17 / 45
17話
しおりを挟む
教室を出た柊は早足で実際に一旦校門を目指した。学校が終わるまでに学校を抜け出すのは禁止だが、何も塀を飛び越えたり云々をしなくとも、校門から普通に出られる。校則も緩いのだが、あまり反抗するような生徒がいないからだろう。
柊も別に反抗したいわけではない。とはいえ今日に限らず、何度か抜け出してコンビニエンスストアでパンやおにぎりを買ったことはあった。今もとりあえずパンと紙パックのジュースを選んだ後、いらないと言われていたがついでに灯にも菓子パンを一つ買う。そしてまた普通に学校へ戻るが、さすがに授業が始まっているはずなので、そっと入って屋上へ向かう。
この屋上も、他の学校ならもっと立ち入りに厳しいだろうなと柊は思う。
「……さぶ。肉まんかホットコーヒー買えばよかった」
手頃な場所に座って食べ始めると、思わずブルリと体を震わせた後に呟く。
まだ秋ではあるが、そろそろ冬と言ってもいい気温になりつつある。柊は紙パックのジュースを微妙な顔で見てからため息ついた。そして思い切りストローで吸い込む。
「あークソ。さみぃ」
またブルリと体を震わせ、柊は空を見上げた。綺麗な青空ならよかっただろうが、あいにくどんよりした曇天で、柊はまたため息つく。
「俺と梓、そんなに似てんのか……」
灯のその言葉によって、たくさんの入り乱れた気持ちが柊の中でひしめいた。
とりあえず灯がかわいい。自分の緩んだ情けない顔を隠すのにも限界があり、つい教室を抜け出すためコンビニエンスストアへ行くなどと言っていた。
かわいいからこそ、つらくもある。自分のものにできないつらさとでも言うのだろうか。
もちろん、告白などしたこともない。手に入るもへったくれもないし、灯からはっきり断られたわけでもない。とはいえ灯にそんな感情が皆無なのは手に取るようにわかる。
いまさら男同士云々とうじうじ悩むつもりはないが、今の灯が一番気にしていることは日常のこと以外では多分梓だと思われた。
柊が灯を思うような感じで灯は梓を気にしているのではないとは思う。少なくとも今は。それでも関心が梓に行っているのだけでもつらい。恐らく梓が、灯に対して柊が持つ感情と同じ感情を持ち始めたから余計なのだろう。
いくら灯が自分と梓が似ていると思っていても、梓に敵うはずなどない。そう思えた。
だというのに、似ていると言われて嬉しくもあるのだ。
つらいのに嬉しい。自分の中がややこしい。そう思いつつ、柊はまた空を仰いだ。
「……ほら、血なんて関係ねーだろ」
そしてボソリと呟いた。
ちゃんと、兄弟なのだ。きっと一番わかってないのは梓だ。
とはいえ柊の態度もよくないことくらいはわかっている。
「あーあ」
何一つ上手くいかない気がして、さらに柊はため息ついた。
授業が終わったらしいと気づき、屋上から降りた頃には体が完全に冷えていた。柊は自分でも馬鹿だと思う。灯に、そう言っててと口にしたように途中からでも保健室へ行けばよかったのかもしれないが、正直なところ保健医が苦手なのでなるべく立ち寄りたくない。
「五月、絶対性格悪いもんな……」
教師だが普通に呼び捨てにしつつ、柊は自分の教室へ戻った。
「あ、ようやく戻ってきた」
灯が眉を上げて怒ったような顔を作りながら言ってくる。
あーあ、かわいいな……。
そんな風に思いながら「お土産」と菓子パンを渡した。差し出され、つい受け取った灯はそれを見た後に柊を見上げてくる。
「俺、いいって言った」
「せっかく買ったし、そこは後にでも食ってよ」
「……うん、ありがとーな」
困った顔をした後に灯が今度は嬉しそうに笑ってきた。自分の表情が誤魔化せなくなりそうで困るけど、それでもやはり灯には笑ってて欲しいなと改めて思う。
「でも、それとこれとは別だから。授業はちゃんと出ろよな」
「わかったわかった」
「適当に返事してるだろ」
「してないしてない」
「……もう。とりあえず今の授業のノート、いる?」
呆れたような顔をした後に灯がまた笑ってきた。
「いるいる! ありがとーな」
柊も笑みを浮かべる。すると灯がじっと柊を見てきた。
「な、何だよ」
少しドキドキしてしまう状態を誤魔化しつつ聞けば、今度は手を伸ばして柊の手をつかんでくる。即座に心臓が跳ねた。
「おい」
「やっぱり。めちゃくちゃ冷たい」
「……外にいたからな」
手をつかんできた理由としては確かに一番納得がいく。そうだろうなとは思う。それでも浅ましい自分の脳はつい一瞬ですら期待をしてしまうようだと、柊は微妙な気持ちになった。
「屋上?」
「ああ」
「何やってんだよ、まさか一時間まるまる?」
そして灯にまで微妙な顔された。
「コンビニから戻ってからは、まぁ……」
「馬鹿じゃないの……。今日は特に寒いのに、ほんと何やってんだよ。風邪ひくだろ」
さすがは妹愛する兄属性とでも言うのだろうか。灯は柊を見上げながら叱ってくる。
ただ、そんな様子すら柊にとってはかわいいので困る。思わず少し俯き加減になってしまうと灯が「え、俺、言い過ぎた?」と少し驚いた声を出してきた。おまけに顔を覗き込もうとしてくる。
本当に止めて欲しいと柊は心から思った。いや、嬉しいのだが嬉しさを全面に出せない身としてはキツい。
「いや……反省しただけ」
「……何だよ、また俺からかってただけ? 一瞬言い過ぎたのかと思っただろ」
「からかってないって」
「からかってる。シュウが俺の言葉聞いてそんな反省するとこなんて見たことない」
「だったら言い過ぎるってこともねーだろ」
「……それは……」
「何だよ」
「……なんかシュウ、ちょっと様子おかしかったような気がしてたから俺のせいで余計気分悪くなったんなら悪いなって」
様子おかしいというか落ち込んでるのはお前だろ……!
心の中でそう言い返しつつも、柊は改めて「ほんとある意味しんどい」と心臓を押さえたくなった。
柊も別に反抗したいわけではない。とはいえ今日に限らず、何度か抜け出してコンビニエンスストアでパンやおにぎりを買ったことはあった。今もとりあえずパンと紙パックのジュースを選んだ後、いらないと言われていたがついでに灯にも菓子パンを一つ買う。そしてまた普通に学校へ戻るが、さすがに授業が始まっているはずなので、そっと入って屋上へ向かう。
この屋上も、他の学校ならもっと立ち入りに厳しいだろうなと柊は思う。
「……さぶ。肉まんかホットコーヒー買えばよかった」
手頃な場所に座って食べ始めると、思わずブルリと体を震わせた後に呟く。
まだ秋ではあるが、そろそろ冬と言ってもいい気温になりつつある。柊は紙パックのジュースを微妙な顔で見てからため息ついた。そして思い切りストローで吸い込む。
「あークソ。さみぃ」
またブルリと体を震わせ、柊は空を見上げた。綺麗な青空ならよかっただろうが、あいにくどんよりした曇天で、柊はまたため息つく。
「俺と梓、そんなに似てんのか……」
灯のその言葉によって、たくさんの入り乱れた気持ちが柊の中でひしめいた。
とりあえず灯がかわいい。自分の緩んだ情けない顔を隠すのにも限界があり、つい教室を抜け出すためコンビニエンスストアへ行くなどと言っていた。
かわいいからこそ、つらくもある。自分のものにできないつらさとでも言うのだろうか。
もちろん、告白などしたこともない。手に入るもへったくれもないし、灯からはっきり断られたわけでもない。とはいえ灯にそんな感情が皆無なのは手に取るようにわかる。
いまさら男同士云々とうじうじ悩むつもりはないが、今の灯が一番気にしていることは日常のこと以外では多分梓だと思われた。
柊が灯を思うような感じで灯は梓を気にしているのではないとは思う。少なくとも今は。それでも関心が梓に行っているのだけでもつらい。恐らく梓が、灯に対して柊が持つ感情と同じ感情を持ち始めたから余計なのだろう。
いくら灯が自分と梓が似ていると思っていても、梓に敵うはずなどない。そう思えた。
だというのに、似ていると言われて嬉しくもあるのだ。
つらいのに嬉しい。自分の中がややこしい。そう思いつつ、柊はまた空を仰いだ。
「……ほら、血なんて関係ねーだろ」
そしてボソリと呟いた。
ちゃんと、兄弟なのだ。きっと一番わかってないのは梓だ。
とはいえ柊の態度もよくないことくらいはわかっている。
「あーあ」
何一つ上手くいかない気がして、さらに柊はため息ついた。
授業が終わったらしいと気づき、屋上から降りた頃には体が完全に冷えていた。柊は自分でも馬鹿だと思う。灯に、そう言っててと口にしたように途中からでも保健室へ行けばよかったのかもしれないが、正直なところ保健医が苦手なのでなるべく立ち寄りたくない。
「五月、絶対性格悪いもんな……」
教師だが普通に呼び捨てにしつつ、柊は自分の教室へ戻った。
「あ、ようやく戻ってきた」
灯が眉を上げて怒ったような顔を作りながら言ってくる。
あーあ、かわいいな……。
そんな風に思いながら「お土産」と菓子パンを渡した。差し出され、つい受け取った灯はそれを見た後に柊を見上げてくる。
「俺、いいって言った」
「せっかく買ったし、そこは後にでも食ってよ」
「……うん、ありがとーな」
困った顔をした後に灯が今度は嬉しそうに笑ってきた。自分の表情が誤魔化せなくなりそうで困るけど、それでもやはり灯には笑ってて欲しいなと改めて思う。
「でも、それとこれとは別だから。授業はちゃんと出ろよな」
「わかったわかった」
「適当に返事してるだろ」
「してないしてない」
「……もう。とりあえず今の授業のノート、いる?」
呆れたような顔をした後に灯がまた笑ってきた。
「いるいる! ありがとーな」
柊も笑みを浮かべる。すると灯がじっと柊を見てきた。
「な、何だよ」
少しドキドキしてしまう状態を誤魔化しつつ聞けば、今度は手を伸ばして柊の手をつかんでくる。即座に心臓が跳ねた。
「おい」
「やっぱり。めちゃくちゃ冷たい」
「……外にいたからな」
手をつかんできた理由としては確かに一番納得がいく。そうだろうなとは思う。それでも浅ましい自分の脳はつい一瞬ですら期待をしてしまうようだと、柊は微妙な気持ちになった。
「屋上?」
「ああ」
「何やってんだよ、まさか一時間まるまる?」
そして灯にまで微妙な顔された。
「コンビニから戻ってからは、まぁ……」
「馬鹿じゃないの……。今日は特に寒いのに、ほんと何やってんだよ。風邪ひくだろ」
さすがは妹愛する兄属性とでも言うのだろうか。灯は柊を見上げながら叱ってくる。
ただ、そんな様子すら柊にとってはかわいいので困る。思わず少し俯き加減になってしまうと灯が「え、俺、言い過ぎた?」と少し驚いた声を出してきた。おまけに顔を覗き込もうとしてくる。
本当に止めて欲しいと柊は心から思った。いや、嬉しいのだが嬉しさを全面に出せない身としてはキツい。
「いや……反省しただけ」
「……何だよ、また俺からかってただけ? 一瞬言い過ぎたのかと思っただろ」
「からかってないって」
「からかってる。シュウが俺の言葉聞いてそんな反省するとこなんて見たことない」
「だったら言い過ぎるってこともねーだろ」
「……それは……」
「何だよ」
「……なんかシュウ、ちょっと様子おかしかったような気がしてたから俺のせいで余計気分悪くなったんなら悪いなって」
様子おかしいというか落ち込んでるのはお前だろ……!
心の中でそう言い返しつつも、柊は改めて「ほんとある意味しんどい」と心臓を押さえたくなった。
0
あなたにおすすめの小説
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
【完結】俺とあの人の青い春
月城雪華
BL
高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。
けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。
ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。
けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。
それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。
「大丈夫か?」
涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
仮面王子は下僕志願
灰鷹
BL
父親の顔は知らず、奔放な母のもとで育った渡辺響は、安定した職業に就くために勉強だけはずっと頑張ってきた。その甲斐あって有名進学校に進学できたものの、クラスメイトとは話題も合わず、ボッチキャラとして浮いていた。クラスの中で唯一、委員長の川嶋昴陽だけが響のことを気にかけてくれて、面倒見のよい彼に秘かに恋心を抱いていた。しかし、修学旅行の最終日に川嶋が隣で寝ていた朝倉にキスしようとしているところを目撃し、反射的にそれを写真に収めてしまう。写真を消せと川嶋に詰め寄られるが、怒りをあらわにした彼の態度に反発し――。女子から「王子」と呼ばれる人気者優等生×寂しさを抱えるボッチな茶髪男子、の失恋から始まるハートフル青春BL。
※ アルファポリス様で開催されている『青春BLカップ』コンテストに応募しています。今回は投票制ではないですが、閲覧ポイントでランキングが変わるそうなので、完結後にまとめてではなくリアルタイムでお読みいただけると、めちゃくちゃ励みになります。
※ 視点は攻め受け両方で章ごとに変わります。完結した作品に加筆してコンテスト期間中の完結を目指します。不定期更新。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる