯、インスタントの味噌汁といったとてつもなく簡単な料理を運んできたのを見て、とりあえずテンションは上がった。それと同時に腹が鳴る。
 こんな自分のことは嫌いではない、と朝哉は布団からいそいそと出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

【完結】ずっと一緒にいたいから

隅枝 輝羽
BL
榛名はあまり目立ったところはないものの、真面目な縁の下の力持ちとして仕事に貢献していた。そんな榛名の人に言えないお楽しみは、お気に入りのおもちゃで後ろをいじること。社員旅行の前日もア○ニーですっきりさせて、気の進まないまま旅行に出発したのだが……。 J庭57のために書き下ろしたお話。 同人誌は両視点両A面だったのだけど、どこまで載せようか。全部載せることにしましたー!

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

最強βの俺が偽装Ωになったら、フェロモン無効なのに狂犬王子に求愛されました~前世武道家なので物理で分からせます~

水凪しおん
BL
前世は日本の武道家、今世は平民β(ベータ)のルッツ。 「Ωだって強い」ことを証明するため、性別を偽り「Ω」として騎士団へ入団した彼は、その卓越した身体能力と前世の武術で周囲を圧倒する。 しかし、その強さと堂々とした態度が仇となり、最強のα(アルファ)である第一王子・イグニスの目に止まってしまった! 「お前こそ俺の運命の番だ」 βだからフェロモンなんて効かないのに、なぜかイグニスの熱烈な求愛(物理)攻撃を受ける日々に突入!? 勘違いから始まる、武闘派β×最強王子のドタバタ王宮BLファンタジー!

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

処理中です...