ヴェヒター

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6Saturday

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 基本的にこちら側の生活を送っていればおのずと名前が挙がってきたり、挙がらずともそういった店に出入りするようにはなる。
 斗真と良紀はそんな話して、お互い調べられる範囲で該当する学校関係者がいないか確認させていた。特に例の店「M2」は双葉組のシマ内にあった。それに関して斗真は思いきり世話係である浩二郎に、ここぞとばかりに嫌味を言わせてもらっていた。

「生徒会のお一人に手間かけさせて気づかせさせるなんて。自分とこのシマのことも把握できてない情けない跡取りにさせるつもりか」
「申し訳ありませんでした、若。実際把握されてませんもんね、この私がしっかりせざるを得ませんでした、本当に申し訳ありません」
「……」

 浩二郎は間違いなく申し訳なさそうに謝っている。なのにこの何とも言えない感じ、と斗真は微妙な顔になる。

「……黒野は何でいちいち俺……じゃない、僕に対してそんなに失礼なんだ? 解雇されたいという遠まわしなお願いなのか?」
「とんでもない、若をこれほど大切に思っているヤツなんて私をおいて他におりませんよ?」

 店がわかった時にそんなやりとりをしていたのだが、報告を受けている今も微妙な気分にさせられていた。

「さすがにうちは非合法カジノには手を出しておりませんので、とりあえずクラブ系を中心に調べさせておりました。本来なら若にも実際その場でご確認いただくのが一番なのでしょうが、良紀さんならまだしも若ですからね。仕方ないとこちらで確認を取らせてもらっております」
「お前いちいちほんっと余計だな? 最後の箇所、言う必要あったのか?」
「私が確認を取らせていただいたことですか?」
「その前に決まってるだろ……! 若ですからねってなんだよ」

 とぼけたような浩二郎の言葉に斗真はジロリと睨みつける。どう見てもかわいらしい顔している斗真だが、本気で睨むと家の者たちも大抵は青い顔になる。だが浩二郎は淡々としたままだ。

「そのままですが。若の容姿でああいった店にいくら四代目の後継ぎといえども入られるとでも思っているんですか?」
「……お前の脳にはオブラートに包むという言葉はないのか……?」
「包んだつもりでしたが」
「……本当にいつかしめる。とりあえず続きをさっさと聞かせろ」
「はい。顧客名簿をまず――」

 浩二郎曰く、双葉組のシマでのクラブやそれよりもレベルの落ちるバー、あとは一応息がかかっている飲食店などに何度か出入りしている学校関係者は数名いた。
 これは斗真としても意外ではなかった。斗真の実家は学校からさほど離れていない上、その周辺で飲めるところと言っても限られている。そして学校関係者のほとんどは通勤者だ。
 若者も集まる街が近いのもあり、見回りがてら教師が帰りに飲食店へ寄ることも多々ある。大抵はただの飲食店に寄る程度だろうが、中にはたまにそういった飲み屋へ行くこともあるだろう。
 浩二郎が渡してきたリストに斗真は目を通す。そこに添付されている写真を見て、斗真は浩二郎から素性を聞かなくとも誰が誰かは一応わかった。風紀をやっている関係、教師の顔はさすがに把握している。

「鈴原先生に橋崎先生……こっちの一緒にいるのは岸島先生と江口先生か。そして山岸先生に……碓氷先生まで」

 自分たち風紀や生徒会顧問である碓氷の顔を見つけた時はさすがに斗真も微妙な顔になった。

「……あんなに存在感薄いのにな」
「別にこういった店に行くのに存在感は関係ないでしょう」
「そりゃまあそうだけど。お……僕らの顧問だからな」
「若」
「何」

 何か発見したことでもあるのかと、真顔になった浩二郎を斗真は見る。

「どうでもいいことかもしれませんが……」
「何だよ」
「いちいち俺というのを言い直すのやめてもらえませんか。俺でいいじゃないですか」
「……ほんっとどうでもいいな? 普段は僕と言ってるんだ、お前の前で素が出ようが統一してるほうがいいだろ」
「はぁ……。ああ、そうですね。お好きにどうぞ」

 ニッコリ微笑む浩二郎だが間違いなくその前にため息ついている。本当にいちいち癇に障る、と斗真は荒んだ笑みを浮かべ浩二郎を見た。だが黙ったままもう一度写真を見直す。
 数学教師の鈴原は普段からいつもどこか眠そうで携帯をよく弄っているイメージがあるが、写真でも女性ながらに一人でぼんやり酒の肴に携帯を弄っている。他の写真でも同じ店で飲んでいるようだ。その店の常連かと思われる。実際その場で見てはないが、普通に酒と雰囲気を楽しむためにそこにいるといった感じがした。

「その人は多分本当にそういう場が好きなんじゃないですかね。そこも静かに飲む客が多い店です。客層は男女ともに同じくらいでしょうか。ナンパ目的といった客はいなさそうです」
「女性客もそれなりにいるのか。やはり鈴原先生のように一人なのか?」
「そうですね、わりと鈴原先生のようにお一人で来られている女性客は多いです」
「ふーん」

 写真から見ても店は女性従業員のいる店ではなく従業員は男性のようだが、別に男性店員が目当てという客層ではないようだ。本当に酒やその雰囲気を楽しむタイプが多いのだろう。
 そのまま次の写真を見る。英語教師の橋崎は明るいので生徒からそこそこ人気があるのだが、斗真からすればなんとなくチャラいイメージがあった。写真での橋崎も、バーの従業員である女性と楽しげに話している様子が写っている。別の写真を見ると、橋崎は飲み屋ではなくパチンコ店で台を打っている。

「ああ。橋崎、でしたかその先生は。どうやらそれなりのギャンブル好きのようですね」
「ふーん。……借金抱えるほど?」
「多少消費者金融も利用しているようですが、まだそこまでというわけでもないみたいです」

 ギャンブルか、と斗真は一応心に留める。
 担任を受けもっている岸島と江口は何度か一緒に出かけているようだが、頻繁というほどでもないらしい。普段からわりと仲よさそうだと斗真も知っている。

「その二人は普通にたまの仕事帰りに食事したついで、って感じですかね。食事はいつもこちらの先生……江口先生ですか? のお知り合いのお店でされているようです。その後で時間があれば気軽なバーで一杯飲む程度でしょうか」
「確かに普通」

 何となくそういえば江口が生徒からもそれなりにモテていたことを思い出す。ただ、橋崎とはまた違う感じのようには思える。背の高い先生ではあるのだが、生徒たちから逆にかわいがられている気がしないでもない。
 岸島は橋崎のような軽さはないが、やはり明るい先生として親しまれていたような気がした。
 山岸は日本史を担当しているわりに色黒で腹筋すら割れてそうだけあり、運動部の顧問をしている。この学園では運動部はさほど活発でないので珍しいなと斗真は思っていた。

「その人は山岸先生、でしたっけね。わりとそういったクラブにも慣れている感じがしました」
「慣れてる、か」

 運動部、確かサッカー部だったか。その顧問をしているくらいだから活発な性格なのだろう。あと、あの学園に勤めている教師の中には元々裕福な家の者もそこそこいるのでクラブ慣れも珍しくはない。
 斗真は最後に碓氷の写真を見た。

「碓氷、先生、でしたか。その人は定期的にその店へ通っているようです」
「へえ……」

 意外過ぎてむしろぼんやり写真を見る。その店は派手さこそないものの、女性のいる店ではある。ピアノが置いてあり、演奏や歌といった演出もあるが、要は女性が酒を注ぐ系の店だ。人は見かけによらないとは言うが、と思いつつ、斗真は浩二郎を見た。

「何か気づいたことはあるのか」
「私は先生方を存じ上げないので何とも。今のところ特に際立ってこれはと思うこともありません。とりあえずお一人ずつあえて何か言うとすれば、鈴原先生は誰よりも無害そうな気はしますが、一人でやたら携帯をひたすら弄っているところはどうなんでしょうね。橋崎先生は軽い感じがしてむしろ当てはまらなそうですが、ギャンブル好きという部分が気になります。岸島先生は江口先生と来る以外は見たことがないのである意味対象外かもしれません。江口先生も我々の店へ来るのが目的というより友人の店が目的じゃないか、と。山岸先生は先生のわりに妙に慣れた様子が気になりますかね、クラブは安くないですからね。碓氷先生は若からすると珍しいのかもしれませんが、彼を知らない私からすると別に違和感はありませんでした。まあ彼も先生のわりに定期的にクラブへ来るところが違和感といえば違和感でしょうか」

 浩二郎はほぼ一息で淡々と言ってのけてきた。名前をしっかり覚えていることに今さら驚くことはないが、やはり色々と侮れないというか……と斗真は微妙な顔しながらも黙って聞いていた。

「で、若のご意見は」
「……とりあえず先入観をなるべくなくして考えたいとは思う。資料はまとめておいてくれ。生徒会で使ってもらおうと思う」
「了解しました」

 斗真は数枚の写真をまたじっと見ていた。
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