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20話
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前に梓が誘ってくれたお陰で、柊も灯がギターを弾いているところは一応見たことはあった。あまりギターにも詳しくない柊からすれば、灯も十二分に上手く思えた。その時は弾くだけで歌っては貰えなかったが、灯が奏でるギターの音がとても優しくて温かかったのは柊でもわかった。
今こうして皆の前で演奏している灯を見ると、どこか別人かのような雰囲気さえ感じる。 変わらず優しくて温かいのだが、それに加え格好よくて柊にとっては色気さえ感じられた。柊は舞台の上にいる灯をつい凝視する。というか目が離せなかった。
ギターを演奏できる相手を探していると知って柊が灯に笑いかけた時は、その表情で柊が何を考えているか察した灯が物凄く嫌がっていた。それでもクラスメイトに「頼むよ片倉」とお願いされると、渋々ではあるが了解していた。どうにも頼まれごとに灯は弱い。喜ばれ、じゃあ早速音合わせと練習をと連れていかれようとした灯は本人ができる精一杯の怖い顔を作り、柊を恨めしげに見てきた。正直なところ柊としてはそんな顔ですらかわいかったのだが。
「後で怒ってくんだろなぁ」
そう思い苦笑しつつも柊は何となく気分よかった。作詞や作曲が元々好きなのだろうが、前に見た灯はとても楽しそうにギターを弾いていた。音楽関連がとても好きなのだ。なのに、普段は休日に音を気にしながらそっと弾くだけ。周りには特に何も言わず今まで一人でこっそり楽しんでいたようだが、どうせならもっと楽しめばいいのだと柊は思っている。だから楽器を弾ける奴として嫌がるとわかっていて、灯を推した。
バンドメンバーのところへは、灯が心細くないように柊もついていった。
「一応弾けるってだけで、まだそんなにできるわけじゃないんだ」
「でもアカリ、弾き語りっての? できてただろ」
「あんなのまだまだだし、ちょっとシュウは黙ってて。……まぁ弾き語りってのでわかると思うけど俺が弾いてるのはアコギだし、多分この音のノリについていけないと思う……」
困っているらしい当人たちの前で、灯は申し訳なさそうにしていた。それを見ていると柊も灯に対して少し申し訳なく思う。
せっかくの機会だからと引きずり出したようなものだ。音楽について詳しくない柊は簡単に考えていた。柊からすれば灯だって十分弾けていたのだ。
ただの迷惑でしかなかったのかなと内心落ち込む。だが次の灯が言った言葉でハッとなった。
「時間……少し稼げたらいいんだよな? じゃあ俺が弾けそうなゆっくりとした曲に君らが合わせるってのはどうだろう。君らのほうが演奏、慣れてるだろ」
兄貴肌なところは元々あるとはいえ、普段の灯は控えめだ。おまけに音楽に関しては引いている気持ちがあるからかなおさら、どこか消極的だった。カラオケにもほとんど行かないし、皆と打ち上げ的な感じで行くことになっても歌ったことすらなかった。
それがこんな風に提案しているなんてと柊は少し驚いた。いい兆候なのじゃないかと無責任かもしれないが思う。
灯に賛成したバンドメンバーは、灯が自分にも何とか弾けそうだと思っているいくつかの曲から演習で弾いたことのある曲を選んでいた。ギターはアコースティックギターを音楽室から借りてくることにした。
結局あまり音合わせに時間は割けなかったようだが、こうして今、何とか演奏している。最初の一回はギターなしでも形になるノリのいい曲をやって盛り上げ、その次は灯に合わせた曲を演奏しながらボーカルも何とかその雰囲気に合わせて歌っていた。
ずっと目が離せないでいた柊だが、恋の声に我に返る。
「お兄ちゃん、かっこいい」
恋が嬉しそうに灯を見上げていた。その横で灯の母親も嬉しそうに灯を見ている。この二人を連れてきたのは柊だ。ちゃんとクラスの皆に言わず出てきたので、灯がバンドメンバーと練習している間に柊は一旦自分たちのクラスが出しているテントへ戻った。丁度運良く、灯の母親と恋がそこへやって来たのだ。
「お兄ちゃんが……」
母親は少し驚いたように呟いていた。
ギターを貰ったらしいのも知っているし、前から灯が音楽に関して興味を持っていることも知っていたらしい。それでも音楽関連の何かを目指すわけでもなく、普段も特にあまり興味がなさそうにしていることも、そして何故目指していないのかも何となくわかっていたようだ。
だからこそ緊張しつつも楽しそうに皆と演奏している灯を見て、少し驚きつつもとても嬉しそうなのだろうと柊はそっと思った。
その曲の演奏が終わると、最初に楽器が出来る者を探していた柊たちのクラスメイトがそっと舞台袖からボーカルに近づくのに気づいた。
『じゃあ次は俺らのいつもの曲……って言いたいとこだけど、あともう少し待って』
どうやら彼らのギタリストが出られるのにあと一歩という状態らしいと柊が内心苦笑していると、ボーカルが続けてきた。
『代わりに我らが助っ人の片倉くんに弾き語りをお願いしよう!』
すると観客たちはワッと盛り上がった。舞台では灯が焦ったようにボーカルに訴えている様子だ。だが何やら言われた後、ここまで来ればと腹をくくったのかギターを肩にかけたまま、マイクのところまでやって来た。
『……このギターに慣れてないのと元々下手くそだけど……』
ため息ついた後にそう言うと、誰かが急遽持ってきた椅子に座ってマイクを調整する。そして有名な曲を弾きながら歌い出した。灯の雰囲気に合った歌というだけでなく、ゆっくり奏でられるギターの音と声がとても似合っていた。
灯の歌は柊も初めて聞いた勢いだった。優しくて不思議な雰囲気を漂わせている声だった。
今演奏し、歌っている曲もいい曲だが、それではなく灯自身が作った詞と曲だとしたらどれほど素晴らしかっただろうかと柊は思う。
ふと気づけば時折リズムを取るように灯の足の踵が動いていて、柊は何となくそれが妙に格好よく見えた。そして、何故かわからないが泣きそうな気持ちになった。
今こうして皆の前で演奏している灯を見ると、どこか別人かのような雰囲気さえ感じる。 変わらず優しくて温かいのだが、それに加え格好よくて柊にとっては色気さえ感じられた。柊は舞台の上にいる灯をつい凝視する。というか目が離せなかった。
ギターを演奏できる相手を探していると知って柊が灯に笑いかけた時は、その表情で柊が何を考えているか察した灯が物凄く嫌がっていた。それでもクラスメイトに「頼むよ片倉」とお願いされると、渋々ではあるが了解していた。どうにも頼まれごとに灯は弱い。喜ばれ、じゃあ早速音合わせと練習をと連れていかれようとした灯は本人ができる精一杯の怖い顔を作り、柊を恨めしげに見てきた。正直なところ柊としてはそんな顔ですらかわいかったのだが。
「後で怒ってくんだろなぁ」
そう思い苦笑しつつも柊は何となく気分よかった。作詞や作曲が元々好きなのだろうが、前に見た灯はとても楽しそうにギターを弾いていた。音楽関連がとても好きなのだ。なのに、普段は休日に音を気にしながらそっと弾くだけ。周りには特に何も言わず今まで一人でこっそり楽しんでいたようだが、どうせならもっと楽しめばいいのだと柊は思っている。だから楽器を弾ける奴として嫌がるとわかっていて、灯を推した。
バンドメンバーのところへは、灯が心細くないように柊もついていった。
「一応弾けるってだけで、まだそんなにできるわけじゃないんだ」
「でもアカリ、弾き語りっての? できてただろ」
「あんなのまだまだだし、ちょっとシュウは黙ってて。……まぁ弾き語りってのでわかると思うけど俺が弾いてるのはアコギだし、多分この音のノリについていけないと思う……」
困っているらしい当人たちの前で、灯は申し訳なさそうにしていた。それを見ていると柊も灯に対して少し申し訳なく思う。
せっかくの機会だからと引きずり出したようなものだ。音楽について詳しくない柊は簡単に考えていた。柊からすれば灯だって十分弾けていたのだ。
ただの迷惑でしかなかったのかなと内心落ち込む。だが次の灯が言った言葉でハッとなった。
「時間……少し稼げたらいいんだよな? じゃあ俺が弾けそうなゆっくりとした曲に君らが合わせるってのはどうだろう。君らのほうが演奏、慣れてるだろ」
兄貴肌なところは元々あるとはいえ、普段の灯は控えめだ。おまけに音楽に関しては引いている気持ちがあるからかなおさら、どこか消極的だった。カラオケにもほとんど行かないし、皆と打ち上げ的な感じで行くことになっても歌ったことすらなかった。
それがこんな風に提案しているなんてと柊は少し驚いた。いい兆候なのじゃないかと無責任かもしれないが思う。
灯に賛成したバンドメンバーは、灯が自分にも何とか弾けそうだと思っているいくつかの曲から演習で弾いたことのある曲を選んでいた。ギターはアコースティックギターを音楽室から借りてくることにした。
結局あまり音合わせに時間は割けなかったようだが、こうして今、何とか演奏している。最初の一回はギターなしでも形になるノリのいい曲をやって盛り上げ、その次は灯に合わせた曲を演奏しながらボーカルも何とかその雰囲気に合わせて歌っていた。
ずっと目が離せないでいた柊だが、恋の声に我に返る。
「お兄ちゃん、かっこいい」
恋が嬉しそうに灯を見上げていた。その横で灯の母親も嬉しそうに灯を見ている。この二人を連れてきたのは柊だ。ちゃんとクラスの皆に言わず出てきたので、灯がバンドメンバーと練習している間に柊は一旦自分たちのクラスが出しているテントへ戻った。丁度運良く、灯の母親と恋がそこへやって来たのだ。
「お兄ちゃんが……」
母親は少し驚いたように呟いていた。
ギターを貰ったらしいのも知っているし、前から灯が音楽に関して興味を持っていることも知っていたらしい。それでも音楽関連の何かを目指すわけでもなく、普段も特にあまり興味がなさそうにしていることも、そして何故目指していないのかも何となくわかっていたようだ。
だからこそ緊張しつつも楽しそうに皆と演奏している灯を見て、少し驚きつつもとても嬉しそうなのだろうと柊はそっと思った。
その曲の演奏が終わると、最初に楽器が出来る者を探していた柊たちのクラスメイトがそっと舞台袖からボーカルに近づくのに気づいた。
『じゃあ次は俺らのいつもの曲……って言いたいとこだけど、あともう少し待って』
どうやら彼らのギタリストが出られるのにあと一歩という状態らしいと柊が内心苦笑していると、ボーカルが続けてきた。
『代わりに我らが助っ人の片倉くんに弾き語りをお願いしよう!』
すると観客たちはワッと盛り上がった。舞台では灯が焦ったようにボーカルに訴えている様子だ。だが何やら言われた後、ここまで来ればと腹をくくったのかギターを肩にかけたまま、マイクのところまでやって来た。
『……このギターに慣れてないのと元々下手くそだけど……』
ため息ついた後にそう言うと、誰かが急遽持ってきた椅子に座ってマイクを調整する。そして有名な曲を弾きながら歌い出した。灯の雰囲気に合った歌というだけでなく、ゆっくり奏でられるギターの音と声がとても似合っていた。
灯の歌は柊も初めて聞いた勢いだった。優しくて不思議な雰囲気を漂わせている声だった。
今演奏し、歌っている曲もいい曲だが、それではなく灯自身が作った詞と曲だとしたらどれほど素晴らしかっただろうかと柊は思う。
ふと気づけば時折リズムを取るように灯の足の踵が動いていて、柊は何となくそれが妙に格好よく見えた。そして、何故かわからないが泣きそうな気持ちになった。
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