転生少女は憧れの騎士として生きたい

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10話

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 次の休日にイーディスは約束通りジュードから剣を教わった。
 その様子をテラスからレナードとエレン、ランスとジュードの側近であるビリーが見ている。ちなみに忘れそうだがランスはレナードの側近だからそこにいるのであって、イーディスの兄だからいるわけではない。ただ誰が見ても「イーディスを見るためにいるのだろうな」と即思うくらいシスコンなのは周知の事実でもある。
 ついでにビリーはウォルフ家の令息であり、ディーン家とウォルフ家は昔から代々、王に仕える騎士同士繋がりは深い。
 水魔法を主とするディーン家がサファイアのように澄んだ清い気持ちで王に仕えるなら、火魔法を主とするウォルフ家はルビーのように燃える熱い心で王に忠誠を誓うと言われている。ただイーディスとしてはランスとビリーに限ってはタイプが逆ではとつい思ってしまう。
 何はともあれ、ジュードはレナードが言っていた通りとても剣の扱いが上手かったし教えるのも上手かった。前世であまりそういうゲームはやっていなかったが、何だかこう、背景でレベルアップの音楽が聞こえてきそうな程度にはイーディスも今日の稽古で成果があったような気がする。
 レナードはテラスでもどうやらずっとむくれていたらしい。ただ「僕の婚約者なのに」などとひたすら言っていたらしいので改めて「違うしまた言われても断るからね」と言い聞かせないといけないようだ。
 稽古が終わってから皆でお茶をしたが、少し談笑した後にジュードはビリーと共に帰っていった。どうやら午後から用事があるにも関わらず来てくれたらしい。イーディスが「忙しいのに本当にありがとうございました」と礼を言えば「全然。だいたいエレンに会いたかったしね」とこっそり微笑んでくれた。改めていい人だとイーディスはしみじみ思う。
 エレンも出かける用事があったようでテラスにはイーディスとレナード、そしてランスの三人だけになった。

「いつまでむくれてるの」
「兄上はレディー・エレンに会いに来たのもあるけど、イーディスのために来たんだよ。僕のイーディスなのに」
「私は私だけのものだからジュード殿下のものでないだけじゃなく、残念ながらあなたのものでもないからね」
「ほんといい加減にしろよな殿下。うじうじと情けない。俺の妹にいつか嫌われんぞ」
「そっ、れは困る」
「……ランスお兄さまは余計なこと言わないで。大丈夫、嫌わないよレナード。だからいい加減機嫌を直しなさい」
「……ぅん」

 レナードが悲しんでいると、なんだか大型犬の子犬を悲しませているようでどうにも落ち着かない。動物虐待をしている気にでもなるのだろうか。

「あ、ほら、レナード。あなた、そういえば乗馬が得意なんだってね。ねえ、私、乗馬にも興味があるの。時間、まだ大丈夫なんでしょう? ね、私ちょっと乗馬苦手だから教えていただけない?」

 本当は特別苦手なわけではない。得意とまでは言わないが、普通に乗ることはできる。だがイーディスは笑顔を作ってあえて言った。するとレナードは一気に嬉しそうな顔になり「うん」と笑いかけてきた。相変わらず扱いやす……素直でいい子だ。
 その日は夕方まで乗馬をした。イーディスの前ではどうにもアレだが、基本的に見目もよく才能に溢れているレナードは馬に乗っても中々様になっていた。
 まだ子どもの頃に初めて乗馬を教わった時、イーディスはできれば跨って乗りたいと思っていた。しかし女性が馬を跨ることははしたない行為だからというよりは、ドレス姿だとスカートが邪魔過ぎてどのみち乗りにくかった。なので仕方なく今もサイドサドルを付けて乗っている。サイドサドルは馬に跨らずに両足を左側に置き、横向きに乗るための鞍だ。

「でもやっぱり跨って乗りたいなあ」

 思わずそう言えばレナードは何故か顔を赤らめてきた。それを微妙な顔で見たイーディスは特に返事を待たずに馬を走らせる。するとレナードも慌ててついてきた。

「ドレスじゃ難しいよ」
「私もズボン履きたいな」
「……イーディスはもしかして、男になりたいの?」
「まさか」

 こんなに可愛い女に生まれ変わったのなら女であることをそれなりに満喫したいと思っている。菓子作りや女友だちがそれだ。ただ、楽しそうだなと思うことにどうしても少々女性らしくないことが多いだけだ。

「ほんとに?」
「私は今の私で満足してるもの」
「そっか」

 ホッとしたように微笑むレナードの顔はやはり可愛らしい。いや、多分他の女性が見れば「美形」だの「カッコいい」だのといった言葉が出てくるのだろうが、イーディスからすれば可愛らしく見える。

「乗馬、いい息抜きになったし今度からは稽古メニューに追加しようかな」
「だ、誰との?」
「レナード、あなたとのに決まってるでしょう」
「そ、うだね! うん! 追加しよう」

 レナードはえへへ、とまた嬉しそうに笑った。
 次の休日には言っていた通り、剣の練習をした後二人で乗馬の練習コースと決めたルートを走った。ちなみにその途中にとても綺麗な泉がある。ディーン家の宝石でありイーディスもピアスとして持っているサファイアを時に思わせるような美しい色鮮やかな青に吸い込まれそうな泉だ。転生前には見たことのないそのあまりに美しい様子に、丁度剣の練習の時から汗をかいていたイーディスは足を入れてみたくなった。

「ね、待って。ここでちょっと休憩しない?」
「ここで? もちろんいいよ。いつ見ても素敵な泉だよね。そういえばこれってまるでロマンティックなデートみたいじゃないかな。二人きりでとても美しいと有名な泉を見ながら──」

 何やら喋っているレナードをそのまま喋らせておいて、イーディスはいそいそと馬を木に繋いだ。そして同じくいそいそとブーツを脱ぐと裸足を泉の中へぞんぶんに浸けた。

「気持ちいい!」
「って、イーディスっ? また君は何をして……」

 気づいたレナードがまた焦っている。どうやら裸足になることかもしくは泉に足をつけることも淑女らしからぬ、はしたないことだったようだ。なんならこのまま服を脱いで泳ぎたいなと思っていたイーディスは慌てて水から足を出し「エレンお姉さまには黙っててね!」とレナードに頼み込んだ。
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