緋の花

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132話

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「チャラ猫が俺を家に招待した事実だけ作っておきたかっただけや」

 家に帰り、部屋でいつものようにだらしなく寛ぎながら言ってきた秋星の言葉に、邦一はポカンとした顔を向けた。

「……は?」

 ただ、何を言っているんだと怪訝な顔を向けてから、秋星の言っている意味がわかった。そんな邦一の表情を見て秋星がニッコリとわざとらしい笑顔を見せてくる。

「……はぁ。でも何で。別に秋星が臨太郎の家、勝手に来ることなんてないだろ」

 ヴァンパイアは招かれていない家に入られない。魔物全部がそうなのではないらしい。現にまだ魔物に慣れない邦一と違って、生まれた時から魔物である臨太郎もちっともわかっていなさそうだった。前に言っていたように悪魔とヴァンパイアくらいなのだろう。
 そこに居住する者に許可を貰わなければ、あれほど強い力を持ちながらも門口を越えて建物に入ることはできない。ただし一度でも招待してしまったら、そこは門戸を開いたことになる。そのため、ヴァンパイアはあらかじめ公の場で用事のある者、大抵は獲物になるのだろうが、その相手に会い、正体がもしくは目的がバレる前に招待されるよう仕向ける。

「念のためや。例えばあのチャラ猫がクニ狙いで家に連れ込んだ時とかな、」
「あり得ない例え、やめろよ……」
「そんなんあり得へんかどうかなんてわかる訳ないやろ。とにかく上手いこと言うてお前を家に連れ込まれてみぃ。何かあっても招待されてへんままやったら俺はクニを助けに行かれへんねやで?」
「色々突っ込みどころしかないんだけど」
「だいたいクニはいくら俺が気ぃつけ、言うたかてアカンやろ」
「……それに関しては何も言い返せないけどな……」
「せやろ? やから勝手に俺に心配されてたらえぇんや、お前は」

 所々微妙ながらに、今とても男前なことを言われた気がする。

 だけど俺、もう人間じゃないんだけどな。

 全く、とため息をまた吐いてからふと、気になることが過った。
 邦一があの男に殺されかかった時、秋星はどうやって屋敷に入ったのだろう。招待されないと入られないのなら、あの時も同じだったのではないだろうか。

「何や、どないしたん?」
「え? あぁ。その、秋星さ、俺を助けてくれたよな」
「いつ」
「……こないだ」
「あー……。さらっと軽く言うからむしろそれ浮かばんかったやろ」

 秋星がムッとした顔を向けてきた。

「そんな、俺が悪いみたいに言われても。あのさ、その時ってどーやって入って来たんだ?」

 すると秋星はことさらむすっとしてきた。どうやら本当に気に食わない気分のようだ。

「どうしたんだよ」
「……別に。……あの時はチャラ猫先に入らせた……」

 とてつもなく嫌そうに言ってくる。そこまで嫌がらなくてもと思いつつ、秋星のプライドが無駄に高いのは今に始まったことでもないので流すことにする。

「先に誰かが入ると招待されなくとも入られるのか?」
「いや、普通は無理や」
「だったら」

 何で、と聞く前に秋星が続けてきた。

「あの野良、公にしている家にすらほぼ帰ってへんかったくせにな、あそこの屋敷にも普段ずっとおるんちゃうかったみたいや」
「? 別荘的な感じか?」
「そんなえぇもんちゃうやろけどな。要は犯罪用やろし」

 犯罪、と秋星の口から聞くと何となく違和感を覚えるのは仕方がないと邦一はそっと思った。

「それもあって居住性は薄かったんかもしれん」
「へぇ……」

 頷いたところで秋星がそばへ近づき、邦一を抱きしめてきた。

「な、に?」
「……一か八かやったんや……」
「え?」
「チャラ猫と探してる時はそこまで考えてる余裕なんかなかったし、いざお前が殺されかけてるとこ目の当たりにしたら様子見るとかそんなん、無理やった……作戦も何もない、誘い込むとかそんなん考えてる暇もなかった。無意識にチャラ猫押し込んでたし俺はチャラ猫をつかんでた。ほんま一か八かやったんや……」

 囁くように説明しながら、秋星はさらにぎゅっと抱きしめてくる。

「……そのお陰で俺、今も生きてる」

 邦一も抱きしめ返した。

「……やから……」
「ん?」
「そやから……どんなことあるかわからんから、チャラ猫やろうがな、招待されんねやったら入っとくんや」

 思いつきではなかったのか、と邦一はそっと秋星の背中を撫でた。いや、思いつきは思いつきだろうが、秋星としてはちゃんと意味があったのだなとわかった。珍しく本当に気に食わない様子を見せてきたのも、そういうことからなのかと邦一は納得した。じわりと何とも言いがたい気持ちが込み上げてくる。

「秋星……」
「キモいとか言いなや」
「言うはずないだろ。……俺のこと、大事にしてくれてありがとうな……」

 今のことも、あの男を臨太郎と共に必死に探しだしてくれたことも、今までいつも口煩いほどに過保護なところがあったことも、吸血行為のことも、そして過去のことを隠していることも──
 偉そうで、プライドが高くて傍若無人なほどに好き勝手なくせに、ずっと邦一を大事にしてくれていた。

「な、何やねん。改まって……俺やなくてクニがキモい」

 そうそう、素直ではないとこもなと邦一は少し微笑む。

「俺、キモいのか」
「今のクニがな!」
「ふーん。……で、気持ち悪い俺でも、秋星は好きでいてくれるんだろ」

 抱きしめたまま囁くと「可愛いクニはどこいってん……」と邦一の胸元に埋もれながら言われた。
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