ヴェヒター

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2Tuesday

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「おい、またお前ら一緒に寝てるの?」

 慧は呆れたようにルームメイトのベッドを見おろした。ルームメイトである潔太は全くもって男に興味ない。そしてその潔太に寄りそうようにして眠っている隆真も確かそのはずだったと慧は微妙な顔で二人を見る。

「……ぁ、おはよ、慧」
「はよ……」

 慧の声に二人が目を擦りながら起きあがる。もちろん男に興味ないこの二人は完全にただの友人関係だ。ただ隆真のルームメイトにして慧の友人でもある俊がたまにだが部屋に男を連れ込むことあり、そのせいで隆真がこちらに避難してくる。そして眠る場所がないという理由だけでこうして潔太のベッドで寄りそうようにして眠るのだ。
 一年の時からたまに見る光景なのだが、未だに慧はどうにも微妙になる。自分はできればあまり男同士寄りそって眠りたくない。だがそれを潔太に言うと「慧はむしろ意識しすぎなんじゃないかな」と言われたことがある。

「意識? 何の」
「何のってことはないけど、俺別に気にならないよ。だって俺も藤ノ木くんも全然そんな気ないのに、何が気になるのかそっちのが不思議」

 そう言われると実際自分がバカみたいに意識し過ぎているのかという気になるから無駄に人がいい潔太パワー凄い、などと慧は思う。
 だがそんなわけない。

「意識とかの問題か? 別にお前らが気にならないのはいいけど、傍から見たらつき合ってんのかって思うレベル」
「それこそ別に変なことしてないのに」
「そりゃそうだけどさ。俺だったら好きでもない相手とベッドでくっつき合うとか無理」

 慧の言葉を聞いた潔太は「別にくっつき合ってるわけでもないよ」とおかしそうに笑っていた。だが今も目の前の二人はある意味くっつき合っている。さほど広くもないベッドだからそうなるのは仕方ないけれども。
 男同士に興味ないからといって、周りに対して偏見の目で見るつもりも避けるつもりもないほど、この学校で同性愛はかなり当たり前の光景ではある。それでもあまりベッドで男二人がそういう意味でなくとも寄りそっているのを、慧としては見たくないし微妙にもなる、などと思いながら制服に着替えた。
 慧が実際つき合ったことあるのは女子だし性的対象として見るのも女子だ。ただ何故か学校の生徒に言い寄られることもたまにある。別に女みたいに見えるかわいいタイプでもないし、逆に守って欲しいと男に思わせるようなガタイのごついタイプでもない。至って普通の身長で普通の容姿で普通の体型だと思っている。それをだが友人の俊に言うと「お前は普通の身長よりはちょっと高いし、お前の顔が普通だったら他の多くの生徒がかわいそう」と返された。

「体型はまあ、普通なのかもだけど。ふざけたこと言ってると犯すよ」
「何ですぐ犯すになるんだよ! 犯されてたまるか。俺は男に興味ないっつってるだろ」

 色々性的に積極的な俊に「犯す」と言われるといつか本当にされそうで、慧は言われる度に本気で引いていた。

 そういや俺、身長、普通より高いのか。

 食堂で朝食をとった後にふとそんなことを改めて思い、その時腹の立つことに脳内で雫が過った。何で雫が出てくるのだとイライラしつつ、そういえば雫は自分より確か一センチ低かったはずだと思い出して少しだけ溜飲が下がる。
 中学の頃に存在をお互い知ってから、どうにも色々無駄に競ってしまう。身長だけでなく、成績や能力的なものなどが近いからなのだろうか。ただ、ライバルという関係よりは喧嘩相手という関係のほうが近い気が慧はしている。多分それはいちいち雫が何かにつけて慧にちょっかいかけてくるからだと思っている。普通に誰かと話していても間に割って入り、喧嘩をふっかけられている気がする。
 とはいえ元々慧は中学の頃から雫にはかなりライバル意識を持っていた。何故か目に入ってくるのだ。そして目ざわりでならない。
 元々慧は負けず嫌いな性格だと自分でもわかっている。攻撃的だとも言われることはあるが、特に雫に対しては顕著かもしれない。他の相手に多少のライバル意識を持ったとしても、さほど攻撃的になることは多分ないと慧は思っていた。
 学校へは潔太と一緒に向かう。潔太とは部屋が一緒になった関係で仲よくなった。
 その寮だが、慧は一般の生徒と同じフロアで生活している。風紀委員になると最上階にある特別フロアの部屋を使用できるようになる。一般寮生は二人部屋だが、特別フロアだと一人部屋になる。そこを使用できるのは、特権というよりやることがあって一般寮生と生活サイクルが合わない生活を多少なりとも余儀なくされるからだ。一人部屋なのもやはり特権というよりは、それぞれがその時請け負っている仕事によって生活サイクルがまちまちになるためとも言える。
 よって生徒会や風紀でも特に色々することがある役員として所属するならそこを使用するのが必須になるが、慧のように一般風紀委員ならさほど忙しくもないため、そこでも普通のフロアでも選べることになっている。
 雫も慧と同じく一般フロアのままだ。以前、誰かに「移動すんのがめんどくせえし」と言っていたのを慧は聞いたことある。慧も表向きは「面倒だから」と言っている。

「そんじゃあね」

 教室は別なので、潔太はニコニコ手を振りながら歩いていく。慧は俊と隆真とクラスが同じだった。

「しずと慧がせめてクラス違ってくれてよかったよね」

 教室に入って席に一旦つくと、後ろの席にいる俊が言ってくる。慧は体を後ろへ向けた。

「それは俺にとってよかったってことか?」
「違う違う。俺や他の生徒にとってに決まってるでしょ。むしろ何で俺が慧にそんな配慮するわけ」
「だったら俺だって別に俊にとってとかどうでもいい」
「対抗しなくていいからそこは。お前ほんと負けず嫌いだよねえ」

 俊にニコニコ言われ、慧は「うるさい」と前を向く。

「しず、普段は割と物静かなのに慧にだけはなんかアレなんだよねー」

 すると後ろから楽しげに続けてくる俊の言葉が聞こえてきた。慧は怪訝な顔してまた振り返る。

「は? しずが物静か? どのしずの話だよ」
「俺は他にしずがいるなんて初耳だけどね。どのも何も、お前と喧嘩ばかりしてるしずだよ」
「あのしずが物静かなわけないだろ。どのしずだって思うだろ」

 何言ってるのだといった顔で慧が俊を見ると楽しそうに見返された。

「お前が見えてるだけが全部じゃないだろ」
「……そりゃそうかもだけど、でもアイツだぞ? すげぇ煩いだろが」
「煩いっていうなら慧だって煩い」
「それはアイツが煩いから仕方ない」

 むっとした表情で言うと俊は「はいはい」と適当に流してきた。なので慧はまた前を向いて一時間目の授業で使う教科書などを準備し始める。
 慧の見た目はどちらかというと派手とは言わないが、真面目とも言えない。黒髪が多い風紀委員の中でも珍しく明るい茶髪でもある。他に慧のように明らかに染めてかなり明るくしているのは生徒会書記三年の良紀くらいかもしれない。生徒会会計一年二年の兄弟はとんでもない性格のわりに、染めていたとしても自然な色だし、風紀副委員長をしている拓実は薄い色しているが地の色に見える。
 生徒会会長である西小路 宏(にしこうじ ひろむ)の髪色も明るい色しているが、宏に関しては色々謎すぎて染めて明るくしているかどうか考えたことすらない。
 その染めた髪やはっきりした顔立ちの慧は、外見だけならそうは見えないだろうが基本的に真面目そうだと言われる。見た目からはあまり見えないだろうに硬派で真面目そうだと思われているのは、主に行動でなのかもしれない。
 それでも話しかけられたりすれば普通に受け答えするし、頼られたりするのも嫌いじゃない。頼るのはあまり得意ではないが、一人でいるのも得意とは言えない。
 それもあって慧は誰かと喋ることはわりとある。ただ、誰かと話している時にたまたまそこに雫がいると、大抵邪魔してくるのがとりあえず腹立たしかった。

「ほら、しずって今、きよと同じクラスでしょ。今度きよにも聞いてみたらいいよ、お前と喧嘩していない普段のしず」

 前を向いてもなお言ってくる俊に「とてつもなくどうでもいい」と背中を向けたまま言い返すと笑い声が返ってきた。
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