クリスマスが終わるまで……

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クリスマスが終わるまで……

7 Santa Claus

「どういうことだよ」

 目の前では速攻で柚右に笑顔のまま締めあげられた後正座をさせられている不審者が、それでも嬉しそうに柚右を見上げている。
 あまりに異質な存在にドン引きすることすら忘れて唖然としてから、倭は不審者が現れた時の状況を思い出し、消えてなくなりたくなったり壁に頭を打ちつけて記憶を消し去りたくなったりした。その後ようやく羞恥心を乗り越えた。
 などと誤魔化しつつ、何とか今こうしてベッドの縁に座り問い詰めている。もちろん服はちゃんと着てだ。

「どういうことも何も、オレはサンタ様の忠実なトナカイなので迎えに参った次第です」
「はい?」
「トナカイ……相変わらずあなたは空気と状況を読むという初歩的なことすらできない大馬鹿野郎ですね。後で覚えておくといい」
「はい! めちゃくちゃ覚えておきます! ああ……最高だな、忘れるわけありません、サンタ様に覚えられ後でお叱りを受けるなんてそんなこと忘れられるわけがな──」

 大興奮しながら何やら言っている途中で隣に座っている柚右の方から飛んできた分厚い辞書の角がクリーンヒットしたようだ。一瞬頭が後ろに仰け反るような状態で意識を飛ばしていた様子のトナカイは、だがまたすぐに頭を上げて「忘れません」と何事もなかったかのようにニコニコまた柚右を見上げている。少し怖い。

「あとあなたはもしや、ああいったことをなさっていたということは、サンタ様の恋人か奥様でしょうか。ということはオレの第二のご主人様でもありますよね! ああ、どうかよろしくおね」

 どうやらもう一つ辞書が近くにあったようだ。さすが柚右だ、勉強もできるだけある、のかもしれない。またトナカイの頭に飛んでいき、トナカイは頭を仰け反らせて一瞬違う世界に飛んでいるようだった。

「怖い……」

 思わず呟くと柚右が「大丈夫、僕が守りますから」などと言ってきた。不審者と共にお前も含めて怖いのに何に? 何から? とあえて聞き返したいところだったが、今一番聞きたいのはそれではないため、倭はぐっと堪える。

「……サンタ様って、どういうことなんだよ」
「サンタ、知りませんか? キリスト教圏での伝説の人物だと言われていますが、そもそも──」
「待て。概念はいい……! サンタクロースくらい知ってるわ。じゃなくて、本当にサンタってい……じゃなくて! ああもう、クソ。お前が、サンタ、だって?」
「はい」
「冗談じゃなくて?」
「はい」
「ドッキリじゃなくて?」
「はい」
「……、……だからクリスマス、用事、あんの?」
「……はい」

 ずっと笑顔で頷いていた柚右だが今度は少し申し訳なさそうに頷いてきた。それがむしろ本当だと倭に実感させてきた。
 柚右が「後で向かいますからあなたは先に戻ってなさい」と命令したところで新たな不審者がまた現れ、トナカイという名の不審者を引きずるようにして消えていった。柚右曰く「あれは本当にトナカイですよ。不審者に見えないよう人の姿を取らせているというのに、役に立たないプライドが全て角に集まってしまっているらしく、無駄に角だけ残っている馬鹿な子でしてね」らしい。新たに現れてトナカイを拉致していった今時風の格好をした不審者はトムテという存在だと教えてくれた。

「秘密にしておこうというつもりはなくて、ちゃんと話す気ではあったんですが……タイミングとか中々難しくて」
「いつでも言える時あった」
「そうでしょうか? 言ってもすぐ信じられました?」

 そう返されて、倭もぐっと言葉に詰まる。確かに「僕サンタなんですよ」などと言われても「ああ、そう」と適当に流しそうだ。そういえば以前ピアノの演奏を初めて聞いた時、あまりにすごい指の動きに「人間じゃない」と言った倭に対して「サンタですから」と返してきた柚右を思い出す。当然、冗談だと倭は流していた。

「……」
「マサ、どうしたんです? 怒っているならまだしも、何故そんなに悲しそうなんですか?」
「何故? 何故って、当たり前だろ! だってお前、サンタなんだろ……じゃあ、じゃあクリスマス終わったら消えるんじゃないの? いなくなるんじゃないの? クソ、何で俺にこんな気持ち植えつけてきたんだよバカ野郎……消えるならなんで……」
「だって好きなんですよ、マサのことが。マサに関しては僕も相当チョロいようです」
「僕もって言った。やっぱりお前、日々俺のことチョロいって思ってたし口にしようとしてたよな……」
「素直でかわいいと思ったんですよ、僕は」
「……お前のが年下なのに生意気」
「はは。年下ね。ねぇ、マサ。あなたに対しては最初、僕の力が及んでいないから怪訝に思って近づいたんです」

 静かに笑う柚右を倭はじっと見た。

「力?」
「ええ。マサ以外は僕が前からずっといたと思っていたでしょう」
「あれ……! やっぱり俺、間違ってねえんじゃねーか」

 自分だけが間違っているかのように思わされたと憤慨していると柚右が笑いながらキスしてくる。

「運命だったんですかね。近づいてあなたに接していると好きにならずにはいられなくて。今みたいに間抜……うっかりした感じなとことかもかわいくて」
「今、間抜けって言おうとしたよな? チョロくて間抜けって思ってるよな?」
「愛してるって言ってるんですよ。マサ。ですが僕はもうそろそろクリスマスの仕事を果たすために行かなくてはなりません。クリスマス後も年が明けるまで色々と対応がありますがイブより前から準備も必要で」
「……っ、やっぱ、りそうなのか? 馬鹿や、ろ……だから何で……だったら何で俺にまでお前を好きにさせたんだよ! く、そ……この性悪……馬鹿やろ……」

 情けないことに涙がぼたぼたと落ちてきた。柚右は涙にぬれた頬に沢山キスして舐めとってきた。

「かわいいマサ。愛してます」

 最後にそっと優しい口づけしてくると、柚右はそのまま消えてしまった。
 そんなことってないと思う。倭はその後ひたすら泣いた。本当にそんなことってないと思う。
 そんな倭の残りの冬休みはむしろ勉強して過ごす日々だった。少しでもぼんやりとすると柚右との楽しかった時間を思い出し泣けてくる。だから好きでもない勉強をひたすらして過ごした。しかし忘れるなんてことは到底まだまだできそうになかった。
 三学期が始まり、倭は学校までの短い道のりをとぼとぼと歩く。

「おはようございます、マサ」

 忘れるどころか幻聴まで聞こえてきた。
 俺はもう駄目だ、と思いながら倭は死んだ魚のような目で何気に振り返ると、そこにニコニコした柚右が立っている。

「……っ? え? あ? え、な、んで」
「今時サンタもクリスマス以外は普通に過ごしてますよ。クリスマス以外存在しないわけなんてないでしょう? 本当にチョ……素直ですよね、馬鹿なんです?」
「ば、っつかほんっと性格最悪だな……っ? だ、だいたいじゃあなんでそれ、言ってから消えなかったんだよっ?」
「マサの泣き顔もとてもかわいくて大好きなんですよ、僕」
「っクソ野郎……っ、ほんっ、っと性悪すぎるだろ……っ」

 殴り倒してやる、と振り上げた腕を、気づけば倭は柚右の背中にぎゅっと回していた。
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