絆の序曲

Guidepost

文字の大きさ
28 / 45

28話

しおりを挟む
「熱はないようね」

 体温計を見て母親が呟いている。

「なのに何でそんなに熱っぽそうなのかな」

 そして心配そうに灯を見てきた。心当たりしかない灯だが、さすがに口にできず「ね、眠いのかな」などと間抜けなことしか言えない。

「疲れが一気に出ちゃったのかもね……灯、明日は学校休みなさい」
「だ、大丈夫だよ! 休むほどじゃ……」
「駄目。じゃあもしお母さんが熱っぽそうな状態だったとしたら、灯は仕事を休めって言わないの?」
「……言う」
「仕事はね、それでも中々休めないけど学校は休んでいいの。第一そんなで無理に学校へ行って倒れでもしたらまた柊くんにも迷惑かけるのよ?」
「……ぅん」

 確かに柊は絶対に心配してくるだろうと灯も思った。
 結局、学校は休むことになった。風邪などのうつる病気ではないと母親も思ったようだが、それでも恋には灯の部屋に入らないよう、しっかり言い聞かせているようだ。多分恋を心配してというより、構わず灯にちょっかいをかけるであろう恋に灯が煩わされないようにだろうと灯は苦笑した。
 一人になってから灯は深い息をはく。実際、まだ顔が熱っぽい自覚はある。

 ……アズさん……ほんとに……?

 展開が目まぐるし過ぎて自分のあまり容量がいまいちな脳では処理しきれていなかった。
 ずっと中々会えなかったので顔を見られただけでも嬉しかったのだが、それ以上の半端ない展開にどうしていいのかわからない。
 最初好きだと言われた時は、友人としてだと勝手に思って嬉しかった。だがそういう意味じゃないとわかると、灯の中は処理能力が一気に劣化したようだ。未だに何一つまとまって考えられない。

 好きって……。

 梓に言われたこと、されたことがまた浮かび、今本当に熱が出たかもしれないと思う位に自分の顔がますます熱くなった。

 好きって……! あんな格好のいい人が? あんな落ち着いた大人の人が? あんな……そう、そうだよ何より男らしいというか、正真正銘の男の人が……っ?

 梓は男が好きなタイプの人なのだろうかと灯はひたすら沸騰したままの頭で考えるが、そこは正直どちらでもよかった。別に男が好きだろうが女が好きだろうが梓は梓だ。ただ、その相手が自分となるとどうでもよくない。
 だって、とベッドに横たわり、横を向きながら灯は頭を抱える。

 だって俺だよ?

 背もあまりなく体もひょろっこく顔だって絶対どう見てもあの兄弟のように格好よくない。あまり丈夫じゃないし運動はどちらかというと苦手だし勉強だって何とかそれなりの成績を修めてはいるものの、毎日頑張らないと恐らく追いつけなくなる。こんな、しかも男の自分のどこがいいのかさっぱりわからない。

 ……もしかして女の代わり的に見られて……いやいや何で代わりだよ、それなら普通に女の子でいいじゃないか。……っもしかしてアズさん、趣味かなり悪い……っ?

 あれほど何でもできそうな人で欠点などとてもなさそうに灯からすれば見える。だからこそ、趣味が悪いという、とても残念な欠点を実は抱えているのかもしれない。
 そう思い至ったところで灯は深いため息ついた。勝手に梓の欠点にしてしまうなんて失礼にもほどがある。

 アズさん……ほんと何で……?

 もしかしたら、何もかも灯の勘違いなのかもしれない。好きだと言われたが、実は何か大きな勘違いを灯がしているのかもしれない。

 俺の頭の回転が悪いか、もしくは恋愛に疎すぎて勝手な判断をしてる、とか……。でも、でもキスされた……。

 ここでまた顔が沸騰しそうなほど熱くなる。そろそろ脳なり皮膚なりが溶け始めるかもしれない。
 いくら恋愛に疎くても、あれがキス以外のなにものでもないくらい、灯にもわかる。
 熱いだけでなく、心臓もかなりドキドキしている。溶け始めるだけでなく、心臓発作で死んでしまうのかもしれない。

 っていうか俺は……?

 ようやくここで灯はハッとなった。

 俺は男の人に好きだと言われてどうなの?

 情けない話、十八にもなって実は今まで恋愛したことない。ずっと母親と恋のことですぐに一杯になってしまう小さな容量の灯は、誰かを好きになる余裕なんてなかった。
 いや、二人を理由にするのは卑怯だと灯はギュッと目を瞑る。ただの未熟者だからだ。一応それでも、いいなと思う子はいた。ただそれもいいなと思う止まりというか「好き」という感情に発展しなかったように思う。

 ……その子は女の子だった。

 いいなと思ったことすらずいぶん昔の話で、本当に自分はと微妙になりつつも一応対象は異性である気はする。だが梓に言われたこと、されたことを思い返しても頭が沸騰しそうになれども不快な気持ちは皆無だった。

 だって尊敬してる人だし……。

 会ってくれたことが何よりも嬉しくて不快になるはずなんてなかった。

 ……好き、もキスも……驚いたけど……。

 そしてまた沸騰しそうになる。とりあえず今日はちゃんと考えることはできなさそうだった。眠れるかどうか定かではないが、もう考えるのは止めて寝よう、と灯は布団の中にもぞもぞ潜り込む。
 寒い時期でよかったと的外れなことを思う。夏だったらきっと考え込む前に熱中症のようになって倒れていたかもしれない。布団の中は温くて、脳内が興奮状態で沸騰しそうだった灯も次第にトロトロゆっくり煮込まれるような状態になり、眠りに陥っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

仮面王子は下僕志願

灰鷹
BL
 父親の顔は知らず、奔放な母のもとで育った渡辺響は、安定した職業に就くために勉強だけはずっと頑張ってきた。その甲斐あって有名進学校に進学できたものの、クラスメイトとは話題も合わず、ボッチキャラとして浮いていた。クラスの中で唯一、委員長の川嶋昴陽だけが響のことを気にかけてくれて、面倒見のよい彼に秘かに恋心を抱いていた。しかし、修学旅行の最終日に川嶋が隣で寝ていた朝倉にキスしようとしているところを目撃し、反射的にそれを写真に収めてしまう。写真を消せと川嶋に詰め寄られるが、怒りをあらわにした彼の態度に反発し――。女子から「王子」と呼ばれる人気者優等生×寂しさを抱えるボッチな茶髪男子、の失恋から始まるハートフル青春BL。   ※ アルファポリス様で開催されている『青春BLカップ』コンテストに応募しています。今回は投票制ではないですが、閲覧ポイントでランキングが変わるそうなので、完結後にまとめてではなくリアルタイムでお読みいただけると、めちゃくちゃ励みになります。 ※ 視点は攻め受け両方で章ごとに変わります。完結した作品に加筆してコンテスト期間中の完結を目指します。不定期更新。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

処理中です...