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顔の火照りを感じながら結弦が俯いていると、旭日から小さく吐息のような音が聞こえてきた。
「佐野くんを困らせたいんじゃないんだ。……ごめんね。とりあえず今日は俺、このまま帰るよ」
「……っ結崎さん」
静かで優しげな旭日の声に、結弦はハッとなり顔を上げた。呼び止める声に、旭日は微笑んでくる。
「またね」
「お、こって」
「ふふ、何で俺が君に怒るの。やっぱかわいいなあ」
「……だからかわいいとか言わないでもらえますか。あと、またねじゃないんで。俺のだって言ってんのにまだ横やり入れる気ですか。いい性格してますよね。またね、じゃなくさよなら、ですよね」
拓も静かな声ながら、こちらはぶっきらぼうだ。ただいつもよりよく喋った気がしないでもない。
あとほんと俺のって……。っていうかお前がかわいい言うな云々を、言うな。もし言うとしたら俺だろ……。言わねえけど! だって結崎さん、こんなに優しい。
「ま、た、ね」
旭日はますますニッコリ微笑むと結弦に手を振り、立ち去った。結弦の頭上で舌打ちする音が聞こえてくる。
「おい。あんないい人に何でお前はそんな言い草なの。あといい加減離して」
「……いい人? どこが」
「むしろどこ見ていい人じゃないって思えんだよ」
「はぁ……」
「ため息ついてくんな。あと離せっつってんだけど」
相変わらず拓の腕の中にいる意味がわからない。そして再度もがこうと努力したが、やはり身動きとれない。
「お前、やっぱ熊か何かなの」
「何でいきなり熊? 俺のどこがずんぐりしてんだよ」
「体型じゃねえし」
拓がずんぐりしていると言うのなら結弦に至ってはもういっそ溶けかかった餅か何かになってしまう。多分。
微妙な顔になっていると、ようやく離してくれた。かと思うとそのまま腕を引かれる。
「おい」
「行くぞ」
「いや、どこへ! っていうか引っ張んな」
「俵担ぎされたくないなら素直に歩け」
「おま……」
横暴ではと思うが、このままだと本当に俵担ぎされてしまうと経験上知っている。結弦は言われた通り、素直についていった。
拓の家までほぼ無言だった気がする。結弦から何か話しかけても「ん」「いや」「ああ……」といった程度にしか反応なかった。とはいえ以前我慢の限界といった様子の拓に持ち帰られた時とは違い、そういった風でもない。
「さっきから何。上の空なら俺連れてくる必要あった?」
担がれていないのもあり、今回はしっかり玄関で靴も脱いだ。そろそろ俵担ぎに慄くこともないなと拓から強引に離れ結弦は不満をぶつける。
「上の空?」
今も上の空にしか見えない拓が怪訝そうに言いながらも、思った通り特に結弦を担ぐことなくベッドのある部屋へ歩いていく。
一瞬躊躇したが、ソファーがない代わりにベッドの縁にもたれたりベッドに座ったりと今までもしたことあるので、結弦も仕方なくついていった。
「今もそうだろ。何なんだよ」
「別に上の空じゃないけど。座れよ。何か飲む?」
どうせ味しないからと以前は水しかなかった拓の冷蔵庫に、今は炭酸ジュースやペットボトルのコーヒーなどが入っている。
「いらねえ。さっきまで結崎さんとコーヒー飲んでたし」
「ッチ」
「いや何で舌打ち。そりゃ近寄んなとか逃げろとか無茶なこと、お前言ってたけどさあ。あのな、もしかしてまだ気づいてないかもだけどあの人、フォークじゃないぞ」
仕方ないなとばかりにそっと打ち明けるように言えば、ため息つかれた。
「上の空だった上に何その態度。マジ……。まあ一応助けようとしてくれたんだろし、俺も大人だし? 許してやってもい……」
「お前はほんと……」
言いかけているとますます呆れたように見てくる拓に、ベッドの上に腰かけていた結弦は思い切り見上げながら口を尖らせた。
「お前ほんとって言いたいの俺だろ! 何でかわからないけど二人して雰囲気悪いし。あ! そうだ。それに俺はお前のものって何だよ。何言ってんだよ。そんで俺にも何言わせんだよ」
拓が「こいつは俺のなんで」と言った言葉を思い出すと心臓の辺りがそわそわした。それに「三坂くんのものだから諦めてください」と言わされたことも浮かび、また一気に顔が熱くなる。
「何か問題あんのか」
「あ、ある。大ありだろ。勘違いさせるような言い方……」
「勘違い? どういう?」
「ま、まるでお前が俺のこと、す、好き、みたい、っつーか……俺にまで、加担、させてさ、そ、んな勘違い、させるような……」
「何が勘違いなんだ?」
まだ立ったままだった拓が怪訝そうに屈み込んできた。相変わらず見惚れるような整った顔が、近い。
「近い! だからお前が俺を……」
「好き、だろ? どう勘違いなんだ」
「は? んん……? え?」
好きだと勘違いさせるような言い方だと咎めると、それを把握している上で「どう勘違いなんだ」と返ってきた。これはどういう意味なのか。
どういう……って、どう考えても……「好きだけど?」って意味、じゃ、ない、の……?
「……は?」
「さっきから何、その反応」
「え、いや、だって……、……そんなの、だっておま、え……俺が好きって……?」
まさかそんなわけ、あるか。
「いや、違……」
「違わない。好きだけど?」
「は? はい? え、何言って、え、だって、え、何、言っ、お前、え」
「お前が何言ってんだよ……」
「ああ、クソ。だってお前、馬鹿みたいにモテんだろ! 何も俺じゃなくて……。あ、のさ。もしかして今まで恋愛したこと、ない、とか? だから? あ、あの、な? 俺はケーキだから確かにその、お前にとって必須アイテム的なアレかもだけど、その、混同しちゃった、ら駄目、だろ」
動揺しながらも突如思い至った納得いきそうなことを言い聞かせるように口にすれば、また拓にため息つかれた。
「お前はほんと、俺を何だと思ってんだろな……」
「佐野くんを困らせたいんじゃないんだ。……ごめんね。とりあえず今日は俺、このまま帰るよ」
「……っ結崎さん」
静かで優しげな旭日の声に、結弦はハッとなり顔を上げた。呼び止める声に、旭日は微笑んでくる。
「またね」
「お、こって」
「ふふ、何で俺が君に怒るの。やっぱかわいいなあ」
「……だからかわいいとか言わないでもらえますか。あと、またねじゃないんで。俺のだって言ってんのにまだ横やり入れる気ですか。いい性格してますよね。またね、じゃなくさよなら、ですよね」
拓も静かな声ながら、こちらはぶっきらぼうだ。ただいつもよりよく喋った気がしないでもない。
あとほんと俺のって……。っていうかお前がかわいい言うな云々を、言うな。もし言うとしたら俺だろ……。言わねえけど! だって結崎さん、こんなに優しい。
「ま、た、ね」
旭日はますますニッコリ微笑むと結弦に手を振り、立ち去った。結弦の頭上で舌打ちする音が聞こえてくる。
「おい。あんないい人に何でお前はそんな言い草なの。あといい加減離して」
「……いい人? どこが」
「むしろどこ見ていい人じゃないって思えんだよ」
「はぁ……」
「ため息ついてくんな。あと離せっつってんだけど」
相変わらず拓の腕の中にいる意味がわからない。そして再度もがこうと努力したが、やはり身動きとれない。
「お前、やっぱ熊か何かなの」
「何でいきなり熊? 俺のどこがずんぐりしてんだよ」
「体型じゃねえし」
拓がずんぐりしていると言うのなら結弦に至ってはもういっそ溶けかかった餅か何かになってしまう。多分。
微妙な顔になっていると、ようやく離してくれた。かと思うとそのまま腕を引かれる。
「おい」
「行くぞ」
「いや、どこへ! っていうか引っ張んな」
「俵担ぎされたくないなら素直に歩け」
「おま……」
横暴ではと思うが、このままだと本当に俵担ぎされてしまうと経験上知っている。結弦は言われた通り、素直についていった。
拓の家までほぼ無言だった気がする。結弦から何か話しかけても「ん」「いや」「ああ……」といった程度にしか反応なかった。とはいえ以前我慢の限界といった様子の拓に持ち帰られた時とは違い、そういった風でもない。
「さっきから何。上の空なら俺連れてくる必要あった?」
担がれていないのもあり、今回はしっかり玄関で靴も脱いだ。そろそろ俵担ぎに慄くこともないなと拓から強引に離れ結弦は不満をぶつける。
「上の空?」
今も上の空にしか見えない拓が怪訝そうに言いながらも、思った通り特に結弦を担ぐことなくベッドのある部屋へ歩いていく。
一瞬躊躇したが、ソファーがない代わりにベッドの縁にもたれたりベッドに座ったりと今までもしたことあるので、結弦も仕方なくついていった。
「今もそうだろ。何なんだよ」
「別に上の空じゃないけど。座れよ。何か飲む?」
どうせ味しないからと以前は水しかなかった拓の冷蔵庫に、今は炭酸ジュースやペットボトルのコーヒーなどが入っている。
「いらねえ。さっきまで結崎さんとコーヒー飲んでたし」
「ッチ」
「いや何で舌打ち。そりゃ近寄んなとか逃げろとか無茶なこと、お前言ってたけどさあ。あのな、もしかしてまだ気づいてないかもだけどあの人、フォークじゃないぞ」
仕方ないなとばかりにそっと打ち明けるように言えば、ため息つかれた。
「上の空だった上に何その態度。マジ……。まあ一応助けようとしてくれたんだろし、俺も大人だし? 許してやってもい……」
「お前はほんと……」
言いかけているとますます呆れたように見てくる拓に、ベッドの上に腰かけていた結弦は思い切り見上げながら口を尖らせた。
「お前ほんとって言いたいの俺だろ! 何でかわからないけど二人して雰囲気悪いし。あ! そうだ。それに俺はお前のものって何だよ。何言ってんだよ。そんで俺にも何言わせんだよ」
拓が「こいつは俺のなんで」と言った言葉を思い出すと心臓の辺りがそわそわした。それに「三坂くんのものだから諦めてください」と言わされたことも浮かび、また一気に顔が熱くなる。
「何か問題あんのか」
「あ、ある。大ありだろ。勘違いさせるような言い方……」
「勘違い? どういう?」
「ま、まるでお前が俺のこと、す、好き、みたい、っつーか……俺にまで、加担、させてさ、そ、んな勘違い、させるような……」
「何が勘違いなんだ?」
まだ立ったままだった拓が怪訝そうに屈み込んできた。相変わらず見惚れるような整った顔が、近い。
「近い! だからお前が俺を……」
「好き、だろ? どう勘違いなんだ」
「は? んん……? え?」
好きだと勘違いさせるような言い方だと咎めると、それを把握している上で「どう勘違いなんだ」と返ってきた。これはどういう意味なのか。
どういう……って、どう考えても……「好きだけど?」って意味、じゃ、ない、の……?
「……は?」
「さっきから何、その反応」
「え、いや、だって……、……そんなの、だっておま、え……俺が好きって……?」
まさかそんなわけ、あるか。
「いや、違……」
「違わない。好きだけど?」
「は? はい? え、何言って、え、だって、え、何、言っ、お前、え」
「お前が何言ってんだよ……」
「ああ、クソ。だってお前、馬鹿みたいにモテんだろ! 何も俺じゃなくて……。あ、のさ。もしかして今まで恋愛したこと、ない、とか? だから? あ、あの、な? 俺はケーキだから確かにその、お前にとって必須アイテム的なアレかもだけど、その、混同しちゃった、ら駄目、だろ」
動揺しながらも突如思い至った納得いきそうなことを言い聞かせるように口にすれば、また拓にため息つかれた。
「お前はほんと、俺を何だと思ってんだろな……」
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