後輩の好意は重すぎて

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5話

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「最近後輩になつかれてるんだって?」

 夜、相変わらず食堂でまとわりついてくる周太をいなしながら食事を終え、部屋に戻ってくるとルームメイトの雄士がベッドの上で雑誌を見ながら言ってきた。

「なつかれてるどころじゃない……」
「え?」
「ああいや、何でも」
「小雪くんだっけ。俺も何度か話しかけられたよ」
「どこで?」

 何度か話しかけられたと雄士が口にした瞬間には雄士のベッドまで移動していてつかみかかる勢いで聞いていた。

「ちょ、お前怖いんだけど」
「あ、悪い……」

 でも俺も結構怖い。あの後輩が。

「で、どこで?」
「えーっと……このフロアの廊下とか、学校の教室前とか?」
「下麥、何とも思わないの?」
「何ともって?」
「普通一年が俺らの教室まで来ることないだろ。寮だってそうだよ。混じってるフロアはあるけど基本学年別だろ」
「でもほら、用事があるならまあ、って思わない?」
「思わないな。というか何の用事があるってんだよ」
「うーん。だいたい平向のこと、聞いてきたかな」

 知ってた。

「……で、答えたのか?」
「答えるも何も、俺、そんなにお前のこと詳しくないしなあ。別に害のないことだよ。俺が平向をどう思ってるのかとか、俺から見た平向はどんなだとか、部屋では普段何して過ごしているのかとか」

 確かに一見害はないかもしれない。だがそれを聞いているのがあの周太だと思うとつい腕にも鳥肌がじわりと立つ。

「ど、どう答えたんだよ」
「何でそんな気にしてんの」
「いいから」
「ええ? まさかお前、俺のこと好きとか言わない? 悪いけど気持ちには答えられないから」
「奇遇だな、俺もお前が俺を好きでも答える気はないわ」
「えーノリ悪いな。そこは泣いてすがってよ」
「誰得だよ……」
「うーん。俺は平向のこと、ルームメイトだなあって思ってるって言って、俺から見た平向はルームメイトかなって答えて、部屋では普段あまり一緒じゃないからわからないなあって言ったかな」

 そういえば雄士は基本的にとてもいいやつだが、同じようにとてもよくわからないやつでもある。雄士と話しているとたまに雲をつかむような気持になることもある。
 だが周太にとっては最適じゃないかと高典は少しテンションが上がった。さぞかし期待外れでがっかりしただろう。

「で、小雪はどんな様子だった、お前の話聞いて」
「嬉しそうだったよ」

 嬉しそう?

 一体何をどう聞けば嬉しく思える内容なのか。

「俺がお前をどうでもいいと思ってるのがよくわかりましたってさ」
「そこかよ。つかお前、俺のことどうでもいいと思ってんのか」
「まさか。楽しいルームメイトだと思ってるよ」
「……はぁ。そんだけ? あいつが言ってたのって」
「お前も結構気にしてんのな」
「違う。ある意味気にしてるかもだけど違う」
「? あとは部屋ではあまり一緒じゃないんですねってニコニコ繰り返してた」
「ふーん」

 それの何が嬉しいというのか。雄士があまり高典と一緒じゃないということは、やはり高典のことをどうでもいいと思っていることを裏付けるとでも思ったからか。
 実際こうして一緒に過ごしているのは珍しい。別にお互いそうしようとしているわけではなく、雄士があまり部屋にいないからだ。高典としては正直いまだに信じがたいが、同じ学校に恋人がいるらしい。同じ学校ということは、同性ということだ。それを雄士はルームメイトとなった初日に打ち明けてきた。それを聞いた、全寮制男子校に初めて入った高典は多分間抜けなくらい口をぽかんと開けていただろうと思われる。

「ごめんね。部屋、変わりたいなら俺がどうにかするから……」
「え? 何で変わるんだ? 俺、下麥の気に障ること言っちゃったか?」
「……はは。言ってないよ」

 雄士は一瞬きょとんとした後におかしそうに笑ってきた。それ以来ずっと同じ部屋だし、多分共同生活もうまくやれていると思っている。二人部屋に慣れていない生徒の中には喧嘩や意見の食い違いなどで問題を起こしたり強制的に部屋を変えられたりするやつもいる。雄士はよくわからないやつではあるが、一緒に過ごしていてとても楽だしルームメイトが雄士でよかったと高典は思っている。
 ただ恋人に会うことがどうしてもちょくちょくあるため、必然的にあまり部屋にいない。

「そういえば平向、もう大丈夫なのか?」
「え? 何が?」

 周太のことならこれっぽっちも大丈夫じゃないけどと思いながら高典は雄士を見た。

「電車にひかれそうになるとか、俺だったらしばらく心臓が縮こまってそうだと思うし」
「ああ、それか」
「? それ以外にやばいことなんてあった?」

 普通に考えると事故でホームから転げ落ちそうになり、あやうくミンチになるところだったこと以上にやばいことはない。ただ、周太の登場とその後の存在感が高典の中では思っていた以上に常軌を逸脱して半端ないせいでついそちらが浮かんでしまう。

「……。まあ、うん。とりあえず大丈夫。ありがとう」
「やばかったんだろ。お前を助けてくれた人に感謝だよな。というか下手したら自分も巻き込まれるかもしれないってのによく助けてくれたよな」
「ああ。……、……ああっ!」

 そうだなと頷いた後に何だか気にかかることが高典の中に渦巻いたかと思うとそれが何か気づいた。

「な、何?」
「俺、その人にちゃんと礼、言えてない」
「ええ? そうなの? 連絡先とか聞いてる?」
「……聞いてない。というかどんな人かすら覚えてない」
「あー。まあ、緊急状態だったもんね。仕方ないよ。向こうが覚えてくれてて声、かけてくれたらいいな」
「……うん」

 あまりに普通に、もう終わった事故だと思っていた。だがよく考えなくとも自分は何て失礼なやつなんだろうと高典は唖然となった。
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