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11話
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梓の弾き語りで灯の曲を聴いたのは、やはり心の底から癪でしかなかったけれども、それでも聴けてよかったし灯の曲が凄く好きだと柊は思う。
カフェの店が、オーナーの用事だとかで休みである休日、柊は灯を家に呼んでいた。
「やっぱ俺、灯ちゃんの曲凄く好きだよ」
「ありがとうございます」
そう、店が休みなら灯だけでなく梓も休みということだ。ニコニコとギターを手にした梓へ照れた顔を向け、灯が嬉しそうにしている。そんな様子を見て、柊は苛立ちを覚えた。灯の曲が好きだと口にする梓にもムッとなる。
俺が……俺が好きなんだよ。灯の曲が。灯が。
そんなことを思っていると、梓がニッコリしながらまた灯に話しかけた。
「じゃあ今度は俺の曲を灯ちゃんに聴かせてあげるね」
「アズさんの曲?」
「うん。俺、大学の友だちとバンドやってるんだ。今度スタジオ借りた時は練習、聴きに来てよ。ライブハウスでする時はチケット渡すし」
ウィンクしながら梓が言う。悔しいことにそれはとても様になっている。おまけに灯はとても嬉しそうに返事していた。
……やっぱ俺も音楽、少しは覚えよう。
先ほどから何一つ口を挟めない柊は心底思った。だいたい、灯と梓は音楽を通してどんどん仲よくなっている。そこに柊は入り込めない。柊一人が二人から取り残されているようで苦しさを覚えた。
柊には音楽の才能どころか知識もない。自分から二人ともが離れていくような気がした。梓に置いていかれることに、灯と離れてしまうことに、どちらに対しての焦燥感や苛立ち、ジレンマなのかわからないが、苦しかった。
「柊」
「シュウ」
痛む心に気を取られていると、梓と灯に呼ばれていた。
「な、何だよ」
ハッとなり、柊は何でもないように返事する。
「俺の曲、聴いた感じどうだった?」
「カッコよかったよね」
「聴いてなかった……」
「えー」
梓が苦笑している。灯は笑っていたが「そういえば俺、少し腹筋割れたよ」と違う話題を振ってきた。柊でもわかる話だ。
二人から話しかけられたのも何気に気分が向上したが、わかる話題にほんのり嬉しくなっていると、梓が立ち上がった。柊が見上げると、こちらを見てきた後にニッコリ笑いかけてきた。何だよ、と柊が戸惑っていると部屋のドアを開ける。
「俺、そろそろ出かけるからさ。灯ちゃんはゆっくりしていってね」
「はい。曲、聴かせてくれてありがとうございました」
ニコニコ手を振りながら出て行く梓に、灯は笑みを向けながら小さく頭を下げていた。何となく梓に灯を譲ってもらったような気がしてしまい、微妙な気持ちになっていると「シュウ?」と呼ばれる。
「え? あ、何」
気を取り直して灯に顔を向けると、灯が厚手のシャツをめくり上げて腹を見せていた。ジュースを飲んでなくてよかったと柊は思った。飲んでいたら確実に吹き出していた。
「な、何やってんだよ……!」
「え? だから腹」
「は?」
「さっき言ってただろ。腹筋。割れてない?」
灯の言葉につい腹に目をやった。そこは確かに柔らかそうではなかったが、すべすべしていそうで思わず触れたくなるのを柊は必死の思いで留まった。
「わ、割れてねーよ」
「え、嘘。ちゃんとお前に聞いたストレッチやってるし、昨日風呂で見た時は割れてたって」
「電気かなんかの影だろ」
「えー……」
がっかりしたように上からめくり上げた自分たちの腹を覗き込んでいる灯に「触って確かめてやろうか」と言い出しそうな自分を柊は何とか堪える。
「そんな簡単につかねーよ。コツコツ続けてろよ」
フイッと少し顔を逸らしながら柊はため息ついた。確かに以前、灯に聞かれてストレッチを教えたことがある。体育の授業で着替えていた時に「シュウみたいな腹になるのって難しい?」と聞かれたのだ。
柊は別にさほどいい体をしている訳ではない。だが灯からすれば羨ましかったらしい。灯はあまり丈夫とは言えないが、体をそれなりに鍛えるのは悪いことではない。だから灯でもできそうなメニューを柊は教えた。正直、灯が望んでいるような体を作るには全然足りないかもしれないが、それなりに意味あるメニューだ。
「なかなか難しいんだな。あ、でも少しはしっかりした? なぁシュウ。そっち側向いて何見てんのか知らないけどさ、腹見てくれよ」
無理。
内心即答しながらも柊は少しだけ灯の方へ顔を向けた。
「見てもわかんねーけど」
「ほら、前に比べてさ」
「覚えてないってそんなの……」
「覚えててよ。そうだ、ちょっと触ってみて。そしたらわかるんじゃない?」
「普段触ってるんじゃないし、わかんねーよ……」
天国で拷問を受けている気分だった。
灯が少々ムキになるのもわからないではない。普段あまり丈夫とは言えない分、恐らく少しでも自分の体がしっかりしたと思いたいのだろう。
結局、柊は少しだけ灯の腹に触れた。友人なら何てことのない些細なことだっただろう。だが柊にとっては大きなことだった。
その夜、柊は灯の肌に触れた感触を反芻していた。触れた手を見つめ、そっとその手に唇を落とす。もう片方の手はひたすら自身を慰めていた。
アカリ……ごめん。
罪悪感が湧き上がるが、行為中はそんな罪悪感ですら興奮を高めてきた。
めくれ上がった灯の肌に触れる自分を思い、どんな触れかたすれば灯はどんな表情をするだろうかと逆上せた頭で思い描く。いつも以上に早く達した。
自分の手の中でしなったそれは、びくびくと震わせ熱を吐き出した後ぐったりとしてくる。
アカリ……ごめんな……。
熱く長いため息ついた後、柊はティッシュへ手を伸ばした。
カフェの店が、オーナーの用事だとかで休みである休日、柊は灯を家に呼んでいた。
「やっぱ俺、灯ちゃんの曲凄く好きだよ」
「ありがとうございます」
そう、店が休みなら灯だけでなく梓も休みということだ。ニコニコとギターを手にした梓へ照れた顔を向け、灯が嬉しそうにしている。そんな様子を見て、柊は苛立ちを覚えた。灯の曲が好きだと口にする梓にもムッとなる。
俺が……俺が好きなんだよ。灯の曲が。灯が。
そんなことを思っていると、梓がニッコリしながらまた灯に話しかけた。
「じゃあ今度は俺の曲を灯ちゃんに聴かせてあげるね」
「アズさんの曲?」
「うん。俺、大学の友だちとバンドやってるんだ。今度スタジオ借りた時は練習、聴きに来てよ。ライブハウスでする時はチケット渡すし」
ウィンクしながら梓が言う。悔しいことにそれはとても様になっている。おまけに灯はとても嬉しそうに返事していた。
……やっぱ俺も音楽、少しは覚えよう。
先ほどから何一つ口を挟めない柊は心底思った。だいたい、灯と梓は音楽を通してどんどん仲よくなっている。そこに柊は入り込めない。柊一人が二人から取り残されているようで苦しさを覚えた。
柊には音楽の才能どころか知識もない。自分から二人ともが離れていくような気がした。梓に置いていかれることに、灯と離れてしまうことに、どちらに対しての焦燥感や苛立ち、ジレンマなのかわからないが、苦しかった。
「柊」
「シュウ」
痛む心に気を取られていると、梓と灯に呼ばれていた。
「な、何だよ」
ハッとなり、柊は何でもないように返事する。
「俺の曲、聴いた感じどうだった?」
「カッコよかったよね」
「聴いてなかった……」
「えー」
梓が苦笑している。灯は笑っていたが「そういえば俺、少し腹筋割れたよ」と違う話題を振ってきた。柊でもわかる話だ。
二人から話しかけられたのも何気に気分が向上したが、わかる話題にほんのり嬉しくなっていると、梓が立ち上がった。柊が見上げると、こちらを見てきた後にニッコリ笑いかけてきた。何だよ、と柊が戸惑っていると部屋のドアを開ける。
「俺、そろそろ出かけるからさ。灯ちゃんはゆっくりしていってね」
「はい。曲、聴かせてくれてありがとうございました」
ニコニコ手を振りながら出て行く梓に、灯は笑みを向けながら小さく頭を下げていた。何となく梓に灯を譲ってもらったような気がしてしまい、微妙な気持ちになっていると「シュウ?」と呼ばれる。
「え? あ、何」
気を取り直して灯に顔を向けると、灯が厚手のシャツをめくり上げて腹を見せていた。ジュースを飲んでなくてよかったと柊は思った。飲んでいたら確実に吹き出していた。
「な、何やってんだよ……!」
「え? だから腹」
「は?」
「さっき言ってただろ。腹筋。割れてない?」
灯の言葉につい腹に目をやった。そこは確かに柔らかそうではなかったが、すべすべしていそうで思わず触れたくなるのを柊は必死の思いで留まった。
「わ、割れてねーよ」
「え、嘘。ちゃんとお前に聞いたストレッチやってるし、昨日風呂で見た時は割れてたって」
「電気かなんかの影だろ」
「えー……」
がっかりしたように上からめくり上げた自分たちの腹を覗き込んでいる灯に「触って確かめてやろうか」と言い出しそうな自分を柊は何とか堪える。
「そんな簡単につかねーよ。コツコツ続けてろよ」
フイッと少し顔を逸らしながら柊はため息ついた。確かに以前、灯に聞かれてストレッチを教えたことがある。体育の授業で着替えていた時に「シュウみたいな腹になるのって難しい?」と聞かれたのだ。
柊は別にさほどいい体をしている訳ではない。だが灯からすれば羨ましかったらしい。灯はあまり丈夫とは言えないが、体をそれなりに鍛えるのは悪いことではない。だから灯でもできそうなメニューを柊は教えた。正直、灯が望んでいるような体を作るには全然足りないかもしれないが、それなりに意味あるメニューだ。
「なかなか難しいんだな。あ、でも少しはしっかりした? なぁシュウ。そっち側向いて何見てんのか知らないけどさ、腹見てくれよ」
無理。
内心即答しながらも柊は少しだけ灯の方へ顔を向けた。
「見てもわかんねーけど」
「ほら、前に比べてさ」
「覚えてないってそんなの……」
「覚えててよ。そうだ、ちょっと触ってみて。そしたらわかるんじゃない?」
「普段触ってるんじゃないし、わかんねーよ……」
天国で拷問を受けている気分だった。
灯が少々ムキになるのもわからないではない。普段あまり丈夫とは言えない分、恐らく少しでも自分の体がしっかりしたと思いたいのだろう。
結局、柊は少しだけ灯の腹に触れた。友人なら何てことのない些細なことだっただろう。だが柊にとっては大きなことだった。
その夜、柊は灯の肌に触れた感触を反芻していた。触れた手を見つめ、そっとその手に唇を落とす。もう片方の手はひたすら自身を慰めていた。
アカリ……ごめん。
罪悪感が湧き上がるが、行為中はそんな罪悪感ですら興奮を高めてきた。
めくれ上がった灯の肌に触れる自分を思い、どんな触れかたすれば灯はどんな表情をするだろうかと逆上せた頭で思い描く。いつも以上に早く達した。
自分の手の中でしなったそれは、びくびくと震わせ熱を吐き出した後ぐったりとしてくる。
アカリ……ごめんな……。
熱く長いため息ついた後、柊はティッシュへ手を伸ばした。
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