ヴェヒター

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4Thursday

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 ラベルの件での話し合いが終わり、三里と永久は寮へ戻ってきた。とりあえず自分がいた意味はあるのかと微妙な気持ちを抱きつつも、上手くいきそうなところを見ていられただけでもよかったかもしれないと三里は思いなおしていた。
 これで最近三里が抱えていたものが、終わりはしていないが自分なりにすっきりした気がする。ラベルに関しては永久がデザインを考え一旦仕上げるまで三里にできることはないし、例の店のこともそうだ。
 父親の会社での契約は長期契約という形ではなく更新という形を取っていたようで、幸い次の更新はもうすぐらしい。その時に取引を止める流れでいくようだ。
 生徒会での調査云々に関しても今の三里ができることはなさそうだ。宏から何か頼まれたらもちろん即受けるつもりではいるが、今のところ特にすることはない。
 後は今週末から皆で行く生徒会の旅行くらいか、と三里は内心ため息つきながら思った。
 旅行に行きたくないのではない。ただ、面倒な目に合いそうな気、しかしない。
 しかし主に一番の元凶でありそうな睦と青葉は最近変わってきているので、そんなに困った目には合わないかもしれない。
 それと、と三里は歩きながらチラリと永久を見た。その視線を感じたのか、黙って歩いていた永久が「何です?」と聞いてくる。

「な、んでもねーよ」

 何でもなくはない。ただ、本人に今思っていたことを言いにくいだけだ。
 永久も一緒に行くわけで、そうなると性少年としては様々な期待に胸も下半身も膨らむわけで。
 しかし今のところ、永久は行為を先へ進めてくれないというか、どうにもからかわれているというか遊ばれているような気がする。おまけに永久は三里の相手をしてくれているが「好き」なのではなく「興味がある」からだ。
 そう思うと、皆で行く旅行に永久も一緒というのが三里にとって色々複雑で我慢を強いられる状態になるのではないかと思ったりしてしまう。
 北條兄弟のことも永久のことも前にも同じことを思ったが、そこから全然考えが変わってなさすぎてむしろ笑えそうだった。結構永久と進展してそうな気になっていたが、全然変わってないということなのだろうか。

「本当です? 気になることはアンタの性格だと言ってしまったほうが楽なんじゃないですかね」

 永久はそんな三里の気持ちを知ってか知らずか、少しだけ微笑みながら言ってくる。それがまた的を得ているから、何となく三里は悔しいような嬉しいような複雑な気分になる。
 六階へ着き、生徒会スペースに入ったが誰もいない。三里は耳まで赤くなるのを感じつつ、そっぽを向きながら永久の手を握った。

「……俺の部屋来てくれる?」

 照れ隠しにムッとしたような顔になったが、出てきた言葉は馬鹿みたいにそのまま過ぎて相変わらず自分の浅はかさというか語彙力のなさが情けないと三里は思う。

「ええ、行きます」

 だが永久は少しだけおかしそうに笑った後、頷いてきた。手も振りほどいてこない。それが妙に嬉しくて三里は黙ったまま俯き、気を抜けば綻び過ぎそうな口元を引き締めようとした。
 部屋へ入ると「何か飲む?」と小型の冷蔵庫を漁りながら聞く。ずっと車移動なのであまり汗はかいていないとはいえ夏本番だけあり、車から寮までのほんの少しの距離を歩いただけでも十分過ぎるほどの暑さを感じていた。

「水でいいです」
「そーなん?」

 果汁のジュースも炭酸もあるのにと思ったが、そういった飲み物を永久は飲まなさそうだなとも思う。ミネラルウォーターのペットボトルを出すと、三里はベッドの上に腰かけていた永久へ投げた。自分用にはアップルスペシャルを取り、プルトップを開けるとごくごく飲む。

「結構喉乾いてたんですね」

 水を少しだけ飲んだ後、永久がおかしそうに言ってくる。

「ん、ぁ? まー、一瞬でも暑かったし」
「でも甘いと余計喉、渇きそうな気がします」
「あ? そーでもねーよ。つかこれはそんな甘くねぇって! 結構いいリンゴ使ってんぞ絶対」
「へえ」
「飲んでみろよ」

 三里が差し出すと「じゃあアンタが飲ませてください」と微笑みながら言われた。

「……、……え?」
「ああ、お嫌でしたら別に――」
「いっ、嫌じゃねーしっ? 一瞬何言われてんのか頭に回らなかっただけなんだよ!」

 別にいいと言われそうなのを察し、ポカンとしていた三里は焦ったようにムキになった。そして言った後、赤くなる。

 何ムキになってんだよ俺。

 さすがに少々恥ずかしい。だが三里は永久に近づくと、ジュースを少し口に含んでそのまま永久にキスした。自分でも、もしや童貞だっけかと思いそうなほど微妙な態度ばかりとってしまっていて忘れそうになるが、三里は本来経験はそれなりにあるほうだ。だからこういったことも、もちろんできなくはない。気持ちがいっぱい、いっぱいなだけだ。

「ん……」
「ふ……」

 ゆっくり永久の口にジュースを流し込むと、少ししてコクリと飲み込む音がした。その音を聞くだけで胸の鼓動が跳ねあがる。心の中で「とわ……っ」と叫びながら三里はさらにキスを深めていった。
 ドキドキしながらもキスを止められない。ひたすら永久の唇や口内を弄った。ようやく深い息を吐きながら唇を離した時は、ずっと舌で唾液を絡め合っていたせいでツッと糸を引いた。

「……ジュース、美味しかったです」

 さすがに永久も少しだけではあるが息を乱しながら言ってきた。その言葉を聞くと妙に我に返ったのか、三里の顔が熱くなる。

「そ、そだろ……」
「はい」

 永久はそんな熱くなっている三里の頬に軽くキスしてきた。そのせいで余計に、体まで恐らく赤くなったと思われた。

「……し、しねぇ?」
「え?」

 ぼそりと三里が呟くように言うと、よく聞こえなかったのか永久が本当に怪訝そうに聞き返してくる。

「お、まえとしてぇ、から、しよ……。……駄目?」

 取り繕うことなんてやはりできなくて、三里はそのままを口にする。情けなさや恥ずかしさはもちろんあるので、堂々とした態度で言えないのがまた三里としては微妙だが、でも本当にしたいと思っているので、どこかすっきりする。

「本当に、ストレート」

 それに対し、永久がおかしそうに呟いている。

「るせ、ぇ……。ヤなの? 駄目?」
「駄目だなんて、そんな」

 ムッとして赤い顔を反らした三里に、永久は優しく腕を絡ませ抱きしめてきた。そしてそっとキスしてくる。
 相変わらず荒々しいところは何一つなく、先ほどの三里からのキスとは全然違う。三里はひたすら気持ちを、熱を押しつけるようなキスだったが、永久のそれはゆっくりじわじわ三里の熱情を燻らせ、もどかしいまでに高まらせてくる。
 それは実際もどかしいのだが気持ちがよくて、三里はひたすら体を震わせていた。
 だが、と三里は思う。とてもこちらの感情を煽らせ高ぶらせるキスに永久の感情があまり乗っていないような気もしてしまう。
 普段凍りつきそうな冷たささえ持ち合わせていると思えないほどの優しさと温かさはとても伝わってくるのだが、これから性的なことをしようという時になぜそこに熱情はないかと思ってしまう。
 そして思い出した。永久が自分は淡泊だからと言っていたのを。

 それにしたって、もっと熱くなったっていいだろ……!

 そう思うと三里は与えられているキスに応戦し始めた。ひたすらぶつけるばかりの自分と、ひたすら与えるばかりの永久。
だったらお互い思うままやりあえば案外ちょうどいいような気がした。
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